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オタクですけど、何か?  作者: TAKAHA
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16話





「取りあえず、これどう思う?!大丈夫かな・・大丈夫かな?!」

「落ち着いて下さいませ。レフィーのでざいんはどれもすばらしいですわ」

「でもリーシャぁ~・・心臓破裂しそう」


数枚のデザイン画をリーシャ達に見せれば、彼女たちはそれを各々手に取って廻し見をしている。そして、私は直接会ったことがあるが、彼女たちは陛下に謁見したことはないので肖像画とそのデザイン画を見比べ意見を出し合っている。


「この装飾品はティーグ産の絹を使うべきでは」

「ここに使う飾りベルトの金具には、先日輸入されましたリヴァイアサンの牙が最適ですわ!」

「カブレスやユラウンなんて格下の皮は使えないわ!お色も白なのだからアルビオンや亜種のギリメーラを使うべきだわ」


素材に関して私はノーコメント。最初の指示でどんな感じの素材が良い!てな感じの事を伝えるだけで、私なんかの絵が100倍素晴らしい実物になる。我がお針子部隊は本当に素晴らしい。


それはそうと、何故今まで以上にこんなにも真剣に話し合いをしているのかは・・・お察しの方もいるかもしれないが、今現在の話し合いはこの国のトップたる陛下の為の服作りに関してだ。野牛や土竜だってレベルの高い物はそれこそ高級品に値するが、現在の話し合っている陛下のご要望の服は妃殿下や妹姫達と過ごすための普段着だ。

そう、普段着を作ってくれと頼まれてのことだったのだ。陛下に言われたのはシンプルでラフな感じの、何度も言うが“普段着”のはずなのだ。


雪竜アルビオンって・・・石竜ギリメーラの亜種って・・」


野牛カブレス土竜ユラウンはどちらもゲームでいえば最上級レベルモンスターやダンジョン最下層のボスレベルのレアものだ。実際のゲーム内ではカブレスはどこにでもいるちょっと強い雑魚だが、この世界では見た目も強さも違うんだ。土竜はモグラとは読まないよ!本当に4つ足で地を這う竜の事をそう呼ぶんだ。

ヒマラヤ山脈頂上みたいなところに生息する雪竜アルビオンは確かに王族用の素材だろうし、石竜ギリメーラの亜種はダイアモンド並みの輝きの鱗が特徴の魔竜だ。





それを・・・普段着如きで?





しかも陛下だけではないのに、陛下お1人だけでどれだけの予算にするつもりだこいつらは・・。と頭を抱えたくなってきた私だが、そこは優秀なマホヤが計算しているからもうほって置こう。


さて、まだお会いしたことないけれど皇妃様を始め陛下やヴィーのお姉さま方の服をデザインから制作までやることを条件に、侯爵家わがやからリーシャを始め私付きのお針子部隊を城に上げてもらった為にこんな事態を引き起こしてしまったようなものだ。


『マティの服もそうだったが、ウェルナール侯爵の着ている服も斬新で新しく興味をひかれてね。私たちの服も作ってくれないだろうか?』


と、そんな感じに陛下からのありがたいお言葉つきで! 陛下だけではなく王族全てってあたりで『マジかい!』って思わず叫びそうになったよ。これならちょっとデザイナーに関することを勉強しとくべきだったとちょっと後悔した。今更だけどさ。




それはそうと、私付きの侍女や女官は ――会った事ない―― 裏方も含めて30人以上いるらしいが、その中でも私に直接かかわりある侍女の6人はお針子部隊として侯爵家でもちょっとだけ特別。リーダーは勿論リーシャで、その下に5人の曲者がいる。


なんでもそつなくこなすリーシャ。パターンナーとしてトップの腕を誇る男装の麗人のマホヤ。最年少であり、レース編みの得意な見た目だけは美少女なシェリーは私より年下。この中では最年長で刺繍の得意なリズは極度の男嫌い。小物作りの得意なイケメンよりはかわいいモノや綺麗なものが好きなちょっとミーハーなシシー。高速縫いの得意な家出令嬢のエルマ。この6人が中心となって私の二次元イラスト三次元じつぶつにしてくれる。

ただし、先ほども言った通り6人が6人とも一癖も二癖もある者達ばかり・・・さすが、私の侍女とか思ったやつは挙手!!




