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十一、業務書類の往復便

 第一王子からお手紙をいただいて、返事を次兄様(つぐあにさま)へ持っていっていただきました。次兄様の本当のご用事だった第一王子とのお見合いの日程は三カ月後となったそうです。わたくしのドレス作りやマナー、ダンスのお稽古の方が重要だという表向きの理由は伏せられました。本当はわたくしの謹慎(きんしん)なのですけれど、第一王子にどちらの理由もわざわざ知らせる必要はありません。そんなにもお待たせしてよいのかと焦りましたが、王家からは了承が得られたとのことで驚きました。三カ月後の方があちらとしても都合がよかったようです。


「わたくし、成人しておりませんが……」

「その方が守りやすいのだ」


 三つ子の兄様(あにさま)のうち、近衛騎士隊の兄様が言いました。指定されたのは夜会でした。それも、第一王子の誕生会です。そこでわたくしとダンスを踊り、話をする、という筋書きだそうです。

 つまり、余程のことがない限りはわたくしは第一王子と婚約するということです。通りでお見合いが三カ月後でもかまわないわけです。すでに父と第一王子の間で決まったのであれば、いつものようにお見合いに駆り出される必要もなく、かといって体裁(ていさい)を取り(つくろ)うためにお見合いもするのです。

 第一王子は未婚女性に囲まれてしまうから警備が必須であるために、わたくしが付きっきりで王子と一緒にいれば、わたくしの警備も問題ないとのことでした。


「それって……一人になったら」

(たちま)嫉妬(しっと)に狂った女性たちに捕まるだろうね!」


 楽しそうに言うことではありません。今回竜騎士隊は動くことはないので、こちらの兄様はお客様として夜会へ参加します。


「暗殺隊は紛れているから安心しなよ」

「はい、兄様」


 さすがに隠れての警備は必要なようです。一番年齢(ねんれい)の近い兄様たちが一人しか助けを求められる場所にいないのは不安です。ぽん、と頭に手が置かれました。近衛騎士の兄様が笑って言います。


「ほら、そんな顔をするなよ、王子が何とかするさ」

「文通してるんだろ?」

「恋人たちの甘いやり取りを妹がしてるってビックリなんだけど」


 ここでも不安を(ぬぐ)い去ろうとしてくださったのはわかりましたが、わたくしは落ち込みました。すくっと立ち上がると、お茶をいれ直していた侍女へ言いました。


「ラン、わたくしの部屋から文箱(ふばこ)を持ってきてちょうだい」


 そしてぽかんと見ている兄様方へお願いしました。


「今から王子のお手紙をご覧になってどう思われるか、ご感想をいただきたいのです」

「え?いいの?」

「はたして彼は恋文(こいぶみ)を送っているのでしょうか」

「何言ってるの、急に」

「わたくしは彼以外にお手紙をいただいたことがないので兄様たちに是非」

「あんなにもらってるのに不満なの?」


 わたくしは黙って座りました。周りの三つ子の兄様たちの困惑が伝わって来ていますが、いい機会です。すぐにランが帰ってきました。文箱は香りの良い木で出来ていて、(ふた)を開けるとふんわりと香ります。


「これは一週間前に届いた手紙です」


 近衛の兄様へ渡します。

 なかなかよい磁器(じき)が作られなくなった理由が老いた職人が亡くなったことだとわかったそうで、今の磁器と昔の磁器を比べて原因を探ってほしいという、それだけの手紙でした。


「こちらは十日ほど前の物ですわ」


 竜騎士の兄様へと渡します。

 お茶会にはきらびやかな宝石をこれでもかと身に付けて出席し、ぶくぶくと太っているご夫婦が、ご自分の領地の税収が無いと(なげ)き、支援予算を組んで欲しいと要請しているが、怪しすぎるのでどこを調べたらよいか教えて欲しいと。


「あぁ、これは三日前ね」


 諜報部の兄様に押し付けます。くしゃりと封筒が歪みましたがもう返事をしたものです、よいでしょう。

 薬草の効能について書かれた医師の手記があるが、どのようにまとめると使いやすくなるかという内容です。

 毎回多くて二つの質問が書かれています。その答えをわたくしは返信しています。そのため往復の頻度は高く、これが恋文であるのならばとても相性の良い二人であると言えるでしょう。

 他も見てよいかと言われ、頷きます。兄様たちが満足するまで読んでいただきましょう。ランが再度いれたお茶を飲んで待ちます。


「聞いてもいい?」

「どうぞ」

「いつからこんな感じなの?」

「はじめからです。たぶん一番下に……」


 すぐに竜騎士の兄様が文箱をひっくり返してその一番上の手紙を広げました。

 そういえば最初は気遣う言葉がありました。好きな男がいるのかと。それも二通目からは無くなりましたが。


「……違う!業務書類を見たかったんじゃない!」

「こんなのは恋文じゃない!」

「この最初の!なんて返事したの?」

「その部分は……」


 正直にお返事をしました。王子には知っていてもらおうと思ったのです。婚約披露も視野にいれていらっしゃるし、何より質問の内容からお仕えするのに相応(ふさわ)しい方かと思いました。王になるのなら、第二王子ではなくこの方でしょう。


「たぶんお(した)いするとはこういうことだろうと思っている方がいるとお返事したと思います。名前は存じませんがすみれ色の瞳の、優しい兄のような方だと」

「なんだって?ややこしい!」

「わたくしもその方を好きなのかどうか……」

「ちょっと待って!すみれ色の瞳?」

「あ、はい。兄様たちのお知り合いですよね?あの奴隷(どれい)商人事件の時の」

「冗談でしょ?」

「本当です!慰めてくださった……」

「いや、殿下(でんか)の方こそ冗談でしょ!」

「なんなのあの人!何やってんの!」

「業務書類なの?本当に業務書類なの?」


 三人が一緒になって騒ぎ始めました。わたくしには恋文ではないことさえわかればよかったので放っておきました。


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