表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
第一部
11/32

8


  薪をくべ、木に吊るした鍋を火にかける。コトコトと煮込んだイノブタの肉と野菜や雑草?を、手持ちの固形調味料などで味付けしていく。


「うん。いい感じ」


 辺りには美味しそうな匂いが漂う。


「旨そうだな」


 私の肩越しに鍋を見つめ、嬉しそうに目を細めるヴォルフ。


「意外だったな。お嬢さんが料理できるなんて」

「まぁ、大学で独り暮らししてるし……人並みには」

「ダイガク?」

「あっ、なんでもない。料理は、多少できるだけよ。別にプロ並みに上手いってわけじゃないから。期待されても困るからね」


 馴れてきたといっても、やっぱりつっけんどな態度になってしまう。うう。苦手意識はなかなか治らないなぁ。男っというか雄!っという感じのヴォルフに、普通に接する事ができれば、男性恐怖症も解消できそうなのに。


「味見させて」


 そう言ったかと思うと、ヴォルフは後ろから私の手をとり、お玉に口をつけた。


「ん。んまい」


 振り向いた私の至近距離で、ニカっと笑うヴォルフ。体が硬直する。石化させられた。お前はメデューサか!


「お嬢さんの 手料理。俺が一番にいただいちゃった。ご馳走さん」


 そう言って私の手の甲にちゅっと口付けを落とす。

そうして片手をヒラヒラ振り、ルドルフさんの方へと歩いて行った。


 うっわー!やっぱり、無理!無理無理無理!ヴォルフの所作は、初心者にはハードすぎる!心臓に悪いです!!慣れるだなんて馬鹿だった!慣れる訳がない、あんなの!


「何イチャイチャしてんの?僕に見せつけて楽しいわけ?」


 顔に集まる熱を必死に逃がそうとアタフタする私に、声がかかる。不機嫌さを顕にしたセシル君が、ムスッとしながら近づいてきた。


「イチャイチャって……」


 あれはヴォルフが、私を揶揄っているだけで……


「わかってる。別に僕が勝手にムカついただけ」


 ぷいっと横を向き、ほんの少し口を尖らせているセシル君。その横顔が、なんだか可愛いくてふふふ。っと口元が綻ぶ。


「……また、笑ったよね。僕の事」

「えっ。笑ってない。笑ってない。気のせいだよ」


 ヤバイ。バレてる。首を左右に振り、慌てて否定するけど……


「その顔ムカつく」


 っと頬をむにゅっとつままれた。顔がムカつくって言われても。この顔で19年生きてますから……どうしようもないんですけど。


「ほら、ご飯できたんでしょ。用意手伝うから。早くして。ミコトの料理食べさせてよ」


 僕だって、楽しみにしてるんだから。っと不貞腐れるセシル君。その言葉や態度に頬が緩む。 可愛い弟ができたみたいで、なんだか嬉しく感じた。




◇◇◇





「やっぱり、女の子の手料理は、違うねぇ」

「うむ。神子殿の料理か……かたじけない」

「ふーん。悪くないんじゃない」


 そう言って、パクパクと皆が食べてくれる。


「んーんまい。俺って幸せ者だわ。お嬢さん。俺の嫁にこない?」

「体に染み渡るな。栄養のバランスもいい」

「……嫌いじゃない。また作ってよね」


 おかわりもしてくれたので、鍋の中はすぐに空になる。


「また、作らせてもらうね」


 私にできる事、少しでも増やしていきたい。


「うん。今は、無理だけど、そのうちイノブタも捌けるよう……頑張るから!その時は、ご指導どうぞ宜しくお願いします!」


 ペコリと頭を下げる。


「は? いやいや、お嬢さんに獣を捌けとかやらせれるわけないじゃん」

「うむ。その……少々 エグいかと思うぞ」


 私のお願いに、二人は若干……いや、かなり引いている。


「でも、こちらの世界の女性は、狩りの獲物をその場で捌けたりするんですよね? 私もそれくらいできるようになりたい……ううん。ならなくちゃ行けないんです!」


 っと拳を握り、決意を胸にすると


「……馬鹿なの」


 っとセシル君の呆れた声が……。私、何度この台詞聞くんでしょうか。おおう。また セシル君のありがたいご講義の時間ですね。しっかり学ばせていただきます!セシル先生!


「あのね。捌けたりするのは、偏狭の地の女性や魔族の一部だから。一般的な女性は、食材が肉の塊とか綺麗に処理された物を市場や店で購入してるの。ミコトにさっき話たのは、そういう人もいるって事で、常識を話たわけじゃない」


 ああ、そういうのは 私の世界とも一緒なんだ。味付けの調味料とかも、似た名前で同じようなのばかりだったな。味覚も一緒みたいだし。ちょっとホッとした。


「でも、折角異世界に来てるんだもの。うん。普段できない事は、色々やってみたいな」


 っとウキウキしてたら。


「チャレンジャーだねぇ」

「うむ。良い心がけだ」

「……やっぱ、変わってる」


 っと呟かれた。


 変わり者だって?それは、あっちの世界でも良く言われたもんね。


 ええい。変人奇人は、褒め言葉だ! 私は、異世界でも 変わり者としての地位を確立してみせる!




 人の記憶に残る 偉大な神子様にでもなってやるわ!








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