ツンデレと癒し系?
「落ち着いたか?」
そういう青年は、先ほどよりも心なしか大人に見える。
まあ、ヴァンパイアという単語にパニックを起こし鏡を突き出してみれば発狂しはじめ、ぶつぶつと違うと呟きはじめたクレイジーな野郎をとめるためには自分がまず落ち着いてともだちだとかを一旦置いといてこいつに話しかけなければいけないことに気付いただけだろうが。
にしても、お恥ずかしいところをみせてしまった。
羞恥プレイの嵐である。罵倒の嵐以上に嫌なものを体験してしまった私だが、まあそこはもう過ぎたことなのでよしとしよう。だから、頭の違和感の正体、又の名を大きなこぶともいうソレも私を落ち着かせるためのものであって100歩譲ってよしとしよう、だがしかし人間には有り得ないエルフのようなとがった耳もひつじのようなというには禍々しい色をしている角に黒が綺麗な羽と尻尾はよしとはできないものなのだ。
「私って、ヴァンパイア?」
「まあ、そうだな」
「人間に見えない?」
「見えない」
即答である、まあ、そうですよねー。人間羽はえてねーもん。はえてたらまた私が発狂しだすところである。
「ヴァンパイアってことは悪魔ってこと?」
「そうだけど、どうかしたのか?」
どうかしたもなにも問題大アリだ、だって私は人間なのだ。今の体では説得力は皆無であるが少なくとも心は列記とした人間である、それを証明するものはここには一つもないといえるのだけれど。
そう、私が人間であったといえる証拠はないのだ。
世界五分前仮説と同じで、世界が五分前にできたと肯定もできなければ否定もできない。私は元からこの世界にいて実は今までの世界が夢であったという仮定も否定もできなければ肯定もできないものなのだ。私としては否定したいのだが。
とりあえず、私は今、悪魔として生きろということであり、ヴァンパイアといえば血を吸うアレなわけで人間の血をすって生きろということなのだろうか。
「大分落ち着いたらしいな!まあ、よくわかんないけど……おれ、ともだちにならなれるから」
そう言って手を差し出す青年は、先ほどまでは煩わしいものでしかなかったものの自分が悪魔とわかってしまった今となっては天使に見える、いや悪魔だけどね。
おずおずと差し出された手を強く握れば、パアアと明るくなる青年の表情は見てるこちらも嬉しくなってしまうようなもので彼は本当に悪魔なのだろうかと疑問に思ってしまうぐらい爽やかである。
「なんかわからないけど、おれはお前のともだち一号ってことか!?」
「……まあ、そうなるね」
この世界での友だち第一号は間違いなくコイツだろう。
「ふうん!なんかいいなそれ」
何がいいのかは私にはサッパリである、まあ本人も理解しきれていないようなので私にわかってしまったら軽くホラーだ。
とりあえずお互い無言になってしまったため気まずさが半端じゃない。
ここは素晴らしい気の利く日本人スキルを使用し私は自分からの話題提供に成功した、引っ込み思案なはずの私がこんなんになってるのはきっとこの世界のせいである。
「ねえ」
「なんだ?」
「名前何?」
そうそう、これがききたかったのだ。だって話して(というよりも攻防しあって)二時間以上経過してるけどお互い名前すらしらないのだ、わかるのはどちらも悪魔であることだけである。
「ああ!そういえば紹介してなかったよな!俺はハスだ。人狼だ」
「へえ、人狼ね」
人狼ってなんかファンタジーだな、いや私の存在自体もファンタジーなものにされてしまったのだけれども人狼ってなんかかっこいいイメージあるもん、いやこいつの場合は犬っぽいけど。
「なあ、俺が紹介したんだ。お前は?」
「……あ、ああ、そうだね、私は」
あんま紹介したくない名前なんだけどなあ。
まあしょうがない……、魔王様がドヤ顔で私にくれた名前である、この世界では誇っていいはずのものだしね、多分。
「ブラッド。で、わかってると思うけどヴァンパイア」
「へえ」
私がそう名乗ればブラッド、ブラッドと何度も繰り返し小さく声に出して暗唱している。うむ、結構可愛いところがあるじゃないか、というより普通に癒される。暗唱を終えたのかハスは考え込んでいたような表情を一瞬で明るい笑顔へと変貌させ
「その、俺ともだちとかってよくわかんないんだけど、よろしくな!」
そう言った、そういわれて悪い気はしないし尻尾もはちきれんばかりふられていて見てて可愛らしい。
出会いこそ最悪だったものの彼とはやっていけそうなきがする。よろしくといったあとグフッと噴出したのは気になったが、まあきっと知ったところでどうにもならないようなことだろうと判断した私はスルーした。
こうして、私たちの奇妙な友情関係が成立したのだった。
その様子を微笑ましそうに魔王様が覗き込んでいたことを知ったのは数時間後のことであり、その後三人でじゃれあって(といっていいのだろうか)私のHPがすり減らされたのはいうまでもないだろう。
血塗れだったのはなぜかは聞きそびれたわけだったが。
そして私は吹かれた意味が私の尻尾が嬉しそうにふられていたことなんて知る由もなく、後日談としてツンデレというなのレッテルとはられることになるわけなのだが。
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