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オタクですけど、何か?  作者: TAKAHA
18/34

幕間

今回は2話連続で投稿しております。


そして、この幕間は前々から出ていた ”処刑” の話です。

短い話でさらっと書いていますが、暗い話になりますし残酷描写もあると思います。


もちろんこの話は飛ばして読んでいただいても大丈夫です。


この下に進むのは自己判断でお願いいたします。




















空は青く澄み、暖かな日差しが降り注ぐそんな日。





ある山の麓に建つ古い小さなお城に国中の民が集まり、いつもは寂しく風が通り過ぎるだけの寂れた狭い庭園が様々な色に染まっている。そして、その民衆の視線の先にいるのは国を腐らせる原因となった前王を始めとした貴族たちと、その家族・・・。



今回の騒動の中心であるリオラグド様はありとあらゆる情報を求め、多くの民を救おうとした。それは貴族にも当てはまり、腐敗した貴族の中にいる真面な人を最後の最後まで探していたけれど、見つかったのは極僅かだった。




そして始まった一斉粛清。当事者の1人として参加した身の私は、1人また1人と消えゆく命をこの目に、この心に焼きつけていた。末端の貴族たちから始まり、身分が徐々に上がって行っている。

本当は見ないように目を塞いでしまい、何も聞こえないようにこの場から逃げ出したかった。





―――――でも。






『・・・残酷な、ものだ。待機していなさい、見なくてもいい』

『いいえ・・私もむかんけいではないもの。さんか・・させてくださいませ』





立ち会うことを決めたのは自分自身。いつまでも立ち止まっていてはいけないと分かっているの、怖いけど―――・・





青ざめてカタカタと震えているのが自分でも良く分かる。そんな時、そっと私の肩に触れた温もりに、上を見上げるとサティーお兄様が悲しそうな表情で私を見下ろしていた。


「アニス、無理しなくてもいいんだ」

「ぃ・・いえ、私もお・・おぅけのいちいん・・・見なくては、いけないの」


ぎゅっとサティーお兄様の手を握りしめると握り返してくださる暖かいお兄様の手に勇気をもらい、涙で歪んだ視界のまま前方を見据えた。そこにあるのは赤く染まった断頭台と無数の屍・・・中枢を担っていた貴族たちも終わり、出てきたのは贅沢を繰り返し続けた前王の側室達と私たちの姉(妹)でもあるその子供たち、そして現王の側室達。


彼女らは気絶することも許されず、1人また1人と自分自身の足で階段を上らされている。


逃げようとしたものもいるけれど、その者は断頭台よりもさらに苦しく屈辱的な方法で処刑されていた為に、青ざめて震えてはいるものの誰一人として逆らおうとする者は居ない。





そんな中、一番見苦しく最後まで足掻いていたのは私の実母で寵妃と呼ばれていた毒婦。




あの女は小さな島国にある小国の姫でとても気位が高かった。しかも、その国は双子を忌み嫌う風潮があり、一卵性双生児の場合は2人の内1人は優秀な方の影武者として育てるが、男女の双子は不吉という事で公表はされずに必要ない片割れが殺されたと聞いた。




『わたくしの子供はかわいいアスファルドのみよ!この子が将来この国の頂点に立つの!ほぅら見て、わたくしそっくりなこの美しい髪に顔!』



『あぁ、嫌だ!なによこの腐ったような汚らしい髪!こんなものが私の中から出てきたと言うの?餌にするなり焼くなりしてさっさと処分して頂戴!』





そういって私だけを殺すように命じた実母(あの女)から、殺される寸前だった私をこっそりと引き取り守ってくださったのはシェリアリーゼ様の第一侍女を務めていた女性で、彼女が私を連れ帰って匿って下さるように頭を垂れたのはシェリアリーゼお母様と二人のお兄様だった。


あの女も双子で、自身の妹である影武者を嘘偽りで塗り固めて殺した・・・と言う話を、偶然助け出された彼女本人に聞いた。彼女は私と一緒にいるときだけは普段は魔石で変えている髪と瞳の色を元に戻してくれた。

