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オタクですけど、何か?  作者: TAKAHA
32/34

23話




「ママぁぁ!!」


バンッと勢いよく扉を開けて ――勿論跳ね返ってきたので―― それをすり抜けて私は大声を出す。

顔面で受け止めるというお約束な展開もあるが、痛いことは嫌なのでスルーします。


「無事でいてママぁ!!」


走り辛くて、足は止めずにいつも通り巻きスカートを脱ごうとしたのだが、今日に限ってのドレスを着ていたことに内心舌打ちする。仕方がないので思いっきりスカートをまくりあげて階段を目指す。

「ぅおーぃ!ちょっとは落ち着け~」そんなのんびりしたティーグおじ様の声を背中で受け止めつつも、私は玄関ホールからママがいるであろう部屋へと走った。



「お嬢様、お帰りなさいませ」



「お帰りになられたのですか、お嬢様」



「お帰りなさいませ」



途中、私の姿を見て驚きながらも挨拶を口にしてくれた侍女に女官侍従達がいたけど、挨拶を返す余裕もなく私はその場を走り抜ける。

その様子に皆が困ったような、それでいて微笑ましいと言うような笑みを浮かべていたことなどつゆ知らずに。


「あっ・・フォル兄様!!」


玄関ホールから2階へ、そして中央塔へ向かって奥の階段から3階へ駆け上がるとパパとママの主寝室まではもう少し。

因みに奥階段から東棟へ行くとマティ兄様の寝室や書斎等の私室部屋があり、西棟へ行くとフォル兄様私室になる。因みにいえば私の部屋は中央塔の2階の一角にある。


「え、レフィー?!」


ゼェゼェと肩で息をしながらもあと少しと思って廊下を駆けてその角を曲がると、部屋の前で青い顔をしたフォル兄様がウロウロと彷徨っていた。


「ぅえ・・ごほっ・・・に、いさま。ま、ママは?!」

「あ、あぁ・・・母上の事は分からない。まだ俺もついたばかりなんだ」


膝に手を置いて咳込んだ私に駆け寄った兄様は、私を追ってきていた侍女に水を持ってくるように指示を出すと、私を促して侍従によって運ばれてきた椅子に座った。

侍女が急ぎ持ってきた水をほぼ一気に飲み干して、多少落ち着いてから私はフォル兄様を見上げた。


「ねぇ、兄様」

「ん?」


フォル兄様の顔色はいつになく悪い。多分、兄様の眼には私もそう見えているのだろう。


「パパは?部屋には・・入れないの?」

「あぁ、さっき父上は俺にここで待つように言って部屋に戻って行った。兄上は手が離せないから、少し遅くなると伝言を受けているよ」


フォル兄様にも今回の事は寝耳に水だったようで、不安そうな顔でドアを見つめている。


「おやおや、早かったんだねフォル。君が一番遅くなると思っていた」

「はい、速達を受けまして部下達が行けと・・・リアンが引き継ぎ、部下はみな信用できる腕を持っていますので急ぎ参りました。ライラット卿」


ヒョコッという効果音が付きそうなほど飄々とした感じで角を曲がって歩いてきたティーグおじ様に、フォル兄様は勢いよく立ち上がって手を胸に当てて頭を下げた。


それは略式と言っても目上の上司にする敬礼。


色騎士であるフォル兄様が敬礼すると言うのにも驚いたが、そんな兄様が畏まって敬礼をするだけの力量を持つと言う事に私は驚き手にしていたコップを落としていた。


割れていなかったことはセーフ、セーーーフ!


「畏まったの好きじゃないんだけどなぁ・・・いつもの様でいいって。あと、それ邪魔だから脱ぎな」

「あ・・はい、師匠」


ティーグおじ様にそういわれて、フォル兄様は着込んでいた外套と鎧を全て外して侍従に預けた。汚れてはいなかったが上着まで脱いだ兄様の姿は騎士服のパンツにシャツと言うラフな格好になっていた。

純白のパンツとシャツに兄様の真っ赤な髪が映えていて、ラフな格好だと言うのにどこぞのアイドル以上にかっこいいとは、もう!けしからんな!!


「どうしたの?」

「え、えっと・・兄様の上司?」

「あぁ、ライラット卿は・・・師匠は、前黒騎士で俺達現色騎士の師匠なんだよ」


じっとフォル兄様の様子を見て居た私に、兄様は苦笑しながらそう教えてくれた。実力や魔力はサイラス様が凌駕してしまっているらしいが、それでも師匠であるティーグおじ様には頭が上がらないらしい。

因みにいえば、精霊の力を使えば圧勝だがフォル兄様自身の実力でいえばまだティーグおじ様に勝つことは出来ないが、着いていくことは出来るそう。


「ま、楽にしてなよ。ん~・・多分もう少しかかるでしょ」


扉を見つめながら考えるように言ったおじ様の言葉に、私とフォル兄様は顔を見合わせる事しか出来なかった。


部屋の中の様子は一切わからない。





イヤだ・・・イヤだ・・・。





「・・ぅ・・・死なないで」


蘇るのは、大好きな・・・大好きな曾祖母が死んでしまったその時の事。愛豊真琴の時は、親族が多かった割には二十歳も過ぎて曾祖母が無くなった時まで一度もお葬式というモノに出たことがなかった。


