10話
蘇るあの羞恥の記憶。
異世界に来た当初はサバイバルな生活をしていただけあって、それだけで非日常だったからあまり色々と気にしてはいなかった。
貴族の家に入らなくてはならなくなった時には、正直『げぇっ、マジかよ!めんどくせぇ!!』とか思っ・・いや、口に出したけども、今思えば良かったと思う。
―――・・あ、いや・・本当に良かったのか、少々疑問はあると言えばあるけども。
そう、あれは7年前。この世界に来てまだ3年ほどしか経ってなかった時だ。
早くもワイバーンの操縦を覚え、バランス感覚もよくなってきて漸く一人で乗ることを許されたのが嬉しくて、ついついはしゃぎ過ぎて家の敷地から少し出てしまっただけなのにとてつもなく怒られたのだ。
しかも、その距離はたったの5センチ。5センチだよ、5センチ!あり得る?そりゃ危ないから出ちゃいけないって言われていたけどさ、たったの5センチって出たって言えなくね?
てか、良くそこまで見ていたってことに感心を通り越して恐怖を感じたし。でもさぁ、そこまで怒る?普通じゃないって本当に思った。父母のお仕置きはまだ普通なのに、兄たちのお仕置きは精神上・・いや心身ともに本当に堪えた。
あの時はさすがにまだこの世界にも不慣れだったし、元の世界では立派な成人だったじゃない。しかも私には2回りも違う甥っ子いたし、この外見だから多少は子供のようにふるまっていても、実際の幼児化ってわけじゃないのにそこまで子ども扱いされたって困るじゃないですか!!?
父となってくれたロドルフさんは ――私には―― いつもにこにこと微笑みかけてくれて、包容力のある大黒柱でとっても頼りになる ――見た目も私の好みに入る―― 大好きなお父様だ。が、その反面、家に居る時は常に私を抱っこしようとするのが困る。スキンシップが激し過ぎやしないだろうか?最初の内はホームシックとかもあったから嬉しかったのだけどねぇ。
母となってくれたフレアリーゼさんは知的など天然って感じ。見た目は吊目美人で、元女剣士なだけあってすごく厳しいところもある。が、ひとたび素に戻って口を開くと意外と子供っぽい。人の事をやたらと着せ替えるのは ――お茶用とか朝用昼用夜用とかってやたらとドレスを作られたりする―― 貴族はそういうものだと思っていたのだけど、どうもそういうのが趣味らしい。そんなに服いりませんし、ホントヤメテクダサイ。
そして、仲良くなれるかどうか心配だった二人のお兄さんは、殊の外私の事を気に入ってくれたみたいで文字通りいつもべったりと側にいてくれた。
馬に載せて散歩に連れて行ってくれたし、頭の悪い私にそれこそ根気よく文字の読み書きを教えてくれたし、簡単な歴史や貴族の在り方などを教えてくれた。
まるで漫画から抜け出たかのような理想的なお兄様像に、私がすぐさま落ちたのは言うまでもない。
私は短髪よりはそこそこ長い髪の似合うイケメンが好きだ。やっぱり誰しも思うと思うけど、イケメンが“甘えられる兄”や“懐いてくれる弟”としていたら最高だ。
ぶっちゃけ、世の中の男どもに対して恋愛対象としての興味は皆無に近い。だって、それについての私の理想は ――マッスル過ぎはNGだが―― 高身長で腹筋が6つに割れるほど鍛えられたしっかりした身体のイケメンが好きだから。男として理想的と思うのは本気で漫画にしかいないじゃないか。
アイドルの様な細身や女顔も嫌いじゃないけれど、それは恋愛対象ではなくって鑑賞対象じゃないかなって思うんだよね。
そして、クールな銀髪紫瞳と、ワイルドで爽やか運動神経抜群で鍛えられた体の長身長髪美形な私好みの男性が2人も実兄として私をデロデロに甘やかしてくれる・・。
『おにいさまだいすき!もうわたしおにいさまとけっこんしたい!』
って言っちゃうよね、てか言っちゃったんだよね。あの時は別によかったんだよ、自分自身も。嬉しそうに笑った二人のお兄様の笑顔とか眩しすぎて鼻血出そうだったし?
