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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
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君を倒す

今日でG6完結します!

G6読者の皆様、ありがとうございました!


(よし、また出てきたな)


減速紋章を撃ち込んでプレッシャーを掛け、籠らせない作戦は上手くいったらしい。


(まだ気付かれてない……次で決める)



 広角射撃のからくりを暴かれる前に倒し切る。

 

 黒煙による全身防御を解いて姿を現した漆治を射撃する。


 狙うのは、漆治――と彼の頭上、足元、真横の空間だ。


 銃口から飛び出した弾丸が、思い通りの軌道を描く。


 当然ながら、虚空に向かっていった弾丸が漆治に当たることはない。


 剛羽は球操手のように手を使わずに物体を操ることはできないのだから。


 しかし、


(六段減速(ディスクレスト=セスト)!)


 彼方へと消えるはずだった白色の弾丸が、何もない空間でぴたりと止まる。


 そして空中で停止した弾丸を、走りながら剛羽が狙撃。


 停止中の弾丸の端に当たり、ぐるんとその進路を変える。


 あらぬ方向へ飛んでいくはずだった弾丸の先端が、漆治に向く。


 漆治の周囲で停止していた弾丸が全て、漆治に狙いを付ける。


 これが広角射撃の正体。


 空中で停止する弾丸に弾丸を当てて進路を変更させることで――それら一連の作業を数瞬の間に完遂することで――ターゲットを取り囲むような射撃を可能にする。


 そしてこの広角攻撃が漆治に通用したという事実は、黒煙も漆治主動で動かされていることの裏付けとなる。


 黒煙が自動防御であるならば、意表を突いた広角射撃でも防げるはずだからだ。


 以上のことから、今回剛羽は速さや弾数を重視する多方向時間差射撃ではなく、意表を突く広角射撃を選択した。


 意外性のある攻撃で突破口をつくる。

 

 それが剛羽の狙いなのだ。相手を観て戦い方を変える。これも剛羽の強みだろう。


(あのモクモクの出力と操作は、漆治が管理してる。だから、予測できない攻撃に脆い)


 とはいえ、漆治の予測は正確な上に、黒煙の防御は堅い。


 見破られる前に仕留めるためにも、考える時間を与えてはいけない。


【こうくん、アリスちゃんが城に攻め込んできたよ!】【ッ!?】


 序盤で耀を執拗に追い回したため、かなり消耗していたはずだが……。


【大丈夫です。すぐに行きます】


 一刻も早く援護に行かなければ。


 知らず知らずのうちに焦りが生まれる。


 そしてそれは……。


(悪いが、訳分かんないまま退場してもらうぞ! 三段加速(クレスト=トリプル)!)


 止まっていた銃弾に加速紋章を撃ち込む。


 展開していた白弾丸が、漆治を蜂の巣にするために一斉に動き出す。


 そして、


「オレの勝ちだ、蓮ォ」「なッ……!?」


 多角的に撃ち出された銃弾が全て、完璧に、黒煙に防がれた……!?


 これはつまり――


(コースを読まれた……!?)


 信じられないことに、黒煙を銃弾一つ一つの軌道上に正確に展開されている。


 どこから来るのか、予め分かっていなければできない対応だ。


(もう、バレてたって言うのか!?)


「割れ死ねェ!」「ぁあああああ!!」


 もの凄い速度で振り下ろされる、予想外の反撃。

 

 剛羽は刹那の攻防に個心技をねじ込み、半身になって振り下ろされた大剣を回避する。


《身体同調》中であるため、逃げ遅れた髪先が数本犠牲になっただけでも肝を冷やす。が、剛羽は後退したい気持ちを黙らせ、すぐさま反撃に出た。


 剛羽は地面を叩いた大剣を踏み付けて押さえ、正面から斬り掛かる。


 漆治が大剣を使って攻撃するとき、漆治を包み隠すように滞空している黒煙は攻撃の邪魔をしないように正面がぽっかりと開くのだ。


 戦いの中でその隙に気付いていた剛羽は、黒煙の隙間に小刀を突き入れた。が、


「引っ掛かったなァ」「ッ……!?」


 開いていた隙間が瞬時に閉じ、小刀をがっしりと掴まれてしまう。誘われていた。

 