「大丈夫、レフィー・・・母上は大丈夫。兄上だってすぐに来るよ」

「うん・・うん」


あんなに元気だった曾祖母が急に寝たきりになってしまって、それから病院に運ばれた。ここは病院なんかに比べたら豪華すぎるし似ても似つかないはずなのに、あの待合で不安で待つどうしようもない気持ちがあの時に引きずられていく気がする。






+++





「―――~~・・・フォル!レフィー!?」


祈るような気持ちでいったいどれくらい待ったのだろう。まだ明るいが、眩しかった外は少し日が傾いていて少し暗くなり始めていた。

侍女達もおじ様の姿も消えており、いつの間にかその場には私とフォル兄様が2人だけで泣きそうな表情で手を握り合っていた。


「2人とも・・・一体どうした?真っ青じゃないか」

「兄上!」「兄様!」


座っていた私とフォル兄様の前に片膝をつき、心配そうに覗きこんでいるマティ兄様の暖かな手が私達の肩に置かれていて、その熱に少しほっと息が付けた。


「レフィーはともかく、フォルまでそんな青い顔をしてどうした?」


マティ兄様もフォル兄様や私のモノと同様の手紙を受け取ってきたはずなのに、その表情はいつもと変わらないどころか少し機嫌がよさそうにも見える。


「だ、だって兄上・・・母上が大病を患って死の淵をさまよっていると手紙がっ」

「・・・は?」


どこからともなく取り出したクシャクシャになっている手紙をさらに握りしめて叫ぶように言ったフォル兄様の言葉に、マティ兄様は小首を傾げて心底わからないと言う表情をしている。


「それなのに俺はろくに家にも帰らずに・・・知りもしなくて・・」

「ぅう、わだじもぉ・・・アニス様優先でママたちの事ないがしろにじでだぁ」


孝行する時親は無しとはよく言ったものだ。人間なんてみな自分勝手、あれをしておけばよかったこれをしておけばよかったと必ず後になって後悔する羽目になるんだ。

私とフォル兄様はつないでいた手を離して、震える手で肩に置かれたマティ兄様の手を両手で握りしめた。


「あぁ・・・うん。まぁ、そういう反応になるね」


眉尻を下げて苦笑したマティ兄様は左右で握られていたその手を1度ぎゅっと握り返してから解き、項垂れた私とフォル兄様の頭をクシャクシャっと撫でた。


「レフィーちょっとごめんね」

「ふぇ?」

「フォル、それ見せてごらん」

「・・・」


それからひとつ頷いたマティ兄様はすっと立ち上がって膝を払うと、私の両脇に手を差し込んでそのまま抱き上げた。そしてそれまで私が座っていたその椅子に腰を下ろすと私をその膝の上で抱きかかえ、フォル兄様が無言で差し出した手紙にさっと目を通すと手を伸ばしてフォル兄様の頭を抱き込むように抱き寄せた。

元々仲のいい兄弟だけど、項垂れているフォル兄様はされるがままにマティ兄様の肩にその頭を預けている。


「確かに私も心配ではあるけどね。フォルとレフィーには父上なりの照れ隠しと言うか、冗談も織り交ぜているんじゃ、ないかな?」

「「え?」」


フフッと困ったような表情を浮かべるマティ兄様を不思議と見上げた私とフォル兄様に、マティ兄様はあやす様に私は背中でフォル兄様は頭をぽんぽんと軽くたたかれた。

何時もは強くて頼りがいがあってしっかりしているフォル兄様だけど、やっぱりマティ兄様には敵わないみたい。

私もそうだから人の事とかは言えないけど、今日のフォル兄様はちょっと所在なさげな幼い子供のようにも見えた。





――――――と、そんな時だった。




「――――~~~~~さまぁ!!」

「~~~~~~~~~っ」


聞こえたママ付きの第一侍女の叫ぶ声と苦しそうなうめき声、そして部屋の中をバタバタと走り回っているであろう音が私達の耳に届いてきた。


「「!!!」」

「・・・」


私は勢いよく顔を扉の方へ向け、フォル兄様はガタンと言う音を立てて立ち上がり、マティ兄様はそんな私とフォル兄様を困ったような顔で見つめている。


そして沈黙の訪れた部屋の中。


冷静さを持てて居たら気が付いたんだろうなと、この時を振り返って私はいつも思う。だって、似た様な経験を・・・前の世界で1度経験していたのだから。


「フォル、レフィー。もういいみたいだよ」

「え?」

「・・何が」


カチャと言う小さな音とともにゆっくり開かれた扉を合図に立ち上がったマティ兄様に、背を押されたフォル兄様とそっと床に下ろされた私は困惑だけを張り付けた表情でマティ兄様を見上げる。


「母上達に会いに行こうか」


そう言ってにっこり微笑んだマティ兄様の視線は、開かれた扉の先でにこにこした表情で佇むパパに向けられていた。


「私達に、弟か妹が誕生したみたいだ」

「「・・・え?!」」


キョトンとした私達の耳に、マティ兄様の言葉を肯定するかのように泣いている赤子の声が聞こえてきたのは本当に直ぐの事だった。






さてさて~!弟か妹か?!


間が空くと思いますが、次回登場します!

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