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ごちそーさまでした


お風呂から上がった私は上機嫌でハスと共に城内の廊下を歩いていた。鼻歌を歌いながら歩けば機嫌いいなと呟くハスの姿、そりゃそうだ、さっきまでべったべただった体がすっきりぴかぴかだ。それに使い心地がよかった、バスタブはでかいし、シャワー気持ちよかったなあ。ただ、お腹がすいてるのだけはどうにもならん。


「ねえ、ハス」

「なんだ?」

うーん、呼ばれただけで尻尾を振るとは可愛い。さすが癒しキャラ、抱きしめたくなるよ、嘘だけど。

「ハスって、何食べるの?」

ちょっと聞いてみた、悪魔は何を食べるのか気になるからな!私は今お腹がすいてるわけだけど悪魔の食べないものを食べていたら怪しまれるしね。

「肉」

即答だった。

「それ以外には?」

「いや、肉だけ」

肉だけって!バランス悪!悪魔って皆そーいうもんなの?それだったら私生きていけない自信がある。勿論肉も好きだけど、野菜とか大好きだし魚も米も大好きだし、麺もパンも大好きなのに肉だけはつらいよ。そんなことを考えているとハスが再び口を開いた。


「でも、ブラッドはヴァンパイアだから血ー飲むんだよなー」

「!?」


血を飲む……だと!?



考えていなかった。

そうだ、私はヴァンパイアなのだ。ヴァンパイアの一般的な食事といえば血だろう、アニメとかでなら人間の首あたりに噛み付いて血を吸うのを見かけたことがある、というと、私もまさか血を飲んで生きなきゃいけないのか!?そんなの嫌だ、だってねえ、私心は人間だし?気付いたらヴァンパイアだっただけなんだよ。


でもさー、血飲まないと私餓死するんだよね?


それは嫌だもん、血を吸うのは勿論嫌。



でも、死ぬのはもっと嫌。



なんでかはわからない、でも、多分、私は死んだことがないからだと思う。

死んだ後の世界なんて知らないし、生まれ変わるのかもわからないし、何もわからない。死んだ人間にしかわからない、でも死人に梔子、そう死人は話してはくれない、だから、死後どうなるかなんて私は知らない。


だから、死ぬのは嫌。


だって怖い、死んだら私の世界は消えちゃう。



私が消えても世界は存在するけど、私の中ではきえちゃうもの。


家族が死んでも世界はあり続けるけど、私が死んだらその時点で私の中の世界は消える。



だから、怖い。


死にたくないから、嫌だけど血だって吸う。大切な誰かと自分、どちらを選ぶか聞かれたら迷わず自分を選ぶし、自分が死ぬか他人を殺すかってきかれたら他人を殺す。人を殺すぐらいなら死んだほうがマシだとか言う人いるけどさ、所詮綺麗事で戯言だよ。だって、自分のほうが大事だもん。こんなことを言っている私は人間として大切なものを欠如したみたいに見えるけど、私今人間じゃないし。悪魔だし。認めたくないけど、ヴァンパイア。だから、しょうがないんだ。



悪魔だから必然的に、人間を殺す場面がくるかもしれない。

誰かの血を啜って生きるときがくるかもしれない。


それをしょうがないと言い聞かせて、私は人を殺して他人の血を啜って生きるんだろう。




悲しいけど、それもしょうがない。


全部、しょうがないのだ。理由は簡単で、私は今魔界にいてヴァンパイアだから。ただそれだけ。でもこのただそれだけが、人間からしたらただそれだけにならないんだ。



「……ブラッド?どうしたの?」

おお、ハスの存在をさっぱり忘れていた。すまん、ハス、心の中で謝るから許せ。

「んー、何でもないよ。ただ、お腹がすいてね」

「へえ、じゃあ俺の血飲む?」

「うーん、そうだなあ」


って、え?

血飲む?ってフレンドリーに言うことじゃなくね?だってさ、ヴァンパイアに血を吸われると血を吸われた方もヴァンパイアになるとかどうとか聞いたことあるんだけど。


「遠慮するなよー、俺悪魔だから大丈夫だし……あっでも」

「でも?」

どうしたのだろう、いきなりシュンとした顔して。あ、しっぽも耳もショボーンってなってる。可愛すぎる、顔は爽やかっていうか凛々しいっていうか、男らしい顔してるのに。


「人狼の血って、あんまりうまくないって……ヴァンパイアが前いってて……」

「そ、そんなことないって!」

思わず言ってしまった。


これって飲まなきゃ駄目だよね、ハスはしゅんとしながら本当?なんて聞いてるし……!


「だ、大丈夫だよ!」

「じゃあ、俺の血でも平気?」

「う、うん!」


その瞬間、先ほどの表情とは変わりパアッと周りに花が咲きそうな勢いの笑顔を撒き散らした。


「じゃあ、遠慮すんなよ!」


そう言って服を肩まで下げご丁寧に首筋を差し出すハス。こ、こいつは羞恥心ってもんがないのか!噛むのを躊躇していると噛まれても痛くないから大丈夫と言い出す始末。うあーん。此処は……腹を括るべきか。しょ、しょうがない。


私は意を決してがぶっとハスの首筋に歯を立てて噛み付いた。


あ、あわわ、あわわわわわわわ、は、やばい、噛んじゃった。あ、あ、自分の歯が首筋にくいこんでいるのが良く分る。歯が肌を抉るにつれ滴る血液。羞恥心を捨て、その血を啜れば口に広がる甘味な味に鼻を刺激する匂い。



ヤバイ、うますぎる。



私がヴァンパイアだからだろうか、味覚がかわったのかもしれない。ただ、血が美味しい、それだけを感じながら首筋に容赦なく歯をたて、ただただ血を啜っていた。


十分ぐらいした頃だろうか、そろそろ腹も満たされたため血を啜っていた口をとめる。肌に付着している分の血液も綺麗になめとり、一言。


「ごちそーさまでした」



あー、美味しかった。生きるためだしね、しょうがない。

ただ気になるのがハスの反応がないことだ、吸いすぎたかもしれない。人狼の血がまずいなんて嘘っぱちだ。


「……ハース?」


反応はない。


「ハス、ハスってば」


反応がないため肩をゆすってみる。反応はないが、ふわふわしたハスの髪から覗かせた肌は心なしか赤かった。その後、一時間ぐらいして、やっとハスは反応して顔を真っ赤にしてブ、ブラッドの馬鹿ーといって走ってどこかにさっていったのだ。



取り残された私は、独り寂しく道に迷っていたわけだが。




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