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オタクですけど、何か?  作者: TAKAHA
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5話(リヒト視点)






―――男神と女神の化身である二つの太陽が交わりし時、扉が開かれ別世界のまよが現れるであろう―――     神書より抜粋







司教となることを決めた幼き頃より何度も読んだ神書の一説が俺の頭を過った。

この世界は長寿だ。それ故、自分の正確な年齢を忘れる者も多い・・・実際のところ忘れるというよりは大体知っていれば困らないと言ったところだがな。

教会は全てを管理する役目を担っている。全ての国民の情報に、“客人”である異世界人の情報すらも。

地方にある教会であった登録も、すべてがこの皇都にある大聖堂に集まってくる。




勿論、そのすべてを管理している大聖堂の最高責任者が―――大司教であるこの俺だ。




息も荒く教会を早足で歩く俺の手には先ほど送られてきた手紙が握りつぶされている。


「あのバカめ・・・こっちの迷惑も考えずにっ」


苛立ちも露わに進む俺を見て、いつもと違う俺の姿に周りの者は慌てて壁に張り付き俺を見送っている。

しかし、俺はそれに構っている暇はない。


「ロドルフ・・・ぜってぇ、殴る」


先ほど教務中に届いたのは昔からの悪友の、呼び出し状だ。


しかも、強制。


どんな理不尽だろうとあいつはそれを突き通すから性質が悪いと来た―――が、今回だけは一刻をも争うだろうことは理解できるので、怒りをあらわにしながらも俺は周りに指示を飛ばし自室へと急ぐ。

大司教である俺は公に動くときは全て記録に残ってしまう、その為俺の自室にはこっそりと地方に飛ぶための魔道扉がある。


「し、司教様一体どうなさいました?!」

「・・・緊急です」


執務室の扉を苛立ち任せに勢いよく開けると、皇宮への提出書類の最終確認をしていた副司教であり俺の秘書をしているラディが驚きのあまり書類をばら撒いた。

ラディは幼少時代より勉学を共にした中で、俺の素の性格を知っているが部屋のドアを閉めるまではどこで誰が聞いているとも限らないので司教としての話し方をする。


「私の部屋には誰も近づけないでください。今日はあと2名成人の儀があります。私の代理を頼みますよ」

「はい、畏まりました司教様」


ラディにあのバカからの手紙を押し付けて、俺は着ていた正装を脱ぎ捨て私服を用意する。

その横で手紙に目を落としているラディに視線も向けずに指示すると、呆れたように苦笑しているだろう様子が伝わってきた。


「彼は本当に変わらないねぇ・・・お疲れ様」

「・・・はぁ、まったくだ。頼んだぞ」

「はいはい、あまり苛々しないようにね」


読み終わった手紙を燃やし、先ほど落とした書類を拾い集めたラディは隠し扉に入ろうとした俺にひらひらと手を振っていた。


「マコトちゃんの情報をちゃんと教えてね~」


そのまま行こうとした俺にかかった声に後ろ手に手を振って答えて、俺はそのまま扉を潜った。





両神の気まぐれとも、神子達の悪戯とも分かっていないが時折現れる客人は、どこにどんな姿でどのような子が現れるかは分らない。

過去数人の客人が来たが殆どが違う世界からの客人でざっと5つは別世界があると記録されている。

現在この世界に存在しており俺らが把握している元客人たちは合計3名。この国に1名と隣国に1名おり、海を越えた大陸に1名いるという。


今回来た客人は実に5千年ぶりの久々の客人といってもいい。実際に記録に残ってはいないが、千年ほど前に本当は1人客人があったのだが、この話はおいておこう。



基本は交陽と呼ばれる2つの太陽が完全に交わる時に現れるのだが、稀に極端に近づいたからか理由は分かっていないが客人が来ることもある。千年ほど前の客人はまさにそれで、教会禄では“まよびと”と表された2回目の客人だった。



