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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
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今どきの言葉デスのね!


 フィールド中央、南寄り。

 チームエイツヴォルフの女子選手3人に抑え込まれていた猫夢理の猫耳が、遠くで発生した選手退場を告げる爆発音を捉える。


【誰?】


【守矢先輩です】


【あ~、奥突にやられた~】


【笑銃、ごめん。行けなかった】


【ほんとっすよ! ねこ先輩にはもっとしっかり――あなや!?】


【うちらのことは気にせんでええから、あと任せたで、ねこ!】


【鵣憧先輩、守矢先輩のバイクが近くまで来てます。球もそこにあります】


 間もなく、猫夢理は球状に展開された緑色の殻楯に包まれているバイクを視界に収める。


 支援手を多く抱えるチーム編成のため、普段以上に狙い撃ちにされてしまった。


 この作戦を立案したあの少年はさぞ鼻が高いだろう。


「……今に見てなさい。このままじゃ終わらせないわよ」


 猫耳の少女の呟きが不穏に響いた。





 フィールド北部。


 遺跡エリアの中でも難攻不落とされるピラミッド型の拠点「クフ」内部にて。


「えっと、この次は……?」


 耀は一定の間隔で設けられた筐体にあるスタートボタンを押しながら、進んでいた。


 それらは拠点に予め備わっているトラップ起動装置だ。


 この装置のおかげで、自らトラップを作り出す・強化する支援手がいなくても、それなりのトラップを張り巡らすことができる。


 耀が今いる大型の拠点ともなれば、仕掛けられたトラップも強力だ。


 そう、例えば――


【耀ちゃん、上!】


「え……ひいッ!?」


 学生には真似できないほど強固に練り上げられた針をもつ吊り天井だったり。


【耀ちゃん、その部屋は!】


「わぁあああああ!?」


 侵入者を黒コゲにする、赤型の爆弾だったり。


【耀ちゃ~ん!?】


「きゃあああああ!?」


 触れられると溶かされる緑色蝙蝠の大群に襲われたりする。


【た、たいへん! 耀ちゃん、大丈夫!?】


【はぁはぁはぁ……大丈夫、れふ】


 自ら起動させたトラップを引っ掛けまくる耀は、まだ一度も戦っていないのにボロボロだ。


 今日のために卸した本人曰く一張羅のチア衣装は、爆弾や蝙蝠のせいで用を為さなくなっている……直載に言うと、肌が露出している。


【ゆ、優那先輩、ご迷惑お掛けしてすみません……】


【ううん、全然迷惑じゃないよ! 私は耀ちゃんのオペレーターなんだから!】


【わたし、今まで拠点に辿り着いたことなくて、いつもその前に落とされて……拠点さんってこんなに厳しい人なんですね】


【そうだよね、ちょっと厳し過ぎるよね! もう少し優しくしてくれないと、みんなから嫌われちゃうよ!】


 めそめそと泣く耀と、うんうんと頷きながら手をぶんぶんと振る優那。


 2人は至って真面目に会話しているが、普通の人間が聞けば己が正気か疑ってしまうだろう。


 それくらいへんてこりんな、失礼を承知で言うとどうかしているやり取りだ。


【……ぅう】


【え、どうしたの!? どこか痛い、大丈夫!?】


【心が……癒されて……】


【え、えと、えと……じゃあ、癒さないようにすれば……】


【優那先輩】


【なに、耀ちゃん?】


【そのままでいてください。そうすれば元気になります】


【うん、分かった!】


 耀は何とか立ち直り、トラップの起動作業を再開した。





【シンドウさんがカメラに映ってない?】


 アリスは索敵報告に首を傾げる。


 カメラとは、オペレーターが球操手のように操るカメラ付きの球のことだ。


 この監視球をフィールド各所に展開することで、どこに誰がいるのかなどの情報を得る。


 監視球の展開力の速さ・どこを監視するかが情報量――延いてはチームの勝敗に直結するため、オペレーターに優秀な球操手を置くチームも多い。


【いいえ、絶対にシンドウさんは拠点にいるはずデスわ】


 アリスは確信をもってそう告げる。


