表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
19/49

超えられない壁


「あの、蓮さん……」


 争奪戦の対策を練っていたときのこと。


 耀が緊張した様子で、しかしはっきりとした意思をもって口を開く。


「わたし、エイツヴォルフさんと戦いたいです!」


「ダメだ」


「あうっ……ダメですか」


 にべもなく断られ、しゅんと肩を落とす耀。

 

 隣の侍恩は黙って見守っている。

 

 見かねた剛羽は「急になんだよ?」と真意を訊ねた。

 

 まだ付き合いは短いが、耀が対戦相手に拘るのは意外だ。


「わたし、前にエイツヴォルフさんと試合をしたことがあるんですけど、そのときけちょんけちょんにやられて……」


「リベンジしたいってわけか」


 耀はこくりと小さく、恥ずかしそうに頷く。


 可愛い顔をして中々負けず嫌いなところがある。


 それは選手として大切なものだ。


「でも、エイツヴォルフと戦ったことあるなら、あいつの個心技は知ってるだろ?」


「はい……すごかったです」


「真っ向勝負じゃまず勝てない……けど、最初の一発だけならエイツヴォルフに届くかもしれない」


「え?」


 俯いていた耀が顔を上げる。


「だって、あいつは神動が《心力》使いこなせるようになったこと知らないからな」


「あ、確かにそうですね」


「相手がこっちのことを知らないのは大きなアドバンテージだ。だったらそれを活かそうとするのは合理的な判断だ」


「そ、それって……」


 顔を輝かし始めた耀に、剛羽はうんと頷く。


「初撃で仕留めるって条件なら闘っていいぞ」


「ッ! はい、ありがとうございます!」





 フィールド北部。拠点「クフ」内の最深部、王の間にて。


『フィールド北側にある三大拠点「クフ」では、チーム神動の神動選手とチームエイツヴォルフのエイツヴォルフ選手が睨み合う! 神動隊長は味方が来るまで凌ぎたい!』


『それはエイツヴォルフも分かってる。速攻で落とすだろ……動くぞ』


「あまり時間がないので、面済でいきマスわ!」「?」


【【それ誤用!】】


 アリスは自身の頭上に槍を何本も現出させる。


 それら1本1本に付与されているのは《心力》無力化の個心技《絶破》。

 

 この《絶破》で強化された槍の前では、《心力》の盾は紙切れ同然だ。


(球が見当たりマセんわね……? でも)


「面済デスわ!」


 滞空していた金色の槍が発射され、光の尾を引いて一斉に耀に襲い掛かる。


 

 

 対する、耀は彼我の間にある大小無数の立方体を盾にしながら、逃げ回る。

 

 立方体には触れると爆発したり、触れたものを取り込んだりする効果が付与されているが、アリスの個心技に完全に無効化されているようだ。

 

 自然、障害物を突破した金色の槍が、次から次へとこちらに向かって飛んでくる。が、


『神動選手! サーカス団員顔負けの身体能力で避けまくっています! バック転側転宙返りなんてお手の物! エイツヴォルフ選手の攻撃は虚しく空を切るばかり! すごい、すごいぞ!』


『エイツヴォルフ、調子悪いな。今日の弾幕は随分薄い』


『もう! 九十九先輩、空気読んで解説してくださいよお!』


『……解説は中立であるべき』


『ここにもいた!?』『たまにはいいこと言うじゃん』


 ジャイアントキリングを期待しているのか。


 耀を応援する観客の声が益々大きくなっていく。


 飛び抜けた身体能力を発揮するポニーテールの少女は、ただ避けているだけでも観客を喜ばせるのだ。




 一方で。


「……何も知らない方は、気楽なものデスわね」


 ボルテージが上がっていく観客席に、アリスは冷めた感想を呟く。


 そして一方的に攻撃しながら、冷静に耀を観察する。


(球はあの腰のポーチの中デスわね)


 乱立していた立方体もほとんど破壊した。

 

