原因はコイツです!
え?今コイツなんつった?
「わ、わんもあぷりーず!」
「俺は魔界を支配している魔王―サタン―だ」
気付けば声は出ていた。
今はそんなことよりも!こいつなんつった?サタン?魔王?え?魔界?
おいおい、冗談はよしてくれよ、ジョニー。
ありえないだろう、おかしいだろう、さっきまで自分を曝け出して?
おお泣きして?馬鹿みたいに弱音吐いてた相手がはい?ラスボスとかきーてねーんですけどおおお!
どうするんだ、私!頑張れ私の脳みそ、フル回転させろ、生きる方法を考えるんだ。
ていうか、その前にお礼を言うものじゃないのか?
弱音吐いたわけだし、わざわざここまで連れてきてくれたわけだし魔界で人間の常識が通用するのかはわからないけどとりあえず。
「あ、あの、ありがとうございます」
そういった瞬間、魔王様のお顔はそりゃあもう驚きとコイツ何いってんだ?みたいな表情になりましたとも!いやいや、私は正しいですよね?そうですよね?だって人間ですもの!お礼は当然ですよね!?
そんなことを頭の中で張り巡らせていると大きな笑い声が聞えた。
何これ、爆笑かよ。
その笑い声の主は、もちのろんで魔王様ー!はっはっは、殴っていいですか。
無理だけど!無理だけどさ。私にはそんな勇気も度胸も何にもねえ。
でもさ、しょうがないと思うんだよ。だって!私はお礼の意を述べただけであり当たり前のことをしただけなのに、何故にこんなに笑われなければいけないんだ、魔王様は今もくぷぷぷぷと口を押さえている。なんなんだよおおおおお!
じとめで魔王様を見ていると不意に魔王様が口を開いた。
「クッ……ク…ぷ……!……お、お前、とても面白い!気に入った、謝罪の意ではなく謝礼の意とはな……!」
え?あ、そこ?
確かに謝るの忘れてたわー、でもさ、でも、謝られるよりありがとうのほうが嬉しいじゃないか。個人的な意見なのだが、というかそこ、まだ笑ってるのか、何だよ、お前とても面白いって!気に入ったって!
「ク……ぷッ―ぷ……お前、名は?」
ヒーヒーと笑い続けている魔王様は私に名前を尋ねてきた。
名前?なまえ?なんだっけ?あれ?ほら、母さんがつけてくれた、大切な、大切な、名前があるはずなのに、なんでだろうか、思い出せない、わからない、どうしようか、ここは偽名でも言っておくべきなのか?いやいや、相手は魔王様だぞ?嘘なんて通じるか、此処は正直に話そう。
「名前、ないんです」
かなり端折ったけど、まあ、いいよね?
だって今は名前ねーし!しょうがないよね!
「…そうか…」
魔王様は考え込むように顎に手をのせる。
無駄に決まってるのがなんか悔しい、イケメンはいいなこの野郎。
無言かと思えば魔王様はいきなり顔をあげてこういった。
「よし、特別に俺が名をつけてやろう!」
おいおい、んなもんいいよ、なんかもう厨ニ的名前とかやめてよ。
騎士とかいてナイトとよむとかやめてよ?はは、ブラッドとかもやめてくれよ?魔界だからって。
私のそんな思いも知らずに魔王様は言ってくれやがりました。
「お前の名は……そうだな、ブラッド、ブラッドだ。これからお前はブラッドを名乗ることを許可しよう。」
ははははは、死ねこのやろおおおおお!
ありえないじゃん!いやだって心の中で叫んだのに、血って!血って!許可しようとか上から目線ですねコノヤロウ。いや、死にそうなところを助けていただいた恩人でもありますから下手に手は出せないですしね、魔王様ですし、出した瞬間が私の命の賞味期限だろうし。
「ありがとうございます」
一応これは社交辞令なんでね?
お礼はいうよ、名無しとは名乗りたくないしね。
「お前、ありがとうばっかだな!」
何気に失礼ですよ魔王様。
ああ、もう本当さあ……
「後、お前面白いから気に入った、だから」
「魔城で生活してもらう」
一発殴ってもいいですよね?
(前途多難すぎる魔界生活のはじまりはじまり)
きっと彼女の自暴自棄自己中心的(思春期)はここからはじまった。
原因は間違いなくこいつです。