11話
「お前誰だ?見かけない顔だな」
「素に戻ってるよ、エル」
私は1人、綺麗な花が咲き誇るガーデンを散歩していた。誰もいないと思っていた庭の、黄色の花がアーチ状になっている生け垣の裏から現れた少年2人組に私の眼は釘づけだった。
「おい?そこのお前・・・その服からするに伯爵以上の家だな」
少し尊大な態度をとっている11歳前後くらいに見える黒髪くせ毛の少年は、まるで某漫画の幼少期の写しを3Dで見ているようだ。日焼けした健康的にやけた肌と、彼の身に着けている装飾や服からすると南の方の国の人だろう。南の国の事はよく知らないが、多分貴族階級だと思われる。
「エル!御母上にその口調ばれたら怒られるんじゃないのかい?君も名乗りもしていないのだから、彼女だって答えられないだろう?」
そして、その彼を窘めているのは淡い金髪をベリーショートにしている、柔らかそうな雰囲気の背丈も年齢も同じ年っぽい少年だ。金髪の貴族階級の少年はこの国の人間だろうと思う。本当に自分の知識の無さが―――いやいや、家紋と爵位は覚えたけどね・・誰にも会わせてもらえないから覚えようもねぇよ!
―――とかいって、人の顔と名前覚えんの超苦手だけど~。
エルと呼ばれた彼同様某漫画のキャラに似ているうえに、見た目もそうだが何から何まで似ていて・・・駄目だ、にやけない様に軽く握った手で口元を抑えただけでは今にも叫びそうだ。てか、心の底から叫びたい!なにコレ?!
++++
その日の昼過ぎ。ワイバーンで行けばすぐなのだが、皇宮へという事でウェルナール侯爵家からシュタインヴェルタへと馬車で向かい、そこから魔道扉で王都へと飛び、再び馬車で城へという正規の手段で――寄り道も含めて――4時間ほどかけて移動した。
「にいちゃま、わたしのすがた・・へんじゃない?だいじょうぶ?」
「心配しなくても可愛いレフィーはいつも何着ても可愛いよ。だけど、今日は特別に可憐だね。陛下もきっと褒めてくださるよ」
初めて、リーシャを始めとする侍女たちにこれでもかという程、髪はリボンを編み込んで結わえ、子供にしてはそれ可笑しくないかと言うくらいアクセサリーなども付けられた。
しかも、あまり好きではないドレス姿・・リーシャが久々に腕をふるえたとかで仕上がりはいいだろうけど、私に似会うとは到底思えない。あ、この姿ならいいか!いやそうじゃなくて、でも緊張で気持ち悪くなってきた。
私の態度が陛下の機嫌を損ねて家に迷惑が掛かったらどうしよう―――など考えは、いつもの輝かしい笑顔で甘い言葉を掛けてくる兄様に少し楽にはなったけど、逆に気恥ずかしさで沸騰しそうだ。恥ずかし気もなくよくそんな言葉を口にできるものだ・・。
「緊張しているレフィーもかわいいなぁ。ホント、陛下以外に見せたくないよ」
「・・・」
兄の考えや基準が良く分からないけども、取りあえずその兄様にそのあたりは突っ込んでも無駄だという事を重々理解しているので無言で行く。
王城へ兄と共に登城した私は、待つこともないそのまますぐに陛下のお茶の席に畏れ多くも同席を許された。陛下は白と淡い緑を基調としたティールームですでに待たれていて、緊張極限の私のつたない挨拶にも笑顔で答えてくれた。勿論、最低限人払いされた部屋だったのでヴェルエをとってもいいと(兄から)許可が出ていたので顔を出していた。
「陛下、お待たせしました。この子がお話ししました最愛の妹です」
「れ、レフィール・リジアン・ウェルナールともうします」
「よく来てくれたね、レフィール。“前の名前”も聞いてもいいかな?」
「まえ?・・あ、マコト・アイホウともうします」
陛下はマティ兄様の顎の位置くらいまでの身長で細身の体型だ。女顔とまでは行っていないが物凄く整った綺麗な顔立ちと兄様とはまた違う綺麗な銀髪をしていた。絵姿ではよく拝見していたが、実物は“神々しい方”この一言に尽きるだろう。
マティ兄様も優に190cmはありそうな身長なので、陛下は大体180cmちょっとはあるんじゃないかと思う。なんだってこの世界はこんなに整って色々持っている人ばかりなのだろうか!?
