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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
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①脅威の豆鉄砲 ②そう言えば、圧死は体験したことはないですね ③過労死しちゃうって~


(攻撃が止んだ……?)


 黒煙に籠っていた漆治は、黒煙の中から剛羽を探す。


 黒煙に巻かれていても、漆治には外の様子が分かるのだ。


 間もなく、剛羽が黒煙のすぐ近くにいるのを発見した漆治は、


「あッ、ぶねェ!?」


 足元に広がる影の上を滑るようにして大きく後退した……!?


 理由は、一瞬前まで自分がいた位置――自分の心臓部があったところに、円形の紋章が出現したから。


 それは剛羽の相手を減速させる個心技。


 当たってしまったら動きが、思考が止まる。


 思考が止まると言うことは、黒煙が機能しなくなるということだ。


(こっちの位置は分からねーはずなのに、かなり正確に撃ち込んできやがった。マグレにしちゃァいい勘だ、なッ!!)


 減速させる個心技は、対象が近くにいなければ発動できない。


 ならばと、漆治は黒煙から触手を何本も生やして、剛羽を遠ざけようとする。


 しかし、剛羽にとって、触手攻撃は脅威とならなかった。


 後退させることができない。


 触手を次々と切断されてしまう。


 結果、黒煙の中に減速紋章が連続で撃ち込まれた。


(やろー、ボコボコ撃ちまくりやがって……炙り出すつもりかァ?)


 こちらの位置が分からないため勘で撃ってきているのは明白だが、黒煙の中は直径三メートルほどしかないため万が一が恐い。が、本来防御用の黒煙を経由した攻撃では剛羽を守りに入らせることはできない。


 だから、


(上等だァ……叩き潰してやる)


 漆治は黒煙による完全防御を解き、前に出た。


 対する剛羽は、漆治を周回するように走りながら両手の拳銃で応戦する。


「なんだァ、この豆鉄砲はよォ! テメーの狙い通り外出てやったんだァ、あんまりをオレをがっかりさせんじゃねェ!」


 迫り来る白色の弾丸を構えた大剣で易々と退けながら前進。


 全身防御でなくても十分に事足りる。


 やはり攻勢に出て正解だった。


 あとは距離を詰めて叩き潰すのみ!


「……あァ?」


 しかし、その直後に太腿に衝撃が走り、膝が折れる。


(撃たれた、だとォ……!?)


 そう理解したときには、さらに複数の銃弾が様々な角度・方向から飛来し、全身を穿たれた。


 肩、脇腹、太腿、膝と被弾した箇所から、黄色の粒子が散華する。


(やろー、どーやって撃ちやがった!?)


(エイツヴォルフにやった射撃とは、なんかちげーなぁ……)


 剛羽が対アリス戦で見せた多方向時間差射撃は、高速移動と同時に射撃していたからできた芸当だ。


 しかし、今回剛羽は漆治に対して正面から撃っている。


 速度で振り切れず裏を取れないため、正面から撃たされている。


 なのに、どうしてこちらの背後や横、上、下から弾が飛んでくるのか……漆治は怪訝そうに眉をひそめる。

 

 何が起こっているのか分からない。

 疑問はすぐに解消されない。


 しかしあの少年は待ってくれない!


「クソがァ……!!」


 漆治は一旦黒煙で全身を守る。が、こんなに狭い所に引き籠っていては、遠くない内に減速紋章を当てられてしまう。


 しかし、あの射撃の謎を解明せぬまま、攻撃を再開するのは……次の一手に迷う。が、今回は全身防御をして正解だったと言えよう。


(……あァん?)


 刹那の中で、漆治はあることに気付いた。


(発砲した数と当たった数が合わねェ……外したのかァ? この距離で?)


 被弾していないということは、黒煙で全て弾いたはずだ。が、影を通して感じ取れた弾丸の数と、直前の発砲音の数に明確な差がある。


 彼我の間合いは一〇メートルもない。


 加えて黒煙は直径三メートルのドーム状に展開されるかなり大きい的だ。

 

 これだけの条件で外すということはあの少年の射撃の腕は素人レベルと言っても差支えないが、あの少年がそんな練度のものを実戦で使うはずがない。それに、


(てか、蓮のやろー、なんで走りながら撃ってんだァ?)


 何か、あるのだろうか……?


