争奪戦、開始!!
更新遅くなってすみません!汗
チーム鵣憧、選手控室。
猫夢理は手元の《IKUSA》に視線を落としたまま、隣でモデルガンを弄っている守矢笑銃に話し掛ける。
「上妃さん、耀のチームにいたわね」
「せやね~、オペレーターでもやるんとちゃうの?」
「……笑銃。あんた、上妃さんがいること知ってたでしょ?」
「ッ!? い、いやー、うちもびっくりしたわ、ほんまにー」
「…………まあ、別にどうでもいいけど」
それよりと、猫夢理は《IKUSA》で観ていた少年の話を持ち出す。
「普通の加速なら付いてけそうだけど、もう一段上は無理しないほうがいいわね」
「ねこはともかく、うちは加速されたらとにかくガードやな。極楯したほうがええのかな?」
「刀もたまに使う銃も威力はないから、膜楯か殻楯でいいでしょ。奥突いるし」
「あー、せやね。極楯したら、空いてるところブスッといかれるかもしれへんな」
「そうそう。あと竜胆ちゃんのことだけど――」
「だぁあ! またここでゲームオーバーっすか」
「鎚子……っちゅうか、風歌、地球児、作家も!」
笑銃はゲーム、ファッション誌、謎の儀式、読書に没頭する後輩たちを怒鳴る。
「試合前になにしとんねん! ねこの話――」
「だって、今日の試合、2位は確定じゃないっすか~」
「耀ちゃんのチームいるもんねー」
「いや、今日は耀のチームに蓮剛羽いるんやで……」
「こないだ、無名の選手に負けそうになったってニュースで観たっすよ?」
「相手耀ちゃんじゃなかったけ?」
「あ、耀先輩だったんすか。蓮ジュニアも落ちたっすね~」
「あの者の時代は終わった! 何を恐れることがあろうか!」
「元1位キャラは大概かませですから」
「あかんわこれ……」
楽観的過ぎる後輩たちに、目を白黒させる笑銃。
「ち、因みに、対蓮の立ち回り方は?」
「そんなのあるんすか? 初耳っすね」
「それより、気になる異性の落とし方が知りた~い」
「対策など無用。己を貫く。その一点のみ!」
「笑銃先輩、データキャラは勝てないのがお約束ですよ?」
「ねこぉ、うちには無理や! 一言ガツンと言ったてやあ!」
「…………別にいいんじゃないの? 適当にやりましょ」
「ねこ……」
我関せずを貫く猫夢理に、笑銃は寂しそうに眉尻を下げる。
とそこで、控室内に審判部からのアナウンスが。
「フィールド、遺跡エリア!? 拠点めっちゃ多いところやん!?」
「ほほう、接待試合ってやつっすかね~」
「これ、風歌たち一位取れちゃうんじゃないの!」
「遂に我らの時代がきたか!」
「主人公になるチャンスですよ!」
後輩たちが盛り上がる中、猫夢理は冷や汗を流しながらぽつりと呟く。
「支援手は覚悟しなさい」
『会場にお集まり頂いた皆さん、お待たせ致しました! 今年も九十九学園新年度の始まりを告げる名物行事、春の新戦力争奪戦がドドンと開幕です! 解説席にはチーム九十九の監督、洲桜慶太郎さん、チーム九十九の主将、九十九義経さんにお越し頂きました!』
『……よろ、しく』
『よろしく』
『監督、九十九先輩、見てください! すごい観客数ですよ! それもそのはず、なんとこの会場には10年前、砕球日本代表を初めて世界大会の決勝に導いた蓮蒼羽選手のご子息、蓮剛羽選手がいますからね』
『まあ、普通に考えてそれだろ。この世代で蓮剛羽を知らないやつなんていないからな』
『……ィツヴォルフ』
『洲桜監督、もっと大きいな声で! はいどうぞ!』
『……エイツヴォルフ』
『なるほど、それもこの集客数の一因でしょうね!』
『蓮とエイツヴォルフ。この組み合わせは10年前の世界大会決勝を思い出すな。親の次はその子ども同士で対決か』
『なにか運命めいたものを感じますね~。お、まだ時間があるみたいです。ではでは、洲桜監督、砕球のルールを簡単に説明してください』
『……むぅ』
『普通に考えて無理でしょ』
『では僭越ながらこのわたしが。砕球は2から4チームによる、得点を競い合うゲームです。点の取り方は至ってシンプル、相手選手を倒すと1人につき1点。相手チームの球を壊したら、今回は6人制なので1個につき2点です!』
観客席に集まった一般客や子どもたちのために、丁寧に解説する実況少女。
『さあ、準備が整ったようですね。今回のスタート方法はランダム、各チームフィールドにバラバラに転送された状態で始まります! それでは皆さん、ご唱和ください! 時間の都合上、試合時間はいつもの半分! たった15分間の濃縮還元バトル、3、2、1――』
『――ブレイクアウトぉおおおおお!』
【だぁあああああ! なんで鎚子たちばっかり狙われるっすかぁ!】
【マジありえないんだけどぉ!】
【くぅう、時代は我らを見捨てたか!?】
【これが敵から集中的に狙われる選手の気持ち……忘れないうちにメモしておかないと!】
【しとる場合か、アホぉ!】
試合開始直後に連続する悲鳴。
チーム鵣憧の支援手たちは、他の2チームの選手から執拗に追い回されていた。
オフロードカーを錬成した笑銃は、フィールド各所で襲われる後輩たちを一人ずつ回収していく。
「な、なんで鎚子たちだけ……」
最初に回収されたチーム鵣憧の支援手、夜舞曲鎚子は、後部座席で荒い呼吸をしながら嘆く。
「そりゃ、落としやすい支援手やしな」
「耀先輩と侍恩先輩だって落としやすいじゃないっすか! しかも耀先輩は球操手っすよ!?」
「アリスたちからすれば、ひかりたちはいつでも落とせる駒。片やてこたちは序盤で絶対落とさなあかん駒なんや。遺跡エリアやから、なおさらなー」
「それって……」
「あー、ひかりはもう拠点向かってるっぽいなあ」
「鎚子たち、まんまと時間稼ぎに使われたってことっすか!?」
鎚子は後部座席でベソを掻き始めた。
しかし、泣いている場合ではない。
「笑先輩、後ろ後ろ! 蓮ジュニアが来るっすよ!?」
「いきなり厳しい展開やな……」
逃げる笑銃たちに、ハンターたちが四方八方から続々と集まりつつあった。