でもさ、暫くして本当に後悔した。
何でも、私の事をちょっと侮辱した――と言う噂を聞いただけで真意は知らない――マティアス兄様の婚約者(候補?)が、誰が誰をとは知らないけども実家血族諸共没落させられたという話を聞いた。
まぁ、それは置いといて―――・・。
前頭の方で話したお仕置きと言うのが、色々あるのだが殆どが私を幼児として扱うようなものでちょっと心折られそうだった。基本食事はマティアス兄様もしくはフォルディナート兄様に食べさせてもらうと言う限りない程の羞恥プレイ。
まぁ、あの兄が留守の時はちゃんと一人で食べさせてもらえたけども・・・不満そうな顔をしていた父母の事はこの際無視。
でも、母様は女同士だしどうしてもって言われたから一緒にお風呂には何度かはいりましたけどね・・・父が乱入してきたりしましたねぇ。それを知った兄とのやり取りも、ものすっごく疲れた。
6時間の説教も意識飛ばしそうだったけど、さすがに一緒にお風呂だけは止めてくれって泣き叫びましたよ。その代わりに兄妹3人で一緒に川の字で寝る羽目に・・・お風呂の援護の為に父母に助けを求めたら、兄がいないときは親子3人で寝る羽目に。
どうしてこうなった!などと思う暇もなかったね。ちなみに言えばあの頃ベッドが急に消えてしまい、ベッドを新しく買ってもらえたのはつい最近ですわ。
あの時は本当にもういっそ殺してくれって思ったのを覚えているが・・・それでも自由に遊びに出たいと思うじゃないか。見られてなきゃばれないって考えあるじゃないさ、実際二人の前だけだって思うだろうよぉ!どこのどいつが自分の家族を聖獣使って監視なんてするんだよ!怖いわ!!
でも今回はそれなくしてバレてしまった。
あぁ、思い出したくもない・・。
某漫画の主人公じゃないけれどさ、今まで三十路近くだったのが急に子ども扱いされても羞恥心しかない訳ですよ。
何か、溺愛を通り越していると常々思っていた。だけどこの世界の常識をまだ知らないとかもあったし、家の恥にならない教養を身に着けてからじゃないと一人にはさせられないとか思っているのかなって考えたりしていたし、色々あるからなぁと思ってちょっと感じた疑問等も何も言わなかったし言えなかったけども、10年もたつと ――それでも兄は好きだが―― さすがに兄2人がものすごく異常だという事も分かってきた。
長々と語ったけど何が言いたいかと言えば、性格に多大なる難ありで疲れる事も多いけど良い家に引き取って貰えてよかったなという事。でも、反抗したくなる時もあるっちゃああるじゃないか。
「レフィーどうしたんだい?」
半分意識を飛ばしていた私を膝の上に乗せて微笑んでいるのは、長兄でこの家の嫡子であるマティアス(未だ独身)という名前の、現国王付き宰相をしているとても頭のよく見目も麗しい兄様。高い位置で縛っても腰ほどに届くほどの長い髪をしていて線が細いのだが、文官の割に意外と逞しく誰の眼にも長髪美男子だろう。
――――――・・いやもうその笑顔が怖いです。勘弁してください。
「いいなぁ、兄上・・・俺もレフィー触りたい」
ちょっとまて、私は愛玩動物ではないのですが・・・とは口にできなさそうだ。
テーブルを挟んで、私の目の前ですねた様な顔をして何やらほざいているのは次兄のフォルディナート兄様(適齢期)。紅騎士と呼ばれていて、まさに文武両道を絵にかいたような人。