 一連の不可解な事象を解明すべく、漆治は影の外に視線を巡らし……「それら」に気付いた。





 フィールド東端。拠点、城にて。


 罠の設置作業をしていた耀たちは、突如激震に見舞われた。


 笑銃は首にぶら下げていたゴーグルを掛け、物見矢倉から外の様子を窺う。


「……ッ、りでるとかずきだ! 大砲撃ってる! にゃろう、負けてられるか!」


「しょー先輩、馬鹿な真似はよしこちゃんっすよ!!」


「くぅ~」と、無駄撃ちを止められた笑銃が悔しそうに地面を踏んだ。


 その間も砲撃は続く。


 やがて耀たちのいる部屋の天井から細かい砂がさーっと降ってきて、城が崩れ始めていることを告げる。


「このままじゃ、てこたちぺちゃんこっすよ!?」「下敷きはイヤ~!!」「最早此れまでか」「そう言えば、圧死は体験したことはないですね、是非!」


「是非じゃないよ、作家さくやちゃん!? こうなったらわたしが!」


「いや、ひかりが出てったらあかんやろ」


 そう耀を制した笑銃が、ガチャっと突撃銃を肩に担ぐ。


「うちが行くで」





 城を囲むように広がる雑木林エリアにて。


「リデル、シズカさん、まだ行けマスか?」


「無理無理、過労死しちゃうって~……」


「は、はいぃ……」


 アリスの問い掛けに、リデルはぺたんと地面に腰を下ろし、閑花は汗をボタボタと垂らしながら頷く。


 リデルも閑花も、今日は自分で自分を褒めてあげたくなるくらい働いていた。


 リデルは主への忠誠心と倦怠感の狭間に揺れ、長い葛藤の末にようやく働き始めたが、閑花の場合は九十九学園に編入してきたあの少年に触発されたからだろう。


 あの少年が練習態度の悪いチームメイトを怒鳴り付けたとき、閑花はゴツンと頭を殴られたような気分だった。


 中だるみを許容していた。仕方ないと思っていた……このままじゃいけないと思った。


 だから今、閑花は全力を尽くすのだ。


 九十九学園に流れ込んできた風をより大きなものにするために。


「エイツヴォルフさんは回復に努めてください。エイツヴォルフさんが潰れたら、このチームは勝てません。その分、わたしが撃ちます……リデルさん、休憩終わりです」


「ぎくっ……カンちゃん、ニートに厳しいよ~」


 アリスは試合開始後すぐの攻防で、かなり疲弊している。


 回復にはそれなりの時間が必要だろう。


 それまでは自分とリデルが攻城役をこなさねばと、閑花が気を引き締め直したそのとき。


 フィールド中央で待機していたウェインたち親衛隊から通信が。


【おヒメ、オクヅキ隊が全滅しました。セキショウと《最弱》はマシロと合流する模様】


【姫、漆治くんが押され気味です】


【援護に行ったほうがよろしいのでは?】


【姫様! その任、是非この御前巴に!】


【いーえ! この御前美月にお任せくださいまし!】


 城の真反対で繰り広げられている戦いに加勢したいと、次々と名乗りを上げる。


 誰もが戦況をきちんと理解している。


《速度合成》を孤立させるのは、この試合において最重要ミッションだ。が、


【ツツジくんのことは放って置いて結構デスわ。マシロくんたちを引き付けてくれるだけで彼は役割を果たしてマス……というか、援護に行こうものなら、プライドを傷付けられたとへそを曲げてしまいマスわよ。最悪、逆上して斬り捨てられるかもしれないデスわ】


【まあ!】【なんて野蛮な!】【淫獣ですわ!】【とんだ不埒者ですわ!】


【アリス様! 守矢さん、来ます!】


 と、今度は拠点に引き籠っていたチーム神動にも動きがあった。


「砲台を抑えに来マシたわね……デシたら」


 アリスはすぐさま親衛隊に指示を出す。


「シズカさん、城攻めするふりをしてモリヤさんを引き付けてください――名付けてフリフリ作戦デスわ! 残りの方はシズカさんの護衛を」


「「「了解ですわ!」」」

「はーい」


「……え? は、はい!」


 いまいちアリスたちのノリに付いていけない閑花だけが歯切れ悪く応える。


【ウェイン、あなたたちはそのまま待機デスわ】


【ツツジは放置していいという話では?】


【そうよ。だから、マシロくんとツツジくんの決着が付くまでは何もしなくて結構デスわ。仮にマシロくんたちが勝ったら、マシロくんかセキショウさんを足止めなさい】


【仮にマシロたちが全員で突破しにきた場合は……?】


【その展開はあり得ませんわ】


 チームメイトたちを安心させるように、アリスは自信満々に言ってのける。


【そんな余裕、このワタクシが与えませんもの】


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