順位は関係ないでしょ!
更新遅くなりましたぁあああああ
すみませぇええええん汗
遺跡フィールド。
森林地帯の各所に大小無数の遺跡が存在するステージ。
遺跡内部には様々な仕掛けがあり、拠点を使っての攻防が得意なチーム鵣憧にとっては願ってもない展開だったが……。
(これ選んだの絶対耀じゃないわ! 耀はこんな性格悪いこと絶対しない!)
蓮剛羽……あいつの仕業か! と、怒りながら。
チーム鵣憧キャプテンの鵣憧猫夢理は、笑銃たちと合流を目指し、先を見通せないくらい密生する木々の間を縫いながら駆け抜ける。
(耀、楽しめてるのかな……?)
このステージを選んだのはチーム鵣憧を嵌めるため。耀が拠点に向かっていることから、自分たちから点を稼いだ後は拠点に立て籠もるつもりだろう。
こっちが眩しく感じるくらいキラキラした笑顔でプレーしている少女が、こんな勝ちに拘るような作戦を立案するはずがない。
きっと、砕球エリートのあの少年に無理矢理従わされているのだろう。
約1週間前、電話越しであんなに活き活きとしていたのに。
今日だって、あんなに笑顔だったのに。
全部、無理をしていたのだろうかと疑ってしまう。
【笑銃、もうちょい待ってて! すぐ行くわ】
と、言ったところで、
「あら。あらあらあら! 誰かと思えば、デスわ!」
「……ちっ」
神経をこれ以上ないくらい逆撫でする声に、猫夢理は鬱陶しそうに舌打ちし、視界に現れた金茶髪の少女を睨む。
「エイツ……ヴォルフ!」
対する、アリスは周囲に球を浮遊させたまま立ち止まり、くすりと笑った。
球操手が1人でいるというのに余裕すら感じさせる。
「セキショウさんじゃないデスか。そう言えば聞きマシたわ、3学期の期末テスト、2位だったんデスわよね? おめでとうございマスわ」
「…………は? なにそれ、嫌味?」
「まあ! 嫌デスわ~。他人の称賛を素直に受け取れないなんて心が貧しい証拠デス。ワタクシ、同じ猫好きとして、セキショウさんとは仲良くしたいと思っているんデスけれど……考え直す必要がありマスわね」
「同じぃ? 猫好きぃ?」
聞き捨てならないと、猫夢理は表情を歪めながらアリスの髪型を指差す。
猫の耳を模したような、頭に乗っかる2つの円錐形のお団子に言及する。
「だったらまず、その猫を侮辱した髪型をやめろ」
「あら野蛮。やめろ、だなんて口汚いデスわ」
「黙りなさいよ! いくら真似したって、あんたは猫になれないのよ!」
「なん!? 2位の分際で、ワタクシに説教するつもりデスか!?」
「順位は関係ないでしょ!」
怒鳴られたアリスは涙目になりながら、ぷんすか怒り出す。
「ずるい、ずるい、ずるいデスわ! 猫さんへの気持ちなら、ワタクシだって負けてないはずなのに!」
「……ふふ。そうやって喚いてるほうがお似合いよ、王女様?」
猫夢理は挑発するような笑みを浮かべる。
「てか、あんた、いつまでそのキャラ続けるつもり?」
「ハイ? ワタクシ、何か変なことしマシたか?」
「その『ワタクシ』とか『デスわ』とかよ。なに、その口調? どこの不思議の国から来たわけ?」
「学年2位の分際でキャロルを語りマスか!?」
「だから順位は関係ないでしょ!」
【ねこ、醜い口論してる場合ちゃうで! はよ、こっち来てやあ!】
【言われなくても今行くわよ!】
転身した猫夢理はアリスをかわして、笑銃たちの元に走り出そうとする。が、瞬間、足元に銃弾が撒き散らされ、その場に釘付けにされてしまう。
割り込んできたのは、チームエイツヴォルフの3人の選手だ。
「皆さん、ご苦労さまデスわ。それじゃ、あとはよろしくお願いしマスわ」
「「「はいですわ!」」」
チームメイト3人に猫夢理を足止めさせたアリスは、その表情を鋭いものにして駆け出す。
(あの方向って……!?)
