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ガタリ…



「ん、止まった?」


どうやらウトウトしてしまっていたらしい。

いつの間にか車が止まり、外の騒めきが近く聞こえる。


目的地に着いたのかしら…?


現在地の情報が欲しくて、隙間から外を窺う。

いやに身なりの良さそうな人がこちらに背を向けて立っていた。

その腰元には刀が鈍く光っている。



「お侍さん?」



私の呟きが聞こえたのか、お侍さんがこちらへ向きを変えたのが見えた。

同時に、車の扉が開かれた。

「降りろ。」

声をかけられているのは分かるが、

急に明るくなった視界は真っ白に焼かれ、すぐには動き出せなかった。

「ちょっと待って。」

「ぐずぐずするな。さっさと動け!」


ジジイが髪の毛を引っ張って引き摺り出そうとする。

ちょっと待ってって言ってるのに!

この人たち、髪の毛引っ張りすぎでしょ。

「痛い!歩くから引っ張らないでよ‼︎」



「これは…女子ではないか。」



抗議の声を上げる私の耳に聞きなれない声が飛び込む。

光に慣れ始めた眼をやれば、先ほど見たお侍さんの驚愕の表情が映る。

そしてすぐにその表情は険しいものへと変わっていった。


「おい、貴様らどういうことだ。

我々は女子なぞ求めておらぬ。」


その眼光の鋭さに思わず背筋が伸びる。

それは私を髪の毛を未だに引っ張り続けるジジイも同じようだった。

「い、いえ…その…」

上ずった声でジジイが言い淀む。


どうやら、ジジイが言ってた城下での仕事は男しか勤まらないものらしい。

ということは、私はお役御免?


帰れるかもしれない希望が胸に灯る。

私はじっと2人の成り行きを見守った。


「説明をしてもらおうか。」

お侍さんの重厚感ある口調が、ジジイをじわりと責め立てる。

「あ、あのですな。

た、確かに女子ではあります。ですが、この瞳を見ていただければ納得していただけますでしょう。」

「瞳だと?」


ジジイを射抜いていた眼光がこちらを向く。

上から下、下から上へと私を見た後、ざっざっと早足で近寄ってくる。

そのままの勢いで顎を掴み、眼を合わせられる。


ちょっと乱暴すぎやしませんかね。

庶民だからって、扱いが雑すぎませんか。


私の心の声など露知らず、瞳を覗いたお侍さんは息を飲んだ。

その反応にため息を吐くのを禁じ得なかった。


「藍灰の、瞳。」

「見世物ではないのですが。」


思わず溢れた言葉に、つい言い返してしまう。

幼い頃から、それこそ飽きるくらいに言われ続けられた言葉。


「どうでしょうか、太風たふう様。お気に召していただけましたでしょうか。

確かに女子ではありますが、この際、性別はどうでもいいのではないでしょうか。」


先ほどと打って変わったように堂々とジジイは話す。

太風と呼ばれたお侍さんは難しい顔をしていた。


どうやら、私のこの瞳の色が重要らしい。

ということは、お役御免にはならないのね。



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