表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

世界蹂躙

「また出たな」

 隼人が苦々しい顔で部下の報告をまとめ家久に会いに来た。

「チュパカブラもどきですか?」

 家久の顔にも苦悩の色が浮かんでいた。

「今までのチュパカブラとの違いは、その隠密性。そしてなにより、狙われるのは、全身に及ぶと言う事が『ウロボロス』の単独犯を否定する」

 隼人の言葉に家久が新たな資料を見せる。

「これと同様の案件は、世界的に広がっている」

 資料を確認した隼人が苛立ちを覚えた。

「弱者を食い物にする下劣な連中には、国境も世界の壁も関係ないという事だな」

「そうでしょう。こちらの臓器売買組織と組んだと考えて問題ないでしょうね」

 家久の答ると隼人が詰め寄る。

「こっちの臓器売買組織なら、俺たちでもどうにか出来る。早く手をうつべきだ!」

 短い沈黙の後、机の鍵がしまった引き出しに厳重にしまわれていた書類を見せる家久。

「いま解っているだけの被害だ」

 そこに表されていたのは、とても容認できない数の殉職者の数であった。

「これだけの被害が出ているのに、何で今まで公表されていない?」

 隼人の当然の疑問に家久が辛そうに答える。

「被害が大き過ぎます。そして相手が異界の化け物でなく、同じ人間が操っていると公表すれば、混乱が避けられないというのが表向きの理由」

「表向きだと?」

 隼人の目が鋭くなる中、覚悟を決めて家久が答える。

「ウロボロスと違う一番の問題点、それは、上とのパイプがあるという事」

 机を叩きつける隼人。

「冗談じゃない! 公僕だけじゃない、民間人にも多大な被害が出ているんだぞ! それを一部の連中の利益の為に黙認しろと言っているのか!」

「被害地域を見て下さい。多くが貧困街です。上の人間は、税金もろくに納めない人間を国民とすら認めていないのですよ」

 家久の説明に隼人が頭をかく。

「日本の被害が少ないのが唯一の救いだな」

「比較的経済が安定している国は、まだ救いがあります。逆を言えば貧困層が厚い国、難民問題を抱えた国での被害は、加速的に増えています」

 家久がそう告げた後、一枚の写真を見せる。

「彼女は、その被害者ですよ」

 そこに写っていた女性は、日本人だった。

「ボランティアで難民援助に行っていたそうです。その先で被害に遭い、帰らぬ人になりました」

「ふざけた現実だ。どうにかならないのか?」

 隼人の問い掛けに家久が首を横に振る。

「チュパカブラもどきの力は、絶大です。それを効率よく使われては、我々には、どうする事も出来ません」

長い沈黙の後、隼人が言う。

「……魔法少女だったら対抗できるな」

 苦笑する家久。

「遭遇出来たら可能でしょう。それが難しいのです。そして何より、数名の魔法少女でどうにかなる件数でも、範囲でもありません」

「完全な手詰まりだと言うのか?」

 隼人の言葉に家久は、顔を上げる。

「どんな絶望的な状況だとしても我々は、諦める訳には、行きません」

「そうだな。相手は、同じ世界の人間だ。どうにか出来るはずだ」

 隼人達は、進みだすのであった。



「それって何の冗談ですか?」

 メグの言葉に一志が首を横に振る。

「冗談じゃないよ。こっちの世界の臓器売買組織とウロボロスが手を組んで、こっちの人間がチュパカブラもどきを使い、人間狩りを続けている」

 サリーが舌打する。

「そんな連中は、私達が皆殺しにしてやるわ」

「どうやって?」

 一志の問い掛けにサリーが強気に返す。

「簡単よ、WAGの力だったらチュパカブラもどきを蹴散らすなんて簡単。アジトに乗り込んで……」

 サリーの言葉の途中で一志が世界地図を見せる。

「それがどうしたの?」

「赤い点の数が解るかい?」

 一志の言葉にメグが数えようとするが多すぎる為、肩を竦める。

「とても数えられん」

「それが、チュパカブラもどきが出たポイントだ。場所も数もとてもたった数人のWAGでどうにかなる数じゃない」

 一志の言葉にサリーが反論する。

「それでも、一つ一つ潰していけばきっと……」

「潰すべき相手は、目の前に居る臓器売買組織じゃない。異世界でこちらから手が出せない『ウロボロス』だ。そして臓器売買組織をいくつか潰した所で、潰す数より増える数の方が多いだろうな」