 剛羽は小刀から手を離し、個心技で加速して後退する。


『蓮ジュニア、漆治選手のカウンターを間一髪――』


『いや、斬られた。影を斬られた』


 再び振り下ろされた漆治の大剣は虚空を斬ったが、剛羽の影には当たっていた……それは《影武者》から一番食らってはいけない攻撃だ。


 瞬間、剛羽と、剛羽の影が分離する。


「……もらったぜ、テメーの影」


 斬り離された影は、大剣の切っ先から吸い上げられ、刀身を伝って漆治の身体に吸収――される前に、剛羽は素早く射撃した。が、間に合わなかった。


 いや、その言い方だと語弊があるだろう。


 剛羽の射撃は斑に展開された黒煙の隙間を突き、確かに漆治に着弾した。


 しかし、漆治にダメージはない。


 なぜなら、撃ち込んだ全ての弾丸が、漆治の全身を覆う黒い騎士甲冑に吸収されたからだ。


「もうテメーの攻撃は通用しねェ」


 勝ち誇った笑みを浮かべる漆治に、剛羽は引きつった笑みで応える。


 その黒い騎士甲冑は、剛羽から斬り取られた影で鍛えられたもの。


 漆治は相手から奪った影で鎧をつくることで、その相手からの攻撃を全て無効にすることができるのだ。


 つまりこの状況で言うなら、対剛羽最強の鎧ということになる。

 

 だから、剛羽は急いで反転した。

 

 最大の失態を犯した剛羽はとにかく逃げる。

 

 加速して逃げる剛羽に、漆治が発射した影が石畳の上を這いながら迫る。が、影は漆治を基点に一五メートル伸びたところでぴたりと停止し、それ以上追って来なくなった。


 一五メートル。それが漆治から伸びる影の最大射程だ。


 剛羽は大通りへと続く裏道を走る。


 ぐねぐねと入り組むこの道であれば、一度引き離せればもう追い付かれない。


(よし、ギリギリ逃げ切――たッ!?)


 と、安堵したのも束の間、剛羽はどこからともなく這ってきた影に足首を絡め取られてしまい、転倒する。

 

 見れば、裏道の右半分――建物の影となっているところに、いくつも斬痕が刻まれていた。


 つまり、この辺一帯の影は既に漆治の配下にあるといことだ。


(ッ、逃走経路を読まれてたか……てか、それより)


 剛羽が驚いているのは、漆治の周到な準備に対してだけではない。


 漆治の個心技が闘王学園にいたときよりも成長している。


(斬った影を遠隔操作したのか……!?)


 最大射程一五メートル。


 しかしそれはあくまで漆治本人の周りに滞留する黒煙のように一度体内に吸収された影の話だ。

 

 影を斬り、吸収せずに放置しておき、取り置いた影の近くを通った獲物をその影で仕留める……影を使った待ち伏せまで可能になったようだ。


「やっぱ手強いな……漆治」


 音もなく現れた元チームメイトに、剛羽は悔しそうな顔を見せる。


「あとは性格がよければ言うことないんだけどな」


「テメーにだけは性格の話されたくねーぜ、元キャプテンさんよォ!!」


(出力加速(クレスト=ブースト)!!)


