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親が再婚して義妹ができた話

作者: Mitochondria
掲載日:2026/11/01

『・・・でも、好きになっちゃったんだもん、仕方ないだろ〜?あと今日中に着くはずだから、隣の部屋片付けとけな〜。そいじゃ』

「え、ちょっ」

 質問はさせないと言わんばかりの切り方をされてしまった。

 今海外にいるらしい(おそらく新婚旅行で)父からの唐突な電話は、日曜日の午後という貴重な休息に終焉をもたらした。

 父親が再婚し、継母の連れ子が今日ウチにやって来るという。再婚して妹がやって来るのはまだいいとして、もっと早く知らせてほしい。やって来る当日に伝えるのはさすがにどうかと思う。

 父の発言からして、隣の部屋を妹の部屋にしろということだろう。まあこの家に他に使える部屋は無いか。

 息を大きく吸って大きく吐き、腕をまくる。妹さんが来る前に、気合いを入れて隣の部屋を一気に片付けてしまおう。

 さて、隣の部屋のドアノブに手をかける。この部屋は実質物置で、鬱蒼と形容していいくらい物が積まれている。勇気を出していざ——!

 その瞬間、陽気な音のチャイムが鳴った。なんてことだ。

 玄関前にずっと立たせるわけにもいかないため、片付けは諦めて一階に降り、玄関の鍵を開け、扉を引く。


「・・・初めまして」


 ・・・この子はやばい!絶対うまくやってけない気がする!だって髪ブルーグレーのショートカットにしてるし、ピアス穴開けてる(多分ピアスはここに来る前に外したんだろう)。自分とは住んでる世界が違うのさ・・・

 しかしそんなこと考えてるなんて悟られるわけにはいかないため、鍛え上げられた表情筋でもって全力の、自然な笑顔を作る。


「は、初めまして。えっと・・・」

「みずき、って呼んでください」

「う、うん。よろしくね、みずきちゃん。えっと」

「りつさん、ですよね。知ってます」

「う、うん」


 や、やらかしたかもしれない。非常に大きな壁を感じる・・・

 とりあえず、彼女をリビングまで連れ、椅子に座らせる。

 冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注いで彼女の前に置く。

 なるべくフレンドリーな感じで、話しかけよう。


「この時期でもまだまだ暑いよね」

「いえ、そこまでは・・・」


 会話が終わってしまった!初対面の髪染めててピアス開けてるような人と話せるネタなんて持ってないんだな。

 気まずい沈黙が続く。


「そういえば、みずき、ってどういう字を書くの?」

「・・・海に月、です」

「え、」それって、クラゲ、

 と言おうとしたのをなんとか飲み込んだ。これを言うのは失礼だろう。

「はい、くらげです。・・・私の本名、くらげなんですけど、みずき、って呼んでほしいです」

「わ、わかった」


 やってしまった。みずき両親はなんて名前をつけてるんだ。本人はすごく嫌そうにしてるじゃないか。

 あ、それで青系に髪を染めてるのかな?いや、迂闊に聞くのはまずそうだ。


「その荷物って、何が入ってるのか聞いてもいい?」

 と、なんとか話題を変える。

「・・・服とか日用品です。あとは、貴重品とか、大切なものとか」

「そっか」


 いやそれでも荷物多すぎると思うんだけど。背負っていたリュックは登山に行くようなサイズでパンパンに詰まってるし、かなり大きいキャリーケースも持ってきている。


「・・・あ、部屋なんだけど、まだ片付いてないんだよね。すぐ片すからちょっと待ってて」


 あの大きな荷物を片付けるためにもすぐに部屋を片付けなければ。というのは建前で、この二人の空間がちょっと辛くなってしまったというのが本音だ。

 階段を上がる。すると後ろから足音がついて来る。ちょ、リビングで待っててもらっていいんですよ。

 まあそんなこと口にできるはずもない。何も言わずに物置の扉を開ける。

 彼女が私の部屋、と呟いた。すみませんね、片付けてなくて。

 ここはもともと母親の部屋だったが、数年前に亡くなってから、物置になっている。しかし、机や布団など最低限は物置に残っているので、彼女に生活してもらう分には大丈夫だろう。

 部屋に置かれている段ボール箱の一つを開ける。中身は健康グッズ。腹筋を鍛えるローラーや、引っ張るゴムみたいな物、さまざま入っているが、どれも新品同様で使われた形跡がほとんどない。いらないな。

