銀竜の旅立ち
プロローグ的な何かです。ある程度は設定もあったりします。
----銀竜の旅立ち----
遠く、遥か彼方まで延々と続く北の山脈地帯。その中でも一際大きな山の中腹に走っている亀裂の奥深くに一頭のドラゴンが住み着いていた。俗に古竜種・飛竜と分類されるそのドラゴンは、鈍い銀色をした体を重そうに動かしながら今まで閉じていた目をゆっくりと開いた。
暗く明かりなど全くないその場所でドラゴンが何を見ているのかなど分からないが、暫くそのままで暗闇の奥を見つめていたドラゴンは喉の置くから地鳴のような声を出して呟いた。
「暇、だな」
ドラゴンがこの世界に発生してから数千年。その生の大半をこの亀裂の奥深くで過ごしていたドラゴンは、その余りにも長すぎる自身の生に飽き始めているかのようだった。再び目を閉じて何事かを思案し始めたドラゴンは自身の尻尾をユラユラと揺らしながら言葉を紡ぐ。
「赤の竜姫は三百年ほど前に眠りについた。青のヤツは私の事を嫌っているようだから無理。金色は既に滅んでいるし黒は……、行っても出てこんな」
どこか寂しそうにそう呟いたドラゴンは、今まで横たえていたその巨体を起こして部屋の天井を見据えながらゆっくりと翼を動かす。一度、二度、と繰り返す度に徐々に強烈な風圧になっていくその翼の羽ばたきは、人間など近くに寄ろうものなら枯れ木のように吹き飛ばされる事だろう。十数度目の羽ばたきで遂に体を浮かせたドラゴンは優雅に飛翔しながら天井の亀裂へと体を滑り込ませ出口へと向かって行く。
数時間かけて地の底から上昇してきたドラゴンはやっと薄っすらながらも向かう先から光が差してきたの気付いたのか、急に速度を上げて一気に出口までの距離をつめるとそのまま勢いよく亀裂から飛び出した。
暫くの間、付近を巡回するように飛び回っていたドラゴンは自身が住み着いていた亀裂のある山の頂に着地すると遠くまで続く山脈を眺めながら口を開いた。
「最後に外に出たのは眠る前の赤に会う時だから三百年ぶりか。変わっていないな、いつまで経っても辺鄙な場所だ」
ドラゴンはそう言いながらもしきりに辺りを見回している。まるで何かを探しているかのように落ち着き無く首を巡らせていたが目当てのモノを見つけたのか、今度は一度の羽ばたきだけで浮き上がると確固たる目的を持った飛び方で南へと向かう。
悠々と空を飛ぶドラゴンの視線の先には打ち捨てられた古い砦があった。一体この砦が使われなくなってからどれ程の年月が流れたのだろうか、半ば朽ちかけ、石でできた監視棟と思われる場所は罅割れて今にでも倒れそうである。そんな砦の入り口付近に着地したドラゴンは爪を使って自分の胸を深く傷つける。当然のように溢れ出た血を尻尾の先端につけると今度は地面にこすり付けてなにか文字ようなモノを書き始めた。
数分かけてその文字を書上げると目を瞑り詩のような言葉を紡ぐ。
「来たれ、来たれ光よ。いにしえから続く血脈の契約を施行せよ。私の願いを叶えよ、万物に干渉することを許可せよ」
その瞬間ドラゴンの巨体は光に包まれ、ほんの僅かな薄紅色の閃光を発しながら光は徐々に小さく集束して霧散した。光が消えた場所には銀色の髪を腰まで伸ばした若い男が佇み、歳の頃は二十五、六の色白で女かと見間違う程の美男子だ。その男は自分の手足を確かめるように見つめた後、煩わしそうに長い銀髪を手で弄ぶ。
「久しぶりの魔法だからと触媒と魔法陣を使ってみたが……、どうやら必要なかったようだな」
男はフンッ、とまるで自分の行いが馬鹿だったとでも言うように鼻で笑った後で朽ちた砦の入り口を片足で蹴り飛ばして堂々と中へと歩を進める。中央の閲兵上跡とおぼしき所まで進んだ男は一旦、足止めて辺りを見渡している。
その目線の先には左側に横に長く伸びている建物、右側には二階建ての比較的大きめの建物が建っているが顎に手を添えて暫し考えた男は右側の建物に進んだ。入り口まできてその建物の扉を開ける時、男はさっきとは違い蹴り開けるような事せずに崩れそうな建物に対し、気を使うようにそっと扉を押し開けた。
建物内へと侵入した男は目的の部屋の場所が分かっているかのように奥へと進み、階段を上り、二階に上がってから廊下の一番奥の部屋の扉を開けた。その部屋は恐らくこの砦が現役で使用されていた時に守備隊長が使っていたのだろう、十分な大きさのある執務机と銀で出来たと思われる立派な丁度品、それに壁には大きな地図と色あせている国旗が飾ってある。その状況を見た男は両手を腰にやりながら満足そうに笑っている。
「確か百五十年、いや百八十年前に近くの村で疫病が発生したが──、やはりあの時にここの兵士も慌てて撤退したようだな。人族とはなんとも臆病で弱い生き物だ」
そう言いながらも男の目線は机の後ろに設置してある書架の方を向いている。その書架から何冊か手に取った男は思いのほか保存状態が良い執務椅子にどっかりと腰を下ろして取ったばかりの本を読み始めた。一冊読めば次、それも終われば次、という風に日が落ちて辺りが暗くなっても読むのを止める様子はない、ただ黙々とまるで自身が知らない知識を吸い尽くすかのように本を読み漁る。
そうして砦を訪れたから四日目の朝にやっと男は読書という行動を止める。いやそういうのは語弊があるのかもしれない、男の後ろの書架にはもう本は入っていないのだ。読むものがなくなったから渋々やめた……、男の表情はまさにそう言いたげである。
「ふむ、やはり人族と関わる為にはある程度大きな都市に行かなければならないようだ。この辺りで大きな都市といえばフルーリアンだった筈だが流石にまだあるよな」
壁に掛かっている地図を眺めながら暫し思案していた男は、何度か頷いた後で窓辺へと近づき錆付いて奇妙な音をあげる窓を強引に開け放ちテラスへと出る。外は北の山脈特有の冷え切って乾燥している風が吹いているが、男は気持ちよさそうに目を細めながら銀髪を風に靡かせている。そして唐突にトンッと地面を蹴ってふわりと空中に躍り出ると、砦に入る時に起きた現象……魔法を使ってドラゴンの姿に戻り力強く羽ばたいた。
その風圧で監視棟は崩れ落ち、先程まで読書をしていた室内では机の上に置きっぱなしの本が飛び回る。だが男はそんな事に一切構う様子もなく、ただ真っ直ぐに目的地へと向かい飛翔していった。
残されたのは四日ぶりに訪れた静寂。恐らく、これから先も永遠に続くであろう静寂だった。
どうでしょうか? コメント等で指摘していただいた所をなおしたり日本語が怪しいところを極力排除したのでそれっぽい形には近づけたかと思います。
面白いか面白くないかは……(´;ω;`)ウッ…