これらの事実は、教会の上層部のみしか伝っていない。




+++++




「やぁ、リヒト。急がして悪いね!彼が私の友人で、司教でもあるリヒトだよ」


大慌てで駆けつけると優雅にお茶を楽しんでいる頭痛の種である友人と、黒髪に黒目とこの世界では珍しい同色の色を持つ子が座っていた。



―――パッと見は少年のようだが、1つ1つよく見ると女の子だと分かるな―――



髪の毛が短いのが男と思われている1番の理由だろう。だが、少したれ目だが大きな目に小さめの鼻に厚みのある唇の丸顔が、かわいい部類に入るだろう。


自分の都合のいいようにしか動かない友人であるロドルフは、先に俺に向かい後は表情を崩して彼女に話しかけていた。

もうすでに娘として扱っているようだ、気の早い事だな。


「今回は態々ご足労頂きありがとうございます。チキュウより来ましたマコト・アイホウと申します」

「・・王都で司教をしているリューフェルト・カルヴァンだ。リヒトと呼べ」


マコトと名乗った彼女は立ち上がって俺に腰から直角に頭を下げて挨拶をしてきた。

意外過ぎて俺は反応が遅れたが、礼儀正しく好感が持てると感じだ。


「急がしといて悪いのだけどね、リヒト」

「なんだ?」

「妻の到着が遅れているんだ・・・ミーヤオルーシェと一緒に出掛けてみたいでね」


苦笑するロドルフも珍しいが、手紙にあったカイゼルの娘の事には俺も安堵したのは本当だ。一つ頷いて了承して俺はマコトに向き直る。

儀式は保護者になるための男女が必要なために、ロドルフの嫁が来なければ出来る事は何もない。


「儀式はまだできないな。ではマコト、教会は客人の情報を記録する義務がある」

「あ、はい聞いてます」


どんと来い!と拳を握りしめ真剣な顔で俺を見るマコトに思わず表情が緩む。ロドルフが驚いているみたいだが、ほっておけ・・俺がいつも怒った様な顔なのはバカなお前のせいだ。


「最初に聞くが、本当にこれを保護者にして後悔無いか?」

「・・・・え、その不安になるような言葉は何です?!」

「ちょっとリヒト!この子に何を言う気だい!!?」


記録するための魔石を取り出して、ギャーギャー騒ぐロドルフを無視して彼女との会話を楽しんだ。

はっきり言ってマコトは頭の回転が速いわけでもとても優秀というほどではないが、親しみやすい性格の中の真面目さと礼儀正しさにとても好感が持てる。




その反面の・・・野生児の様な逞しさと豪快さに驚きと興味がわいたのも事実。




結婚さえしていれば、俺も保護者に名乗り出たいところだ。

だが、フレアの娘なら俺も会いに行く理由があるからいいだろう。それにこの夫婦は性格にこそ誰しもが認めるほどに難ありだが、この二人の娘になるほど以上に安全なこともないだろう。