 試合開始前にフィールドは遺跡エリアだとアナウンスされた時点で、アリスにはチーム神動の狙いが分かっていた。


 チーム鵣憧に注意を向けさせる間に、チーム神動は球操手を安全に拠点に送るつもりなのだと。


 だからこうして球操手である自分が、単独で潜伏していそうな拠点を潰して回っているのだが……。


【目ぼしい拠点の周りにカメラを展開させたのデスよね?】


【はい、ですが……】


【シンドウさんは走って移動しているはずデスわ。チームメイトにライダーの方はいないのデスから】


【もしかしたら、大型の拠点に立て籠もっているのかもしれません。まだ回ってない大型拠点は……】


【ここが最後デスわ】


 アリスは目の前に屹立するピラミッド型の拠点「クフ」を見上げる。


 耀が隠れているとしたら、十中八九ここだろう。


 他の小さい拠点では、チーム鵣憧ならともかく、耀では逃げ切れない。


【それでは、これから入りマスわ。拠点の出入り口から目を離さないように】


【あの、アリス様……速報です】


【どうかしマシたの?】


【リん……リデルさんがゴールインしました】


【あら】


【ごめんね~、お姫様】


【いいんデスのよ、リデル。ゆっくり休んでいなさい。ワタクシの方はすぐに片付きマスから】


【面済だね】


【リん、それは――】


【何デスの、それ?】


【めんどいからちゃっちゃと済ませる】


【あら素敵! 今どきの言葉デスのね!】


【…………あ~、アリス様がまたお馬鹿にぃ】


 また一つ吹き込まれた……ではなく勉強したアリスは「さて」と気持ちをすっと切り替える。

 

 楽しそうな雰囲気が一転、彼女の全身から金色の闘気が溢れ出す。


 それはアリスティナ=エイツヴォルフを王と証明する異型。


 代々受け継がれてきた民草を導く力だ。


【それでは行ってきマスわ】


 一つ息を吐いたアリスは、入口に足を踏み入れた。





【リデル! 竜胆を引き剥がして、おヒメの援護に行け!】


 剛羽に突破を許したウェインは、すぐさま妹のリデルにそう命令する。が、


【ゴールインしたから無理~】


【馬鹿野郎、何してんだ!】


【こわっ。試合中に怒鳴るとかないわー。マジやる気なくなるんですけど】


【やる気がないのはいつもの――】


【てか、ウェン兄だってさー、《最弱》相手にやらかしてんじゃん。他人のこと言えなくない?】


【…………】


【竜胆ちゃん、そっち行くかもだからよろしく~】


【……了解】


 ウェインは苛立たしげに通信を切り、爪が皮膚に食い込むほど強く拳を握り締め、押し黙る。


 妹の言う通りだ。


 誰よりも他人を怒る資格がないのはウェイン自身だ。


 後でいつでも獲れると思っていた。

 意識すらしていなかった。


 その結果、主に迫る剛羽まのてを抑えるための足を潰されてしまった。


「……タチバナ」


 ウェインはこの状況を作り出した眼前の少年を憎々しげに見やった。


『達花選手のブロックが上手く決まった! チーム神動、蓮ジュニアの発射に成功だあ!』


緑型ビルダーは便利だよな。守矢がしたみたいにバイクに殻楯付けたまんま走らせたり、1人じゃ何もできない雑魚に武器持たせたりできるからな』


『え、えっと~……足を負傷したウェイン選手はここが踏ん張りどころ! 学年序列3位の実力を見せてくれ!』


『鵣憧のとこは勿論だが、エイツヴォルフのチームも地味にピンチだな。味方3人は鵣憧相手にかかりっきりな上にかなり押されてるし、リデルが退場したからウェインは独りだ……蓮とエイツヴォルフの競争になるぞ。見物だな』





 フィールド北部。

 ピラミッド型の拠点「クフ」の最深部、王の間にて。


「お邪魔しマスわ、シンドウさん」


 数多くのトラップを弾丸突破してきたアリスは、しかし疲れた素振りなど微塵も感じさせない優雅な所作でスカートの裾をちょこんと上げ、軽く会釈する。


「エイツヴォルフさん」


 対する耀は声高らかに宣言した。


「勝負です!」


耀が久々に登場! 

剛羽たちがバトってるシーンの合間に入れるべきだったと反省してます汗

この回はアリスを書くのが楽しかったです

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