WAG
「フフフフ、遂に完成したぞ。私の最終傑作が!」
高笑いをあげるパッド博士。
その前には、呼吸器をつけられ、透明な特殊ジェルで充満した水槽に入れられた少女がいた。
「これは、こんな感じ」
ナチュラルマミがまさに感覚的な説明をする。
「何度も言いますが、そういうフィーリングだけの説明では、理解に困ります」
サリーの答えに顔を顰めるナチュラルマミ。
「でもでも、魔法ってどうしてもフィーリング勝負なところがあってね」
「そうですか? 私は、貴女の言語化能力に問題があるのだと思います。実際問題、後で一志に聞くと大抵が論理的な説明がされます」
サリーの言葉に頬を膨らませるナチュラルマミ。
「また、一志の事を呼び捨てにした! 一志は、ナチュラルマミの恋人なんですからね!」
その主張に呆れた顔をするサリー。
「これも何度も言っている事ですが、ファーストネームで呼ぶのは、我が国では、そうおかしい事では、なく、他意は、ありません」
「せめて君とかさんとかつけなよ!」
ナチュラルマミの反論にサリーが冷めた目付きになる。
「何で魔法少女の仲間にさんづけする必要があるのですか?」
「うー、どうしてナチュラルマミは、この人の魔法少女トレーニングに付き合ってるんだろう?」
ナチュラルマミのその疑問には、サリーも同意する。
「そうですね。本当にどうしてでしょうね」
その様子を見ていた一志が苦笑する。
「相互の利害の一致でしょう。ところで彼女の才能は、どうなんだい?」
「そこそこある。まあ、ナチュラルマミには、勝てないけどね」
自信たっぷりに答えるナチュラルマミにサリーが敵意を込めた視線を向ける。
「才能なんて物で勝負は、決まりません。いつか貴女には、それを思い知らせてあげます」
「はいはい、その前にこれを成功させてね」
ナチュラルマミが置いた紙人形に意識を集中するサリー。
暫くした後、紙人形がカタコトと動き出す。
「それは、操作術の基礎トレーニング。これをちゃんと出来るようになれば魔法造形した竜とか操って攻撃したりする、派手な魔法も使える様になるよ」
ナチュラルマミがおきらくにいう中、サリーの特訓は、続く。
「お疲れみたいですね」
お弁当を差し出す魔美。
「そうだな」
慣れた様子で受け取り、弱音を漏らすサリーに魔美が微笑む。
「でしたら、放課後、ちょっと気分転換に行きませんか?」
「気分転換?」
サリーが不思議そうな顔をするのであった。
カラオケボックス。
「一番、光男、残酷な天使のテーゼを歌います!」
そういって熱唱する光男。
その様子を他人事の様に見ながらサリーが呟く。
「私は、何をやっているのでしょうか?」
「気分晴らしですよ。色々と考える事があるかもしれません。そういう時は、大きな声を思いっきりだすのが一番のストレス解消方です」
魔美が説明する。
「そうかもしれないな」
苦笑するサリー。
「二番、魔法少女プリティーサミー歌います!」
「魔法少女……」
明美の歌に半眼になるサリーであった。
カラオケボックスからの帰り道、何時に無く爽快な気分で歩くサリーに黒塗りの車が横付けする。
「乗れ」(英語)
その言葉に爽快な気分が霧散したサリーが一瞬だけ辛そうな顔をするも、直ぐに表情を引き締めて車に乗った。
「潜入の方は、上手く行っているみたいだな」(英語)
パッドの言葉にサリーが頷く。
「はい。一志とその周囲の友人関係は、報告書に書かれた通りです」(英語)
「それで魔法少女は、特定出来たのか?」(英語)
パッドの言葉にサリーの顔が強張る。
「そ、それは、まだですが、そう時間が掛かりません」(英語)
「まあいい、最初からお前に潜入任務の成果を求めていない。トレーニング内容の報告がお前のメイン任務だ」(英語)
投げ捨てたような言葉にサリーは、拳を握り締めるしか出来なかった。
その日も、限界までテストに行われ、疲れ果てた状態でセーフハウスに帰り着くサリーの前に隼人が居た。
「遅かったな」(英語)
「貴方達に断る必要は、ありません」(英語)
無視して部屋に入ろうとした時、隼人が言う。
「もう魔法少女が誰なのか解っているんじゃないのか?」(英語)
「あれは、認識阻害魔法を掛けていて正体を探る事が……」(英語)
サリーの言い訳を阻み隼人が告げる。
「直接顔を見る必要なんて無い。少し観察すれば、一志の周囲の人間の態度で誰がターゲットか解る筈だ」(英語)
