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重い設定の軽い魔法少女

 ここは、現代の日本に良く似た世界。

 地名等も一緒である。

 間違っても、何処かの卵料理好きの一番偉い神様が別の名前を考えるのが面倒だから同じわけでは、無い。

 ……筈である。



 平和な東京、渋谷のハチ公口。

 誰もが平穏な日常を疑わなかった。

 しかし、その平穏は、一瞬のうちに掻き消されるのであった。

 突如、ハチ公の銅像を飲み込む黒い球体が表れたと思うと、そこから湧き出したのは、金属的な質感を持つ昆虫の様な人間大の生物だった。

「何だ? 映画の撮影か?」

 平和ボケした日本人は、それが危険な物だと認識することが出来なかった。

 出現したその謎の生物は、周囲の人間に襲い掛かると頭を掴むと顔と思われる部分から突起したストロー状の物を頭に突き刺し、何かを吸い出す。

「キャー!」

 悲鳴が周囲からあがる。

 そう周囲から、脳ミソを吸い取られた犠牲者は、悲鳴を上げる事すら出来ず、明日を失っていた。

 ここに至って、ようやく危険を察知した人々は、逃げ出し、大混乱に陥る。

 当然の事だが、ハチ公口の直ぐそこには、交番があり、そこの警察官は、駆けつけてくる。

「お前達なんだ! 早く、その人達を放せ!」

 拳銃を突きつけられても謎の生物は、気にもせずに脳ミソの回収を続けようとする。

「この化け物!」

 若い警官が発砲した。

「馬鹿が、簡単に発砲するな!」

 警官が軽率に発砲しては、いけないので先輩警官が諌めるのは、当然の事であるが、残念な事にここでは、その当然の事が通じない異常空間になっていた。

『カン』

 軽い音と共に銃弾は、その生物の外皮に弾かれた。

 捕まえていた被害者から脳ミソの回収を終えた謎の生物は、近くに居た人間、拳銃を構えていた警官に近づく。

「来るな!」

 警官としての倫理観を恐怖が上回った。

 警官達は、拳銃を乱射するが、無常にもその弾丸は、全て謎の生物の外皮にあっさり弾かれてしまう。

「うわー!」

 若い警官が拳銃を放り出し、逃げ出す中、先輩警官は、警察官としての最後の意地で一般市民の前に立ち、拳銃を撃ちながら応援を呼ぶ。

「こちら渋谷ハチ公口前、謎の生物に襲われています! 至急、応援をお願いします!」

 この非常識とも思える救援要請、普段なら警察も直ぐに動かなかっただろうが、偶然テレビの取材を行っていたカメラから事の次第がリアルに伝わり、そして逃げた一般人からの通報もあり、即座に機動隊が行動を開始した。

