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十六、恋で戦いますか

 一通り泣いて、愚痴をこぼして、目を冷やしているわたくしに、リリー様はおっしゃいました。


「リンベルダリア様、これは戦いです!恋は常に戦いなのです!火蓋は切って落とされたのです!」

「あー、リリー、妹を巻き込まないでくれ」


 手拭(てぬぐ)いで見えてはいないのですが、竜騎士の兄様(あにさま)が頭を抱えているようなお声を出しました。どうやらリリー様は女性騎士らしく、好戦的な方のようですね。


「いえリリー様、わたくしでは第一王子に勝てません」

「あら、ディアボスの()が剣での勝負しか思い付きませんの?」

「だからリリーやめてくれ」

「大丈夫よ!あの方は一度痛い目をみないとわからないのよ!」


 興奮しているリリー様は楽しそうです。ノックが聞こえ、兄様が立ち上がりました。お入りください、とどなたかがお越しになったようです。


「お兄様!」

「リリー、リンベルダリア嬢の様子は?」

「いいえ、それどころではありません!」


 兄様がため息をつく横で、リリー様はぺらぺらとわたくしの現状を、辺境伯爵様へとお話してしまいました。


「ですから、これからリンベルダリア様と作戦会議です!是非お兄様もご参加いたしませんか?」

「……リンベルダリア嬢」

「このような姿のままで申し訳のないことでございます、辺境伯爵様」

「いや、こちらこそリリーがすまない。しかし、おもしろいから参加させてくれ」

「さすがお兄様!」

「エドガーも()らしめておく必要があるからな、年々扱いにくくなっているし」


 楽しそうです。兄妹(きょうだい)は似るのでしょう。わたくしは何もそこまで、と思わなくもないですが、どうなるのか見てみたい、とも思ってしまいました。


「君も優秀な三つ子の一人なのだから参加するのだろう?妹のために」

「……仰せのままに」


 あぁ、兄様も諦めてしまったようです。リリー様のことを憎からず思っていらっしゃるでしょうし、辺境伯爵様にも三つ子の一人ではなく竜騎士として覚えていただきたいでしょうし、複雑な気持ちをお(さっ)しします。

 リリー様は高々と宣言なさいました。


「エドガー様をギャフンと言わせる会、略してエドフンの会をここに発足(ほっそく)します!」


 わたくしは手拭いを交換することにしました。会の名称についてどなたも何もおっしゃらないのは、重要なことは名称ではないと考えていらっしゃるからに違いありません。ですから、わたくしも何も申し上げませんでした。手拭いを外すと、思いの外すっきりといたしました。

 辺境伯爵様が第一王子と同い年と言うことでご学友だったことがわかったり、それでリリー様も彼と幼馴染みであることがわかりました。リリー様は三つ子の兄様方と同い年で学院でよく剣技の稽古をしていたとのことでした。


「まずリンベルダリア嬢が行うべきはエドガーへの宣言通りにすることだな」

「会わない、手紙を送らない、ですか?」

「そうだ、無視でいい」


 うんうん、とリリー様が捕捉なさいます。


「夜会も未成年であることを理由にできる、婚約発表は終わったからね」

「しかし、王族に要求された時のお断りはどうすれば?」


 兄様の不安もわかります。今回のことだって父は王族ということで断れなかったのではないでしょうか。


「面会できないとでも医師に言わせればいいのよ。そうだな、エドガー様の医師にも協力してもらいましょう、絶対に腕の良い医師に診せろと言うでしょうし」


 リリー様の大胆(だいたん)な案に、わたしが連絡を取ろう、と辺境伯爵様がたいへん乗り気です。医師に嘘をつかせるなんて、信用問題にはならないのでしょうか。


「あとは家族かな……まぁ、ダリアが泣かされたと知れば簡単か」

「あの、千回お見合いしたっていうのは……」

「本当だ、千回目のエドガー様がお見合いと言えるのかは疑問だが」

「なんてもったいないのかしら!こんなに可憐な方を!しかもディアボス伯爵家の!」


 よくわかりませんが、お礼を伝えます。手を握られて本当だと力説なさるリリー様はおかわいらしく思いますが、固い手は剣士の物でした。

 次に、と辺境伯爵様が進めてくださいます。


「あのエドガーのことだ。無理に会いに来るかも知れない」

「それならば一時的にダリアの部屋を移しましょう。一度エドガー様がバルコニーまでいらっしやっていて部屋の位置がばれています」

「それはいいね!でも、無理に押し入って来た時用に護衛は要らないかい?」


 心配そうなリリー様に首を振りながら、兄様はわたくしを見ました。兄様に頷きます。


「わたくしは諜報部暗殺隊の兄様より針を習っております」

「針?何それは」

「これです」


 もちろん今日も持ち歩いています。ドレスには何も無いように見えますが腰に一筋の切れ目が入っていて、そこから腕を突っ込むと針の入った筒へと手が届きます。


「へぇ、触ってもいい?」

「どうぞ」


 リリー様へとお渡しすると握ったりくるくる指で回したりしています。


「これは隠しやすいけど慣れないと握れないね」

「そうですね、刺すことが主になってきますので接近戦よりは投擲(とうてき)で投げた方が握った場合の力は要りません」

「非力な女性にはいいな」

「最終手段ですもの、剣のようにはまいりません」


 ありがとう、とリリー様から針を返されます。辺境伯爵様は満足そうに頷きます。


「よし、それでいい。そうやってエドガーを追い込もう」

「どう出るのか楽しみです!」


 楽しそうなお二人は本当によく似ていらっしゃることです。わたくしはすでに家族への説明を考えていらっしゃるであろう兄様に、引き返せないことを知りました。

 少しだけで良かったのです。あの言葉で、わたくしに会いたいと、わたくしと向き合ってみようと考えてくださらないかしらと思ったのです。それだけで、こんなことになるとは思いませんでした。やはり、わたくしは世間知らずなのですね。七歳も年下の未成年など、恋のお相手には成り得ないのに、辺境伯爵様たちのご厚意に胸が痛みました。




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