“客人”の男は貴族に迎え入れられることは多いが、“客人”の女は処女ではない場合が多い為、女は一般市民として迎え入れられることがほとんどだ。

貴族に迎え入れられたとしても、後妻として迎え入れられるしかない。


「あぁ、貴族には入りたくないです!ルフさんには勿論言いましたけど」


この子は客人にしては珍しい・・いや、客人の女では初めての生娘。貴族は誰しもが自分の娘にと喉から手が出るほど欲しがるだろう。

少し大げさに話しているはものの、この子は基本的に嘘がつけない性格みたいだ。


ただ、恥ずかしい話などは大いに気が乱れるみたいだが。


「貴族は嫌なのか、なぜ?」


ロドルフを横目で伺うと、少し眉間にしわを寄せて余計なことは言うなと目で訴えかけてくる。

お前・・自分のことを何と説明しやがった。俺は何も知らないからな。


「いえいえ、嫌いとかじゃなくって・・・元の世界ではただの平民だった私が貴族生活って想像できないですし」

「ふむ」

「貴族って言ったら政略結婚とかなんだとかってめんどくさそ・・・あ、いや・・」

「まぁ、そうだろうな」


この子だったら、貴族世界に入っても上手くやって行けるだろう・・・しかし、嫌だという者を強制するのも、と思うがロドルフは何が何でも娘にしたいらしいな。





勿論その後、ロドルフの妻が来て何の問題もなく血縁の儀式は終わった。






そう、儀式だけは問題が何もなかった・・・想像ができるだろう、どんな騒ぎがあったのかは。





++++++





「なんてこった・・侯爵だなんて聞いてない!!」

「・・・俺はそれでも納得したと思ったんだが?」

「聞いてないですよ!」

「私は貴族だとも、そうでないとも言ってませんよ」


「はぅわ!騙されたぁぁっ」と響き渡るは、奴が貸し切って人払いまでされている教会の聖堂。

男神と女神像の下で呆れたまま腕組みをして、目の前の光景に頭を抱える俺は被害者と思ってもいいだろう。いや、立派な被害者だ。

元凶夫妻と言い合っているのは身長が80カルラほどの可愛らしい少女。魔力が半端ないみたいで、防壁を張っていなければこの建物は破壊されていただろうな。


黒髪黒目で中性的だった彼女は、ロドルフの緑の中に銀が混じったような不思議な灰緑色の瞳と、彼の妻であるフレアリーゼの艶やかな深い蒼色の髪を持った将来が楽しみな少女となった。

フレアは緩い巻き毛だが、彼女はロドルフの直毛を受け継いだのか・・・ふむ、良く見ると見た目はロドルフ似になったようだ。


「うぅ~~~~・・もう私の味方はリヒトさんだけです!血の上ではおじ様に当たるならいいですよね!!」

「・・・巻き込むな」


フレアは俺の実の妹に当たる。ちなみに性別と髪の色が違うだけでそれ以外はそっくりと言われている双子だ。

生まれて間もなく養子に出された俺は血族とは思えど、妹と思ったことがないので複雑な気分ではあるが・・・フレア(こんな女)と似ているとは心底嫌だが、仕方ないと諦めている。


「あぁっ、何故リヒトなんですか!」

「リヒト!何ため息をついている」

「ルフ、落ち着け・・・フレアは黙っていろ」


涙目で俺に駆け寄ってきて遠い眼をする俺を盾にする彼女と、大慌てで言い訳をする彼女の両親となった悪友夫妻・・・何度も言うが、俺を巻き込むな。




いつまでたっても終わらないどうしようもない言い合いを終わらしたのは、俺を迎えにきたラディと連絡を受けたカイゼルの二人。


何とかその場の収集を付けて帰ったのは日も暮れたころだった。


「お疲れ様リヒト・・・今後も巻き込まれると思うけど頑張ろうね」

「・・・」


ぐったりと机に倒れ込んだ俺の前に、軽食と茶をだしたラディの顔は苦笑が滲み出ている。

俺の様子にさすがにあいつらと長年付き合いのあるラディは、今後の事を考えているのか俺以上のため息をついた。


「見た目無愛想で大きな態度然の割に君は面倒見が良すぎるからねぇ。本当にロドルフと出会ってからの君は貧乏くじを引きまくるね」

「ほっとけ」


客人の情報はとても貴重なため、おいそれとは情報を公開することはできない。

しかしいつかは公開しなくてはいけない情報であるのだが、ロドルフの事だから成人まではおいそれと人目に付くところには出したりしないだろうと、俺はまだ今後の事を軽く考えていた。


その後、いい意味でも悪い意味でも目立つ事になる彼女に・・いや、彼女に関係するものすべてがこれほど振り回されることになろうとはいったい誰が想像できたことだろう。





この日、この世界に新しく登録されたレフィール・ウェルナール嬢は時に問題を引き起こし、身内には最大限に恩恵を与えて俺たちの愛すべき娘となった。












とりあえず、第一章終わりです。


早足に終わらした感じですので、後々もう少し番外編的なものを書きたいと思ってます。

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