サリーは、沈黙を貫きながら部屋に戻るのであった。
部屋に戻ったサリーは、いつもの様に味気ない固形栄養食を口にする。
「不味い。でもあのお弁当を作っているのは……」(英語)
複雑な表情を浮かべるサリーであった。
「今日も美味しかった」
翌日の昼休みサリーは、そういって食べ終わったお弁当箱を魔美に返す。
「そういって下さると嬉しいです」
微笑む魔美から視線を逸らしたサリーの携帯電話は震えた。
顔を強張らせるサリーに心配そうな視線を向ける魔美。
「どうかなさいましたか?」
「な、なんでもない。ちょっと花を摘みに行って来る」
サリーがそういって教室を出て行く。
「どうしたのだろう?」
呟く魔美に一志が耳打ちするのであった。
「どういうつもりですか!」(英語)
サリーが自由が丘中学の傍に止まった黒塗りの車に向って声を荒げる。
ウインドウが開き、パッドが答える。
「決まっている。魔法少女等、私の最高傑作の前には、無力である事を証明する。それだけだ!」(英語)
「だからといって、今、襲撃すれば一般生徒にも被害が出ます!」(英語)
「だからどうした? 他国の一般人が何人死のうが関係あるまい」(英語)
罪悪感の欠片すら感じられないパッドの言葉にサリーが戦慄したが制止の言葉を口にする。
「その様な事をすれば日本政府が黙っているとは、思えません」(英語)
笑みを浮かべるパッド。
「魔法の力、WAGを持つ我が国に逆らえる存在など居ない! それを証明してやろう」(英語)
そして反対側のドアから現れた少女を見てサリーが驚く。
「メグ、貴女もWAGに?」(英語)
しかし、その少女、メグは、答えず、校舎に向って歩き出す。
「メグに何をした!」(英語)
睨むサリーに不快そうな表情を浮かべるパッド。
「モルモットがその様な口を。まあ良い、今は、気分が良い。それに貴様から貴重なデータがとれた、その褒美だ。研究の結果、魔法には、特定な思考パターンを重ね掛けする必要があった。ならば、常時、そのパターンを行使し続ける者を作れば強力な魔法を連続して放つ事も可能と判明し、それを実行する被検体への処置も終わった。まあ、思考パターンを刷り込んだ結果、自意識と言う者が無くなったが」(英語)
目を見開くメグ。
「なんて真似を……」(英語)
「魔法を使う為だけの存在、その前には、魔法少女なんて中途半端な存在は、通用しない!」(英語)
歓喜の声をあげるパッド。
メグが車に背を向けて駆け出していた。
「追わなくて宜しいのですか?」(英語)
運転手の言葉にパッドが愉快そうに答える。
「完成品が出来た以上、あれから得られる情報も不要。最後に比較実験データにするだけだ」(英語)
サリーは、今にも校舎に魔法を放とうとしているメグを睨み、自らの意思増幅装置を取り出す。
「メグ、貴女を救う。その為にも貴女を止めてみせる 『マジカルサンダー』」(英語)
サリーは、敢えて弱体化した雷の魔法を放った。
メグは、それを視線を向けるだけでそれを無効化した。
「あれは、魔法少女と同じ技。まさかそれが出来るようになってるなんて……」(英語)
『マジカルブラスト』
メグは、サリーの前で爆発を起こして、吹き飛ばすと再び、校舎の方を向く。
「やらせない! あそこには、友達が居るんだから!」(英語)
傷つきながらも立ち上がるサリー。
「と・も・だ・ち……」(英語)
感情が無い筈のメグが複雑な表情を浮かべていた。
「そう。そして貴女は、共にあの地獄を過ごした仲間。だからこそ、こんな真似をさせない!」(英語)
再び意思増幅装置を向けるサリー。
そしてメグもサリーの方を向く。
そんな状況でサリーは、悩んでいた。
先程の魔法で中途半端な魔法が通じないのは、判明した。
しかし、全力の魔法を撃てば、万が一の事がある。
手加減は、出来ないが手加減しなければいけないそんな矛盾を抱きながらもサリーは、魔法を放とうとした。
『大地の息吹を力に、あちきの意思を形にせよ』
その声は、その場に広がり、校庭の土が盛り上がり、竜の様に変化した。
『あちきの意思を解らせる為に、いけー! マジックドラゴン』
土の竜がメグに迫る。
『マジカルブラスト』
メグの放った爆発の魔法が土の竜を爆散させた。
しかし、散開した筈の土の竜は、空中で再び竜に変化して、メグが持つ意思増幅装置を噛み砕いた。