一卵性の姉よりも濃い色合いの髪に濃い茶色の瞳のおば様を見ると、私はあの女よりおば様に瓜二つと言ってもいいほど似ていた。





おば様は私を助けてくださった恩人であり、私を心の底から愛しんでくださっているもう一人のお母様。





次々と処刑されていき、最後に連れてこられたあの女と前国王・・・そして、私の半身であるアスファルド。

本当に幼いころ偶然出会った、アスファルドはとても優しくて・・・あの眩しい笑顔に私は引き込まれた。私が彼と会ったことあるのは誰にも知られてはいないし言っていない。

彼も私と言う存在を知っていたはずなのに、出会ったことも私が生きているという事もすべてを黙認してくれていることは私以外知らなかった。



そして、私の実の両親と双子の兄の・・・最後の処刑の指揮だけは、リオお兄様に頼み込んで私が指揮を執る。



私の存在が表ざたになり、国民たちの中で暴動が起こったのはつい数日前の事。

今だって私を見つめる民たちは、疑心暗鬼な表情をしているものが大半で申し訳なさと恐怖がこみあげてくる。だからこれが私のけじめでもあり、生きて国に尽くす事の新しい一歩の為の行動となる。

心配そうに見つめてくれたリオお兄様に微笑んで見せ、サティーお兄様から手を放してあの三人が立つ断頭台の側まで歩み寄った。


「生きていたの?!あぁ、助けに来てくれたのね!!わたくしのかわいいかわいい娘!!貴女はお母様の事を見殺しにするというの?!ねぇ、早く助けなさい!!!」

「・・・」


そんな私を視界に止めたあの女があろうことか騎士を振り切って私の側まで来ようとした。

その顔には安堵が見られることから、私が助けに来たとでも思っているの?なぜ自分が殺したはずの娘があなたを助けに来たと思うの?





――――・・・本気で、助かると思っているの?





「何を呆けているの!どうしたの?お母様よ!分かるでしょう?!さっさと助けなさいったら!!この愚図がっ」


私よりは薄い緑色の髪を振り乱し、私と同じ焦げ茶色の瞳でこちらを見ているその女のキイキイと甲高いその声を聴くたびに、私の心が冷えていくのを感じた。ほの暗い感情と言うのだろうか、とても耳障りでならない。


「はは、おや・・?」

「あぁ、そうよ助け・・・・え・・な、に?」


私が呟いた声を拾ったのか騎士たちに押さえつけられたまま、喜びの顔で私を見上げたその女に私は冷たい視線と共に、初めてその女に向かって口を開いた。


「お前など母だと思ったこともないわ」


零れた言葉は自分自身でもびっくりするほど冷たい声色だった。でも、何故かそれが当たり前のように感じた私は心が凍っているのだろうか。

辺りがしんと静まり返り冷ややかな私の声だけが響いているが、それでも私は止めなかった。


「私の母はお前のようなメスじゃないわ!お前が殺せとめいじた赤子を引き取りそだてて、あいじょうをそそいでくださったのはお前が殺そうとしたレイティスおばさまとシェリアリーゼお母さま。そして、リオおにいさまとサティーおにいさまだけよ」

「な、何を言っているのよ・・」

「はじしらず!お前のりふじんなめいれいでいったい何人が死んだと思っているの?楽に死ねると思わないで!“あおきバラのしずく”で三日三晩くるしみもがいて地底深くに落ちて!!」

「な?!」


“青き薔薇の滴”は拷問用の即効性の劇薬であり、少量であれば死には至らないが量を服用すれば最低でも三日三晩は全身苦痛の為にのた打ち回り、悪夢と様々な痛みを伴いその中死へと導かれていく解毒剤の無い毒薬。いっそ一思いに殺してくれた方が何万倍も幸せだろうものだ。

それに相応しくあの女はただの娯楽の為だけに、小動物や城に上がったばかりの小姓や侍女を始めとして沢山の命を踏みにじってきた。その中には唯一の私の友達もいたのに・・・。



騎士に無理やり口をこじ開けられ、青色の鮮やかなその劇薬を飲まされている女に暫く冷たい視線を送っていた私はふとその上を見上げると、目を固く閉じたまま肩を落とした前国王である一言も言葉を交わしたことのない父と、何を考えているのか一切の表情の読めないアスファルドが民衆の方を向いたまま立っている。