実際その通りですとも、正直です事・・グスッ。




全員私が呆れるほどの主人わたし命ってところは、まぁ・・・置いといて、マホヤはちょっと某女性ばかりの劇団男役みたいにかっこいい。マホヤの服装だけは他のみんなと違ってタイトなスカートとネクタイシャツにベストと言う男装風だ。




***




「ねぇ、何でマティ兄様やフォル兄様達は一緒に来なかったの?」


私に当てられた部屋に着いて、リズに入れてもらった紅茶を一口飲んで私の左右に立つリーシャとマホヤ、そしてテーブルの向こう側に立つ他のみんなに視線をめぐらす。


「それはここが皇太子宮の奥の宮だからですわ」

「レフィー様・・・奥の宮の意味、覚えていらっしゃいますよね?」

「覚えてるけど・・え、私そんなアホっ子って思われてる?」


そんな私の疑問に溜息付きで答えたのは私付きの侍女長のリーシャと侍女と言うよりは執事っぽい恰好をしているマホヤ。

と言うかちょっとまって、何故みんなしてそんな生暖かい眼で私を見るの?!


「レフィー様、この奥の宮はいわば後宮。皇太子・・・様以外のすべての男は入れないと言われているのです。皇宮にもそうですが、建国当時から著名な魔術師達が数代にもわたって施したと言われる守護が付いているのです」

「へぇ・・そんな複雑な魔法が掛かってる場所だったんだ。すごいね、でも皇太子様だけってどう区別するわけ?やっぱり血かな?」

「我らには分かりかねますわ。お嬢様」


確か現在御子様と妃殿下、それに姫様方がお住まいの所が後宮だったはず・・あ、後宮って言っても陛下には妃殿下しか奥方がいないから後宮としては現在使われていないって言ってたっけ?てことは、皇太子宮の奥の宮は皇太子の為の後宮ってことか?



――――――――――にしては・・・広すぎやしないか?



まぁいいや、どんなんだろうと私には関係のない事だし。



うん、そうだってことで納得しておこう。それに今回の使用目的は違うし、私には一切関係ない場所だし、侍女たちも主である私以外は基本的どうでもいいって子だから皇宮に迷惑を掛けたりすることもないだろう。



そんな話を侍女たちと話してからの数日後、午後の勉強は古代文字で書かれた歴史書の勉強だった。歴史は貴族には特に大事だからって何度も暗記させられる程にやったし、伝記や神話などの話が大好物だった私は何度も読み返しただけあって・・・古代文字は難しかったけど楽しい授業だ。


「レフィール様、次の問題をお答えください」


先生はハシバミ色の髪と灰色の瞳の見た目だけはちょっときつめな女性の先生。名前はジーナ先生と言って、父様より年上らしいがそれはこの世界。どう年上として見ても30代前半くらいにしか見えない若々しい見た目だ。


噂では前皇帝陛下の乳母だったとかなんとか・・・。


「はい。えっと・・“白き力を持つ者”と“黒き力を持つ者”です」

「正解です。ではガルディス様、その次の文をお答えください」

「“両神の与えし力を持って、この世界は白と黒の二つの大陸と二つの中立皇家が生まれた”」

「その通りです。歴史学で何度も学ばれたはずですのでここでの詳細は省いていきましょう。そう何度も同じところをやっては眠くなってしまいますものね」


そういって私たちの方を向いてウィンクをしてくれたジーナ先生は確かにちょっと厳しいところもあるけど、こういったおちゃめな感じもあって楽しい人だ。そんな先生に私たちもクスクスと笑っていると、授業中に珍しくドアの向こうに人の気配がした。


コンコン


「では、次の・・・はい、どうぞ」


ちょっと笑った後で再び教科書に戻ろうとした先生の声に被さるように鳴ったドアのノック音に、先生は不思議そうな顔をしながら教科書をテーブルに置いてドアを開けに行く。


「まぁ、如何なさいました。今はまだ勉強中ですよ」

「申し訳ありません、マリアリア・ジーナ。勉強中に失礼いたします。実は、陛下からの御呼び出しでございます」

「まぁ・・そうですの、わかりました」


元々話がついていたのか、ドア越しにそんなやり取りが終わった後でジーナ先生は授業を切り上げて私達を先導して、先日私達が陛下と謁見した時の非公式の部屋に連れて行ってくれた。

