49時間過ごした世界
こちらは、異世界を旅する忍者の続きの物語です。舞台は私たちが住む都会の街によくている世界です。
七技が訪れた次の世界、潮風ではなく、排気ガスと人のざわめきが七技の頬を撫でた。
「…… ここは」
見上げればコンクリートのビルが空を切り、道路には無数の車が行き交い、人々は小さな四角い箱 —— スマートフォン —— を覗き込みながら歩いている。看板の光がまばゆく点滅し、どこを歩いても人の気配が絶えない。
「俺のいた世界と、同じようで違う世界か」
腕の紋様は、まだ薄い輝きに過ぎない。
「次の扉が開くまで —— だいたい四十九時間ってところか。仕方ない、この街で過ごすしかないか…」
七技は瞬く間に服装を変えた。街の人々と同じような、地味な色の上着とズボン。だが歩く姿、目つき、呼吸の一つひとつは、幾多の世界を旅してきた忍者のままだ。誰も七技の正体に気づかない。誰も、その一挙手一投足が「忍び」であることを知らない。
街の喧騒に紛れ、七技は暴風忍法で風の流れを読む。
「…… あいつの気配は、ないな…」
風は街のありとあらゆる場所を巡り、人の温もり、怒り、悲しみ、喜びを運んでくる。だがその中に、七技が探し続けている男の気配だけは、どこにも見つからない。
「また、か…まぁ、うすうすそう思っていたが…」
七技はため息を飲み込み、人混みを抜ける。
金も宿も、この街の者たちが当たり前のように使うものは、七技には必要ない。
水が欲しければ水氷忍法で澄んだ水を湧かせ、飢えをしのぎたければ森林忍法で実を結ばせる。
住む場所は、屋根の上で十分。誰も昇ろうとしないビルの軒下、見晴らしの良い場所へと、七技は音もなく跳び上がる。
「こうしていれば、誰とも話さず、誰にも見咎められずに済む」そう確信して七技は四十九時間の生活を始めた。なお、それは長くも短くも感じられる時間だった。
七技は影の中から街を見守り続けた。
—— 道に迷った社会人に気づく。
「あぁ~反対の道だな…」
鋭い聴覚と高い視力で迷っている社会人の状況を理解した七技。
「あぁ…どこだ、早くしないと…!」
あたふたする社会人がハンカチで汗を拭くのを見た七技は
「仕方ない…」
と、暴風忍法で風を操りハンカチを飛ばしそっと道しるべに変えて目的の方へと誘い。
「はぁ…よかった…うん?あ、あぁっ!!ここだ!!」
目的の場所にたどり着いた社会人は喜び、そのまま建物の中に入っていった。
七技はその姿を見て笑みを浮かべた。
——あと数時間後に日が沈む時間。
「おっ?あれは?」
道に迷っている女性を見付ける七技。
「…誰も声をかけてないな…」
この世界に存在する便利道具スマホのバッテリーが切れたらしく誰かに声をかけようとするが、迷っている。
「誰も助けないのか…仕方がない…」
七技は気づかれないように、普通の人間に紛れて歩き出す。
「どうか、しましたか?」
道に迷う女性に声をかけた七技。最初は、何を言っているのかわからなかったが
「娘さんとはぐれてしまったのですね」
「は、はい、そうです!」
女性が話していた言葉を理解して、その言葉を使って状況を理解した。
別の国から来た女性が娘と離れて困ったことを知った七技は
「少し待っててください…」と言って、少しだけ女性を離れてから、
「さて…」
再び忍術で風を操り、鋭い嗅覚で女性と同じ香水のにおいを頼りに、あたりを見渡す。
「…もしかしたら、向こうにいると思います。」
そういって遠くを指さすと
「…あら、もしかして…!」
女性が小走りで近づくと娘と再会できたことに喜ぶ
「ママ、どこにいったの?探したよ!」
「ごめんなさい…あのね、今、あの人に助け…あら?いない…」
女性が振り向くと、七技の姿はなかった。
「あとは、大丈夫だろう」
若い女性と年老いた元気の女性を元の場所で見守り、七技は再び時間を過ごした。
——深夜になり、賑わう都会。
「夜でもにぎわうのは、どの世界でも同じだな。」