「君の噂はよくマティやフォルから聞いていたよ。妻も会いたがっていたが少し体調が悪くてね、また会ってくれると嬉しい」
「は、はい!ありがとうございまっしゅ・・・(あ、はずっ・・噛んだぁぁ)」
「ふふふ、そう緊張しないでいいよ。さぁ、2人共席に」
広い美しいガーデンが見渡せるテラスにて、とてもおいしく綺麗なお菓子と、私がこの世界に持ち込んだ珈琲が前に出された。自分が持ってきた分はカイさんに分けてあげた分を除き、飲みきってしまっていたのでずいぶん久しぶりだ。
「わぁっ、コーヒーだ!」
「あぁ、そういえばこれを持ってきてくれたのはレフィーだったね」
嬉し過ぎて思わず大きな声を出してしまったが、陛下は嫌な顔をするどころか嬉しそうに微笑んで私を見た。
私がこの世界にレフィールとして登録された後、“愛豊 真琴”の名前と私が持ち込んだ物だけは広まっていたと、陛下から聞かされた。本当に何も聞かされてない事がびっくりだよ。
自分がこの世界に持ち込んだ物を気に入って貰えたりするとやっぱり少し気分がいい。珈琲の他にフレーバーティーや料理なんかも私が知っているものは全てカイさんに教えたので、着々とウェルナール候領から皇都へ、そして皇都から全国へと広まっているらしい。
「ロドルフ殿が1年ほど前に持ってきてくれたのだよ。何でも納得のいくものが出来るまでに時間がかかりすぎたんだってね。見た目にびっくりしたけれど、一口飲んでからとても気に入ってしまってね」
「そうなんですか、わたしもひさびさにのめてうれしいです」
姿は子供になったけど味覚は変わっていないらしく、大好きなブラックコーヒーを数年ぶりに堪能した。この味はグァテマラに近い感じで飲みやすい。あぁ、香りが最高に良い。
手にしたカップから視線を2人に向けて観察すると、陛下はブラックで飲んでいたけど、マティ兄様はミルクを少し入れていた。
一つ一つの行動がこれほどまでに絵になるとは、こんな陛下が国のトップなら超萌える。ずっと見て居られる。
それから兄様と共に3人で、主に異世界の事の話しをしていた。陛下は楽しそうに私に話しかけてくださったり、質問したりと上機嫌だった。良かった、何も粗相しなくて済んだみたいだった。
が、お茶会も終盤に差し掛かったそんな折に何か起こったらしく、陛下共々兄様までも緊急招集されてしまった。
さすがに私を連れて行ける場でもなかった兄様は、渋々ながらも部屋に私を残して仕事に向かっていった。ただし、この部屋から遠く離れた所に勝手にふらふらと出ない事と口酸っぱく言い聞かせて・・・。
「そこまでいわれなくたって、くびしめるようなことしないよぉ」
2人が颯爽と出ていき、閉められたドアに口を尖らせてボソッと呟いた。好き好んで折角鎮火しているモノに油を注いだりするもんですか―――そう思って暫くは勿論部屋に居たのだけど、暇を持て余した私は庭に出てはいけないとは言われてなかったので興味本位で広いテラスからそっと階段を伝って庭に下りてみた。
「とおくまでいかなければ、おこられないよね」
そして、冒頭に戻る。
「おい、お前ここで何やっている?」
「だーかーらー、名乗ってからにしろってば!」
バシッ
「いって・・酷くないか?」
目の前で繰り広げられる二人の掛け合いに、オタク心が疼く・・・マジで幼少期ぃ!!最高!!てか、すんごぉ~!ここまでそっくりな人が実際におったぁぁぁーーーっ!!