 一志の容赦ない言葉にサリーが悔しそうにするのであった。



「サリーにメグ、二人ともお休みなんだ」

 明美が残念そうに言うと光男がしみじみと頷く。

「美人留学生の不在は、本当に残念だ」

「……馬鹿」

 魔美が小さく呟き、一志を見る。

「きっと色々あるんでしょう」

 放課後、部室で魔美が詰め寄る。

「何が起こっているの?」

「少なくとも直接僕達に関係している事は、何も起こっていない」

 一志の答えに魔美が睨む。

「もう一度言わせたいの?」

 一志がため息を吐いてから言う。

「サリーやメグが動いている件は、魔法少女うんぬんでどうこう出来る問題じゃないんだ」

「魔法の力があればどんな問題だって解決出来るよ!」

 魔美の言葉に一志が一つのレポートを見せる。

「これは、世界の食料事情のレポートだ。それによると今この瞬間にも飢餓で死んでる人間が居る。さあ、魔法でどうにかしてくれ」

「そ、そんな事は、魔法だって……」

 魔美が困った顔をすると一志が淡々と言う。

「それと同じ事だ。貧困層があり、それを食い物にする連中が居る。そしてそんな連中から甘い汁を吸う権力者がのさばっている。そんな大人の現実を変えない限りこの問題は、解決しない。所詮魔法は、ファンタジーでしかない。異世界からの侵略者に勝てても、リアルに勝つことなんて出来ないんだよ」

 何も言い返せない魔美であった。



『マジカルアロー』

 サリーが放った魔法の矢がチュパカブラもどきを蹴散らす。

「WAGがチュパカブラもどきを排除した、制圧しろ!」

 アメリカの貧困街を食い物にしていた臓器売買組織のアジトへのFBIの強襲は、成功を収めた。

「助かった。また頼むよ」

 責任者からの言葉を苦々しそうな顔で受けるサリー。

「またがあるんですね?」

「ああ、アメリカ国内だけでも最低でも二十の組織がウロボロスとの提携を結んでいる。そして、こうやって、潰しても、ウロボロスの奴等にとっては、取引先が一つ減ったくらいにしか思っていないのだろうな」

 責任者の言葉に同行していたメグが悔しげな顔で言う。

「本気で最低な奴等だぜ。こっちの事をゲームの駒かなんかと思ってやがる」

「それが現実だよ」

 サリーが無力さを痛感しながら魔法増幅装置を握り締めしか出来なかった。



 もぐら叩きとしか言い様の無い虚しい作業を続けるサリーとメグ。

「見ろよあれ」

 メグが指差した先には、臓器を抜き取られた年端も行かない子供死体が無造作に転がされていた。

「何で、同じ世界の、同じ国の子供にこんな酷い事が出来るの!」

 怒りの叫びを上げるサリー。

『金になるからさ!』

 スピーカーから音が響き、二人が侵入していた倉庫の壁が一斉に開いて無数の銃口が突きつけられた。

「す、すまない」

 そういって倒れるFBIの男性。

「おびき出された?」

 サリーの顔に緊張が走る。

『こっちだってただ潰されるのを待ってる訳じゃないんだよ! お前等さえ倒せばチュパカブラもどきに対抗手段がねえ! 後は、上の連中と合意が出来てる範囲で好き放題やらせてもらうさ!』

「ふざけるな! 貧困街に住んでる人たちだって同じ人間! アメリカ国民だ!」

 メグの叫びに声が爆笑する。

『同じだって、税金も払えず、寄生するしか出来ない屑だ。それが俺達の稼ぎになって、税金として流れるんだ。無駄に生きるより何倍もアメリカの為になってるだろうぜ! やっちまえ!』

