林間学校
今回は、魔法少女は、出てきません
「調査の方は、順調ですか?」
家久の問い掛けに隼人が幾つかの報告書を見せる。
「殆どの部品が大量生産の部品で、そこから販売ルートを探る事は、不可能だったが、幾つかの部品に関しては、秋葉原の一部の業者しか扱っていない事が解った」
「なるほど、少なくともその業者から直接または、間接的に部品を購入している事は、確かなのですね」
家久の確認に隼人が頷く。
「一応、問題の業者から顧客情報を集めているが、流石にそこからだけで特定するのは、難しい」
「解っています。こういった地道な調査の積み重ねで、該当人物の特定が行える筈です。その情報の一部がこれですね」
家久は、インターネット上のページを見せる。
『ナチュラルマミは、来週、林間学校の為、お休みです!』
隼人がなんともいえない表情をする。
「林間学校で休みなんて冗談としか思えないな」
「一部の高潔な人達が憤慨していますが。しかし、一般学生が学業の一環である林間学校に参加することは、当然であり、それに対して不謹慎とか言う方がおかしいのです」
家久の答えに隼人が苦笑する。
「確かにそれが正論だ。学生は、学業が優先。子供を戦わせる自体、俺達の仕事放棄ととられてもおかしくない。しかし、現実的な話、前回の様な事があった時、俺達は、どうしようもなくなるのも確かだぞ」
家久は、真剣な顔で頷く。
「その通りです。その為にもこの情報を元に、都心県内の学校の林間学校の予定を調査して、該当期間に林間学校を行っている学校のリストアップを終えています。これがそのリストです」
渡された資料に目を通し辛そうな顔をする隼人。
「ある程度は、覚悟をしているつもりだったが、やはり年端も行かない学生に大の大人が縋っているのだな」
家久が遠い目をする。
「大の大人ですか。その大の大人が大人として当然の節度をもってくれていれば良いのですがね」
その一言は、かなり重い物であった。
日本の米軍基地。
「問題の新型兵器の準備は、どうなっている?」
米軍機で極秘裏に日本に運び込まれたコンテナに厳重に封印されていた物が解放されていく。
「使用者も決まっています。問題の事件の発生と同時に現場に投入し、稼動テストを行います。しかし、何故、日本で稼動テストを行うのですか? 本国なら隠蔽工作も容易の筈ですが?」
技術者の問い掛けに責任者がニヤリと笑う。
「これは、まだ試験段階だ。暴走の可能性も多い。万が一の場合、被害を受けるのは、米国の人間であっては、いけない。それが我々の判断だ」
その言葉に従うように問題の物は、稼動の時を待っていた。
数日後の都心にチュパカブラが現れ、警視庁の対策部が動いていた。
「不用意に突っ込むな! 今回は、『ウロボロス』の人間は、来ていない! 冷静に対処すれば、これ以上の被害を出さないで済む!」
隼人の指示の元、特殊部隊がチュパカブラの対処を行っていた。
そんな中、ナンバープレートが無い完全に黒塗りの大型トラックが現場に突入してきた。
「道路封鎖は、どうなってる!」
隼人が無線に怒鳴る。
『すいません。しかし、問題のトラックは、こちらの制止を全く受け付けず、バリケードを破壊して突入して来たのです』
舌打する隼人。
「このタイミングで現れると言う事は、無関係とは、いえないだろうな」
その言葉が正しいことは、直ぐに判明する。
トラックの荷台から現れたのは、何処かチュパカブラの外皮を連想させる光沢をもった戦闘スーツを纏った人間だった。
「ここは、危険区域だ。一般人の立ち入りは、禁止されている。即座にこの場を離れるんだ!」
隼人の通告を問題のスーツの人間は、無視して、チュパカブラに近づく。
チュパカブラは、獲物と判断して近づき、その管を脳に突き立てようとした。
硬い音がしてそれが弾かれた。
「こちらのシールドすら容易に貫くチュパカブラの管を防ぐだと?」
隼人が戸惑う中、スーツの人間は、大型のナイフ状の何かを取り出すとモーター音が響き渡り、その刃に当たる部分がチュパカブラに触れると、切断されたのだ。
「チュパカブラにダメージを与える兵器……」
唾を飲み込む隼人の目の前で、スーツの人間は、チュパカブラの解体を始めた。
数体のチュパカブラが解体された所で、チュパカブラの撤退が始まる。それに合わせてスーツの人間もトラックに戻ってしまう。
「道路を封鎖しろ! 絶対に逃がすな!」
隼人の指示に従い、警察は、パトカー等で道路を塞いだが、問題のトラックは、そんな事をお構いなく突っ込み逃走を行うのであった。
「追跡班! 絶対に見失うなよ!」
隼人が力の限り叫ぶのであった。
数時間後の警視庁。