取りあえず心の中で叫ぶ。駄目だ、プルプル震えるのだけは誤魔化せないだろうけどそれでもいい。
と、ひとしきり心の中で叫びまくって多少落ち着いたので顔をあげると、ちょうどあちらの話も終わった所だったらしく、2人からの視線とかち合った。あぁ、また叫びたくなってきた・・。
「あ~・・俺は、南の隣国のエルスガルドだ。エルとよば・・」
「あ、じゃあ!あいしょうはエースで!」
「は?!」
興奮収まらぬまま叫ぶように言うと、エルスガルドと言う名前の少年はポカンとした顔のまま固まっている。
次は?と私が顔を向けると、「エース・・そう呼べなくもないね」と微笑んでいる少年が!
「僕はシャルトルーズ侯爵家の次男のガルディス・サフラル・カ・・・」
「サボってよぶ!」
「えっ・・どこから出てきたのそれ!?」
漫画の中から出しましたとも。めっちゃしっくりきますけどー、私の中では。
是非ともこれから仲良くしていって鑑賞したい。てか、あれ?なんか次男ってとこを妙に強調していたような・・・ま、いっか。
ポカーンとしている2人を余所に、めちゃくちゃ身悶える私・・・表面はなるべく冷静を装っていますけどね。
再び心と頭の中で叫び身悶えて何とか落ち着いてから顔をあげると、どこかで見たことあるような、何かの漫画のキャラに似てたっけ?と思うような人が1人近づいてきた。
年はこの2人と同じくらいだと思うが、どこで?いや、なにで見たのか・・思い出せない。
「エルもガルスもここにいたのか、探した・・・二人の知り合いか?」
「いや、俺らも初めて会った」
「自己紹介していたところだよ」
小首傾げて暫く観察していると、話し終わった3人が私の方を向いてきた。成人前らしいが、私よりは年上っぽい3人。その3人の腰より少し高い位置が私の頭だったので、3人は取りあえず私と視線を合わせるように屈んでくれていた。
後から来たのは色白でさらっさらストレートな黒髪の人だ。どこにでもいそうな感じだが、顔に似つかわしくない少し乱暴そうな言葉使いと服装から察するに男?
まぁ、声は声変わり前だとして高いのは納得だが、絶対パンツ姿よりはドレスの方が似合いそうにおも・・・あっ!
そこまで考えて一人思い当った。そうだ、会ったことがあったわ。
「だいにおうじ!」
「・・あ、あぁ。確かに俺は第二のヴィンスだ」
失礼にもめっちゃ指差して叫んでしまった。あの時はめちゃくちゃかわいいお嬢ちゃんだと思って連呼していたが、後々カイさんに絵姿見せてもらってどう見ても可憐な女の子にしか見えなかったあれが男だと知ってショックを受けたものだ。
あの時から多少背が伸びているみたいだが、相変わらず女顔だと思う。
「ぅっわ~・・10ねんまえにみたときとおなじで、おんなにしかみえない!」
「「あ」」
「・・・・・・・・・・」
私がこの世界に来たばかりの時にオリエントの森(の外)で出会った、あの白黒騎士に守られていたお嬢ちゃん・・・もとい第二皇子様。
あぁ納得~!と言う感じにグーにした右手をポンと左手に置いたが、そんな私をどうしてそんな驚いた眼で見ているのですか?お二人は・・・。
「お、落ち着こうなヴィー」
「そうだよ。こ、子供のいう事なんだから」
「・・・・・・」
そう思っていたら、何故か俯いてしまっている第二皇子を焦ったような顔と声で両側から二人は押さえつけた。
「・・・・女みたい、女顔、美少女・・・」
何と言っているのかは聞こえないが、ぼそぼそ呟き始めた第二皇子を不思議そうに見ていると、エースもといエルスガルドが羽交い絞めにし、ガルディス(あぁ、サボと呼びたい)が私を庇うかのように前に立った。
「なんですか?」
「あ・・あぁ、ヴィー。ヴィンスにとっての禁句を君が言っちゃったんだよ」
「きんく?」
不思議そうに私が裾を引っ張って見上げると、ガルディスが困ったような顔をして振り返ってくれた。言われたことを反芻しながらそろっとガルディスの影から顔をのぞかせると、「放せエル!!」「とりあえず落ち着け、相手は子供だ!」と騒いでいる二人が目に入った。
うん、理解した。
彼は自分の容姿がコンプレックスなんですね(笑)。ですよねー!その喋り方といい気にしていますよねー!