アリスの向かう場所に気付き、猫夢理は目を見張った。
「まったく、ねこ先輩はなに油売ってるんすか!」
「まあまあ、アリスが相手やから」
笑銃たちを乗せたオフロードカーが、森林地帯を逞しく走る。
後部座席では、笑銃の錬成した屈強な軍人人形4体が背後から迫る剛羽に応射していた。
「見たか、蓮ジュニア! これが笑銃先輩の実力っすよ!」
「なんでてこが偉そうにしとんねん」
笑銃は苦笑しながら、オペレーターと連絡を取る。
【操子、合流地点このへんやんなぁ?】
【はい。風歌たちもすぐそこまで来てます】
「ほんと逃げ足だけは速いんやから……」
と、笑銃が呆れたところで、少女たちのかしましい声があちこちから届いてくる。
「もう! 笑銃ちゃん遅~い!」
「我らは戦略的に切られたのかと思ったぞ!」
「これが味方に裏切られる気持ちかーって、なってましたよ!」
「文句ばっか言っとると、ほんまに捨てるで!」
「「「守矢先輩、助けにきてくれてありがとうございま~す!」」」
「まったく、どいつもこいつも、こういうときだけ調子いいっすね」
「そりゃお前もや、てこ!」
笑銃は蛇行運転しながら、風歌、地球児と順に拾っていく。が、
【守矢先輩!】
最後の一人である球操手の作家を拾おうとしたところで、白色の弾丸が飛来した。
軍人人形たちは撃ち落とそうと射撃するが、突如加速した白色の弾丸に掻い潜られ――
「「「「「ミックぅううううう!?」」」」」
日本人顔の軍人人形ミックが胸部を撃ち抜かれて爆砕した……!?
他の3体に射撃を任せ、後部座席から飛び降り、身を挺して作家を守ったのだ。
「これで全員やな? 一先ず逃げるで!」
「首洗って待ってるっすよ、蓮ジュニア! 吹っ飛ばしてやるっすから!」
「拠点取れたら風歌たち最強なんだからね!」
「我らの真の力をとくと見よ!」
「これが逆転できると昂る選手の気持ち!」
近場の拠点を目指して加速するオフロードカーの後部座席からは、それはもう威勢よく反撃の言葉が上がる。
オフロードカーは、まるで鎚子たちの調子とシンクロするかのようにスピードに乗り、剛羽を突き離していく。
しつこく銃撃されて進路を変更させられたが、もう追い付かれることはないだろう。
巻いた。逃走成功だ。
そのはずだった。
「うし、追い込めた」【勇美、頼む!】
【了解です!】
狙われていた。
逃走経路を、少女の前に誘導されていた。
「槍――」
【守矢先輩!】
【ッ、嘘やろ!?】
オペレーターが気付いたときにはもう遅かった。
オフロードカーのほぼ真横にて、おかっぱ頭の几帳面そうな少女――竜胆勇美が、だんと力強く一歩踏み出す。
そして、半身になって引き絞っていた右手の槍を、50メートル以上離れた車に――視界にはっきりと捉えた的に、思い切り突き出した。
「刺突!」
槍刺突。その意味は必中!
槍先からまるで槍が伸びたかのように紫色の弓矢が発射され、オフロードカーを容赦なく貫き、爆砕させた。
「あかん!?」
「これ、まずくないっすかぁ!?」
「マジ意味分かんない!?」
「飛行能力を手に入れたぞ!?」
「気持ちぃ~」
宙を泳ぐ笑銃たち。
剛羽はその隙を逃さず、無防備な少女たち――鎚子と地球児を斬り捨てる。
「あなや!?」「ジーザス!?」
――チーム神動、2得点(内訳:敵選手2人撃破=1点×2)合計得点2点
『先制したのは意外にもチーム神動だぁ! このまま一気に――』
『いや』
『ラッシュ妹』
2人落とした剛羽が、残り3人に斬り掛かろうとしたところで――
「蓮、たくさん降ってくる!」「ッ!?」
【こうくん、上から来るよ!】
何発ものミサイルが雨のように降り注いだ。
剛羽は加速して範囲外に逃げ出すが、その隙に後方から何者かがもの凄い勢いで駆け上がって来る。
果たして、身を低くして地を舐めるように走る黒瓢の正体は、転身したウェイン・ラッシュフォードだ。
「達花、ブロック!」
「了――ッ!?」
了解と応える暇もなく、侍恩はウェインに真横をすり抜けられ、置き去りにされてしまう。
易々と。その辺の木をかわすように。
何もできなかった。
侍恩の表情に深い絶望が降りる。
「……くそっ」
抜き去られる直前、侍恩は確かに聞いていた。
ウェインが「お前は後回しだ」と囁くのを。
【達花、追うぞ!】
【り、了解!】
我に返った侍恩は、ウェインを追い掛けて走り出す。
しかし、その足取りはどこまでも重たかった。