Prologue_M
雨が降っていた。
血の色の雨だ。
私は頬を地べたに押し付けている。
キスしそうな程近い場所に、妹の顔がある。
意識を失っている。
青白い顔は汚泥に塗れ、服や髪には血の雨が降り注ぐ。
血と泥が混ざる。
汚れた妹が土の上に転がっている。
人形のような肌が冷たくなる。
雨が体温を、命を奪っていく。
弱い灯として淘汰される命は、とても悲しい。
生れつき身体の弱い彼女は、誰よりも衰弱していた。
太陽を知らない肌は、かつてとても美しかったのに、今は老婆のように渇いてくすんでいる。
その骨と皮膚で構成された身体に手を伸ばす。
体温を感じられるのは幸福だ。
どれほど微かでも、それは幸せなことなのだろう。
それは腐りかけたトマトのような感触だった。
でも温かかった。
生きて、と。
生まれて初めて願った。
泣きながら祈りを捧げた。
神様はもう信用できないと思った。
だから運命に祈った。
回避できた不幸に殺されるのは馬鹿らしい。
私は信じたかった。
私は、私達は、無力ではないと。
妹の頭を抱きしめて、その軽さにまた絶望しながらも。
信じていた。
自分の内側で悲鳴を上げる何かを、あるいは心を。
愛した男の血を身体中で感じながら。