でもそこで終わる私じゃない。敢えて言おうじゃないか。
「え~?きれーなおかおでいーじゃないですかぁ。おーじさまいじょうにぃ~、きれいなおねえさんみたことない!」
「「ぅわっ!馬鹿!!」」
「てめぇ・・」
馬鹿とは失礼な、そして苦しいので私の口をふさがないでください。もちろん分かっていて言いました。そしてあの兄の事だ、第二皇子がぶちキレた所で多分何とかしてくれる。
何より、どっちにしろ陛下以外の人と口をきいてしまったことに今更ながら気が付いたので、お仕置きされるのが前提ならばここで発散しておいてやりたい。
「だから落ち着け!!ヴィンス!!」
「放せって言ってるだろうがっ!」
「エルそのまま放さないで!力ではヴィーは勝てない!」
「ひりきそうなのみたままなんだ~」
「うん、剣術は武闘派のエルと対等なんだけどね」
「てめぇ、黙ってろガル!!」
あはははは、カオス!!ニヤニヤしながら言った私の言葉に、ため息をつきながら返してくれたガルディスの台詞なんて呟かれた程なのに聞こえたらしい。結構距離あるのになぁ、どんな地獄耳だよ皇子様。
暫くして、皇子様がようやく落ち着いた――・・と、言うよりは力尽きました。私は取りあえずその3人と共にさっきまでいたティールームに戻り、控えていた侍女が入れなおしてくれたお茶を前に、ぼろぼろで不貞腐れた皇子と同じくぼろぼろだけどケロッとしたエルスガルドと困ったような笑顔のガルディスが座った。
「で?お前誰だよ・・・この部屋に入れたってことは今日来ると言われていた兄上の客だろう」
「あれ?聞いてないの」
「ヴァドル殿が秘密にしていたみたいだぞ。それより・・・」
3人が話をしているのを尻目に、私はお菓子に夢中を貫いていました。だってさっきと品数代わってるしぃ~。知り合いに・・いやできれば友達レベルに仲良くなりたいけども、兄様方にかかわりたくないしぃ。
「なぁ、さっきヴィンスの事10年前って言ってなかったか?どこで会ったんだ?」
「う?うん、10ねんまえにであったこと・・・であったというか、みた?いや、ちょっとはなししたからあったかな?ばしょは、いったらばれちゃうからなぁ」
バクバクとケーキを食べつつ私好みのコーヒーを啜る。さっきと違って今度はブラジルかな。コクがあって苦みが強いタイプだ、良かった酸味の強いタイプは嫌いだからな。
私の左隣で頬杖を付きつつクッキーを頬張るのはエルスガルド。彼はコーヒーが飲めないのか、フレーバーティーを飲んでいる。そのフレーバーティーも私が持ってきたものらしい。
「君は何歳?どうして今日ここに一人でいるの?」
「わたしは、にいちゃまにつれられてきた。1人なのは、にいちゃまがよばれていっちゃったから。“サボ”はなんさい?」
「うん、僕の名前は“ガルディス”だからね。僕らの年齢?そういえば言ってなかったね」
私の右隣にいるガルディスは、珈琲に角砂糖ひとつとミルクを入れてほぼカフェオレの状態にして、猫舌なのかまだ混ぜている。良い笑顔なのだがちょっと怖いので、素直に許可された愛称のガルスって呼ぶことにする。エルスガルドは“エル”としか呼んではいけないらしい。チェ~・・。
色々質問されるが、マティ兄様とフォル兄様は私の事があまり知られて欲しくないみたいだから言わない方がいいよなぁ~?難しいなぁと思いつつも質問返しばかりしてみるが、それにすべて丁寧に答えてくれる。
おぉ、ガルスってばやっさし~ぃ。
「僕は47歳で同い年のヴィーの乳兄弟なんだ。エルは40歳で、僕らより少し下だね」
「へぇ~!それじゃ、わたしとちかいといえばちかいね」
「お前は何歳なんだ・・・近いって、15か16あたりだと思ってたが」
「ん?みたままでしょ?」
キャハッ
そんな効果音が付きそうなほどしらばっくれてみたが、3人からは疑惑の視線を浴びる浴びる。そりゃそうだよね~!
