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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
37/49

超えてみろ!


(あいつら、順調だな)


 建物の屋上で膝射していた剛羽は、いい位置まで上がってきた耀と侍恩をちらりと見て笑みを噛み殺す。


 剛羽もこのサバイバル走にスナイパー側で参戦しているのだ。


負けていられないと、一位狙いの剛羽も果敢にランナーを狙う。


 間もなく、耀と侍恩が遂に先頭に追い付いた。


 第四集団からトップ争いに名乗りを上げた選手二人に観客たちがざわめき出し、やがて声援に変わる。


 出来過ぎだが、マグレというわけではない。

 

 躍進の要因の一つは、二人が協調していることだろう。

 

 狙撃を一手に引き受け、伴走する味方をサポートする盾役を二人でローテーションすることで、速力を落とさず、《心力》の消耗も少なく走ることができている。

 

 耀はその強力な膜楯で銃弾を弾き、侍恩は鋭い勘を活かして狙撃されるより一瞬速く態勢を整えて堅い盾で凌ぐ。


 二人とも己の武器ちょうしょを存分に発揮し、盾役を見事にこなしている。


 そしてもう一つの要因は、スローペースな展開であること。


 スナイパーたちの腕の良さが、先頭集団の延いてはランナー全体の足を鈍らせ、今のレース展開に大いに影響を与えているのだ。


 特に彩玉四強の一つ、聖マドレーヌの狙撃手が有力選手を次々と撃破するほど好調なため、ランナーたちはコース上にある車などの遮蔽物を利用せざるをえず、最短コースで走れない。


 その結果、集団の速力が落ちているのだ。

 

 耀たちにとっては願ってもない展開。


 転身系の選手がゆっくり走ってくれれば、耀たちでも十分戦える。

 

 間もなく、シューティングエリアを抜け、生き残ったランナーたちは再びスプリントエリアに入った。

 

 次に備えて力を蓄える者、集団に付いていくだけで精一杯の者、緊張の糸が切れた途端落伍する者、周りと距離を置いて好機を窺う者……銃弾の嵐から解放されても、ランナーたちの戦いは終わらない。


 気力体力《心力》を総動員し、振り絞り、先を争う。


 そうして迸る闘気に、観客たちのボルテージもぐんぐん上がっていく。


 五〇〇人近くいたランナーのうち半分が脱落し、レースも残すところあと三エリア。


 勝負を分けるのは第四エリア、最後のシューティングエリアだ。


 耀たち先頭集団が鎬を削る一方で、次の狙撃ポイントに移動するため、剛羽は屋上から屋上へと跳び移っていく。


 ランナーが来る前に、少しでもいい狙撃ポジションを確保しなければ。


 他のスナイパーたちを追い抜かし、一旦地上に降下する。そして――


 剛羽がコース左手にある建物の屋上に伏臥し、狙撃する態勢を整えて間もなく。


 アスファルトを叩く無数の足音とともに、最終コーナーを曲がったランナーたちが姿を現した。




(残り一キロ!)


 最後は直線、一本道。

 走破するのに約一分。

 いや、ここで一気にギアを上げるランナーたちならば、その半分もかからない!


 ゴール前スプリントを仕掛けるランナーたち――主に荒晚付属の選手たちの、活力溢れる雄叫びが次々と上がる。


 レース初参加の耀と侍恩は、その闘気にぶるっと身震いした。


 殴る。蹴る。斬る。撃つ……そんな明らかな攻撃行為はなくとも、ここは戦場なのだと思い知らされる。


 他のランナーの激しい息遣い。

 必死の形相。

 肉と肉がぶつかり合って起こる、乾いた音。


 身体と心を削り合い、誰よりも速く、己の身体をゴールラインに叩き込む。


 耀と侍恩も顔を歪め、経験したことのないくらい重くなった足に無理を強いる。


 隣を走る仲間がいる。それだけで、まだ頑張れる。


 しかし、ここはシューティングエリア。


 ランナーたちは一方的に狩られる餌だ。


【耀様、来ます!】


 侍恩が相変わらずの冴えを発揮して警告する。


【右からだよね! 見えてるよ!】


【いいえ、左からもです!】


【ッ、両側から!?】


 そう、第四エリアのシューティングエリアは第二のときと違い、スナイパーはコースの両側から撃てるのだ。


 コース両側にある建物の屋上やコース脇の地上から、スナイパーたちが発砲。


 ランナーたちに緑色の弾丸が殺到し、次々と蜂の巣ができあがる。


 耀と侍恩も例によって激しい銃撃に晒され、《心力》をガリガリと削られてしまう。


 今までは盾役をローテーションすることで消耗を抑えられていたが、もうその戦法は使えない。


 レース後半で《心力》の残量、精度が低下していることも、状況悪化に拍車をかけた。


 このままでは、耀も侍恩も撃ち砕かれてしまう。


 もう、出し惜しみをしている場合ではない。


「しおん、掴まって!」「ッ、はい!」


 耀は尾部に噴射口を備えた箒を錬成し、侍恩を乗せて加速する。


 ここまで温存してきた伝家の宝刀を抜き、一気にトップに躍り出る。

 