 無数の銃弾が二人を襲う。

『『マジカルシールド』』

 二人の魔法の盾が銃弾を防ぐがそれが限界だった。

 どちらかが力が抜けばその瞬間、銃弾の雨が二人を襲うだろう。

「なんでよ! なんで! 異界の奴等じゃなくて、こんな連中に負けないといけないのよ!」

 サリーが叫ぶ中、メグが覚悟を決める。

「攻撃魔法の準備をしろ」

「そんな、今、防御魔法を解いたら銃弾が……」

 困惑するサリーにメグが告げる。

「あたいが盾になる。お前は、一発大きいのかまして隙を作って逃げろ」

「馬鹿を言わないで、逃げるんだったら二人一緒に……」

 サリーの言葉にメグが苦笑する。

「すまねえ、シールドが少しばかり遅かったみたいだ」

 メグの太ももから血が流れ落ちていた。

「そんな、だったら私が盾に……」

「こんな足で逃げられるかよ。お前には、色々と借りがあるしな。生き残ってくれ」

 メグが真摯な顔でそう伝える。

「……メグ」

 サリーの頬から涙が零れ落ちた瞬間、その声が響き渡る。

『マジックスリープ』

 周囲の男達は、一斉に眠らされた。

『なにー、どうなってるんだ!』

 涙を拭いサリーが言う。

「貴女は、本当にシリアスな雰囲気を台無しにしますね」(日本語)

「愛と正義の魔法少女ですから」(日本語)

 ナチュラルマミの登場であった。

 その後、偉そうにしていたボスは、メグにタコ殴りされるのであった。



「そんな事になってたんだ」

 日本に帰って来たサリーから事情を聞いて魔美が状況を理解した。

「魔美がナチュラルマミだったのか」

 驚くメグに呆れた表情を見せるサリー。

「一志との態度をみれば解るでしょ」

 魔美が顔を赤くする。

「えーと、もしかしてあちき達の関係ってバレバレ?」

 メグがあっさり頷く。

「光男と明美は、あの業とらしい誤魔化しは、良い見世物だって楽しんでたぞ」

「いやー! 絶対にバレて居ないと思ったのに! 穴があったら埋まりたい!」

 蹲る魔美に苦笑しながら一志が言う。

「しかし、今回は、危なかったみたいだな。アメリカ政府も貴重なWAGを失う気は、無いだろうから十分な調査後の投入になるだろうが、油断するなよ」

「解ってる。でも、何時までこんな事が続くのかしら」

 サリーの呟きに蹲っていた魔美が顔を上げる。

「そっちならどうにか出来ますよ」

「「「はい?」」」

 一志、サリー、メグの言葉がハモる中、魔美が携帯を取り出して電話する。

「ヤオちゃん、お久しぶり。そっちは、どう?」

 暫く世間話を続ける魔美を見てサリーが一志に問い掛ける。

「誰と話しているの?」

 顔を顰める一志。

「ヤオと言えば以前、相手がスィートショップで『卵たっぷりプリン』と『カスタードクリームいっぱいシュークリーム』のどっちを頼むか悩んで居た所を一個ずつ頼んで半分こにしてから仲良くなった友達だが、僕は、まだ本人と会った事は、無いな」

「そのデザート友達といきなり電話なんてどういうこと?」

 サリーも困惑する中、魔美が世間話の最後に。

「それじゃ、『ウロボロス』の件は、そっちに任せて良いって事で、よろしくね」

 携帯をきり魔美が宣言する。

「これで『ウロボロス』の件は、解決だよ」

「どうしてそうなるのか全然解らないぞ」

 メグのもっともの突っ込みに魔美が笑顔で答える。

「大丈夫、ヤオって凄い神様だから」

「神様って……」

 サリーが頭を押さえた時、一志のパソコンからアラームが鳴り響く。

「何があったの?」

 サリーが問い掛けると一志がキーボードを連打しながら答える。

「解らない。しかし、とんでも無い事が起こってるみたいだ」



 異世界、『ウロボロス』の拠点、女性幹部、センテーが笑みを浮かべていた。

「これだけの収穫があればこっちからチュパカブラを出す必要は、ないわね」

 資料を確認しながら堪えらえきれない笑いを漏らす。

「いくつか潰されてますけど、あっちの組織なんて幾らでも使い捨てに出来る。協力者なんて幾らでも居るんだから」

「そういうのは、止めてくれる?」

 誰も居ない筈の部屋で聞こえた少女の声にセンテーが顔をひきつらせる。

「誰!」

 センテーが声の聞こえた方向を向くとそこには、ポニーテールの少女が居た。

「チュパカブラを送り込むだけでもかなりグレーラインだったのに、その技術提供は、完全なルール違反だよ」

 センテーは、非常用の武器に手を伸ばそうとしたが、その手が白い子猫にひっかかれる。

『無駄な足掻きは、止せ。それとも偉大なる、我が主、『八百刃ヤオバ』に逆らい、この世界ごと消えるか?』

 子猫が発したテレパシーにセンテーの顔から一気に血の気が引く。

「そ、そんな、馬鹿な! 六極神が一柱、神々の中でも最強たる存在、『聖獣戦神八百刃』様がこんな場所に現れる訳が無い!」

 小さなため息を吐いて子猫が言う。

『お前の言葉は、正論だ。しかし、居る現実は、変わらない。大人しく罰を受けろ。そうすれば余計な被害は、出さないで済むぞ』

「冗談じゃないわ! 私には、輝ける未来があるの! どうせ脅しでしょ! 『八百刃』の名を騙るなんて神様とも思えない。何者かは、知らないけど『ウロボロス』に逆らってただで済むと思わないでね」

