十九、働く意味
父がわたくしを喚び出しました。いつ喚ばれるのかと待ち構えておりましたから、すぐに父の書斎へ参ります。
「リンベルダリアです」
入りなさいと聞こえたので、ドアを開きます。書斎の中には見知った方がいらっしゃいました。
「ユニラーク辺境伯爵にご挨拶を」
「久しぶりだね、誕生会以来かな?」
「ご無沙汰しております、レトール様」
まるでご自分が王族へわたくしを推薦したことなど忘れてしまったかのように応接用のソファーへと腰かけていらっしゃいます。わたくしは割り切れない気持ちで父の元へと向かいます。
「ユニラーク辺境伯爵からご提案があったが、お受けするかどうかはダリアに任せる」
「はい」
何をするのかはまだ知りませんが、何かがあることはすでにリリー様よりお知らせいただいておりました。少し揉めていることがあるために、まだ決定していないともお手紙に書いてありました。お兄様のレトール様がこうして正式にディアボス伯爵である父へと面会するということは問題が解決したのでしょうか。
「王城で働いてみないか?獣部の竜騎士隊だ」
働く、と言う言葉を飲み込むのに時間がかかりました。お見合いばかりしておりましたので、婚姻を結ぶことがわたくしの仕事であり、女官や侍女、リリー様のような騎士などのような女性として働くということが頭になかったのです。
父は探るように私を見ています。
「ではシス兄様のところですか?」
「そうだ、働くと言っても竜騎士隊での騎士と竜の世話人なのだが、書類仕事が主になるだろう」
「書類とは……」
「実はね、竜の記録がまったくないのだよ」
え、と聞き返してしまいそうでした。
竜とは、とある馬の種類です。時々森の奥で見付かる馬です。群れでは見付かったことがなく、親兄弟もしくは番で見付かります。通常の馬の倍以上の大きさ、個体によっては五倍以上のものもいたとの書物も残っています。力も強く首を振り回して狼を投げ飛ばしたり、太い脚で農民の家を踏み潰して通りすぎていくという話もあります。そんな馬を捕まえることはできません。つまり、馬が人を選ぶのです。そのために見付けてもそのまま無視されたり、どこかへ行ってしまうこともよくあります。食べ物で興味を引き、なんとかその場に留まらせて、竜騎士希望の騎士を呼んでくるか赤、白、青の狼煙をあげて駆け付けてもらうのです。馬に選ばれた騎士は通常の騎士とは別にされ、獣部へと移動します。馬は伝説上の怪物になぞらえ、竜と呼ばれるようになりました。
「竜騎士の方は優秀な方が多いかと思いましたが……」
竜は誇り高いところがあり、自らに釣り合う人を選ぶと言われています。兄様もあまり好戦的ではないけれどとても頭の良い竜に認められたと聞いています。この竜が竜騎士隊の竜をまとめていると有名です。
黙って聞いていらっしゃったレトール様は苦笑混じりに教えてくださいました。
「竜の記録ではなく、自分の竜の賛美でしかなかったんだよ」
「……自慢したくなるのもわかりますわ」
竜と竜騎士の組み合わせは確かに素敵です。わたくしは竜をあまり知らず、少し怖いと思っているのでそのような記録にはならないでしょう。同じ獣部であれば狼騎士隊や伝言鳥騎士隊に所属してみたいと思います。研究対象であれば竜騎士隊や毒獣騎士隊もおもしろいと思います。
「どうする?」
「かまいません、竜騎士隊へ行きます」
大きく頷き、受け入れました。父はかくん、と首を垂れます。
「そう、か……最近お前の周りは騒がしいから心配だが」
「大丈夫でしょう、騒いだら竜たちが黙っていないでしょうから」
すぐに安心させるようにレトール様がおっしゃってくださいます。しかし、竜は人を選ぶのです。
「あのレトール様、竜はわたくしが近付いても大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫、世話人のことは使用人だという認識がきちんとあるんだよ。とても扱き使われると思っておくといい」
そして、レトール様は最後に余計なことをおっしゃいました。
「城内にいる婚約者に会えないままのエドガーがどう出るのか、楽しみだろう?あぁ、毎日でなくとも良いから竜騎士隊へ差し入れをしなさいと、ドナシファン殿からもし引き受けるようであれば伝えてほしいと」
「大兄様が申し訳のないことを……」
竜がいるので騒ぎにはならないと言っても、差し入れを持っていくというのは騒ぎのもととなりそうです。父も困ったような顔をしてレトール様をご覧になっています。それに、第一王子のことも、何事もなければ良いのですが。