成人前は精神年齢=見た目と同じくらいらしいから、そういうことでしょうとも。普通なら39ともなれば大体8歳~10歳くらいの見目になって居てもおかしくない所、私の見た目年齢は大体4歳前後。ちょっとやばいよね、兄に流されるだけはそろそろやめておいた方がいいのかも、と思ってみたりするがそうそう内面は変わらねぇ。
「いいます、いいますよぉ~。わたしは39さい・・・とりあえず、にいちゃまがきびしいから、なのれない」
「39?!マジか!!俺と1つしか違わねぇのか!?」
「もったいぶってねぇで言や良いだろうが」
ギャーギャーと暫く騒いでいたヴィンス皇子とエルだったが、ガルスの微笑一つで大人しくなった時にこの3人の力関係を理解した。
うんうん、大人しそうとか普段ニコニコしている人は8割がた黒いよね!他2割は天然ってだけだよね。
そして、暫くは兄様も戻ってこなかったのもあって時を忘れてこの3人とワイワイと会話を楽しみつつ、目の保養をしていた。いやぁ、10年ぶりにあの大好きな漫画を思わせる(見た目だけでも)モノを目にできて幸せな気分だった。
コンコン
「なんだ、入れ」
「失礼いたします。ヴィンス殿下、こちらにおいででしたか」
「メルヴィ?何か用か?」
ノックされた扉に視線を向け、本当に顔や見た目に似合わず口の悪い皇子様が返事をした。
そして入ってきたのは明らかに執事長くらいの威厳を纏った無表情だが容姿の整った男性で、ヴィンス皇子を始めエルやガルスもこの部屋に居たことに驚いたらしく少し目を見開いていた。
「レ・・・お嬢様、お父上様がお迎えにいらっしゃいました」
「おとうさまが?おにいちゃまはどうしたのですか?」
「お兄様は“手が離せない案件が入ってしまって申し訳ない。父上に全て伝えてある”との伝言にございます。その代わりにお父上様がお越しです」
「そうなんですか」
やっぱりあの慌てて出て行ったことといい、緊急な良くない事があったんだろうけど、大事に至らなければ良いと思う。
でも、父様が来たという事なのならばそこまで大事ではないという風に思っていていいかな?
「みなさま、たのしいおじかんありがとうございました。むかえがきてしまいましたので、わたくしはおさきにしつれいいたします」
執事長に手を取られて椅子から降りてテーブルを振り返り、きちんと淑女としての礼でドレスをつまみ片足引いて腰から深々と頭を下げたら・・・いやいやいや、そこまで驚いた顔するとかなくね?
私どんだけ常識もないような幼児に思われていたわけ?と、まぁちょっと腹が立ったが、そのままさっさと部屋をでて、父様の待つ部屋まで連れてきてもらった。
「あぁぁぁ!!私のレフィール!!会いたかったよ、この離れていた数日がどれだけ寂しかったか!!」
「ご、ごふぃふぇんひょう(ごきげんよう)。パパ!」
「今日も可愛いですねぇ!私のレフィー!!」
お・・おぉぉっ・・。相変わらずですねぇ、父様。私が部屋に入った瞬間に抱き上げて頬擦りって。あぁ、あの執事さんドン引きした様な表情を一瞬したよ、さすがに優秀な人だけあってすぐにもとの無表情に変わっていたけどね。
暫くは父様に放してもらえませんでした。因みに、父様と母様の事はパパとママって呼ばせられてる。この世界にはそんな呼び方はなかったんだけど、“異世界の呼び方”の中でそれが気に入ったらしく、そう呼ばないととても悲しそうな顔がするから仕方なく呼び始めて定着してしまった。
「マティとフォルは少し問題が起きたみたいでしたので、一足先にグリアフォールへ行ったんだよ。レフィーは今日このままパパと一緒にグランチェーニに行って観光しよっか」
超が付きそうなほどのご機嫌な父様に抱っこされたまま城から出た私は、そのまま横づけにされていた皇家の紋章の入った馬車に乗り込んだ。そして、馬車が動き出したところで父様が私を見下ろしながら機嫌よさそうに口を開いた。
「かんこうしたい!あ、でもパパ・・わたしよういしてないよ?」
兄が一足先にグリアフォールに行ってしまったという事で、予定していたグランチェーニ観光が無くなってしまったと思っていた私は父様の言葉に喜び勇んで答えだが、明日出発という事で特に何も準備していなかったことを思い出した。
しかし、そんな私の問いにもただ大丈夫とほほ笑むだけの父様の膝の上で、私は首を傾げるしかない。
その上に馬車の窓からふと外に目を向けると、何やら向かっている方向が違う気がする。
「ふふふ、最近あの子たちは調子に乗ってるからね。良い薬でしょう」
「え?」
見えてきたのは大聖堂。この聖堂の魔道扉から一気にグランチェーニに飛ぶって言っていたけども、それより・・・あの、お父様?その黒い笑みは何ですの?
