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砕球!! 改稿6回目  作者: 河越横町
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ナイスブロック


【リん(※リデルさんの略)、竜胆ドラゴンカム】


【えー、マジかー】


【おい、リデル。真面目にやれよ】


【ウェン兄、アタシ足痛い。日本の道ってさー、歩いてるだけで足痛くなるよね】


【いつの話してるんだ。もう慣れたろ】


【はは、ジョークだよ、ジョーク。ピリピリし過ぎ】


【……いいか、リデル。兄ちゃんの方はもう片付く。こっちの援護はいいから、竜胆を迎え撃て。あの槍を撃てない内に落とすんだ】


【はいはい、オッケー】


 マイペースに応えたリデルは、両肩から伸びる紫色の糸で繋がれた直方体の砲台を霧散させ、くるりと振り返って急停止する。


「めんどいからちゃっちゃと済ますよ」


面済めんざい


「いいねそれ」


 褐色の少女は眠たげな目をしたまま、にやりと笑った。




 フィールド中央、北寄り。


『ウェイン選手、チーム鵣憧の球操手を落としたぁ!』


 球操手の作家が落ちたことで、チーム鵣憧の犬球5個が地面に落ちる。


(もう、うち独りか……そんなら!)


 笑銃は即座に腰のポーチから球状の物体を取り出し、地面に向かって投げ付ける。


 辺り一帯を包む、眩い光……スタングレネードだ。

 

 笑銃はその隙に自軍の球を全て回収し、錬成したスポーツバイクに跨り、逃走を開始する。が、


『そっちには蓮ジュニアがいるぞ!』


(これでええ! これが最短距離や!)


 自分と猫夢理の間に、剛羽がいることは知っている。


 空中でぐるぐると回転しながら刀を叩き付けてくる剛羽に対して、笑銃は殻楯シェルガード――膜楯を身体から数メートル離して球状に展開すること――で、自身とバイクを守る。が、


(長くはもたへんな……)


 剛羽の連続斬撃で、緑色の殻のあちこちに小さな亀裂が入り始める。


(……よっしゃ!)


 笑銃が殻楯から飛び出す。バイクから飛び降りる。


「最期まで付き合ってもらうで!」





『守矢選手、自走するバイクに球を預け、飛び降りた!』


「こらこらお二人さん!」


 すぐさまバイクを追い掛けようとした剛羽とウェインは、笑銃と追い付いてきた人形3体に前後から挟み込まれるように射撃され、足止めされる。


(バイクは無理か……まずは1点だ)


 無理にバイクを追い掛け、背中を撃たれでもしたら後に響く。

 

 剛羽は標的を笑銃に切り替える。


『終わったな、守矢』


『……厳しい状況』


 剛羽は、同じく笑銃狙いのウェインと先を競うように駆け出す。


 身体一つ前に出たのはウェインだ。


(速い……!?)


 笑銃と人形にどっしりと構えられた今、剛羽は細かい機動ができない三段加速を使えない。


 そのため二段加速を使っているが、それでは転身系の中でも敏捷性に優れたウェインには後れを取ってしまうのだ。


「3点目ぇ!」


 先行するウェインが地面を舐めるような低い姿勢から、だんと地面を蹴って跳ね上がる。


 それを見てからようやく動き出せた笑銃は膜楯で何とか身を守ったが、膜楯で守れるのは自分だけ。


 人形1体が首を撥ねられて爆砕する。

 

 続いて飛び込んだ剛羽は笑銃に斬撃を加え、残り2体の人形の首を刈る。

 

 ウェインが、その次は剛羽が。

 

 笑銃を獲るのは俺だと言わんばかりに、間髪入れずに撃ち込んでいく。

 

 防戦一方の笑銃はその場に釘付けにされ、紫と白の斬撃に膜楯を削られていく。

 

 もう持たないと、辛そうに表情を歪める笑銃。


 そして間もなく、止めの一撃が剛羽によって叩き込まれ、ない!?


(お前は俺狙いか……!?)


 笑銃を攻撃しようとした剛羽は直前で素早く反転し、ウェインと鍔迫り合う。


 剛羽に笑銃を獲られると予測したウェインが、狙いを切り替えたのだ。


 結果、笑銃の目の前で剛羽とウェインが一瞬止まった。


 剛羽は笑銃に背中を向けてしまっている。

 

 最後に一矢報いたいと、笑銃は素早く機関銃を構える。が、


「……いただきですぜ、ひひ」


「奥、突ぃ……!!」


 背後から胸を貫かれた笑銃の意識は、急速に遠のいていく。


 剛羽たちに気を取られ、奥突に完全に裏を取られた。


 それでも、


「道、連れや……!」


 首だけ回した笑銃は、背後にいた奥突の友人を蜂の巣にしてから爆砕した。


 ――チーム鵣憧、1得点(内訳:敵選手1人撃破=1点×1)合計1点

 ――チーム神動、1得点(内訳:敵選手1人撃破=1点×1)合計3点





 フィールド中央、西寄り。


(閃光!? 守矢先輩か!!)