「問題のトラックは、米軍基地に入っていった」
隼人の報告に家久がため息を吐く。
「こういう展開になりましたか。想像は、出来ましたが……」
「日本も舐められた物だ。正式な抗議をすべきじゃないのか?」
隼人の問いに家久が肩をすくめる。
「どうせ適当な事を言われて、政治家は、相手の機嫌を損ねる事を嫌い、追求は、出来ません。それよりも報告書にありましたが、問題のスーツの光沢がチュパカブラに近かったそうですが?」
隼人が思い出しながら答える。
「そうだ。しかし、外見は、『ウロボロス』の人間が着ていたスーツに近かった」
納得する家久。
「前回のスーツを研修し、それまで回収したチュパカブラの外皮を使用して作った試作品っていった所ですね」
「あれがあれば俺達もチュパカブラに対応出来ると思うか?」
隼人の真剣な問い掛けに家久が首を横に振る。
「無理でしょうね。チュパカブラの外皮が必要だとするならば絶対数が足りません。その開発が可能になる頃には、もっと効果的なアプローチが判明している筈です」
息を吐く隼人。
「そうか。そっちの情報の方は、頼む。俺は、例のリストの調査を続行する」
「頼みました」
家久に送り出されるように隼人は、調査を再開させるのであった。
米軍基地。
「稼動テストは、大成功といった所だな」
愉悦の笑みを浮かべる責任者にテストデータを纏めていた技術者が答える。
「はい。このまま稼動テストを繰り返せば完成する筈です」
「これが完成した暁には、我々は、他国への大きなアドバンテージを手にする事になる」
責任者が高笑いを上げた。
「残念ですが、その技術は、この世界には、まだ早い技術です」
突然の女性の声にその場に居た人間の視線が集まる。
そこには、一人の女性が居た。
「私の名前は、魔磨、神の使徒です。先程も言いましたが貴方達が得ようとしている技術は、この世界には、早すぎる技術。即時廃棄を通達します」
「神の使徒だと! 夢想もいい加減にしろ! 侵入者だ確保しろ!」
責任者の命令に警備の兵士達が魔磨に向ってライフルを向ける。
「どうやって入ってきたかは、解らないが無事に帰れると思うな。お前が何処のスパイかは、その体にじっくりと聞いてやる」
責任者が傲慢に告げると魔磨が淡々と自らの指を切り、その指先から漏れた血を問題のスーツに掛けた。
それと同時に、誰も着ていない筈のスーツが動き出した。
「馬鹿! 自立行動は、出来ないはずだぞ!」
技術者が叫ぶが、現実は、変わらず、問題のスーツは、スーツに関わる装置や資料の破壊を始めた。
「何としても止めろ!」
責任者が叫びに答え、警備の兵士がスーツに発砲するが、全く効果が現れない。
「次の場所に向かいます」
魔磨は、その一言を残して、幻の様に消える。
「なんなんだ!」
責任者が怒鳴るが、事態は、改善する事無く、スーツの暴走により、米軍基地は、多大な損害を受け、その責任で軍法会議で重罰を下されるのであった。
軽井沢にある林間学校が行われている専用施設の林。
薪を拾い集める一志が胸ポケットから携帯を取り出す。
「一志、お前の携帯ってここでも繋がるのか?」
意外そうな顔をする同じ様に薪を集めていた光男。
「一応、地球上だったら何処からでも通じる奴を使っている」
一志がそう答えながら震えた理由をチェックする。
「そんな携帯あるんだな。ところで何かあったのか?」
一志が苦笑しながら内容を見せる。
『米軍基地謎の爆破事件?』
「何だよそれ、何か大事みたいだな」
光男が興味を惹かれるが一志は、あっさり携帯をしまう。
「公式ニュースに上がっていないからデマだろう」
「なんだ、それにしても米軍基地で謎の爆破事故か。何か漫画みたいだな」
気楽に言う光男に一志も頷く。
「本当だな」
笑いあう二人だったが、一志は、問題の基地がネットに情報が流れていた『ウロボロス』関係の研究に関わっていた基地で同時期に本土でも似たような事件が発生して居ると未確認情報があることから、そっち関係でまるで漫画の様な展開が繰り広げられていた事を予想するのであったが、林間学校を優先しただけであった。
「それより、うちの班の夕飯大丈夫だろうな? 明美の調理実習の料理最低だったぞ」
光男が不安項目をあげると一志が淡々と告げる。
「安心しろ、カレーだったら大抵の失敗は、ルーの味で誤魔化せる。ご飯の方は、魔美がやってい るからなんとかなる」
「上手いカレーが食える事を祈るよ」
光男の祈りは、通じず、四人は、半煮えのジャガイモが齧りながらの夕食になるのであった。
本気で魔美抜きの話にしました。
でも、このシリーズの真の主役って隼人と家久かもしれませんね。