 漆治は黒煙から伸ばした極太槍を何本も、何度も、剛羽に叩き込む。


 身動きが取れない剛羽はサンドバック状態だ。


 それでも戦死しないのは、剛羽が《心力》を生み出す鎧臓――復体で言うところの《心核》に加速紋章を撃ち込み、一時的に出力を上げて強固な殻楯をつくったからだ。



 即死だけは絶対してなるものかと、剛羽は粘り続ける。


「弱小チームの雑魚たちとつるんでェ! 弱くなっちまったんじゃねーかァ、蓮ォ!」


「俺は……移籍して正解だったってマジで思ってるよ。やっぱ、一緒にやるなら本気のやつとやりたい……お前もそうだろ、漆治?」


「黙れ」


「……お前も、求めるものがあって九十九学園ここに来たんじゃ――ぁッ!?」


「まだ静かになんねーなァ!!」


 漆治はさらに苛烈に槍で攻撃を加える。


 剛羽の殻楯がびきびきとあちこちヒビ割れ始めた。


「ざまーないぜ、女にほだされたカスがァ……聞ーたぜ、シンドーってやつのこと随分気に入ってるらしーなァ。お前のお気に入りって言うから、その女の試合観てみりゃなんのこたぁねー、《心力》だけの女だ」


「違う。あいつは努力できる選手だ」


「あァ? そんなのできて当たり前だろうが」


「……当たり前か」


 剛羽は切なそうに表情を曇らせた。


「確かに、あのチームにいたときはそれが普通だったよな」


「…………」


 あのチーム。


 その言葉に漆治も閉口する。


 剛羽と漆治は闘王学園での中学三年間ずっと同じチームだった。


 同じ目標をもった者同士、切磋琢磨し、充実した日々を送っていた。


 それが普通だと思っていた。


 しかし、誰もが自分たちと同じように、砕球のプロ選手を目指しているわけではない。


 目指す場所が違うなら、達成しようとする熱量も違うだろう。

 

 だから、あのチームと新しいチームとの温度差に戸惑った。

 

 剛羽は我慢できなかった。

 

 向上心のないチームの中で、自分を殺したくなかったから。

 

 そんなとき気付き、救われた。


 あの少女の志の尊さに。


「漆治……お前も、仲間を探しにここに来たんじゃないのか? なら、耀のチームに来いよ。お前が探してるものがあるはずだ」


「こりゃーマジで目がイカレちまったみたいだなァ」


 漆治は心底つまらなそうに言葉を吐く。


「テメー、中学の頃よく言ってたよなァ、合理的じゃねーって。今のテメーのやってることが正にそれだァ。全然合理的じゃねー」


「……ったく、どいつもこいつも話の分からないやつらだぜ」


「そりゃテメーのことだ!」


「お前こそ、聞き分けのない俺のことなんてほっとけよ――」


 剛羽はにやりと笑う。


 悪魔のような、何かを企んでいる笑みでその名を口にする。


「――大亜駆ダーク」「ッ!?」


 大亜駆。その名で呼ばれ、目に見えて動揺する漆治。


 やがて揺らいだ心は絶大なる怒りを発し、漆治を掻き立てる。


「オレをォ……下の名前でェ……呼ぶんじゃねェええええええええええ!!」


 漆治は絶叫しながら、渾身の槍のラッシュを繰り出す。


 漆治大亜駆。彼にとって一番腹が立つことは、下の名前で呼ばれることなのだ。


「大きく……アジアを、駆ける……いい名前じゃないか」


「馬鹿にしてんのかテメー!!」


 思わぬ精神攻撃を受けている漆治だが、決して冷静さだけは失っていない。


 すぐそこまでチーム神動の二人が来ていることはきちんと把握している。


「テメーの狙いはバレてんだよ……三人まとめて飛ばしてやるよ!!」


 漆治は背後から迫る刺客二人を覆い隠すように影を展開し、黒いドーム状の籠に閉じ込める。


 相手はちょっと速いのと、ちょっと堅いだけの選手。


 全方位攻撃で十分に削り切れる……そのはずだった。しかし、


「ふ、勝ったという顔をしているな」


「馬鹿過ぎ」


 奇襲が失敗し、絶対絶命のはずの二人が笑っている。


「馬鹿はテメーらだ。オレに勝てると思ったのか? この」


 それを強がりだと一蹴した漆治だったが、


「カス……ど、も…………が……………………ァ!?」


「…………バレてなかったな」


 瞬間、黒一色の世界が突然開け、裏路地の景色が再び現れる。


 同時に漆治の思考が、行動が停止し、纏った鎧が霧散した。


 そんな漆治が知るはずがないが、このとき剛羽は漆治を減速紋章の有効射程に収めていた。


 影による束縛を破り、自由になった身体で距離を詰めていたのだ。

 

