十四、切り捨ての意味
最後に国王陛下がご入場です。これで誕生会の始まりです。まずは主役である第一王子が躍り、それから陛下からお言葉を賜り、お答えする形で王子がお話になります。予習の通りでしたら、陛下がお座りになってから第一王子がわたくしのところへ足を運ぶのです。
横で痛い痛いと小声で話しかけてくる兄様は本当に邪魔ですね。わたくしの緊張をほぐそうとなさるくらいのことはしていただかないと。
「大丈夫?笑顔でいれば踊れなくても様になるから」
「ありがとうございます」
そっと口許を扇子で隠しながら教えてくださるリリー様のお優しいことと言ったら!
「来たよ、笑って」
兄様の方が緊張して固い言葉になってはいませんか?あの方はお知り合いなのでしょう?
わたくしは目線をあげました。第二王子のおかげでわたくしたちの周りには人がいません。たった四人しかいない場所なので、すぐに第一王子は到着してしまいました。
「悪かったな彼女を連れてきてもらって」
「確実なお約束をいただければディアボス伯爵家は問題ございません」
「約束しよう」
「では」
兄様はわたくしの手を取り直しました。この形式的な挨拶は周囲に向けた言葉です。我が家が第一王子派として名を連ねて、その忠誠を示すために必要なことなのです。
王子は手を差し出しました。
「お名前をお伺いしても?」
なんて今さらなのでしょう。今までわたくし宛にお手紙を出していたのはいったい誰だったというのですか。招待状もきちんと記名されておりましたよ。
「ご存じかと思いましたわ、すみれの瞳の君」
「君の口から聞きたかったんだけどね」
差し出された手に兄様がわたくしを誘導しました。諦めて兄様から離れます。
「ディアボス伯爵が第七子、リンベルダリアと申します」
「わたしのことはエドガーと」
わたくしの手はエドガー様にとられて、フロアの真ん中へと連れ出されました。何度も申しますがわたくしはまだ未成年なのです。その点を鑑みてもう少し穏便にお見合いの形を作れたのではないでしょうか。
「お待ちください兄上!」
第二王子の突然の割り込みに注目が集まります。せっかく王族として事を納めてくださったのに何故出てこられたのでしょう。あぁ、これは、兄上憎し、でしょうか。ずいぶんと怖い、いえ、いやらしい顔をしていらっしゃいます。これ以上騒ぐとお母上の側室様への批判へつながりますから、大人しくなさっていた方が、とどなたも押さえたりなさいませんね。
「その者は成人しておりません!ダンスのお相手などできませんよ!」
嬉しそうに叫ぶ様は、たいへん幼く見えます。第二王子はフロアへ足を踏み入れようとしました。きっと、ご自分の恋人がされたようにわたくしを扱いたいのでしょうね。しかし、この場の最高権力者の前で行うことではございません。
「下がれ」
「え?」
「下がれと申した」
国王陛下のご命令ですから、第二王子は下がらなければなりません。食い下がるなど、もっとも愚かな行ないです。
「父上!あの女は」
「陛下だ。ディアボス伯爵家のリンベルダリア嬢が未成年であるにも関わらずこの場に呼ばれ、エドガーにダンスを請われる意味がお前にはわからぬか」
「何を……」
強い口調の陛下に戸惑っていらっしゃいますが、他の皆さまはすでにご納得のお顔で見ていらっしゃいましたから、察することができない方は第二王子だけのようですよ。
「マルーム、リンベルダリア嬢をここへ招待するのにわたしが陛下へ何もお話していないと思っているのか?」
「エドガー、こやつはあの見苦しい女を後宮へ入れるのに一度もわたしの許可を取っていないぞ」
「なんですって?マルーム……」
あら、それでしたらあの女性は後宮への侵入者ですわ。後宮の警備関係者は処罰対象になってしまいます。陛下もエドガー様も、周りの皆さまも残念そうに第二王子をみていらっしゃいます。
「陛下」
子供のようなかわいらしい声が響きました。側室様です。第二王子は嬉しそうに側室様へ振り返ります。
「母上!」
「この者はわたくしの許可もとっておりませんわ」
「母上?」
「そもそも、未来の王妃ですって?不敬にもほどがあるわ!添い遂げたいのならば王族どころか貴族籍も抜いて男爵家へ婿へ入りなさいな」
「どうして!」
「どうして?それがわからないから平民に落ちろと言っているのよ、まったく、役立たずの王族など要らないわ、衛兵!連れていきなさい、エドガー様に失礼だわ」
「母上!」
これは、どういうことなのでしょう。そっと兄様をうかがいますが、首を横へ振っているので予想していたことではないようです。
側室様に切り捨てられた第二王子は会場の外へ連れ出されました。それを見送る人の中に側室様はいらっしゃいませんでした。
「……ありがとうございます、バーバラ様」
「いいえ、お誕生日おめでとうございますエドガー様」
側室様はにっこりとエドガー様へ微笑み、そして、興味無さげにどこか遠くを見ていらっしゃいました。本来ならば側室様はバーバラという名を呼んだエドガー様にお怒りになりそうなものですのに、本当に興味が無さそうです。
このバーバラという名は、亡くなった側室様のお母様の名で、後からミドルネームのお一つとして父である財務大臣がつけたそうです。つまり、本当の名ではありません。財務大臣だけが呼び、亡き妻を偲ぶのです。側室様にとって娘とはいえどれだけ失礼なことをしでかしているのか、財務大臣のことがわたくしにはさっぱりわかりませんでした。
そんな名を呼んだのにも関わらず、側室様は何もおっしゃいません。この方のことも、わたくしにはさっぱりわかりませんね。その名をわざわざ呼ぶエドガー様もエドガー様です。どうやら王族の方はわたくしなどにはさっぱりわからない人々のようです。