 隣の段ボール箱を開ける。中学の時の教材や卒業アルバム諸々が入っている。懐かしい!・・・が、見ている暇は無い。


「あの、私は何をすればいいでしょうか・・・?」


 ・・・完全に意識の外だった。今日来たばっかりで片付けの手伝いをしてもらうのもなあ。いや、ここまで来てもらってただ見てろというのも悪いか。


「じゃあ、段ボール箱を一階の・・・リビングに置いといて」


 そう言うと彼女はこくんと頷いた。

 この段ボールたちは、あとで父さんの部屋に移そう。


 そうして二人で作業して、なんとか部屋は片付いたが、もうとっくに陽は沈んでしまっていた。


「いやー、疲れたね」


 そう言うと、みずきは頷いた。片付けを始めてから彼女はほとんど喋っていない。どう思われてるんだろうか。

 先にお風呂入って、と言うと彼女はまた無言で頷いた。セッケンは浴室にあるものを使っていいと伝えたが、持って来ていると断られた。

 片付けをしている間に風呂は先に沸かしておいた。

 彼女が入浴しているその間にリビングのソファに腰掛けてスマホを眺める。今日は本当に疲れた。

 ドライヤーを使う音がする。もうそんなに時間が経ったのか。スマホってよくないね。とは言いつつも、やめられないんだな。

 服を寝巻きに着替えた(あのリュックの中に入っていたのだろう)海月はリビングに入ってきた。


「夕飯、今作るから。どれくらい食べる?」

「・・・適当で大丈夫ですよ」


 そういう返答が一番困るんじゃ。まあ、普段どれくらい食べるか伝えるのは難しいし。二人分か・・・とりあえずいつも作る量の倍作ればいいか。キッチンに行く。

 まず、やかんに水を入れて火にかける。

 タマネギと野菜室からレタスを取り出す。

 海月もキッチンにやって来た。今日初めて来た家で、何もせずに待ってろというのも彼女にとっては辛いか。


「じゃあ、レタスを洗って、葉っぱをちぎってもらえる?」


 海月は頷くと、黙々とこなし始めた。

 タマネギは皮を剥いて、輪切りにして水にさらしておく。

 食パンを四枚取り出して、それぞれ片面にオリーブオイルを塗る。

 やかんが沸いた音がしたので火を止める。カップ二つにコーンスープの粉を半分ずつ入れ、お湯を注ぐ。やかんがジュ!と音をあげる。スプーンでよくかき混ぜておく。

 鯖味噌煮缶を二つ取り出して、中のサバを箸でほぐす。

 まな板に置かれていたレタスとタマネギの輪切りを二枚のパンにのせ、その上にほぐしたサバを置く。

 もう一枚の食パンで挟んだらサバサンドの完成だ。

 二つのお皿に乗せてリビングに持っていく。スープは海月に持って行ってもらう。


「じゃあ、いただきます」

「・・・いただきます」


 久しぶりに作ったけれど、なかなか美味しい。タマネギがあるとやっぱり食感にバリエーションが出て良い。それと味噌はやっぱりパンに合う。彼女も勢いよく食べてるので何よりだ。

 割とボリュームのあるご飯だったが、二人ともぺろりと平らげてしまった。コーンスープを飲む。やっぱりこういう一手間が生活の質を上げるのだと実感する。


「今日はありがとうございました、橘さん」

「あ、うん、こちらこそ・・・」


 いや、あんたも橘や。まあ苗字が変わるってなんというか、相当大きいのはわかる。でもこれから家族としてやってくんだから、そう呼ばれるのはちょっと気まずいな。それを言うのも気まずいけど、言うは一時の恥、言わぬは一生の恥、だ。違うか。


「その、昨日までは他人だったけど、今日から家族だからさ。呼び方と、あと敬語もやめてほしいな」


 勇気を出してそう言うと、海月は驚いたような目でこちらを見てくる。またやっちゃったか?


「あいや、別にどうしてもって言うなら全然無理にやることは無いんだけどさ・・・」

「いえ、そういうことでは無くて、えっとその、今日からよろしくお願いします。姉さん」


 そう言って彼女ははにかんだ。

 そうか、自分に新しく家族ができることばっかり考えてたけど、海月にとって私もまた新しい家族なんだ。海月が自分の妹であると同時に、自分もまた、海月の姉なのだ。

 海月が笑ったのにつられて自然と自分も笑顔になる。妹とはうまくやっていけそうです。




おわり

あとがき

サバサンド簡単に作れて美味しいので作ってみてね

作中では味噌煮だったけど、元祖は塩鯖とスライスレモンを加えます。

気力があるなら、フランスパンを使ったりサバを焼いたりするともっと良い

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