 もう逃げも隠れもできない。


「これで終わりデスわ!」


 アリスは、耀に対して槍を180度展開して発射した。が、


「ッ、消えた!?」


 時速500キロ以上で放たれた槍は空を裂き、床に突き刺さった。

 

 目を疑うような光景に、アリスははっと息を呑む。


「これは――テレポート!」


 アリスの左肩に強烈な衝撃が走った。





 試合終了まで残り3分。

 

 フィールド南部、森林地帯。

 

 猫夢理は1人で3人を相手取りながらも優勢を保っていた。

 

 猫夢理と相対するチームエイツヴォルフの選手3人は、ダメージが積み重なって戦死寸前である。

 

 しかし、もう1分もあれば全員倒せると猫夢理が見通したところで、相手の立ち回りに変化が。


(逃げてく……? 味方と合流するつもり?)


 猫夢理は自身をマークするチームエイツヴォルフの選手たちがフィールド中央に向かって後退していることに気付く。


 先程までは猫夢理をこの場に釘付けにしようと張り付いて絶え間なく攻撃してきていたが、今は猫夢理から離れようとしている。


【操子、中央で何かあった?】


 眼前の3選手がここまで自分をマークしていたのは、味方の援護に行かせないため。


 そして、フィールド中央の乱戦でウェインたちに点を取らせるためだ。


【ウェイン先輩が足を負傷しました】


【え、誰にやられたの?】


【達花先輩みたいです。今二人は交戦中です】


【……じゃあ、なんでこいつら、ウェインの方に?】


 ウェインが万全の状態ならともかく、猫夢理を負傷したウェインのもとに連れて行ってしまうのはウェインを落としてくださいと言う様なものだ。


 故に、可能な限り猫夢理をこの場で食い止めたいはず。


 と考えたところで、猫夢理は気付いた。


 枝の上からこちらの様子を窺っている少年の存在に。


 そしてアリスのチームメイトたちが後退していた理由に。


「……奥突」


「ですぜ」


 猫夢理は腰に提げた袋に意識を傾ける。


 中に入っているのは笑銃が守り抜いたチーム鵣憧の球だ。


(球守りながら奥突と戦うのはめんどいわ……ちっ、ムカつく)


 乱戦になると奥突は消える。


 それでも転身系の猫夢理であれば、自分の身を守ることはそんなに難しくない。が、球を狙われた場合は万が一が恐い。

 

 死にかけのアリスのチームメイトたちをさっさと片付けたいところだが、奥突が潜んでいる状況で誰かに踏み込んで攻撃するのはリスクが高い。

 

 ならばまず奥突を落とせばいいわけだが……。


(勇美が護衛してるわけね)


 オペレーターから送られてきた情報に、猫夢理はちっと苛立たしげに舌打ちする。


「……とことん足止めするつもりってわけ」





 フィールド北部。拠点「クフ」内部にて。

 

 この戦闘でアリスが初めて見せた、わずか一瞬の隙。


 その隙を、耀が果敢に突く。

 

 耀は足元の転位点を踏んでアリスの背後にある転移点に飛び、錬成したステッキを振り抜いた。

 

 目の覚めるような鋭い踏み込みからの一撃。


 逃げに徹しているように見せながら、耀は虎視耽々と反撃の機会を窺っていたのだ。


 だからこそ、準備していたからこそ為せる、滑らかな動き出し。


 一歩目の、出足の速さ。


 キラキラと光る紅星を引きながらフルスイングされたステッキは、アリスの左肩を打ち砕く。


「アナタ、《心力》を使いこなして……!?」


「まだです!」


【耀ちゃん、それ以上は!】


 驚愕するアリスに、耀が一気に畳みかける。


 もはや優那の制止など耳に入っていない。


『すごいぞ、神動選手! エイツヴォルフ選手を押し込んでいる! 波乱を巻き起こせるかぁ!?』


『そんなに甘くないだろ』


「てやぁあああああ!」


 フィールドのあちこちに設置された転送点を駆使し、耀は間髪入れずにアリスに襲い掛かる。


 ステッキがアリスの個心技で壊されても、すぐに錬成し直して攻め続ける。


 剛羽との練習の成果を、思う存分発揮する。


 あとちょっと! 

