セシル視点【嫌いだから】
【セシル視点です。飛ばして読んでいただいても話は繋がります。】
僕は、人間が嫌いだ。特に女は。五月蝿くて、煩わしくて。笑っていても、腹の底で何を考えてるのかわからない。関わりたくない。目にも入れたくない。そんな存在だ。
だから、神子の護衛になった時、すごく嫌だった。
なんで僕が、こんな女の護衛なんかしなきゃいけないんだって。
魔力の潤沢を意味する黒髪黒目。 魔力が涌き出てるというだけで 自分じゃ何もできない。魔力が溢れでる程あるのに、使い道を知らないそんな無能な女の護衛。
何も知らない神子。異世界の女。異世界からきたというだけで、僕の欲しいモノを持つ人間。
僕は、日に日に枯渇していく魔力に焦燥し、怯えているというのに……
──悔しい。
守ってもらうのが 当たり前。っとか思ってるんだろ? ヴォルフの奴にちやほやされて、勘違いでもすればいい。軽薄な男に持て囃され、神子だのなんだの崇められる。そういうの好きなんだろ?女って
あいつに遊ばれて、傷付いて、泣いてる顔を嘲るのも愉しそうだ。なんだったら、慰めてやってもいい。心では、笑ってやるけどね。
馬鹿な奴だって、笑ってやるんだ。僕はその為に此処にいる。
──そう思ってたのに。
どんな酷い言葉を投げつけても、変わらずに接してくる。
傷ついたりしないんだろか?
傷つくのが怖くないんだろか?
神子だからって、心根が聖女ってわけじゃないだろ?なんでも許せるのか?それともただの馬鹿なのか?
─って思ったら、ヴォルフに酷い言葉を投げつけてて笑った。僕にも思うまま言い返してくるし。もっとお淑やかに猫でも被ればいいのに。顔悪くないのに……馬鹿だな。
裏表のない奴。そこは、隠すべきなんじゃないの?女としてちやほやされたくないの?ー変な奴。ってそう思った。そう思ったら、いつの間にか目が離せなくなってた。
湖では、ブーツを脱いで 足を晒してた。
いやいや!それ ヴォルフいたら 襲われるぞ!?普段あんなに 警戒してるくせに、どうしてそういう所が無防備なわけ!?馬鹿なの?
慌ててそう指摘したら、ありがとうって。言われた。笑顔で。
なんだよ。ほんと、こいつ 知らない事多すぎじゃない?そう思って呆れた。僕が見てやらなきゃなって……でも……違う。知らないんじゃなくて、知る事ができなかったんだ。って気付いた。その意味に気付いて苦い痛みが胸を走った。
コイツは……強制的に召喚されて、わけのわからないまま旅にだされて……何も教えられないまま……神子をやらされてる。
それなのに、「がんばらなきゃね!」って笑う神子。
あんた ほんとに馬鹿だろ。
足だって、それ 周りに気を遣って 隠してたんだよね。
ーほんと馬鹿。
そんなに酷い状態で、まともに歩けるわけないじゃん。逆に迷惑。迷惑だよ。痛み抱えて、我慢して、周り気遣って笑ってるだなんて知ったら……ほっとけるわけないじゃん。
節約してたけど……魔法……使うなら
今だよね。
こいつの足、こんな状態のままにしてられないし。別にこいつの為じゃないけど、治さないと……旅の邪魔になるし。だから、仕方ない。迷惑だから治すだけ。そうやって魔法を使った。そんな僕に神子は……
「セシル君。ありがとう」
そう言って綺麗に笑った。
初めて、しっかりと見た。こいつの瞳。
黒曜石のように、キラキラと角度を変えて煌めいて。 吸い込まれるように 深く綺麗だった。
あー。
ほんとにやだな。
胸がざわざわする。
だから、女なんて嫌なのに。
ほんとムカつく。