伊勢 奈美
渚「はい、飯。
冥界に行ってから米食ってないだろ?」
俺は毎日食べている朝食をちゃぶ台に並べた。
胚芽精米、(今日は)ワカメとエノキタケの味噌汁、ほうれん草とシラスの和え物、シーチキン。
とりあえず毎日バランス重視で組んでいる。
イザナミ「これが...現代の米...」ドキドキ
ちなみにイザナミは今、俺の家にあった20代で死んだ母さんのパジャマを着ている。
最初は着づらそうにしていたが慣れたらしい。
イザナミ「美味しい」パクッ
そうか....イザナミは精米を食べたことがないんだったか。
イザナミの時代は古代米が主食だった。
今とは大違いだろう...。
イザナミ「どれも美味しいですね!!」
イザナミがパクパクと朝食を口に入れるとあっという間に完食してしまった。
イザナミ「ごちそうさまでした!」
*********
朝食の後は忙しかった。
アメノムラクモの失敗作をポイポイ溶かすと包丁の形を作り、鍛える。
イザナミ「何をしているんですか?」
渚「包丁っていう料理に使う刃物を造ってるんだ。」
鎚で真っ赤になった鉄を叩く。
渚「よっ!」
それを水に入れて冷やす。
イザナミ「すごいですね!」
渚「だけどうちは一人で造る小規模だからね...。
よし!
今日はこれくらいの包丁とハサミと鍬を売るか...。」
イザナミ「あの~?」
イザナミのスローテンポな声が響く。
イザナミ「私は何をすればいいですかぁ?」
渚「イザナミ、じゃあ早速頼むんだけど。
何が売れたかをメモして欲しいんだ。
これが包丁でこれがハサミ...」
*********
本当は俺一人でも十分こなせた。
でも頼んだのは彼女の自信が無くなるのを防ぎたかったからだ。
イザナミ「ハサミが一つ...」
今知ったのだが、彼女は計算はできる方だった。
渚「まいどあり!
またいらっしゃいな!」
見事完売すると...。
イザナミ「あの...何を?」
渚「こっからが本番さ!」
いつもお世話になっているおじさんから譲り受けた大量の鉄鉱石を精錬する。
渚「イザナミ...言ってなかったことなんだけどさ...」
イザナミ「はい...」
渚「俺...アメノムラクモを造ろうとしているんだ。」
イザナミ「え...えええええぇっ!?」
リアクションがいちいち大袈裟だな...。
イザナミ「見せてください!!!」
渚「いや...失敗作はみんな包丁に溶かし直してるんだけど...」
イザナミ「じゃあもし出来上がったら私に見せてくださいね?
約束ですよ!」
渚「ああ、約束だ。」
今回は鋼鉄すら切り裂け、いくら斬っても切れ味が落ちにくいような剣が出来上がった。
鉄鉱石を一部加工して鉄塊にして試し切りしてみた所、マグロを斬るくらい簡単に斬れた。
渚「会心の出来だな...。
斬鉄剣なんて造れたことないのに...。」
ちょっと前、とあるアニメにハマってその剣を造ろうとしてことごとく失敗した記憶が蘇った。
渚「(これもイザナミが何か神憑り的な奇跡を起こしているのだろうか...)
出来たよ!
イザナミ!!」
イザナミ「はい。
わぁー...これが渚君の造ったアメノムラクモ...」
イザナミは嬉しそうに剣を受け取ると片手で軽々と振り回し、返却した。
渚「でも何か足りないんだ...
それを研究している所さ。」
イザナミは急に凛とした顔になった。
イザナミ「私と交渉しませんか?」
渚「え!?アメノムラクモに出来るの!?」
イザナミ「はい。
私の冥界の力を持ってすれば簡単ですよ。
ただし!
冥界の力ゆえ取引しなくては使えないのです。」
渚「なるほどね...うーん。
じゃあ俺が叶えられるギリギリの範囲でイザナミのお願いを叶えるってのは?」
イザナミ「...ちなみにこの契約は破棄できませんがいいですか?」
待てよ...もし目玉よこせとか言われたらどうしよう...いや、でも目の前に輝く伝説の魔剣の誘惑が...。
イザナミ「そんな野蛮な事じゃあありませんよぉ。」
なんで分かるんだよ!!!
イザナミは心も読めるらしい...。
渚「分かった!
いいよ!俺にできることならなんでも!」
イザナミ「やった!」
イザナミは嬉しそうに笑った後...とんでもないことを言い出した。
イザナミは正座すると頭を下げ....
イザナミ「私を...あなたの許嫁にしてください!」
.........................は?
渚「俺の...許嫁!?」
イザナミ「はい♪
というより決定事項です♪」
イザナミはパジャマのポケットから魔法のように一枚の契約書を取り出すと俺に見せた。
渚「何々....
以下の誓約を守らなかった場合、あなたは剣もろとも奈落の底へ落ち二度と出られなくなります。」
怖ぇよ!!!!
だが誓約はいたってシンプルかつ恥ずかしいものばかりだった。
渚「誓約その一。
あなたのみ浮気は自由だが私以外の女性と結婚してはならない。
誓約その二。
風呂は夫婦で入れ。
また、寝る際も同じである。」
こんなんでいいのか!?
イザナミ「あとはここに直筆で何か書いてくださいね♪」
イザナミはサインを書くスペースであろう所に指差した。
俺は何の躊躇いもなくサインすると...イザナミは笑顔になった。
イザナミ「よろしくお願いしますね♪
あと.....そうだ!
名字も同じにしないと!」
渚「随分と気が早いな。」
イザナミ「神の世界ではいつも女性を巡る血みどろの戦いがありましたから...。」
それを笑顔で言うな!
怖いだろ!!
イザナミ「うーん...名前何にしよう...」
頭を抱えて考え込むイザナミに俺はとっさに思い付いた名前を言ってみた。
渚「伊勢 奈美....」
イザナミ「え?」
渚「そうだ!
これがいい!
よし!
今日からイザナミの名前は『伊勢 奈美』だ!」
イザナミ「伊勢....奈美...」
イザナミは何度も小さな声で連呼すると...。
奈美「気に入りました♪
ありがとうございます!!!」
ペコッと頭を下げた。
*********
アメノムラクモが奈美の冥界の力で黒ずんでいく...。
奈美「終わりました♪」
渚「どうなってんだ...一体...」
俺の剣はいつのまにか西洋の剣『エストック』のような形状になり、剣は漆黒に染まり、柄には大粒のルビーが埋め込まれていた。
奈美「冥界の力が強すぎちゃったみたいですね。」
渚「もはや日本刀ですらないだろ!?これ!?」
奈美「いいじゃないですかぁ...カッコイイし...。」
奈美は冥界の力で鞘まで創り剣を鞘に納めると俺に渡した。
渚「ありがとう...やった!
これが真の魔剣...!!!」
奈美「鞘と剣は私とあなたにしか見えず、触ることもできませんのでご安心を。」
渚「出来ねぇよ!
その剣を常に身につけてろってか!?」
奈美「女性を護ることが男性の役目...古から続いてきた伝統ですよ?」
渚「分かった!
常に身につけていればいいんだろ?」
鞘をズボンのベルトに掛けると...不思議と身体が軽くなる気がした。
渚「変えるか。
名前。」
奈美「え?」
渚「よぉし!」
俺は剣を掲げた。
渚「今日からお前は『アメノムラクモ』から『メオトザクラ』に改名する。
由来は俺と奈美の夫婦が円満になるように...。」
奈美「わぁー....はい♪
よろしくお願いしますね!
渚君!」
奈美の笑顔はとても眩しい...。