 そう、剛羽は動けなかったわけではなかった。

 

 影に捕らわれたふりをし、漆治の意識が猫夢理たちに向くそのときを虎視耽々と待っていた。


 全ては減速紋章を当てるための演技。


「遠隔操作だとパワーが足りないな。《研磨》で十分切断できる」


 剛羽は手枷の外れた腕を擦りながら呟く。


 漆治は闘王学園にいた頃、影の遠隔操作はできなかった。


 つまり、使い始めてから長くてもまだ二、三ヶ月。


 練度が低くて当然だ。


「漆治……さっきの賭け云々の話だけどさ」


 剛羽は剣帯から小刀を引き抜く。


 そして、


「お前、賭けで勝ったことないんだから、自分からふっかけるのやめたほうがいいぞ」


 ――チーム神動、1得点(内訳:敵選手1人撃破=1点×1)計4点


「でも、約束は約束だからな」


 剛羽は場外に転送された勝率〇のギャンブラーをにやりと笑いながら見送った。

 

 その邪悪な笑みを目撃した侍恩と猫夢理は若干引いたような反応を見せる。


「さあ、至急耀様の元に――ッ!?」


 気を取り直して救援に向かおうとした侍恩は咄嗟に身を引き、振り下ろされた紫爪をかわした。


 襲撃者は言うまでもなく、アリスの執事であるウェイン・ラッシュフォードだ。


 近くにはアリス親衛隊が四名も控えている。


【あいつの腰巾着は、あたしが相手するわ。先行きなさい】


【だな】


 と、剛羽は猫夢理の判断を尊重する。


 全員で突破しようとすれば、それだけ時間を食われる。

 

 また、耀たちの救援に向かうためにも、なるべく戦力を削がれたくない。


 故に、この戦域に割ける戦力は一人がベストだ。


 剛羽が疲弊した今、たった一人でウェインたちと戦えるのは残念ながら猫夢理だけである。

 

 猫夢理は貴重な戦力だが、贅沢を言っている場合ではない。


 それに足の速い猫夢理ならば、ここを切り抜けられればすぐに耀たちのもとに駆け付けられる……合理的な判断だ。が、


【達花、行――】


【僕が残る】


《最弱》が異を唱える。


【ちょちょちょお! 侍恩!?】


【猫夢理殿と蓮が耀様のもとに行く……それが最高の形だろう、蓮?】


【まあ、現実的じゃないけどな】


 でも、と剛羽は一旦間を置き、侍恩をじっと見詰める。


【それは四月のときのお前だったらの話だ……頼めるか?】


【応!!】


 その頼もしい答えに剛羽はにっと笑い、そして侍恩に言葉を掛ける。


 四月の争奪戦のときと同じように。


【達花、お前がここを抑え切れ】


【了解!】


『おおっと! チーム神動、達花選手を一人残して、蓮ジュニアと鵣憧選手が拠点救援に向かいます! チームエイツヴォルフの四人がすかさず追い掛ける』


『無謀だな。普通に考えてそれはない。《最弱》が瞬殺されて蓮たちが挟み撃ちだ』


「タチバナ……今は争奪戦のときと違う。ここには二人しかいないぞ」


 ウェインは殿を務める少年に紫爪を振り下ろす。


「そうさ……だから」


 それを手にした円盾で受け止めた侍恩は、決意に満ちた目で続ける。


「今度は僕が君を倒す」


 リベンジのときがきた。


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