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ライトオブクラウン

魔力令嬢の実験室

作者: SUN3
掲載日:2026/04/18

宰相の息子、カイゼルは子供の頃から勉強漬けだった。


未来の国政に関わるため、過密なスケジュールで毎日を過ごしていた。どんな困難も努力でねじ伏せてきた。


だが、彼にも努力ではどうにもならないものがある。


魔法の才能だ。


父も母も政略結婚で結ばれた。どちらも風魔法しか扱えない。血は薄まり、結果は見えていた。


幼い頃に受けた魔力審査。


結果は――風魔法のみ。


順当な結果だ。


だが貴族の中では、二属性を持つのが当然とされる。宰相家の嫡男でありながら一属性しか持たないという事実は、陰で何度も嘲笑の種にされた。


だから用意された。


四属性を持つ婚約者。


借金まみれの男爵家に生まれた、異例の才を持つ少女。その血を取り込めば、次代は補える。


ロゼッタ。


カイゼルは、この婚約者が嫌いだった。


 


月に一度の懇親会。


香りの良い紅茶と焼き菓子が並ぶ席で、ロゼッタは退屈そうにカップを揺らしていた。


「カイゼル、あなた、風魔法しか使えないんですって?」


唐突な言葉だった。


「私は四属性も使えるのに?」


カイゼルは答えなかった。ただ指先に力を込める。


「何か言ったらどう?せっかくのお茶会なのに、つまらないわ」


「風魔法の制御なら負けない。君は先日、魔力暴走を起こしたと聞いた」


ロゼッタは鼻で笑った。


「四属性で高魔力な私が特別なだけ。少しくらいの失敗で騒ぐなんて、小さい男ね」


その一言で、カイゼルは会話を打ち切った。


この女と話す価値はない。


 


やがて二人は魔法学院に入学する。


そこでカイゼルは、一人の少女と出会った。


「勉強ばかりで世間を知らないなんて、真の政治家になれないわ」


まっすぐに言い切るその声は、軽く、だが芯があった。


光魔法。希少な属性。しかも高魔力。


カイゼルは、少しずつその少女に惹かれていった。


 


ロゼッタは気付いた。


このままでは婚約を失う。


 


家に訴えた。


男爵は、ならず者を雇った。


少女を殺すために。


 


失敗した。


 


すべてが露見した。


 


婚約は破棄された。


男爵家は破産した。


 


そして――ロゼッタは売られた。


 


窓のない部屋だった。


壁は石で、湿り気を帯びている。空気は冷たく、重く、わずかに鉄と薬品の匂いが混じっていた。


光源は一つだけ。天井近くに埋め込まれた魔導灯が、白く無機質な光を落としている。


床に座らされている。


いや、固定されている。


手首に巻かれた鉄輪が骨に食い込むほどきつい。そこから伸びた鎖が壁に打ち付けられている。足も同じだ。逃げるどころか、身体を伸ばすことすらできない。


呼吸をすると胸が痛む。


理由はすぐに分かった。


胸に何かが取り付けられている。


冷たい金属の板。そこから複数の細い管が伸びている。皮膚に食い込み、心臓の鼓動に合わせてわずかに震える。


ドクン。


鼓動と同時に、管の中の液体がゆっくりと動く。


まるで、自分の中から何かを抜き取られているようだった。


「……ぁ……」


声が出ない。


喉が乾いている。何度も叫んだ記憶だけが残っているが、今は空気しか漏れない。


口の中が鉄の味で満たされていた。


視線を動かす。


ドレスが破れている。胸元は裂け、布は汚れ、かつての華やかさは欠片も残っていない。


あれは気に入っていたものだった。母が選んでくれた、数少ない“まともな”贈り物。


「……いや……」


声にならない。


返事もない。


鎖がわずかに動くたび、金属音が響く。それだけが、この部屋に存在する音だった。


誰も来ない。


誰も見ない。


誰も止めない。


光はあるのに、世界は閉じている。


 


逃げ場はどこにもない。


 


時間の感覚も、すでに曖昧だった。


どれだけここにいるのかも分からない。


ただ一つ分かるのは――


 


終わらない、ということだけだった。



カイゼルは報告書を閉じた。


「そうか」


短くそう言って、机の上に置く。


――愚かな女だ。


そう思った。


だが、その感情もすぐに薄れていく。


ロゼッタの話は、もう、関係のない話だった。


 


ただ一つ、確かなことがある。


 


昔から、大嫌いだった。

この短編は、乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜の中に出てくるゲームの内容です。

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