タイヤ少女
4月1日。
始まりの季節。
山頂の寮を目指して緩やかなけもの道を登っていた少年――蓮剛羽は轟音とともに発生した大地の震動に、慌てて近くの木に手を付いた。
「た、助けてくださぁ~い!」
すると、どこからともなく、可愛らしい少女の声が耳に滑り込んでくる。
剛羽は混乱しながらも、その声の主を探し……剛羽の視線は「それ」に釘付けになった。
茶色のポニーテールを揺らしながら、山頂方向から駆け下りてくる少女に……ではなく、その背中に猛然と迫る禍々しい漆黒に。
その圧倒的な存在感に、びくっと一瞬身が竦む。
果たして、今まさに少女の呑み込もうとしている暗黒の正体は――
(デカ過ぎだろ……!?)
車用ゴム輪。通称タイヤだった。
しかし、黒色の輪型護謨はとにかくでかい。
特注品なのか、直径五メートルは優に超えるサイズである。
また、立っていられないほど地面を震わせていることから、相当な重量だと窺える。
変身していればともかく、生身で轢かれれば命を落としかねない。
(0.03……0.02……0.01)
剛羽は胸中で珍妙なカウントダウンを始める。
そして、カウントが0.00になった瞬間。ぴたり、と。爆走していた黒車輪が、完全に停止した。
まるで何かでがっちりと固定されたかのように……!?
間もなく、剛羽によってタイヤは横倒しにされ、事態は無事収拾するのであった。