数年前に初めて1度だけ会ったことがある ――放浪が趣味の―― おじい様と同じ真っ赤な髪をしており、ウルフっぽい髪型がとてもよく似合う人で、耳には魔石のピアスが両耳合わせて7個はついている。私と同じく父似の灰緑色の瞳をしていて着やせするタイプみたいだが、体はマティ兄様以上にがっしりしていて、腹筋もはっきりくっきり6つに割れている。
とてもかっこよく、見た目は・・・見た目だけは私の好みどんぴしゃなかっこいい兄様である――――が、ホントもう勘弁してください。
あぁ、あの当時の私はオタク丸出しで、とてつもなく悶えたなぁ。リアルな男に一度も萌えたことも悶えたことがないのに・・二次元から抜け出したかのような ――いや、私が入り込んだんでしょうけど―― 素敵な、しかも“私のお兄様”に鼻血ものだったなぁと、本当に最近はしみじみと思う。
そういえば、あのときリヒトおじ様が『・・・一生、嫁にいけないかもな』って言ったことに対して、『え、する気ありませんけど?』と返したらおじ様は良く分からない事を呟いて頭を抱えていた。
あのときはきゃあきゃあ騒いでいて知らなかったのだが・・・。
今ならおじ様が何と言っていたのか、何を思っていたのか理解できる。あのときの自分爆発しろ!!いやもう死んでっ・・今の私に土下座して!!あぁぁっ――・・もうホントないわ、あの時の自分!!
勿論お兄様方は切れ長の目は心臓射抜かれるほどだし、長身でもって家柄もよくて実力もあってとモテモテですよ。この目で見ても第三者から見たってモテモテだが、誰もが認めるほどのシスコンらしい。
やっぱり美形はどこかに残念要素があるのだろうか。
いや、デレッとしているのが妹にというところで物凄く萌えたし嬉しかったよ―――えぇ、過去形ですよ――― 、憧れのお兄様にチヤホヤされるって本当に嬉しいんだけど・・・家族仲が良いって言うのは理想だし、私もブラコンだって思ってるけどね。
限度というモノがあるでしょう!!!
「ほ・・・ホントかんべんしてください!!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
座らせられていた長兄の膝から文字通りに飛び降りて勢いよくその場に土下座した。この世界の最上級の謝り方がこの土下座・・・地球からの客人だよねぇ、いやマジでこれ教えたのはさ。
「にいちゃまたちとのやくそくわすれてません!つまんないから、かんがえないようにしただけ!」
あ・・・やべ、馬鹿正直に言っちまったよ。
そう思って恐る恐るそっと視線だけを横に向けると、視界の端に移ったリーシャのほら言わんこっちゃないというような顔はあえて見なかったことにする。
しかし、もうホント泣きそう。顔をあげずとも兄2人の表情は手に取るようにわかる、絶対に黒い笑みを浮かべているに違いない。というか、この無言な時間が怖い。顔をあげたくない!!!
「“一人で敷地の外には絶対に行きません”って約束しましたよね?」
「トラウムも一緒だから1人じゃない!って、 言い訳はなしだからね~?」
「・・・・・・・あい」
長い長~~い沈黙の末に発せられたのはあの3年前にマティ兄様に誓わされたお約束。その上畳み掛けるようにフォル兄様からは言い訳封じまでさせられた。
マジ怖い怖い怖い!屋敷の外だけじゃなくって無断外泊までした今回は何を言われるか、どんなお仕置きをされるかわかったもんじゃない!!
