合コン後の草太と遊輔。
この物語の登場人物は全て架空の人物です。
彼等・彼女等の経験についても多分フィクションです。
合コンの帰り道、車を運転する草太に助手席で携帯を弄る遊輔が言った。
「なぁ、今日の合コン誰が良かった?一番可愛かった愛ちゃんか?それとも横に座ってた由美ちゃんか?」
「・・・うーん、誰だろうねぇ。あんまり喋れなかったから、誰とも言えないなぁ。」
テンションが高めな遊輔は合コンで知り合った女の子に早速メールを送りながら、結局またかよ・・・と呟いた。
草太は合コンの際、緊張して全然喋る事ができなかった。喋れたとしても緊張しすぎて面白い事はいえず、すぐに会話が終わってしまっていた。遊輔に誘われて何度も行っている合コンだが、草太は毎回そんな感じで進歩が見られなかった。
「そう言う遊輔は誰が良かったの?京子ちゃんとすごく良い感じになってたし。」
「俺か?俺は京子ちゃんもいいけどやっぱ愛ちゃんかなぁ。あの胸は堪らないしな。」
遊輔は合コンの時を思い出しニマリとした。呆れて草太が言う。
「お前も結局それかよ。彼女いるくせに・・・こんな事ばっかやっててばれても知らない
よ。」
「まぁばれた時はしょうがねーよ。今は好きじゃないんだしさ。」
そう、遊輔には彼女がいるのだ。合コンで出会い、付き合い始めて5ヶ月ぐらいになるはずだが、その実態は彼女からの片思い、遊輔からの少量の愛で成り立った彼氏彼女の関係で、会ってもただ体を合わせるだけの付き合いになっていた。
「遊輔は良いよな。合コンやれば絶対の確率で女の子落とせるし、狙う女の子もいっぱいいるしさ、僕にもその人心掌握能力を分けてほしいよ。」
「いや、コツは教えてるじゃん。後は経験だって。」
「・・・やっぱそうかなぁ。」
確かにコツは教えてもらっていた。多分遊輔は嘘は言っていない。
合コンの際に遊輔自身が気をつけていることを草太には伝授してあった。がしかし、それで草太が遊輔のように振舞えれるわけなどなかった。
それは、そもそも論の土台の話。女の子と会話慣れしている土台の遊輔と女の子と会話慣れしていない土台の草太。そこに同じ物を足したとしても、土台の所為で上手く立ち回れる遊輔と立ち回れない草太という違いができてしまう。
その違い、その土台こそが、まさに『経験値』なのであった。
「やっぱ、こうなったのは本を読みすぎたのが原因なんだろうなぁ・・・。」
ポツリと小さく呟く草太。
草太は小さい頃から本が好きで、様々な本を今まで読んできた。それは小説であったり漫画であったり種類は様々であるが、比較的漫画の方が多かった。
彼は本の読みすぎで自分の性格が作られた事を知っていた。いや、正確に言うと彼自身が望んでこの性格にしたと言ってもいい。
漫画の恋愛と言うのは様々な物があるが、やはり子供が読んで憧れる恋愛と言うのはやはり純愛。理想だけを求めれば優しい男、嘘もつかない、女を悲しませない男になりたいと思ってしまう。彼は小さい頃からずっとそれを心がけ、実行しようとしてきたのだ。だから、下手な事がいえない、お世辞すら・・・ジョークと言う笑いの為の嘘ならギリギリ何とか言える様にはなってきたが、女性に対して全くの嘘がつけなかった。
そもそも本の読みすぎで、誰かを悲しませるくらいなら一人で生きて一人で死にたいと本気で思っていた彼は、誰とも付き合いたくないと言う究極の結論に達していた。しかし、歳を重ねるにつれ、現実と向き合うようになり、そんな理想は実現できない事を知る。自分の考えが過ちだと気が付いた時、彼には優しさと、不自由な性格、そしてどこまで保って良いのか分からない理想像しか残らなかった。
漫画や小説には不自然なほど急に惚れる女の子やゆっくりと時間をかけていた結果惚れる女の子ばかり。現実には無い事ばかりだと分かっていながらも純愛を求める彼は、好きと言う感情が生まれてからのみ女の子にアタックしたいという体になっていた。(残念ながら深層心理に定着してしまっていた。)
社会人になって、職場に女っ気がない彼には合コンと言う手段しか出会いの場がない。なのに合コンで好きになってからアタックと言う選択はあまりにも無謀で、ろくに話せもしない彼が一目惚れした子しか狙えないというのは、非常に厳しく、もし仮にその条件を突破しても相手を落とせる確率は経験値上非常に厳しい状況となっていた。