 危険を察知する本能が垂らす冷や汗を拭いながら理性が導き出した言葉を口にするセンテー。

「反省の見込みは、皆無。断罪決定だね。『降岩犀コンガンサイ』」

 少女の声に応え、無数の隕石がこの世界に点在する『ウロボロス』の拠点を壊滅させていく。

「私は、選ばれた……」

 センテーの虚しい叫びは、隕石の直撃に掻き消されるのであった。

 倒壊した建物から平然と現れる少女、八百刃と白い子猫、白牙ビャクガ

『あっちの世界の処理も終ったそうだ』

「了解、それじゃあ帰りましょうか」

 そういうヤオバに白牙が詰め寄る。

『その前に確認したいんだが、お前、何時の間にあっちの世界の人間と出合った?』

「えーと、それは……」

 必死に言い訳を考える八百刃であった。



「信じられないが、世界中の『ウロボロス』と関係をもった臓器売買組織が壊滅している」

 困惑する一志にサリーが言う。

「そんな出鱈目な事が本当にある訳!」

「でも、本当みたいだよな」

 通常のネットにもあがる謎の建物瞬間炎上事件を見ながらメグが言うと魔美が言う。

「この世界の貧困問題とかは、無理だけど異世界からの技術流出だったら神頼みで一発だよ」

 複雑な顔をするサリー達。

 こうして、『ウロボロス』による暴虐は、終わりを告げた。

 だからと言って魔法少女の活躍は、無くなる事は、無かった。



「ヘリだ! 逃走用のヘリを用意しろ!」

 立て篭もった銀行強盗からの要求に突入準備を急がせていた隼人が舌打する。

「かなりてんぱっているな。自棄になる前にとりおさえないと大変な事に……」

 そんな中、銀行内に光が集まっていく。

「困った時は、魔法少女ナチュラルマミにお任せあれ!」

 突如現れたナチュラルマミに銀行強盗の目が点になる。

「何だって?」

「またあいつか!」

 隼人は、ハンドスピーカーで怒鳴る。

『コラー、学生は、大人しく勉強してろ! そういうのは、大人の仕事だ!』

 ナチュラルマミは、おきらくに手をパタパタさせて言う。

「大丈夫、ナチュラルマミは、勉強もちゃんとやってるから。だから偶には、羽根を伸ばさないといけないのよ」

『ストレス発散だったら他の所でしろ!』

 クレームを上げる隼人を他所にナチュラルマミの魔法が銀行強盗を拘束するのであった。

 解放され、逃げ出す人質の中を逆流し、隼人が詰め寄る。

「お前は、何度も言わせるな! 魔法少女だからってなんやっても許される訳じゃないんだぞ!」

 視線を合わせずナチュラルマミが言う。

「えーと、やっぱりやりなれた事をしなくなるとなんか変な気分なの。まあその内、慣れてくるからそれまで我慢して」

 おきらくなナチュラルマミの言葉に隼人が怒鳴る。

「我慢できるか!」

 逃げるように光になって消えていくナチュラルマミ。

 そしてその様子を見ていた家久が苦笑する。

「本当に、彼女には、笑わせて貰えます」



「やっぱり魔法少女は、ナチュラルマミだよな」

 光男の言葉に明美が反論する。

「リリカルサリーやパッションメグだって良いわよ」

「そうだよな! パッションメグだって良いだろ?」

 身を乗り出すメグにため息を吐くサリー。

「どうして、こんな事になったんだろう?」

 一志が遠い目をする。

「この世界のシリアスは、どっかの神様が一掃したんだろう」

「ヤオちゃん、今度、デザート半額キャンペーンあるから一緒に食べにいきませんか?」

 魔美が何処に繋がってるか本気で謎な電話をする、いつの間にかに平和な世界がそこにはあった。

にしても酷いオチ。

最後に神様が出てきて全て解決しちゃうなんてどんな打ち切りだ。

でもこういうオチは、嫌いじゃないんだよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