と、そんな戦々恐々としてガタガタ震えていた私から、ふと射抜くような視線が外れた気がしてそろ~っと顔をあげると、マティ兄様は片手で目のあたりを覆って深いため息を履いており、フォル兄様は苦笑しながら私の横まで来て私をそっと抱き上げた。
いつもと何かが違うなぁとは思ったけど、ビクビクする気持ちは収まらない。
そして、フォル兄様がマティ兄様の向かいのソファーに座って抱っこされたままの私にちらっと視線を向けたマティ兄様が漸く口を開いた。
「まぁ、今回は不問にしようね」
驚愕したのは言わずもがな。
ビクッとしたのち、まじまじと二人の兄を見比べてしまったのは言うまでもない。一体どうした?何があったんだ?と、そう思う私は間違っていないと思う。
―――――・・あの前回の事を思えば・・・。
父も超が付くほど私を溺愛してくるが、その父ですら呆れるほどの溺愛ぶりを見せる兄2人が本当に一体どうしたというのだ・・・いや、お仕置きして欲しいわけじゃないよ。私はMじゃない。ただ、今までと違う展開についていけないだけだ。
私は私で自分の中で悶々と考えていた間に、頭上では兄達も色々と会話をしていたらしい。まぁ、聞いていたところで私には理解できなかっただろうはなしだからいいのだけどね。
そして、暫く不思議そうに見上げていた私に諦めた様な顔をして二人は私に顔を向けた。
「私たちはまたすぐに出なければいけない。戦は終結したが、まだ煩わしい処理が残っていてね」
「・・・はい・・・?」
訳も分からずに頷くしかできない。終わったんじゃないの?と、そんな思いもあって背後のフォル兄様を見上げると苦笑が返ってきた。
「レフィーに分かりやすいようにはどう言ったらいいかな」と天井を見上げて呟くように言ってから、マティ兄様が私の方を向いて口を開いた。
「今回の戦争は腐敗した隣国の掃除も兼ねていてね、民を苦しめ私利私欲の為に悪政を強いていた王侯貴族を全て捕らえたのだよ。そして、後日総勢数百名以上の処刑が行われグリアフォールは1から新たなる国として登録される。その為に私たちは陛下に付き隣国へ再度赴く、次は長く2週間は雑務に追われて家には帰ってこられないだろう」
うん、馬鹿な私でも良く分かった。グリアフォールは脳みそお花畑な馬鹿な国って噂は知っていたけど、噂は噂と思っていた。噂と事実って結構違うはずなのに、よっぽどだったらしい。
それより、ここで一度言葉を区切って苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めた2人が気になる。お仕置きよりは気が楽だが、嫌な予感しかしない。
「俺達的にはとても不愉快この上ない。でも、これも陛下のご命令・・・今まで良く隠せれた方ですよね、兄上」
「そうだな。不本意だが、アニス様を思えばレフィーが相応しいかもしれない」
「はい。陛下と皇妃殿下なら・・・でも、折角隠していたことまでっ」
「・・・・言うな、私だって辛い」
深いため息をついた2人の兄は、どことなく恨めしそうな表情でどこかを見ている。
うん、そろそろ教えてください。ちょい怖いけど、自分の事でそこまでカヤの外は嫌っす。
でもまって、誰だろうアニス・・様?確かシドラニアにはそんな名前の王族関係者は居なかったはずだ、貴族だったらアニス“嬢”っていつもは言うはずだし。
私をガン無視して話をしている兄たちの話を所々拾いながらつたない頭で考えてみるが思い浮かばない。ただ、話をしている所々で“嫌だけど仕方ない”“不本意”と言う言葉が多く聞こえてくる。な、何なんだよぅ。
暫くし、渋々と言った様子でマティ兄様が話し始めた。
「はぁ、レフィー。取りあえず明日レフィーも一緒に城へ行くことになったので、準備をするように。大丈夫、ちゃんと起こしてあげるからね」
「え、わたしがしろに?」
疑問符が私の周りを飛び交う。自分でも分かるほどにきょとんとしてしまったよ。
私がこれまで出かけるのを許可されたところって言ったら母の実家かカイさんの店、そしてリヒトさんの所くらいだ。しかも、必ずリーシャと護衛2人は付けねばならない。
それが何故この話の流れで城に?