 しかし、出る杭は打たれるもの。


 自動二輪や車ほどではないが、耀たちはいい的だ。


「こら貴様ら! 耀様に発砲するとは何事だ、無礼も――ひょえええええ!?」


 頭上を、背後を抜け、ときに身体を擦過する銃弾に絶叫する侍恩。


 このままでは撃墜されてしまう。


 自分が降りることで少しでも軽量化し、主を一メートルでも前に進ませるべきだ。と、判断した侍恩は、すぐさま進言する。


「耀様、僕を降ろして――」


「しおん、伏せて!」


 しかし、耀には侍恩を切り捨てるつもりなど毛頭ない。どころか、


「トラック投げるから!」


 この状況でも次のアクションを考え、実行した。


 耀は付近に設置されていた廃トラックを操作し、殺到する銃弾に向かって投げ飛ばした。


 障害物を使っての防御。

 球操手ならではの方法だ。


 宙を舞う廃トラックは見る見る削られながらも、銃弾の一群を受け切ってから爆発。

 

 耀と侍恩は爆発で発生した黒煙に巻かれ、姿をくらませる。

 

 スナイパーたちは黒煙のカーテンに隠れる標的をめちゃくちゃに撃ちまくるが、脱落したランナーが転送されるエフェクト――小規模な爆発は起きない。

 

 ようやく、煙を活かして距離を稼いだ耀と侍恩が姿を現す。


 再び、二人に銃弾が集められる。


「しおん、飛び降りるよ!」


「り、了解です!」


 間もなく箒が直撃を受け、その速力がガクンと落ちてしまった。


 二人は炎上する箒を蹴って前方に跳び、着地した勢いそのままに前転し、駆け出す。

 

 シューティングエリアを抜けるまで、あと二〇〇メートルもない。

 

 耀たちを狙っていたスナイパーたちは逃げ切られると判断し、標的を切り替える。

 

 そんな中、先頭を走る二人に照準を合わせるチャレンジャーが一人――剛羽だ。


「超えてみろ!」


 まだまだ長距離スナイプの精度は低いが、上手く狙いを付けられた。

 

 白色の弾丸は耀の下腿に吸い込まれていき、


「……避けるんかい」


 まるでハードルでも跳び越えるような華麗なフォームで、耀は剛羽の狙撃を難なくかわしてみせる。侍恩のサポートもあったのだろう。


 しかし、チャレンジャーはもう一人いた。


 ジャンプしたその瞬間を狙って、耀にすっとレティクルが合わせられる。


 合わせたのは聖マドレーヌ女学院の狙撃手。

 

 ここまで耀たちをまったく意識していなかった彼女だが、トップに躍り出た二人組に興味を覚え、照準を合わせる。

 

 時間にして一秒。

 それだけで、彼女にとっては十分だ。

 

 一秒間。たったそれだけの間でも標的をレティクルに捉えられれば、相手を必殺できるのだ。

 

 それが彼女の個心技。

 このサバイバル走スナイパー部門、ダントツ一位の所以である。


 他校の有力選手を何十人も屠ってきた必殺の弾丸が、耀に吸い込まれる。


 そして肩から入射した緑色の弾丸が心臓部を貫いて、耀の復体を爆砕。


「……え?」


 そうなるはずだった。が、


「しおん!?」


 心臓部を射抜かれたのは、直前まで耀の前を走り、風避けになっていた侍恩だ。


「耀……さ、ま」


 ぽっかりと開いた胸から《心素》を撒き散らす侍恩は、最後の力を振り絞り、主の背中を力一杯押す。

 シューティングエリアから押し出すために。


「い、一位を……獲って……くだ、さい!」


 そして、戦死を告げる爆発エフェクト。


 耀はその光景に目を見開き、次の瞬間には溢れた涙を拭い去り、


「うん!」


 コース外に転送された盟友に逞しく答え、全速力で走り出す。


「……次は撃ち抜くよ、八八番さん」


 一方、狙いをずらされた聖マドレーヌの少女は、好敵手との遭遇に不敵な笑みを浮かべ、次なる標的に狙撃を開始した。


「……っ……はぁ……はぁ……はぁ」


 大歓声を一身に浴びる耀は、経験したことのない心地よさと興奮を感じていた。


 自分は今、一番前を走っている……!!


 ゴールまで、残り三〇〇メートルを切った。


 ここから先はスプリント区間のみ。

 狙撃を警戒する必要はない。


 目一杯、走るだけだ。耀は侍恩の思いも乗せて、ゴールテープを目指す。が、背後から追い縋る気配に、ぞわっと悪寒を覚える。

 

 もの凄い勢いで、しかしまるで猫のように軽やか且つ静かな足音で、誰かが来る。

 

 果たして、一位の耀に追い付いたのは――


(ねむりちゃん!?)


聖マドレーヌ女学院の狙撃手……もっと書きたいぃ

この子の、この子のチームの話書きたいなぁ~

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