七、相談と解答と願い事
わたくしは彼に伴われて外へと出ました。さすがに歩き回られたくないと言われてしまったのです。仕方がありませんね。
彼のエスコートは完璧でした。歩調を合わせてわたくしに話しかける様はやはり貴族のものです。きっと騎士隊の関係者ですし、従者らしき赤い髪の方もいらっしゃいますしね。すでにディアボス伯爵と言う父の名をお教えしましたから、わたくしのことはお分かりなのでしょう。丁寧に接してくださっています。
まぁ、先ほどは怒鳴られましたけれど。
そして、相談を受けています。
「それについてはどう思う?」
「簡単ですわ、お豆と小麦を順番に植えれば良いのです」
「何故?」
「これは我が家の庭師から詳しく聞いていただくと良いのですが、植物が育つためのには土の中に植物の餌になるものが必要だそうです。もちろん、お水や日差しも餌の一部だそうですよ」
「それがどうして色々植えることに?」
「豆は餌を吐き出すのだったかしら?もしかしたら逆さまかもしれませんが、餌を吐く植物と餌を食べる植物とを交互に植えては収穫すると、土の中を補えるそうです」
「なるほどな」
「他にも良い組み合わせがあるそうですからその領主様へ教えて差し上げてくださいませ、わたくしもお父様へ庭師を……」
あら、わざわざ庭師を我が家から派遣しなくてもよいではありませんか。言葉を切ったわたくしを不思議そうにうかがっているこの方へ、是非売り込んでみましょう。
「王都の端にある大きな孤児院をご存じですか?」
「あぁ、君のところがよく慰問している……」
ご存じですか。救済に興味のない貴族も多いのでわたくしはほんのり気分がよくなりました。
「孤児たちには基礎の学問と年長者には専門の知識を与えております。その中には庭師を目指す子もいるのです」
「ほぅ」
彼の眉が片方、面白そうに上がりました。お話の早い方で助かります。わたくしは足を止めて、改めて微笑みました。
「よろしければ、孤児たちを外での授業として庭師と一緒に派遣していただきましょう」
「直接はディアボス伯爵に依頼せずに、もちろん借りも作らせず、見込みのある孤児の職を斡旋できるかもしれない、ということか」
「ふふ、はじめは先生も一緒ですもの、安心でしょう?」
「わかった、俺からも授業に必用な費用を出そう。細かいことは後日孤児院で詰めることにする」
「えぇよろしくお願いいたします。評判になれば他の子にもいい刺激となるでしょう」
「他にもいいか?」
「どうぞ」
彼はそう言いながら庭の古いベンチへとわたくしを誘いました。ベンチの上へとハンカチを広げていただきました。お礼を伝えながら座ります。
「今回の件だが、どのような処罰が打倒だと考える?」
「わたくしは今どこまでことが進んだのかを存じませんわ」
モール商会の人拐い事件に関して、今も騎士隊が動き回っているのが庭からも見えています。モール商会はもちろん、引き渡した人拐いもどうなったのかわかりません。しかし彼は君が知っている状態からどのように決着をつけるのか、と言われてしまいました。
「丸投げではありませんか」
呆れて思わず口を尖らせてしまいました。細められたすみれ色の目は促すようにじっと見つめてきます。居心地が悪いです。
「子どもたちが保護された後からのこと、でよろしいですか?早さが命でしょうね」
わたくしは彼の視線を気にしないように一点を見つめした。半地下になった地面すれすれに見えている窓を見つめます。
「まずは五人ほどの小隊を作ります。そのうちのいくつかに書類を読ませて調べるべき相手を選り分けます。選り分けられたものを各隊に調査させます、期限は明日の夕方でしょうね」
「夕方が期限である理由は?」
「王都からモール商会は出ていくでしょう。協力者は一緒に行くか……」
「殺されるか」
「屋敷がどなたのものか存じませんが思った以上に騎士隊の到着が早かったので、ある程度目星をつけてすでに騎士隊を配置していたのではありませんか?」
彼は答えませんでしたが、たぶん正解でしょう。侍女のロールが出ていってほとんど間を置かずにわたくしが外へと出ましたが、すでに騎士隊が入り込んでいましたからね。
「商人は情報が商売道具でしょう?騎士隊の配置に気付かれていると思いますが、協力者は知らなかった可能性が高いです。たぶんモール商会からもしばらく大人しくしているように言われていたかと思いますが」
「欲張ると何事もよくないな」
「モール商会にとっては協力者は切り捨ててもかまわない相手を選んでいることでしょう」
他国へ逃げてしまえば処罰は協力者のみになります。モール商会の名を語られたとも言い訳が出来ますし、現行犯、もしくは言い逃れができない証拠が出ないと捕まえることは困難でしょう。
「つまり、今回捕まえるべきは協力者のみです。モール商会の手にかかる前に。見付けた書類から同じ名前が出たら良いのですが」
「あぁ、数枚見たが同じ名だ」
「彼らが知る手口をすべて告白してもらってから、法に則って裁いていただきましょう」
「うん、落としどころはそんなものだな」
ところで、とわたくしは指を差しました。それはずっと見つめていた半地下になっているであろう小窓です。
「あちらをお調べになっていただけませんか?暗くなってきたのにも関わらず、先ほどからちらちらと灯りが揺れて見えるのです」
彼は失礼する、と断って騎士隊のところへ走っていきました。
見送ってから、わたくしは嘆くことしかできませんでした。もう、二度と市井には出させていただけなくなったことでしょう。帰ればお説教も待っていることでしょう。お願いですから、辺境伯爵様のお茶会には参加させていただけないかしら、と叶いそうにない願いを込めて、息を吐き出したのでした。