「本当に可愛いレフィーを他人に見せたくはないが、致し方ない事態が起きてしまってね。私たちに妹がいると言うのは周知の事実なのだが、“儀式を行った客人”という事がどこからか陛下の耳に入ってしまったらしい。陛下だけならまだしも。いや、兄としてはそれも嫌だが・・・他の貴族内にも広まってしまったらしいのが悩みだな」
「でも、大丈夫だよ。俺と兄上が持てる力を持ってウジ虫共から守ってあげるからね」
そんな前置きが延々と語られ、私は恐怖で鳥肌が立った。が、まぁあれだ。
私が敷地内から出るのを禁止されていたのは兄たちの猫可愛がりがただの原因らしく、本当は貴族子女が通える学校もあるみたいだ。ただの妹と言うだけなら百歩譲っていいとしても、“客人”はこの世界では誰もが身内に欲しい人物。それゆえに私には外出禁止にされて、友達を作ったりする機会を消されたらしい。
そして、もし客人とばれたら誘拐される恐れもあったとか・・・バレてからそこは危惧してもいいじゃないか!絶対に色々勿体ない時間を過ごしたと思うぞ。
そして、今回一番重要なのはアニス様という存在を消されたグリアフォールの姫君の友人候補として私が出てきた――というより、噂しかないその姿が謎とされているウェルナール侯爵家の深層の令嬢ならば、後々を踏まえて一番ふさわしいとの白羽の矢だったそうだ。
で、兄たちは陛下の命令だから身を裂かれる思いだが仕方ないといささか大げさに騒いでいるらしい。
「処刑が行われるそんな場所にレフィーを連れて行きたくなどないのだが、父も納得してしまっている以上は拒否できない。それに、レフィーの為にもなるかもしれないからね」
「俺は騎士として護衛の為に行かないといけないから、レフィーは兄上の側に必ずいる事!いいね」
お・・おぉぅ、私だって人が殺されるようなそんな場面に立ち会いたくなんてないさ!これがお仕置きか?と思って思わず眉間にしわが寄ってしまったが、妹馬鹿な兄達は「あぁ、泣かないでかわいいレフィー!」とさも痛々しいと言う顔をした。うん、この兄ならばこれがお仕置きとか考える事は万にひとつもないだろう。
それはそうとフォル兄様、くすぐったいので頬擦りヤメテクダサイ。飼っていた猫の気持ちはこんなだったのだろうか・・・ごめんよ!
そういえばちゃっかりと一緒に寝る事が確定していたが、それ以上のお仕置きがないだけ物凄くホッとした。最初の頃は気恥ずかしさしかなかったが、もうこの人たちの妹と思うようになってからは変な羞恥心は多少無くなったように思う。
「さてと、遅れてしまいましたが朝食の時間ですね。今日もずっと兄上と俺の側からは離れてはいけませんよ」
「・・はい」
「あぁ、レフィーとの朝食は久しぶりですね」
今日も今日とて私の足は地面につくことはあるのだろうか、いや無いな。でも、ここで反論や反抗などをして上機嫌な兄達の機嫌を損なうのも惜しい。逆らわないのがいい。
それに、まぁスキンシップが激しいだけであって基本的に兄たちの事は嫌いじゃないし大丈夫・・・。
と、朝食の席について前に皿が運ばれてくるのを待つ間に、そこまで色々と考えていた私に兄たちはにこやかに話しかけてきた。ただ、これまでを思うとこの上機嫌がさらに怖い。
「そうそうグリアフォールへは、グランチェーニから山を迂回していけば行けないから時間がかかるが、幸いレフィーはちょっとお転婆さんだからワイバーンで行けるかな?イェーガーの最速ならここから1時間もしなくてつくけど、レフィーには耐えられないだろうし、フォルとは別行動になるからゆっくり5時間ほどは見ておけばいいかな」
「そうですね、トラウムもまだ子供なので長距離飛行は辛いでしょう。時間は朝11時ごろに家を出たらどうでしょう。折角ですし明後日早めに出てグランチェーニをレフィーに見せてあげてもいいかもしれませんよ」