視線を動かしたアスファルドと目が合うと私は無意識に唇を噛んでいた、そんな私を見つめていた彼は何故か口角をあげた。






「え?」






あの女が毒薬によってのた打ち回り始めたのを合図に、アスファルドと前国王は断頭台に固定された。





そして、民衆たちが見守る中で二人に向かって銀色に輝く刃が降りかかる。




「        」


「・・・・っ」




固まったままの私を引き寄せたリオお兄様に抱きしめられたまま、私は歓喜に沸く民衆たちの声をどこか遠くで聞いていた。

断頭台に固定される前と刃が振り下ろされる前、アスファルドは私に向かって言葉を紡いだ。




「アスファルド・・・っ」




赤い海に沈む彼の体を目にし、私はただ立ち尽くした。そんな私を庇うように抱きしめてくれるリオお兄様と、片手で私の眼を覆っているサティーお兄様。

暫くして私をサティーお兄様に預けると、リオお兄様は民衆の前に立ち高らかに宣言していた。




++++





「大丈夫かい、アニス」

「・・・おにぃさま」


サティーお兄様に民衆の前から城の影に連れて来られた私を、お兄様は服が汚れるのも気にせずに膝立ちで心配そうに見上げている。


「お・・にい、さま」


堪えて居た何かが弾けるかのように、急にあふれた涙と嗚咽。サティーお兄様の首に抱きつき、私はただただ泣いた。

目の前で消えていく命が恐ろしかった。私の手で命を絶ったのだ、恐ろしくない筈がない。




でも、それよりも・・・それ以上に・・・




「ア、アスファルドは・・ほんと、は・・や、やさっ・・やさし、のよ」

「・・・うん」


私をあやすように背中をトントンと叩くサティーお兄様の声も、どこか沈んでいるように思う。


「お、おにぃ・・さまたち、には、だまってたけど・・・アスファルドに、あったことあるの」

「・・・そう」



今日、私たちは身内を沢山失った。



「だい・・すきなのっ・・・ぉにっ、さまたちと・・おなじっ」



元々相容れない姉達だったけれど、血の上では半分だけだけど同じ血が流れている家族だったのに。


「うん。そうだね、アニス」

「ぅえっ・・・アス、ファルドぉ~~っ」


もっとこの国が平和だったのならば、もっと父王が民の為に力を尽くす賢王であったならば、シェリアリーゼお母様の様な方が側室の中に沢山いれば・・・済んでしまったことはもう変わりようがない。

だけど、もしもまた違った関係か築けていたのなら・・そう思ってしまうのは仕方ないよね?

考えてはだめだって頭では理解しているの、“もし”なんて・・そんなのは夢物語でしかないってことは頭ではキチンと理解はしているの。


「ぅ・・うぅ・・・ひっ・・」

「凛々しかったよ、アニス。辛い事をさせたね、立派に王女として立っていた」

「兄上」


暫くするとシドラニアの皇帝とその側近と共にリオお兄様が合流し、膝が汚れてしまうのにサティーお兄様と同じくその場に膝立ちして私を抱きしめてくれた。


「お・・にいさま。わ、わたし・・忘れないわ」

「うん」



「・・・アス・・ファルド、のこと・・みんなの、ことっ」


「うん」

「あぁ」





私の近くにいたお兄様たちには分かったのだろう、アスファルドの最後の言葉が・・。





一緒に生まれても、私たちは兄妹として育てなかった。





光の中で育った彼と、闇の中でひっそりと育った私。






でも、お互いの事は知っていた。






偶然出会った幼いころの貴方と、成人の儀を終えた貴方。直接出会ったのは本当に片手で数えるだけだったけれど・・・。





私の大切な半身だった・・・アスファルド。










『アニス、俺の半身 ―――――ずっと、愛してる――――― 』
















今日もありがとうございました。


自分的にはぎりぎりまでアスファルドのキャラを決めかねてました。

”子供じみた、ただの最低な人”で行こうかと思いましたが、出来ませんでした。後々アスファルドの独白を番外編で書きたいと思います。

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