「ん?あぁ、ママが一緒に来れなくて残念だったなって思ってね」
「あ、ママはどうしたの?」
「前皇妃様と一緒にお茶会を開いていてね、お土産をたくさん買って行ってあげようね」
なんだかあからさまにはぐらかされたけど、深入りして行くのも嫌だからこのまま流されておいた方がいいと言うのはすでに嫌というほど学んでいる。父様は誰もが認めるほど子煩悩だけれど、時々兄様達に突拍子もない無理難題を突き付けたりして試すという事をする。そのうち私もと考えるだけでゾッとするが、今は考えないようにしようと思う。
「パパ、わたしりょこうとてもうれしい!」
「初めての遠出だからね、大変なこともあるかもしれないけど楽しもうね」
キャハ~と本気で無邪気に父様に抱きつくと、普段の表情を7割以上崩して(も、見た目良いってどんだけ!)私をこれでもかってほどデレッとした顔で抱きしめて頬擦りしてきた。
おふっ・・墓穴!
「パ・・パパ、グランチェーニってどんなところ?おおきなまちなんでしょ?」
「うん?あぁ、グランチェーニかい?中心部はバルセの3倍は大きな町だよ。その街を囲むように田畑の農地や、食肉から様々な動物を飼っている酪農村は総面積でいえばさらに街の10倍ほどの広さだね。あそこを取り仕切っているのはシャルトルーズ侯爵領になるよ」
「おおきいね」
「私が賜っている領も、オリエントの森が入るから総面積でいえば同じようなものだけどね。それがなくても貴族界では一番広く一番重要な領と言えるよ。まぁ、シャルトルーズの方が血筋的に皇家に近いと言うのもあるかな」
「勿論その次に重要な領はパパが賜っているところだよ」と、とてもいい笑顔で説明してくれたけれども・・・もはや私は間抜けな顔でポカンとするしかないよ。本当に何も知らなかった。
父様の話は少し続いて、シャルトルーズは過去異世界人男性を養子にし、その子供と別の異世界人の子供を結婚させたとかで異世界人の血が濃く出て居た一族らしい。その為に子沢山なだけあって結構な頻度で王家縁等の配偶者を選出していたらしい。
ん?シャルトルーズってどこかで聞いた・・・どこだったっけ?
うぅ~~~~んとぉ、思い出せない・・なんだったか、勘違いだったかな?
私が分からない事に悩み、結構自由にしてくれる父様との旅行の楽しみで浮かれて百面相をしている私の隣で父様は微笑ましそうに私を見ていた。
が、その父様が少し黒い笑みを浮かべていた事とか――――。
「かわいい可愛いレフィーに構いたい気持ちはわかるけど、あの子達にはもう少し考えるという事をして欲しいものだよ。まったく」
何か意味ありげなことを呟いていたのを私は知らないし、大きなため息をついていたことは、本気で知らない。
思った以上に話が長くなってしまいました・・・。
そして、新キャラ登場です!なるべく名前出さないようにしましたが、どこまで許されるのかな―――あ、アウトっすか?!
パパさん何か企んでいます。ですが、パパさんは超が付くほど子煩悩です。
特に娘は目に入れても全く痛くありません。