 重武装した機動隊が現場に到着したのは、ほんの数分後であったが、その間にも被害者は、増えていた。

 勇敢にも一般人の前に立ち塞がった警官もその被害者の一人になっていた。

 機動隊が対爆シールドを盾に謎の化け物を囲む。

「隊長、あれは、なんなんでしょうか?」

 異形の存在に動揺を隠せない隊員を隊長が叱責する。

「動揺をするな! 我々機動隊は、どの様な自体からも一般市民を護る盾になる為に居る!」

 叱責をしていた隊長だが、謎の生物に焦りを覚えていた。

「殲滅許可は、まだなのか」

 苛立つ機動隊が非殺傷兵器で牽制を繰り返すが、謎の生物には、効いている様子は、全く無い。

 ゆっくりとした足取りで部下の直ぐ傍まで来た所で隊長が決断を下す。

「特殊銃の使用を許可する! 全員発砲用意!」

 隊員が驚く中、隊長が怒鳴る。

「責任は、全て私がとる。このまま我々が突破され、これ以上被害を広げる訳には、いかないのだ!」

 その一言に隊員の覚悟も決まり、特殊銃、殺傷能力が高い銃器を構える。

「撃て!」

 隊長の号令と共に一斉に発砲された。

 この時の隊長の脳裏には、この後行われる査問会をどう対応するかという後処理の事があった。

 しかし、そんな考えすら甘いことを知らされる事になる。

 謎の生物は、高い殺傷能力を持つ弾丸の直撃ですらダメージを与えられていなかった。

「馬鹿な! 例え、あれがロボットでも十分に破壊できる威力の筈だぞ!」

「隊長!」

 隊員の一人が捕まってしまった。

「攻撃を集中しろ!」

 隊員を捕まえた謎の生物に銃撃が集められたが、謎の生物の行動を阻止できなかった。

 そして脳ミソ回収器官が隊員のヘルメットを簡単に貫いた。

「止めろ!」

 隊長の絶叫する中、謎の生物の脳ミソ回収が始まってしまう。

「放しやがれ!」

 必死に同僚を救おうと拳銃を撃ち、タックルをする機動隊隊員。

 しかしその全てが無駄に終わり、傍に居た隊員が次の犠牲者になってしまう。

「全員、牽制をしながら一般市民の盾になりながら後退せよ!」

 隊長の命令に犠牲になる同僚の存在に歯軋りしながら後退を開始する機動隊。

「……隊長」

 困惑する隊員に隊長が言う。

「自衛隊の応援を要請した。我々は、自衛隊が到着するまで一般市民の盾になる事だ。それこそが犠牲になった奴等へしてやれる唯一の事だ!」

 隊長の言葉に隊員の多くが頷く。

 この時点で謎の生物を中心とした大きな無人空間が出来上がっていた。

 そしてその上空に光が集まっていく。

「今度は、何だ!」

 隊長が叫ぶ中、光の中から現れたのは、魔法少女だった。

 それは、まるでアニメや漫画に出てくるような魔法少女、フリフリのドレスを纏って、手に魔法のステックを握ったまだ幼さを残した少女だった。

「はーい、あちきは、魔法少女ナチュラルマミだよーん」

 空気が一気に変化した。

「貴様、何やっている。ここは、危険だ、早く逃げるんだ!」

 叫ぶ隊長だったが、魔法少女ナチュラルマミは、うんうんと頷く。

「解っているわ。謎の生物にいきなり現れた魔法少女、意味不明って感じ? でも安心して、あちきは、この謎の生物を倒す方法があるから。そんじゃ行くよ」

 魔法少女は、そのステッキを振り上げて空中に魔方陣を描いていく。

『炎の精霊さん。あちきの声が聞こえたらな、その意思を示して』

 魔方陣の先に赤い光が燈る。

『あちきは、悪い奴等を倒したいの。だからその力を貸して!』

 魔法少女ナチュラルマミの言葉に応え、光は、炎に変化する。

 それを確認して魔法少女ナチュラルマミは、ステッキを振り上げ、大きく息を吸った。

『マジックファイアー!』

 ステッキが振り下ろされるとその方向に向って炎が広がり、謎の生物を捕らえて燃え上がらせる。

 先程までまるで動じなかった謎の生物達が呻き苦しみ、そして燃え尽きていった。

 唖然とした空気が流れる中、魔法少女ナチュラルマミが告げる。

「あれは、異世界から来た資源回収用生物チュパカブラ。この世界と異なる常識で生まれたからこっちの化学兵器は、通じないの。有効なのは、あちきが使った様な魔法みたいな意思を用いた攻撃だけなんだって。詳しいことは、あちきも良く解らない。えーとインターネットのこのページをみれば詳細が解るんだって」

 魔法少女ナチュラルマミは、そういってアドレスが書かれたチラシを撒く。

「それじゃ、あちきは、面倒ごとは、嫌だから帰るね」

 ステッキを振り上空に魔方陣を描くと魔法少女ナチュラルマミは、現れたのと同じ様に光と共に消えていった。

「どうなっているのだ?」

 そう呟くしかない隊長であった。



 警視庁の会議室。

「詰り、問題の生物を倒した謎の少女は、そのチラシを撒いて消え去ったと言うのか?」

 上官の言葉に現場に来ていた隊長が背筋を伸ばして答える。

「はい。その通りでございます」

「馬鹿にしているのかね?」

 冷たい視線を向けるお偉方に隊長は、拳を握り締めて堪えた。

「冗談で私は、自分の部下を失ったりしません」

 その言葉を補足するようにその会議の進行役が説明する。

「彼の証言を肯定する映像や一般市民の証言もあります。問題は、このチラシに書かれたアドレスに書かれていた内容です」

 その内容をプリントアウトした資料を雑に扱う幹部の一人。

「冗談にしか思えないな」

 多くの幹部が同様の感想を抱いていたのだろうが、進行役が淡々と告げる。

「しかし、機動隊の装備が通じない謎の生物が居て、それを打ち倒した存在が居る。そして、その謎の生物は、これからも現れる可能性があるという事が重大な問題なのです」

 幹部の一人が舌打する。

「異世界から現れる、資源にする為にある一定以上の知能を持った生物の脳ミソを回収する生物とそれを送り出す異世界の非合法組織『ウロボロス』。問題の魔法少女は、偶然にそのウロボロスの事前調査員と遭遇してその事情を知ったとなっているな」

