二十一、余計なお世話
何者かを追い返し、ハンカチとジャムのクッキーを拾ってきた大きな竜は、なんと竜騎士隊の隊長の竜でした。もっとも力が強く怯まない、軍馬としても最高の竜だそうです。その隊長の竜、クラウンと兄様である副隊長の竜、プランセッスのどちらかと、必ずわたくしは一緒にいます。そうでないと、わたくしというよそ者に興味を持ったり気を引きたがる竜が多く、ちょっかいを出されてしまって掃除が出来なかったり、観察の邪魔をされてしまうのです。
それくらいには竜たちに馴れました。クラウンとプランセッスの特徴についてもすでに書き付けは終わっていて、父へ提出済みです。父が確認したあとに軍部の資料として文官が編纂を始める予定です。
「クラウン、こちらへ来てくださる?」
呼び掛けると大人しくわたくしから少し離れた場所までやって来ました。クラウンは大きすぎてわたくしが近過ぎると小さくて見えづらいようです。
「お水を飲んでいたのにごめんなさいね」
ぶるん、と鳴いて返事しました。本当に竜は賢いです。
「ついてきて欲しいのだけれど、内緒にしてください」
わたくしが歩き始めると、クラウンは合わせて一歩、一歩と脚を進めます。わたくしが遅くて申し訳のないことです。
ユニラーク辺境伯爵レトール様は、竜たちに扱き使われる、とおっしゃいましたが、そんなことはありませんでした。確かに気性が荒かったり、誇り高くて扱いにくいところはあるかもしれないですが、ここの竜たちはわたくしに協力的です。話をすれば、耳をそばだててくれ、返事をして行動に移します。これは観察しなくともすぐにわかったことですが、竜自体が珍しいために世間では誤解されているのでしょう。
わたくしはクラウンをつれて詰所へ来ました。エプロンのポケットから小袋と洗濯したハンカチを取り出します。
「こちらで良かったかしら?」
クラウンはのっしと歩き、詰所よりも奥の、軍部の主となる部所が設置されている二宮で立ち止まり、窓枠を鼻でつつきました。あら、もう少しで持ち帰れるところだったのに、残念な方です。
「ここに置いておけば気付くでしょう。今度は捕まえたりしては駄目よ?」
ぶるる、とクラウンは笑ったようでした。
シス兄様と家路につこうとすると、にこにこ顔をした次兄様に捕まりました。シス兄様はそれとなくわたくしを庇うように立ち止まります。それほど次兄様はご機嫌で、不気味だったのです。
「いやぁ、ダリア!素晴らしいよ!なんてお前は優しい娘なんだ!」
「次兄気持ち悪い」
あぁ、シス兄様そんなきっぱりとおっしゃらなくても良いでしょうに。次兄様は何も気にならないようで、笑顔が止まりません。
「あぁ、シス、シルヴェス!」
「な、なんなんですか!」
がばっとシス兄様に抱きつきました。ますます次兄様が不気味です。わたくしは二人から一歩、二歩と距離を取ります。
「エドガー殿下が恐ろしく不機嫌だったのが昼を過ぎて物凄くご機嫌になってな!」
「そうですか、良かったですね、ご苦労様です」
あぁ、シス兄様が面倒臭そうです。宰相様の部下である次兄様は不機嫌な第一王子にさらされてお辛かったのでしょう。それがご機嫌になったのであれば悪い話ではないですが、ちょっと大袈裟だと思います。
次兄様がわたくしを見ました。思わずぴくりと背筋を伸ばします。
「無くしたハンカチを取り戻したそうだ。その際美味しいショコラも手に入れたと」
「まぁ左様ですか。そういえば今日軍部に我が家の料理長のショコラを差し入れしましたわ。どなたか軍部の方がハンカチを拾われたのでしょうね」
「え!?」
「耳元で叫ばないでよ次兄!」
やはり第一王子のハンカチでしたか。クッキーなど欲しがる理由はわかりませんが、手元に戻ったのであれば安心です。それにしても次兄様は何故驚かれているのでしょう。シス兄様が次兄様から逃れます。
「何なの次兄!ハンカチ戻ってきたんならいいでしょ!」
「えぇ、そんなにご機嫌になるのならよほど大切なハンカチだったのでしょう。我が家の料理長のショコラがお口に合ったのも良かったですわ」
しばらく開けたままだった口を今度はぱくぱく開けたり閉めたりしはじめた次兄様は、わたくしの隣までシス兄様が避難したところでやっと声を出しました。
「差し入れは、料理長のなのか?」
「そうだよ!ダリアの手作りは取り合いの喧嘩になったり崇拝の対象になったり大変なんだ」
「とうに軍務大臣からお話が通って国王陛下から禁止されておりますわ」
そんな、と次兄様がその場へ崩れ落ちました。ばれたら、とか、ごきげん、とかぶつぶつと何かを言っています。シス兄様がそっとわたくしの腰へ手を回し、歩くように促します。お先に、と挨拶をしましたが、次兄様は聞いておりませんでした。