マリアリアとは、初代シドラニア皇帝陛下を支えた豪傑な皇后殿下の名前だと言う。つまり、初代陛下のお母様の名前。

その為、“聖女の様な”や“賢い女性”には女性の中の女性と言う意味で“マダム”とか“レディー”の上級位と言う感じに使うみたい。前皇帝陛下が任命なさった ――妃や姫君たちを覗いての―― 貴族界の女性の中でのTOPだってことで“マリアリア”を名乗れる女性は彼女だけ。


「では、私は下がらせて頂きます」

「わかった。今日の分の勉強はまた次に頼む、マリアリア・ジーナの教えは面白い」

「ありがたいお言葉ですわ、殿下。失礼いたします」


先生に促されて部屋に入ると、中で待っていた人に陛下の正面ではなく右壁側に並ばされた。玉座にはいつも通り眩しい笑顔の陛下が座っており、その左右にはマティ兄様ともう一人の男性が立ち、またその後ろには黒と紅に白と青と別れて色騎士が立っている。

そして前回と同じく左右の壁側には多数の貴族たち・・ちなみに私たちはヴィー・ガルス・私の順に陛下側に立っている。


ヴィーが陛下に挨拶するのに続きガルスと私があいさつをしたその後まもなく、リヒトおじ様に連れられて部屋に現れたのはまるでお人形の様に小柄で可愛らしい少女だった。


「わ、あの方がアニス嬢?」

「そのはずだよ。噂で聞いていたより、幼く見えるけれど」


こっそりとガルスに近寄ると、それに気が付いたガルスが少し屈んでくれたので耳打ちすると、ガルスもそう私に耳打ちしてくれた。勿論、顔も視線も前を向いたままだ。


アニス嬢の深い緑色の髪は真夏の森の様で、眉の上で切りそろえられた前髪とフェイスラインの髪は顔に沿うように垂らして鎖骨のあたりで切りそろえられている。くりっと大きな瞳は焦げ茶色で、光の加減によっては金色の様に煌めいて見えてとても綺麗な人だった。

しかし、リーシャよりも年上だと聞いていたアニス嬢は成人の儀前としても幼い3~4歳くらいの見た目で、性格等ではなく魔力の歪みと絡みが原因と言われているのがしっくりくるほど顔色が悪かったので少し納得してしまった。


「顔を上げなさい。先日お会いした時は満足に挨拶できなくて申し訳なかったね」

「私のようなものに、そのようにあたたかいおことばをありがとうございます陛下。アルトスはくしゃくけがむすめアニス・トイノルトともうします。このたび、わたくしどものおねがいをきいてくださったこと、ふかくかんしゃいたします」

「険しい山越えだっただろう、良く参られた」

「いえ、陛下がつかわしてくださいました騎士様方のおかげでつらいことなどございませんでした。それから、シェリアリーゼ様とリオお兄様が陛下に感謝をと、言付かっております」


やっぱり年上なだけあって話している言葉はとてもしっかりしていた。

ほわぁ~っとちょっとギャップ萌えな可愛らしいアニス嬢に見惚れていた私だったけど、顔色が悪いのは体調が悪いせいだけではなさそうだ・・・僅かに震えているように見える彼女を見ていると、私もそうだったし緊張で震えているのだろうと思い直した。


「さて、アニス嬢。この城の滞在時に君に付き添う者を紹介しよう」

「はい」


少しの雑談のあと、陛下が視線と共に手で私たちの側を示したことでアニス嬢が初めてこちらに向き直った。

見れば見るほど不思議な感じがする。


「皇太子の地位に居ます。皇弟のヴィンス・クロスウェン・シドラニアです」

「シャルトルーズ侯爵子息のガルディス・サフラル・カルバンと申します。以後よろしくお願いいたします」


挨拶する二人に少しびっくりしてしまったが、それを全く気にしないそぶりをして私はニガテな・・でもここ最近はだいぶ慣れてきた笑顔の仮面をつけてアニス嬢に挨拶をするために口を開く。


「初めましてアニス嬢。ウェルナール侯爵家レフィール・リジアン・ウェルナールともうします。至らないところが多いですが、アニス嬢が過ごしやすいようにサポート・・お手伝いさせて頂きます」







やっとアニス嬢と対面。中々進められなくってホントどうしよう。

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