そう思う七技は、森林忍法で作り出した木の実を食べていた。
「うん?」
風に飛ばされて、七技の足元に、この世界の金銭が飛んできた。
「紙でできたお金も、見た目は違うが同じか。」
七技は再び、人の中に紛れて交番に向かう。
「あの、すいません。お金を拾ったのですが…」と、声をかけようとすると
「あ、すいません…」
男性とぶつかり、お金がないことに気づく
「…どこの世界でも、あんなのがいるのか…」
この世界で言うスリのような人間が、この世界にもいることに、七技は無表情になり、元の場所へ戻った。
——まもなく夜が明ける中、人々の姿はなく、多くの店も閉まっている。
「静かになるのに時間がかかったな…」
この世界でも同じ。そう感じた七技。
「あ、危ないぞ…」
高い場所から落ちそうになった猫を見つけて、しばらく猫を見る
「お、おぉっ!危ないな…」
森林忍法で気づかれないように木の枝を生やそうとしたが、無事に猫は地べたに着地して、何事もなかったかのように姿を消した。
「あっ?なんだあれ?」
猫を目で追いかけていると、ベンチに食べ物が置いてあることに気づく七技は、誰にも気づかれないように、その場所へ向かう。
「和菓子か…この世界にもあるんだな。」
そこには本日が賞味期限の和菓子。
「誰かの忘れ物か…こんなところに置いてあっても誰も食べないよな。」
周りには誰もいないし、同じ場所においても、だれも食べないことを理解する七技。
「小腹を満たすにはちょうどいいか」
袋を開けて、においをかぐ七技。
「問題はないな…いただきます…」
安全を感じて一口食べる。
「うん…このあんこ…あまり甘くないな…それが売りか。ふんわりした食感は、俺の好みだな…隠し味に塩を入れているな…」
自身の鋭い味覚で味を感じ、味わって食べ終わる。
「ごちそうさまでした…」
久しぶりに人が作った食べ物を食べ終えた七技は、再び元の場所に戻る。
「そろそろ時間か…」
この世界でも、誰も七技の姿を見ていない。誰かと会ったとしても「ありがとう」と言う言葉を聞いていない。それでいい —— と七技は思う。
「俺の目的は、兄を見つける事だけだ。」
自身の目的を果たすことが、彼の旅の目的だからだ。
そうして時間は過ぎ、49時間が経つ。
街の明かりが下に広がり、電車や車の音が遠くに響いている。
それらすべての喧騒を隔てて、月だけがあの日と同じように、静かに七技を照らしている。
「…… 久しぶりだな、1つの世界でここまでの時間を過ごしたのは…」
七技は月に向かって、そうつぶやいた。
探し続けている男。
いつもすれ違い、いつも見つからない。
手がかりは、いつも「なし」だ。
「次の世界では、見つけられるだろうか」
答える者はいない。
月だけが、ただ無言で輝いている。
—— 七技は、また思う。
自分がこれほどまでに探し続けているその男が、血を分けた兄であることを。
—— 七技は、また思う。
兄を見つけた後、自分はどうするのか。
—— 七技は、また思う。
兄を見つけたことで、本当に自分の旅が本当に終わるのか。
その事実を知るのは、今はまだ —— 自分だけだ。
やがて四十九時間が過ぎ、腕の紋様が鮮やかに輝き始めた。
七技は最後にもう一度、月を見上げると、何事もなかったかのように紋章を光らせる。
「次は、どんな世界か…」
七技は光に包まれて、また別の世界へと旅立つのであった。
「さて、行くとしよう」
まるで何もなかったかのように。
その背中は、いつものように静かで —— そして読者だけは、いつかその背中が兄と並んで立つ日が来ることを、静かに願わずにはいられないのだった。
旅日記 No.0914
滞在時間:49時間
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。このシリーズは、短編をいくつかまとめることもあれば長編の場合もあります。それも含めて、こちらの作品を楽しんで読んでください。