 やや離れた場所で発生した光に、勇美はわずかに目を細める。


「余所見してくれるとか超献身的じゃん」「ッ!?」


 勇美は真横から不意に現れた大剣に身体を持っていかれ、木を何本も圧し折りながら吹き飛ばされた。


【りんちゃん、大丈夫!?】


【はい、大丈夫……です】


 攻撃の瞬間まで大剣おもりを錬成しないリデルは素早く、振り回される。


 致命傷を回避できたのは、リデルが大剣を錬成した瞬間に位置が分かったからだ。


 普段はほとんど気配がないため、突然大剣という殺気が現れれば、なるほど確かに反応できるのだ。


(……ここか)


 位置を確認した勇美は、肩で息をしながら木に背中を預け、姿の見えないリデルに話し掛ける。


「ラッシュフォード先輩……私、前から1つ気になっていたことがあるんです。訊いてもいいですか?」


「いいよー」


「……転身系なのに、何故そんなに重たい武器を? それではせっかくのスピードを殺してしまいます」


「はは……後輩から説教されるとかウケる」


 どこからともなく聞こえてくる、リデルの気だるげな声。


「そりゃ、アタシ火力主義だから。ウェン兄みたいにちまちま攻撃すんのかったるいんだよね……てかさ」


 ひゅん、ひゅん、ひゅんと、リデルが高速移動する音が聞こえる。


 もうそろそろあの槍を撃たれると予測したリデルは、勇美を狩りに行く。


「そういう台詞はアタシを捕まえてから言いなよ」


 瞬間、勇美の背後から、木ごと斬り落そうと大剣が迫り――


「痛ッ!?」


「後ろから来ると思いました」


 リデルの大剣が、木の幹を半ばまで割ったところでぴたりと止まった……!?


 ありえない。


 普通に、簡単にとは言わずも問題なく、切断できるはずなのに。

 

 しかし、それはリデルが斬ろうとした木が普通の木だったらの話。

 

 そう、大剣を受け止めた木は、勇美が《心力》を流し込むことで強化されたものだ!

 

 リデルが驚愕で固まった隙に、勇美は彼女の胸倉をがっしりと掴み、力一杯ぶん投げた。


「おらぁあああああ!」「ゴリラじゃん!!」


 そして、勇美は投げ飛ばしたリデルに――ではなく、その先にある木々に向かって、


槍貫通ゲイ・ボルガ!」「え、なんで……!?」


 人間大の矛を発射する。


 槍先から弾丸のように発射された紫の矛は、次々と木々を圧し折り「それ」に至るまでの道を作る。


 果たして、何本もの木々の先にあったのは、L字型のパイプ2本を真っ直ぐなパイプ2本で繋ぎ合せ、ネットをかけたもの。

 

 例えるなら、サッカーゴールのような物体――ゴールエリアだ。

 

 ここに入ってしまった選手は、3分間退場しなければならない。


「やった、3分も休めんじゃん」


 転身系と言えど流石に空中ではもがくことしかできない。


 リデルは為すすべなく、ゴールエリアに吸い込まれた。


「竜胆ちゃん、アタシも前から気になってたんだけどさー、なんで技名言うの? ダサくない? てかダルいよね?」


「そんなの決まってるじゃないですか」


 勇美はネットに絡まって逆さまになっているリデルに胸を張って言い放つ。


「敢えて手の内を晒すのは、正々堂々と戦いたいからです」


「はは、意味分かんね」


 リデルの素直な感想が虚しく響いた。




 フィールド中央、北寄り。


「クソッ」「ナイス、奥突」


「あの蓮ジュニアに褒められるなんて光栄ですぜ」


 奥突がおどけたように肩を竦める。


(……完璧に裏取れてたな)


 笑銃がまったく気付いていなかったところを見るに、奥突は気配の消し方が相当上手いらしい。


 もしかすると、そういう個心技なのかもしれない。


(ここまで3点か……)

 

 できれば5人倒して5点。その後、チーム鵣憧の球も全部割りたかったが、最低限の点は獲れた。

 

 と、安堵したのも束の間、着信が。


【こうくん、アリスちゃんが!】


 乱戦に巻き込まれないよう拠点へ逃がした耀のもとに、アリスが迫っていると連絡が入る。


【了解です。奥突、頼んだぞ】


【やりたくないですぜ】


【ふざけんな】


 奥突の返事を待たずに、剛羽は三段加速で駆け出そうとする。が、


「おヒメの邪魔はさせない」


 走路上にウェインが割り込んできたため、一旦止まる。


 どうやら読まれていたらしい。

 

 剛羽は二段加速で走り出す。当然、それでは転身系のウェインは振り切れない。が、それは一対一の場合だ。


 剛羽が注意を引く間に、奥突がウェインの背後に迫る。


【ウェインくん、敵が!】


【分かってる、後ろからオクヅキだろ?】


 プライドの欠片もない野郎に後れを取るかと、ウェインは忍び寄る奥突に注意を割く。が、それが原因で剛羽の突破を許す、または剛羽に斬られるでは本末転倒だ。


 ウェインは剛羽と奥突の動きに神経を研ぎ澄ませ、あらゆる状況に対処しようとする。が、


【タチバナくんです!】


 オペレーターの口にした名前は、ウェインの意識にない少年の名だった。


 瞬間、ドスっと太腿に鋭い痛みが走る。


 木の影から飛び出してきた侍恩が、その手の白い小刀でウェインを斬り付けたのだ。


 ウェインの動きが止まる。剛羽を遮るものがいなくなる。


【達花、ナイスブロック】


 剛羽はそれだけ言って、耀のいる拠点に向かった。



 途中経過

 チーム神動、3点(内訳:敵選手3人撃破=1点×3)

 チームエイツヴォルフ、2点(内訳:敵選手2人撃破=1点×2)

 チーム鵣憧、1点(内訳:敵選手1人撃破=1点×1)


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