表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
第一部
12/32

9

 そうして数ヶ月の旅のうち、私達は大きな港街に着いた。此処を超えれば、魔王城も近いらしい。


 ─港街─ベネゼレイラ


 足元には、不規則に敷き詰められた細石。先ほどまで雨で濡れていたそれは、太陽の光を受け止め、反射し キラキラと輝いている。

 白を基調とした漆喰で調和されたこの街は、空の青と相まって、とても美しく映えている。見上げた空には虹がかかり、人々はその下で、朗らかな笑みを浮かべ笑い合う。


 目の前にある、アーチ状の石橋の下では、人を乗せた船が、ゆっくりと川を進んでいく。


 客船に乗った猫耳の幼子が、母親に抱えられながら こちらに向かって懸命に手を振る。その姿を見て、自然と顔が綻んだ。


「……」

「不思議そうな顔をして。どうしたの?お嬢さん」


 すぐ横に並んで歩く ヴォルフが、声をかけてくる。


「デート中に、余所見されると。少し寂しいんだけど」

「デートって……ただ、一緒に街を見回ってるだけじゃない」


 間髪入れず訂正しておく。これが 男の人との初デート?……しかも相手がヴォルフ……。


 いやいやいやと慌てて首を振る。これはデートじゃない。街の中を色々見たい。という私の希望に、この街に詳しいヴォルフが、買ってでてくれた。セシル君とルドルフさんは、旅の備品の買い出しがあるから、たまたま二人で行く事になっただけで……。そう、それだけ


「これは、デートなんかじゃない」


 念を押すように呟く私に、ヴォルフが


「何もそこまで否定しなくても」


 ─っと吹き出した。


「今頃セシルの奴。荒れてるだろなぁ」

「セシル君?ああ。確かにすごく行きたがってたもんね。ルドルフさんにまで噛みついてたのは、驚いたけど」


 僕も行く!絶対二人でなんか行かせない!って怒っていたけれど。結局、ルドルフさんに抱えられ 買い出しに連行されていった。あの悲壮感漂う顔を見てたら、なんだかドナドナの子牛を思い浮かべてしまったのだけれど……。


「そんなに 買い出し 嫌だったのかな」

「嫌なのは、そっちじゃないと思うけど」

「え?」

「いや……なんでもない」


 セシル君には、後でお土産でも買ってあげよう。

 それにしても……


「此処って……観光地みたい」


 さっと見渡しただけで、様々な種族の姿が目につく。背の低いずんぐりむっくりとした髭もじゃの男達は、昼間から酒場で陽気に唄っている。その給侍をする背の高い色黒の女性の耳は、尖っていてまるでエルフのよう。角を生やした花売りの少女は、愛らしい顔を綻ばせながら、花冠を奨めてきた。


 体型、色、声。見るもの見るものが、違っていて それでいて 誰もその事を気にかけていない。


 すれ違う際、互いに微笑みあう者がいる程。


「ああ。そうだな。それで合ってるよ」

「えっ?そうなの?」


 ヴォルフの返答に、少しびっくりする。そっか。観光地だから、色んな人が集まってるのか。


「まぁ、ここは 港街でもあるから。ほら、貿易の要。ここからもう少し歩けば、海が見える」


 見に行ってみる?っというヴォルフの提案に、こくんと頷く。


「なら、舟で移動しようか。お嬢さん、お手をどうぞ」


 そう言って、舟橋へと導かれる。


「揺れるから、気をつけて」


 そう言って、二人乗りのゴンドラに先に乗り込んだヴォルフが、私をふわりと抱き上げ 席につく。


「ちょっと……」

「なに?お嬢さん?」


  にこにこと笑うヴォルフの顔を、下から睨み付ける。


「なんで、この態勢なの?」


  二人分のスペースがあるのに……私が座らされてるのは、ヴォルフの膝の上……。


「下ろして。下ろしなさいよ」


 無理に下りようとしたら、ゴンドラが大きく揺れた。


「お客さん。動かないで。海に落ちると面倒だから」


  船頭のおじさんに嗜められる。


「そうそう。じっと座ってなきゃ。おっこちちゃうよ。お嬢さん」


 笑いながら、腰に回した手に力を入れてくる。近い!近すぎる!謀られた!海に行きたいだなんて言うんじゃなかった!


 じと目で睨みあげると


「そんなに、見つめられると困るんだけど。俺も、我慢してるのに」


  嫌、我慢してるの私なんですけど。困ってるの私なんだからね! 色々納得いかないんですけど!!


 ─はぁ、ほんとヴォルフには、振り回されてばかり……


「でも、よかった」


 ヴォルフが、ふいに柔らかな視線を向けてきた。


「お嬢さん。男苦手だったんだろ?この様子じゃ、克服できたみたいで安心した」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