二十九、我が家のお客様
わたくしはお聞きしたいことがありました。
「マルーム様は王になりたかったのですか?それとも……」
「王ではない。兄上に認めていただきたかっただけだ。兄上に頼りにしてもらいたかったのだ。兄上とともに国を守りたかったのだ。どうして、こんな」
聞きながらわたくしは目を閉じました。この声を聞く方がいったいどれだけいたのでしょう。願いが叶うように一緒に考えて、一緒に努力する方はどこにいらっしゃったのでしょう。孤独に浸して溺れさせてしまったのはどなたでしょう。
「マルーム様のお気持ちをはじめておうかがいできて、光栄ですわ。それに、わたくし一つ、エドガー様よりもマルーム様が優っていらっしゃることを存じ上げているのです」
「いや気を使わないでくれ。わたしには兄上に優るところなど……」
わたくしは首を振りました。侍女へと頷くと、茶器が横へとさっと退かされ、そこへ箱が置かれました。
「なんだ?」
「文箱ですわ。中はすべてエドガー様からいただいたお手紙が入っておりますの。わたくし、男性にお手紙をいただいたのはこれがはじめてで、恋文とはこのように頭を使うものだと本気で思ったものです」
「……まぁ、相手を思うからこそ言葉を選ぶから大変だとは思うが……」
何が言いたいのか、伝わらないことは承知しております。第二王子もなんと返せばよいかわからないみたいです。
「その文箱のお手紙をご覧になってくださいまし」
「いいのか?」
「ご覧になって、言いたいことがあれば、是非お聞かせください!」
不審そうにわたくしをご覧になりながらも、文箱の蓋を開けて蝋封の印章をお確かめになり、開いてお読みになります。何度か瞬くと、次のお手紙を手に取ります。それもすぐに目を通し、次へ次へとお手紙を開いていきます。
「これ、は、本当に、兄上が?いや、筆跡は、でも」
「わたくし、ずいぶん頭を使いましたのよ?」
「ふ、ディアボスの、ふふ、ディアボスの智でも、ふはは、この手紙は大変だったろう?」
「えぇ、三日とおかずに届きましたの。内容をご存知ない兄様たちには冷やかされましたがわたくしは必死でしたのよ?」
とうとう第二王子は吹き出しました。お腹の中から出す声はとても楽しそうです。それを見て、わたくしも侍女たちもほっと胸を撫で下ろします。
ディアボス伯爵家に密やかに保護された第二王子は湯あみをし、食事をし、良く眠り、体調を戻していきました。それと同時に尋問もはじまりました。我が家の客室を自室として使っていただいているので、尋問は応接間でおこなっていただきました。
尋問はエドガー様と軍務大臣のお二人がなさいました。おかげで近衛騎士たちもたくさん我が家に出入りをし、わたくしも使用人たちもずいぶんと気を使い疲れてしまいましたが、第二王子はそれ以上に疲れきっておりました。
側室様は王族どころか貴族籍の剥奪について言及しましたが、実際には第二王子のままとなっております。側室様、というより財務大臣から提出された書類はディアボス伯爵である父がすべて手元で処理を止めて、国王陛下により破かれたそうです。そのことも、喜ぶでもなく、そうか、と言って虚ろな目で庭を見ていらっしゃったそうです。
その様子は使用人たちが心配を増すのに十分でした。侍女たちがそろってどうにかお元気を出していただきたいと相談に来るので、わたくしも父へとお願いしたのです。保護するためとはいえ、不敬だったことにはかわりがなく、謝罪をさせていただきたいと。わたくしは第二王子の馬の件もあり会わせられないと言われていたので何日もかかりましたが、やっとお茶の時間だけお会いすることができたのです。
「もう!やはりお仕事のお手紙だったんだわ!」
「いや、ふっ、うぉっほん、そうだな、君はどうなんだ?」
「わたくしですか?」
「あぁ、仕事の手紙以外に君から送ってみたらどうだ?恋文を」
「わ、わたくしから、ですか?」
考えてもみませんでした。確かにわたくしからはお手紙を送っていません。しかし、自信がありません。
「わたくし、恋文がどのようなものかわかりませんわ」
「正解などないからな……とにかく兄上に対する思いを書き出してみてはどうだろう」
「あの、書いてみますので添削していただけませんか?」
「え?恋文を?兄上よりも先に読んでしまうことになるけどいいのか?」
「だめです……」
良い案だと思ったのですがそうはうまくいかないようです。第二王子は目を細めて微笑みました。
「大丈夫だ、兄上は君が書いたものなら宝物にするさ」
「うぅ……マルーム様はお優しいですわね……」
「ハハハ」
笑ってカップを取り、心を落ち着かせるハーブティーをお飲みになります。きっと冷めてしまったことでしょう。こんな風に穏やかな時間がすごせれば、何も言うことはありません。
「……また、お茶を一緒にさせてもらえないかな?」
照れくさそうにおっしゃる顔をみれば、もうこの方は大丈夫だと、了承の笑顔をお返ししました。