 進行役が頷く。

「はい。そしてその場に偶々居合わせた問題のページを作った人間と話を聞いて、これらの事実を掴み、こうして今回発表したとなっています」

「馬鹿馬鹿しい! こんな御伽噺みたいな事が実際にあってたまるか!」

 一人の幹部が激昂すると進行役が問う。

「ならば、一連の事件をどう解釈するというのですか?」

「それは、なんだ、だから、その……」

 そういわれて激昂した幹部も答えに詰るが別の幹部が言う。

「異世界って言う突拍子も無い事は、無視しよう。問題の生物、もしかしたらロボットかもしれないが、それが脳ミソを回収しようとしてたのは、確かだ。脳ミソを回収する事を目的とする組織があり、その組織があれを日本で実験したと考えるほうが妥当では、ないか?」

 進行役が苦笑する。

「何故非合法が抜けたのですかね?」

 発言した幹部が肩をすくめる。

「そんな事を言う必要があるのかね? 仮にあんな物を作れるとしたら、そんな組織は、多くない。既に上では、探りあいが始まっている」

 ここに至り、幹部の中でも今回の件への深入りが危険だという認識が共有され始めた。

「当面は、警戒を強めるという事で問題ありませんね?」

 進行役の言葉に幹部連中が面倒そうに同意する中、現場隊長が反発する。

「待ってください! 資料にある様にこれからもあの化け物、チュパカブラが現れるとしたら、一般市民にも多くの被害が出ます。一刻も早い対策を練るべきです!」

「黙れ! 特殊銃の無断発砲の件でそうそうに査問会が開かれる。君は、その事だけを考えていれば良い!」

 幹部の叱責に現場隊長が更に抗議をしようとしたが、進行役が制止し、耳元で囁く。

「ここは、堪えて下さい。貴方には、重要な仕事をお願いしたいのですから」

「重要な仕事?」

 困惑する現場隊長に、進行役が頷く。

 幹部達が退出した後、進行役が言う。

「正直、私にとって相手が異世界の非合法組織だろうが、某国だろうが関係ないんだよ」

「その発言は、かなり危険な発言です」

 現場隊長の言葉に肩をすくめる進行役。

「ここには、君と私しか居ない。問題なのは、君が言った通り、一般市民に被害が出る恐れが高いと言う事だ。そして、我々には、あれに有効な対抗手段が無い」

 悔しげな顔をする現場隊長に進行役が告げる。

「貴方には、あの場に現れた魔法少女を探して欲しいのです。彼女からあれに対応する手段を手に入れる。それこそがいま我々が最優先しなければいけないことです。査問会の方は、私の方で抑えておきますので早急に捜査をお願いします」