それを知っていながらも抗い、どうにか彼女を作ろうと頑張る草太。
「にしても僕からすれば信じられないよ。何で遊輔は好きでもないのに付き合えるの?向こうが思ってくれてるんだから、両思いになればいいのに。」
運転をしながら遊輔に話しかける草太。遊輔はメールを打つ手を止め、少し間を置いてから答えた。
「好きになる、か。なんかなぁー・・・、好きが何なのか分からないんだよな。体を合わせる事しか考えてなさそうだけど、俺だって本当の恋が何なのかを悩んでるんだぜ。」
遊輔が言っている事は嘘ではなかった。
彼も様々な事に悩んだ結果、この性格、この恋愛理論を生んだのだった。
女性を悲しませたくないという根本は草太と同じでありながら、草太よりも早い時期にその為の変革を始め、女性の為の女性を楽しませる(悲しませない)トーク力を身につける事に至ったのだ。だが、そこで同時に彼に襲ってきたのは全ての男性に共通して襲ってくる悲しき性、『性欲』。人によっては強さが異なるものの生存本能として植えつけられたこの性は悲しいほど強く、己の理想さえも変えてしまうほど。彼は、嘘か本当かも分からない自分の言葉と、最終的に負けてしまう性欲の強さに自分の気持ちを隠されてしまい、悩んでいるのだった。この子といて楽しい、けど最後はやっぱり体を合わせてしまうので、この子と付き合っているのは体目的なんじゃないのか?と思い、本当の恋を探すため合コンに出る彼。1人の女の子を本当に愛する事がどういう気持ちなのか分からない彼は、付き合っている女の子を悲しませる事を知りながらも真の恋愛を探す。もし、その子との関係が本当に体目的だったとして、次の子との恋が本当の恋だったとしたら今付き合っている子に対して失礼だし、その子を最後に悲しませる女の子を作らなくて良い様に。だが、そうやって次の恋に行った先もまた同じ事考え、また次の恋に行く事を繰返しているのも事実。自分の行動、自分の心に疑問を持ったまま悩み続け、出会いを求め続ける遊輔。
遊輔もまた、立場は違えど草太と同じように恋愛について悩んでいるのだった。
遊輔の返答に草太も少し考え、言う。
「まぁ遊輔の悩みは知ってるし、確かにそれが出来てるならこうやって合コンも行かないよね。・・・ねぇ、高校での恋愛なら漫画みたいな事が成り立つかもとして、社会人の、合コンから始まる恋ってどんな関係なんだろうね?」
「さぁな。出来るやつは漫画みたいな恋だってできるんじゃね?」
分からないので適当に答える遊輔。またカタカタとメールを打ち出す。
「確かに。僕らよりも要領良い奴なら出来るかもね。・・・っていうかさ、恋愛の種類って相当な種類があると思うんだけど大まかな種類として2つに分けられると思わない?1つは好きだと分かって付き合い始める恋愛。もう1つは好きかも知れない、好きになる為に付き合い始める恋愛。僕の理想は前者派だけど、やっぱ僕も遊輔みたいに後者派に考え改めた方がいいのかなぁ?」
草太は言う。だが遊輔は草太の思わぬ発言に驚き、反論する。
「ば、バカ!俺だってそれだと前者派だぞ!確かに急に告られれば俺だって後者になっちまうが、俺から告る際は好きだと感じてるから告ってるんだからな!・・・まぁ、その考えに後々疑問をもって、違ったと切り捨てたのは悪かったと感じている・・よ。(あと、体目的だけの奴は除いてだが。)」
「ふーーーん、そうなんだ。僕からみれば付き合った女の数からして、性格を考えず、見た目だけですぐに『あ、この子可愛いし体もいいし、好きになれそう・・。』って決め付けて、心は後って風にしか見えなかったんだけどな。」
「あ、当たり前だろう。そ、そ、そんな安易な考えで告ってるわけないだろう。」
草太の発言に遊輔は酷く戸惑っていた気がしたが、まぁ気にしない事にした。
「そ、それより帰ったらちゃんとメール送っとけよ。愛ちゃんとか由美ちゃんとか。メールしないと恋愛も何も始まらないからな。」
遊輔は焦ったまま話を元に戻した。
分かってる、ちゃんとメールするよ・・・。と草太は返事をして、家に着いたらどんなメールを送ろうか考えながら運転に集中するのであった。