三十一、それぞれの仕事
母とわたくし、そして第二王子は居間で父と対面しておりました。これからしばらく、父と兄様方が帰らないそうです。その間、父の子飼いの兵士たちが屋敷に来てくださることになりました。第二王子もこのままですが、国王陛下より警護の私兵が遣わされることとなったそうです。
「わかった。ディアボス伯爵、もうしばらく世話をかける」
「何かあればすぐ城へご連絡ください」
「大丈夫だ、父上の私兵の中に鳥使いがいてな、父上と兄上、ディアボスの次男に連絡が取れる。あとで伯爵にも紹介しておこう、鳥の使い方を見てもらおう」
大変なときだとわかってはおりますが、伝言鳥は珍しいので、どきどきします。ある鳥の仲間は人の言葉を話せます。いえ、言葉を真似て鳴く、と言うべきでしょうか。人が同じ言葉で何度も話しかけ、その言葉を鳴き声として覚えさせてしまうのです。きっと母鳥に鳴き方を習うようなものではないでしょうか。気軽に飼えるために貴族にも平民にも人気となっています。
しかし、その中でその時々の人の言葉を繰り返すことができる鳥がいます。一度話しかければ、一度で覚えるのです。かなり長い言葉も覚えられますが、一回その言葉で鳴いてしまうと、もう忘れてしまうのです。ですから緊急時に鳥を飛ばし、一報を届けるために使われます。その一度で覚える鳥は身分が低くとも名家と呼ばれる貴族の家か、財力のある貴族の家か、大きな商家にしかいません。
伝言鳥のことに気をとられているうちに父と第二王子の話し合いは終わったようで、わたくしへと父が向き直りました。
「第二王子に不自由の無いように、よいな?」
「えぇもちろん」
「カロリーナには別のことを頼んである。外に出ることが多くなるだろう」
そう言って父は母を見ました。母は頷いて微笑みます。
「わたくしとてディアボスに嫁いだのです。お仕事はお任せください。おうちのことは頼みますねダリアちゃん」
「わたくしも一緒にお仕事したかったわ」
「あら、王族からの宿題はまだ終わってないでしょう?」
わたくしは言葉につまります。王族が全員でおこなうような儀式はすべて覚えましたが、それ以外の王子妃が関わる儀式はまだ覚えきれていません。そして王子妃以外の方の儀式も手がつけられていません。王城の配置図もまだ本宮しか覚えていません。
王妃陛下が王子妃として後宮にいらっしゃったころ、高級女官として王子妃のお話し相手をなさっていました。王子妃に味方となるであろう貴族家の女性を紹介したり、平民でも研究家や専門家、職人となったような女性を積極的に王城へと招き入れ、取り立てました。それらの女性のご家族などにも、ディアボス家に縁のある文官に引き合わせるなどしていたそうです。そのため、人のつながりはどこまでもお持ちです。それが今回のお仕事に必要となるのでしょう。
「ディアボス家は怖いな」
わたくしと母を比べるように見たあと、第二王子が呟きました。母は笑います。
「ふふ、文官はどうしても華々しい騎士様には見劣りますけれど、とても強いのですよ?」
「あぁ、武器が違うのだな」
「わたくしなどいくら知識があっても世間知らずですもの。敵いませんわ」
「うん、それもすぐに何とかしそうだけどな」
「そうだと嬉しいのですけれど」
「さて、わたしは行くとしよう。カロリーナ、ダリア、頼んだぞ」
「お任せください」
「いってらっしゃいませ」
「伯爵、今から庭へ出られるか?」
「伝言鳥ですな、おうかがいします」
父と第二王子が出ていくのをうらやましく見送ると母に笑われました。わかっております。わたくしはお勉強が先ですわ。
「あなたは表情を取り繕えるようになれば大人になったとしましょうか」
「どうせ子どもですわ」
やはり母には敵いません。
その夜、エドガー様がバルコニーへと降り立ちました。今は兄様がいないので、手引きをなさっているのがどなたかわかりません。兵士たちは気付いているのでしょうか。
「あぁ、大丈夫だ、ディアボスの家令が入れてくれている、こう、白髪の好好爺だ」
「フィッツナーですね」
彼ならば当然のようにお出迎えしているのでしょう。お会いできるのは嬉しいですが、もう少し時間帯を考えていただきたいものです。
「悪いが、しばらく来られそうにないんだ」
「えぇ、我が家はわたくしだけ王子妃のお勉強ですわ」
「その方がありがたい。危険だから。あと、調べものも頼みやすい」
「婚約者に会いに来てくださったのではないのですか?」
むっとして申し上げました。これが母の言う取り繕えない子ども、ということでしょう。ふむ、とエドガー様は眉をあげました。
「会うというより、英気を養いに来ている」
「英気、ですか?」
「こうやって」
あっという間に抱き寄せられて、わたくしは横抱きにされておりました。そしてエドガー様は、バルコニーの手すりへと足をかけると、跳ねるように蹴りあげたのです。