「ナチュラルマミの大勝利!」
Vサインをだすナチュラルマミ。
「なんでこんな絶妙なタイミングで?」(英語)
困惑するサリーの横に一志が現れて言う。
「結構前から居たんだ。端的に言えばタイミングを待っていた」
「もしかして、私が吹き飛ばされた時も?」
問い質すサリーから視線を逸らし一志が言う。
「治せるね」
ナチュラルマミが胸をはる。
「洗脳から解き放つ魔法は、正義の魔法少女にお約束!」
ナチュラルマミは、杖をメグに向けた。
『邪悪な意思に囚われた貴女の真実の魂を解放して! マジックリカバリー』
メグの瞳に意思の光が戻っていく。
「あたしは、何を……」(英語)
「メグ、私が解る?」(英語)
駆け寄るサリーにメグが戸惑う。
「なんでサリーが? あたしは、どこに居るんだ?」(英語)
困惑するメグを抱き絞めるサリーであった。
「まだ完全では、無かったか。まあいい、次は、完全に元の精神を破壊してから刷り込んで……」(英語)
次の構想を練るパッドの車の前にパトカーが止まり、隼人が降りて、近寄っていく。
「パッド=エストンだな。お前には、アメリカ本国から拘束依頼が来ている」(英語)
「何だと! 何故、天才である私が! 何かの間違いだ!」(英語)
パッドの言葉に隼人の後に降りてきた家久が答える。
「貴方が廃棄した子供達ですが、魔法少女が治して国際的な保護組織に回収され、悪行が露見したのです」(英語)
「なんだって!」(英語)
愕然とするパッドに隼人が更に告げる。
「もうお終いだ。大人しく投降しろ」(英語)
パッドが歯軋りをし、怒鳴る。
「車を出せ! 軍上層部に話を通して、私の身の安全を確保する!」(英語)
すると運転手は、ドアを開ける。
「今の戦闘結果で軍の結論が出ました。貴方の仕事は、ここまでです。WAGの研究は、別の責任者が正式な手順を踏んで行う事になりました」(英語)
「ば、馬鹿を言うな! WAGがここまで成果を出したのは、私の才能があったからだ! これからも私の力が無ければ……」(英語)
隼人がその胸倉を掴み上げて言う。
「子供を使い捨てにする様な研究がまかり通って堪るかよ!」
日本語が解らず戸惑うパッドに苦笑しながらも家久が告げる。
「スケープゴート、貴方は、軍の責任逃れの捨石にされるんです。今まで貴方が多くの子供達を捨石にして来た様に。日本では、それを因果応報って言います」(英語)
「天才の私がそんな虫けらの様なガキどもと同じ扱いをされるなど……」(英語)
喚き散らすパッドは、そのまま隼人達に護送されるのであった。
「ベリーグッド」
メグが本当に美味しそうに魔美が作った弁当を食べる。
「口にあって良かったです」
魔美が微笑む中、複雑な表情をするサリーを一志が廊下に連れ出す。
「WAGの研究は、続行される。理由は、言う必要ないな?」(英語)
「解っている。今だにウロボロスの脅威が無くなった訳じゃない。彼女もWAGとしての素質を備えている以上、魔法少女の特訓をうけさせられるのは、仕方ない事」(英語)
自分で言いながらも納得していない顔をするサリーに一志が頭を下げる。
「全ては、僕が原因です。アメリカに技術を渡せば、彼女の負担を減らせると考えた上の事。恨むのなら僕を恨んでください」(英語)
大きなため息を吐くサリー。
「恨めないわ。あんな美味しいお弁当を作ってくれる魔美を」(英語)
サリー達の試練は、まだまだ続く。
某国の研究施設。
『これを使えば、貴方達でもチュパカブラに劣らない兵器を生み出せますわ』
この世界の科学では、生み出せないオーブからの声にサングラスの男が応える。
「助かります。それでは、お約束の物です」
特殊な装置に置かれた中身は、人の脳みそ。
『これからもお互い助け合いましょう』
オーブの声にサングラスの男が卑しい笑みを浮かべる。
「はい。そちらが脳みそ、こちらは、内臓。両方にとってマイナスの無い取引ですね」
密かに進む、ウロボロスとこの世界の違法臓器ブローカーとの癒着。
それは、目立つチュパカブラの行動の裏で確実に広がっていたのであった。
世界の運命は?
この次、世界蹂躙編で終わりです。
って最初に断っておきますが、とことん追い詰めてからドンガラ落ちの予定です。
クレームは、受け付けません。
だってこれってH&Rですから。