 もう一息! 

 届け、届け、届け!


 観客を熱くさせ、魅了し、声援を味方に付け、耀はアリスを一方的に攻め立てていく。




(身体能力も《心力》も前に戦ったときと比べ物にならないくらい、レベルアップしマシたわね)


 防戦一方のアリスは、四方八方から繰り出す耀を素直に称賛する。

 

 拠点内部のギミックの一つである転移点を使った奇襲。

 本来ありえない単騎での拠点攻略によるアリスの疲労。


 これら二点が耀有利の主要因であることは間違いないが、それ即ち、耀の実力が全くないということにはならない。


 まだまだ荒削りだが、この調子で成長していくと思うと末恐ろしい。


(だからこそ)


 アリスはすっと目を細める。


(……やはり、摘まなければいけマセんわね)


「ヒカ……シンドウさん、一つ忠告しておきマスわ」


 アリスは耀が目の前から消えるかどうかのタイミングで視線を切り、自分の右横を見る。


 右横の床を見る。


 そこに耀が飛ぶことを知っているから……!!


「テレポートは――相手の不意を突くから意味があるんデスのよ」「ッ!?」


 瞬間、耀のテレポートした先に何本もの槍が撃ち込まれた。


 耀は咄嗟に腰のポーチに入れていた犬球を操作して身を守ろうとしたが、犬球を貫通してきた槍に四肢を穿たれる。


 ――チームエイツヴォルフ、4得点(内訳:敵球2個破壊=2点×2)合計6点


【お見事です】【流石、姫様~】


 たったのワンプレーで形勢は逆転。


 勝敗は、決した。


 敗因は初撃で仕留められなかったこと、必要以上に踏み込んだことだ。


「何度も見せてもらえば、どこに仕掛けてあるか分かりマスわ。どこに仕掛けてあるか分かれば、自然、どこに飛ぶのか予測できマスのよ……さて、と」


 アリスは金茶の髪をぱさぁと靡かせる。


「終わりにしマスわよ」


「まだ、です……」


「いいえ、これで終わりデスわよ、シンドウさん。ワタクシには絶対勝てマセんわ」


「そ、そんなこと……あきらめなければ、きっと」


 地べたに這いつくばる耀に、アリスは毅然とした態度を装って言葉を掛ける。


 意図的に、少女の心を折りにいく。


「もう高校生なのデスから、気付いているはずデスわ。どんな分野にも、努力だけでは越えられない壁というものがありマスの。シンドウさんにとって、ワタクシがその壁デスわ」


「越えられない、壁…………う……ぅう!!」


 一方、耀は言葉にならない声を漏らして立ち上がり、何かを握り締めてアリスに突進していき、槍に貫かれて盛大に爆発した……!?


 ――チームエイツヴォルフ、1得点(内訳:敵選手1人撃破=1点×1)合計7点


 派手な爆発の正体は、選手退場を告げるエフェクトと耀の携帯していた手榴弾だ。


「それは無謀というのデスわ」


 こちらを道連れにするつもりだったのだろう。

 

 アリスはやや離れた床に置かれたチーム神動の残り1個の犬球に狙いを定める。


 球を全て破壊すれば、チーム神動を得点数に関わらず敗北させることができる。

 

 しかし、槍を錬成しようとイメージしたところで、アリスは咄嗟に身を守った。


 ――チーム神動、2得点(内訳:敵球1個破壊=2点×1)合計5点


 鋭い斬撃。


 一介の選手の為せる技ではない。


「……1個、壊し損ねたか」


 刹那の中で、アリスは急襲してきた選手を断定する。


 わざわざ目で確かめるまでもない。


 そう、敵は間違いなく――


「……マシロくん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