「そうしようか。レフィーもそれでいいかな?」
「うん?トラウムでマティにいちゃまといっしょにいくってこと?だいじょうぶだよ」
公認で観光が出来るなら喜んで!グランチェーニは広い街だし、農業や酪農が有名だし、あの町でしか手に入らない乳製品が食べたい。
どの町にも有名店はあるが、グランチェーニほど甘味で有名所は中々ない。前にフォル兄様が視察ついでにお土産で買ってきてくれたあのチーズケーキは本当に最高だった。
「あの町で有名なお菓子のお店があるから連れて行ってあげようね」
「ほんと!マティにいちゃまありがとう。フォルにいちゃまはまたいっしょにいこうね」
マティ兄様にお礼を言い、フォル兄様が不貞腐れないようにと思ってそういうと二人ともとてもいい笑顔を見せてくれた。
通常一般人ならここからグランチェーニまでふつうの馬車で約2~3週間ほど、そしてグリアフォール王都まで山越えが6日ほどかかるが、あの高い山を越えられるだけのワイバーンを持っていればそれも数時間で済むらしい。あと、お金さえあれば教会の扉でグランチェーニまでなら移動できるそうだ。
それよりも、私は明日にある最高権力者に謁見という事が心配でならない。だって、一通り礼儀作法とか学んでいるが・・・面接とかって大の苦手で、数回転職したことあるけど就職に関して面接らしい面接なんてやったことなど無かったし、堅苦しい雰囲気の中だと頭がすぐに真っ白になって自分が何を喋っているのかなんて一切覚えてないのだ。
「にいちゃま、あしたのへ・・へいかとのえっけんって、どうして?」
「ん?ただ純粋に私たちのかわいい妹に会ってみたいってお話だよ。妃殿下は同席されないと思うけど・・まぁでも、緊張しなくてもそのままのレフィーでいいからね」
「トゥーネが呼ばれていませんので妃殿下はお見えにならないと思いますよ。大丈夫だよレフィー、陛下はとてもお優しい方だから」
「う・・はい」
陛下の事を思い浮かべてか、とても穏やかな顔でそういった二人だったが、「でも」とポツリと呟き、何故か突然目が座った。目がとても怖いがその雰囲気や口元だけは柔らかく微笑んでいる・・・器用だなぁと思う。少し黒いがこれは私に向けてのモノじゃないと分かるので怖くない。
「明日は私も緒に登城するし、私は離れないで済むと思うけど・・・ヴェルエを被っておこうか」
「俺は一緒には居られないから兄上の側から離れない事。陛下と兄上以外の男とは口を利かない事!迷子になったら侍女に話しかけなさい!!」
「え・・う、うん?」
ヴェルエを被るのはいいのだけど、意味が分からない。ヴェルエとは所謂ヴェールだ。高貴な身分の女性や未婚の女性が時々被るが・・・未成年に該当する私が被るってどういうこと?
「あぁ、そうだ」
だんだんと雲行きが怪しくなりつつあるその会話に、私はただ黙って聞いておくしかなかったのだが、絶句するとはこういう事かと初めて知った。
「レフィーと年の近い子が城に数人いて引き合わせられるかもしれないけど、無視していいからね」
「はぃ?」
「かわいいレフィーに必要ない者は例え陛下のご命令でも排除してあげるから大丈夫だよ」
「陛下だって弟殿下を溺愛されているから何も言えないから大丈夫だよ」
確かにできれば他人と必要以上にかかわりたくはないけども、“敬愛している陛下”じゃなかっただろうか?
あぁ・・確か父もそうだったけども、皇家の為を1番にしつつ自分の意見を突き通す、自分に意見するものには冷徹な笑みを向ける氷の宰相が二つ名とか誰かから聞いた気がする。
遅くなりました。何とか更新しました・・・が、何故こうなった。