その呼び方やめろ!
『フィールド中央からやや北寄り、チーム鵣憧5人を乗せた車が被弾! 妹のリデル選手がチーム神動を抑えた隙に、兄のウェイン選手がチーム鵣憧に襲い掛かる!』
「風歌、作家! うちから離れたらあかんで!」
「ゴールエリア入りたい~!」
「これが他人に依存する気持ち~!」
笑銃と彼女の人形三体が、残った後輩二人の盾になるように陣取り、剛羽たちを抑えて飛び出してきたウェインを迎え撃つ。
間断なく発射される、緑色の弾丸。
いくら身体能力に長けた転身系の選手でも、これだけ銃弾を集められると避け切れない。
ウェインは直進するのを諦め、木々で射線を切りながら、回り込むようにして距離を詰めていく。
一方で、剛羽たちはというと。
【おい、奥突。お前ら二人がラッシュ妹を抑える作戦だったろ】
剛羽は流れ弾に当たらないように木の陰に隠れながら、腕のベルトを介して優那に展開してもらった周辺地図のホログラムを見やる。
地図に映る奥突たちのマーカーはリデルとは真逆――笑銃たちの背後にあった。
リデルを抑えられなかったというより……。
【いやー、わっちらには手に負えねえと思ったもんで】
【だったら、こっちに一言入れろよ】
【試合に集中してたら、忘れちまったですぜ】
(…………この野郎)
口の端をひくつかせる剛羽。
しかし、味方の命令無視に腹を立てている場合ではない。
【勇美、リデルを抑えに行ってくれ】
【私ですか? ボルグでなら捉えられますけど、撃つにはもう少し休まないといけませんし……私一人じゃリデル先輩には追い付けませんよ?】
他に作戦があるのではと提案する勇美。
その意見は十分理解できるものだ。
リデル・ラッシュフォード。
兄ウェインと同じ転身系だが、彼女の場合は高い身体能力に射程が加わる。
高速機動とミサイル爆撃。並外れた《心力》量だからこそできる組み合わせ。
砲台の場所が特定できても、そう簡単には捕まえることはできない。が、
【休まないといけないのはリデルもだ。あのミサイルだって連続で撃てるわけじゃない】
転身するだけでも相当な《心力》を消費する。
《心力》を弾にして飛ばすとなれば尚更だ。
【それに、リデルの射程は一〇〇メートル以下だ。木の枝が邪魔になるから、発射できる場所も限られる。それだけでリデルの動きは限定されるはずだ】
【なるほど……それなら、射程外に追い出すだけでもいいですね】
【ああ、勇美の判断に任せる】
【はい!】
【優那先輩、俺たちのことはいいですから、勇美のサポートもお願いします】
【うん、分かったよ!】
指示を出し終えた剛羽は、ウェインに翻弄される笑銃たちをちらっと見てから、隣で肩を落としている侍恩に視線を戻す。
先程からずっとこの調子だ。
この乱戦に勝負を賭けている剛羽としては、いつまでも凹んでいられては困る。
そんな精神状態では力を十分に発揮できない。
「達花、俺たちも行くぞ」
「り、了解!」
ふらふらと立ち上がった侍恩を連れて、剛羽は笑銃たちに突撃していく。が、笑銃たちも剛羽たちの動きには警戒している。
人形一体がすぐさま反応し、手にした機関銃で剛羽たちを迎え撃つ。
「ひょえええええ……!?」
連射される緑色の弾丸に、堪らず木の陰に飛び込む侍恩。
情けない声を上げながら泣き咽び、顔をくしゃくしゃにしている。
あのままでは何の役にも立たない。
剛羽は仕方なく、前進するのを止めて侍恩のところまで走り込む。
「達花、行くぞ」
「僕には無理だよ、マッシーぃ~!!」
「お……おい、ひっつくな! てか、その呼び方やめろ!」
名付け親のウイカが聞いたら泣くだろう。
「ウェインと奥突たちが気を引いてる。守矢たちの注意が分散されてる今が攻め時なんだ」
剛羽はすっかり自信をなくしてしまった侍恩の肩をゆする。
「当たるのが怖いなら膜楯しながら突っ込めばいいだろ」
「…………できないのだ」
「……は?」
(おい、まさか……)
剛羽は耳を疑う。
まさか、この少年は高校生にもなって……いや、しかし、そんなことが。
そんなファンタジーなことがあるはず――
「僕は膜楯ができないのだ」
「…………」
(先に言えや、この眼鏡!)
ったく、どいつもこいつも! と、剛羽はヒスを起こしそうになる。
一番簡単な防御方法である膜楯――全身を《心力》で覆うこと――ができないということは、他の二つもできないだろう。
いや、というか、最悪……。
「そもそも僕は《心力》を上手く使えない」
最悪の告白だった。
剛羽は一瞬言葉を失う。とそこで、
「痛いのイヤ~!!」「これが落とされるときの気持ち~!!」
笑銃の人形の銃弾を掻い潜ったウェインが、その両手の指から伸びる鋭爪で風歌と作家を狩り取る。
――チームエイツヴォルフ、2得点(内訳:相手選手2人撃破=1点×2)計2点
剛羽は焦燥したように唇を噛む。並ばれた。
剛羽たちとは反対側から攻める奥突たちの位置を確認するが、剛羽たちが止まってしまったせいで思うように進めていないようだ。
一刻も早く攻撃に参加しなければ。
しかし、
「僕がのこのこ出ていっても相手に獲られるだけだ」
侍恩は目に涙を浮かべながら、ぽつりと呟く。
次に侍恩が何を言うのか、剛羽には予想が付いた。だから、
「ここで切って――」
「ふざけるな」
剛羽は侍恩の胸倉を掴み、木に叩き付ける。
言いたいことは山ほどあるが、今必要なのはたった一言だ。
「要らない駒はない。お前が《最弱》でもだ」
それから剛羽は侍恩に一つ指示を与え、駆け出した。