 現場隊長が敬礼をする。

「了解しました」



 区立自由が丘中学校の教室の一つ。

「ねえ、魔法少女の映像見た?」

 クラスでも人気者の少女、町田明美アケミが地味な眼鏡少女、谷口魔美マミに訊ねた。

「見たけど、どの映像も顔がちゃんと映ってなかった」

 がっかりした表情をする明美。

「そうなのよ。もうどうなってるのかしらね?」

「なんだ、魔法少女の話をしているのか? 俺も混ぜろよ」

 サッカー部に所属しているが軽くお宅が入った男子、黒石光男ミツオが割り込んでくる。

「本物の魔法少女だぜ! 萌えるよな!」

 呆れた顔をする魔美。

「そんなオカルトありません。きっとテレビ映像でそう見えただけで機動隊の人達が化け物を倒したんですよ」

「かー、あいかわらず夢が無いな。お前は、どう思う?」

 隣で専門書に目を通していた高田一志カズシが我関せずと言う顔で言う。

「谷口さんと同意権だ。あんな非常識な事を現実だとは、思えない」

「でもでも、本当に魔法少女が実在するならあたしも魔法少女になりたいな」

 夢見がちな明美に魔美がため息を吐く。

「あちきは、間違っても魔法少女なんてやりたくない」

「同感だ。それよりもあんな化け物に会わないそれが一番だ」

 一志がそう締めくくるのであった。

 そして放課後、一志が部長を勤めるコンピューター部の部室に魔美がやってくる。

「あのさ、あの衣装ってどうにかならなかったの?」

 一志が淡々と答える。

「単なる僕の趣味だ」

 魔美が沈痛な面持ちで今もそれ系のゲームをやっている一志を睨む。

「着る方の身にもなってよ! だいたいさ、なんでチュパカブラがこんなに早く現れたの。実回収作業は、もっと先じゃなかったの?」

「ウロボロスは、中小の組織らしいから資金面でトラブルでもあったんじゃないのか?」

 あくまで気楽に言う一志に詰め寄る魔美。

「あのね、それであちきがあんな危険な事をする破目になったんだからね。解ってるの?」

 それを聞いて一志が真剣な顔をする。

「すまない。恋人のお前に危険な真似させてしまった事は、悪いと思ってるよ」

 その一言に顔を真っ赤にする魔美。

「いきなり真面目にならないでよ! 恥かしいじゃない!」

 苦笑する一志。

「それにしてもお前の目立つの嫌い病にも困ったものだ。僕は、別に付き合っている事が他人に知られても構わないんだけどな」

「あちきが構うの! それにしても、まさか周りに気付かれないように人気の無い所でデートしてたらウロボロスの奴等の調査員とかち合うなんてなんてアンラッキーなの!」

 不満そうな顔をする魔美。

 一志は、頬をかきながら言う。

「まあ、偶々魔美が代々続いた魔法使いの家系で、対抗できたのは、僥倖だった訳だ」

 魔美が複雑な顔をする。

「あちきのは、家で代々受け継いで来た技能だけど、異世界の言葉をあっという間に理解して、必要な情報を引き出した上、あちきの魔法の強化までやっちゃう一志の方がとんでもないよ」

 暫くお互い見詰あった後、一志が自分が作成したウロボロスに関するページを開く。

「アクセス数は、あっという間に数百万件。このページに書かれた事に関する議論がいたるところで行われているよ」

 いくつか開かれたページを見て魔美が眉を顰める。

「あのさ、この某国の陰謀説ってあるけど、普通に考えてあれがこの世界の技術で作れるかどうかぐらい解らないのかね?」

「人間の悪い癖。出来るだけ自分の理解できる範疇で収めておきたいのさ。問題は、対抗手段についてあまり話されていないって事だ」

 一志が意味ありげな視線を魔美に向ける。

「解ってる。現れたら出来る範囲で対処する。まあ、出来なのは、やらないけどね」

 魔美の軽い答えに一志が満足そうに頷く。

「魔美は、それで良いよ。どこかのアニメじゃないんだ。一市民が命懸けになる必要なんてないよ。第一万が一にも最愛の魔美が死んだら僕が生きてられないよ」

 再び顔を赤くする魔美。

「もう、一志の馬鹿」

 その一言は、間違いなくツンデレ要素が含まれていた。

 そんな中、パソコンの画面にホップアップ画面が開く。

「現れたみたいだ」

 一志の言葉に大きなため息を吐く魔美。

「はいはい。いきますけど、認識阻害と魔法による防御、空間転移用の衣装のデザイン、もう少し普通のにしてよね!」

「出来るだけの善処させて頂きます」

 一志の誠意が篭ってない答えに魔美が怒鳴る。

「あんたは、どっかの政治家か!」

 そう良いながらも魔法少女のコスチュームを纏い、家に代々受け継がれた木の枝を一志が作った増幅用のステッキに組み込む魔美。

「それじゃ、魔法少女ナチュラルマミいきまーす!」

 空間を転移していく魔美を見て一志が呟く。

「魔法少女の時は、派手な事も平気って事は、意外とコスプレ願望があるのかもな」

 目立つのを嫌う自分の事情中心、妥協型ヒロイン、魔法少女ナチュラルマミの戦いは、続くのであった。

魔法少女の重設定なんて嫌だ、出来るだけ背負うものを少ない魔法少女物を目指しました。

因みに自由が丘中学校は、実在しません。

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