第四章 チベット偉人の希望
(13)東方から超人が来た
道安は今チベットにいる。チベットに行くためにはビザを取得し、チベット入域許可証を取得しなければならない。これは個人で取得することがほぼ不可能なため、チベットツアーを扱う旅行会社に取得代行を依頼する。この許可証がないと、チベット行きの航空券や鉄道チケットを購入したり、搭乗・乗車したりすることができない。チベット自治区内では、外国人旅行者は個人で自由に移動することが制限されている。そのため、現地の移動手段(専用車など)、宿泊、ガイドの手配などを旅行会社に依頼し、ツアー形式で旅行するのが一般的だ。多くの旅行会社が、許可証の代行取得を含むチベットツアーを提供している。日本からチベットの主要都市ラサ(拉薩)への直行便はない。中国国内の主要都市(北京、上海、成都、西安など)を経由し、そこから飛行機または青蔵鉄道でアクセスする。青蔵鉄道は中国の西寧市からラサまでを結ぶ鉄道だ。世界最高所を走る鉄道として知られ、車窓からの雄大な景色を楽しめる。高山病対策として、車内に酸素供給装置が備え付けられている車両もある。チベットは平均標高が4000メートルを超える高地にあるため、多くの人が高山病を発症する可能性がある。 予防策として、ゆっくりと行動し、体を順応させるとか、水分(白湯やミネラルウォーター)を多めに摂取する。また暴飲暴食、飲酒、喫煙、入浴を避けるようにする。 彼が向かっているのは、ポタラ宮、そこは標高3700m の紅山の上に建つチベット仏教(ラマ教)の大本山である。 ラサもポタラもサンスクリット語で聖地を意味する。 7世紀にネパールと唐朝の王女を娶ったソンツェン・ガンポが、山の斜面を利用してチベット最大の建造物である宮殿式の城砦を築いた。ポタラ宮は、外観13層(実質9層)、高さ約110m、面積約13万㎡の大宮殿である。 ダライ・ラマの冬の住居と、政治や宗教の儀式の場を兼ねた「白宮」、歴代ダライ・ラマのミイラが置かれている巨大霊廟「紅宮」などからなっている。
宮殿の擁壁を上る階段を道安はゆっくりと登っていると、門番に止められた。抵抗をせず付いて行く。兵隊の何人かが鍛錬をしている。門番はそこに連れて行き、戦えと言った。
ここの国主に会いに来たのだ。負ける訳にはいかない。軽くて合わせをしていると、子供がやって来た。十歳くらいだろう。兵隊たちはひざま付いた。道安は子供に近づいて、十二代ダライ・ラマに頼まれて、あなたを指導するために日本から来たことを告げた。チベットの言葉は分からないが、頭の中で直接聞こえる。だから通訳もいらない。
「私は道安導と言います。あなたの師匠になるために参りました」
「私も夢の中で、東から賢人がやって来るので、教わりなさいと聞きました」
「先ずあなたが人と違う事を見せる必要があります。その為に、あなたは空に浮くことを鍛錬しなければなりません」
「人間にそんな事が出来るのでしょうか」
「人には出来ません。だからあなたが出来る必要があります」
「どうすれば宜しいでしょうか」
「目を閉じて、ここに階段があると思って、ゆっくりと登ってください」
そこにメイドだろうか、お茶を持ってきた。
「来客だというので、お茶を持ってきました。何をしているのですか」
「見えない階段を上る練習をしています」
「そこに、本当に階段があるのですか」
「ありませんよ、あると信じることで登れるようになります」
「そんな、登れるわけがないじゃないですか」
「先代の中には登れた人が何人もいたそうですよ」
「そんなの夢か、幻でしょう。伝説で現実の話じゃない。枢機卿を呼んできます」
「何を騒いでおる。ドルマ、どうしたというのじゃあ」
「今変な男が、ダライ・ラマ様におかしなことをさせています」
「何じゃと、急いでいくぞ」
「この人です。何もない階段を上る練習だとか」
「ちょっと待て、ダライ・ラマ様が浮いていないか」
よく見ると五センチ程浮いている。
「ドルマ、見てみろ、浮いているぞ」ドルマが膝を付いてみると、確かに少しだが、浮いている。こんなことが現実に起こるはずがない。夢にしてははっきりしている。
「ツェテン様、私はどうにかなってしまいました。私はどうしたら宜しいのでしょうか」
「何だおめえさんたち、少しうるさいぞ」怒鳴られてようやく正気ついた。
「もっとだ、もっと高く、気を抜いたら落ちるぞ」
何をやっているのだろう、この人たちは。だって、人が空中に浮く訳がない。誰に聞いても、そう答えるはずだ。それなのに、やっている。
「よし、今日はこれくらいにしよう。夕食はご馳走かな」道安が、ニヤニヤしながら言った。
「今日からここに住むから、部屋を用意してくれ、メイドさん」
「メイドではありません。ラマ様付きの世話役です。」
「それは失礼。メイドさん」と言って笑った。
「それでは皆さんに紹介しますので、全員集めてください」ラマが言った。
「全員ですか」
「皆さんに彼の事を知っておいてもらうためです」
「分かりました。すぐに、広場に」
「ドルマさんは優秀なんでしょうが、そこが短所になっている。まだまだですな」と言って笑う。
「全員集まったな。ではご紹介申し上げる。こちらは私の師匠になる道安導様である。ダライ・ラマ十二世様からのお告げです。皆さんも失礼のないようにお願いします」
「そんなこと言っても、師匠になるなら、我らより強くなくては承知できない」
道安は静かに前に進みより、
「全くその通りです。では私のお相手をしてくださる方はどなたでしょう」
「俺だ」筋肉質の大男が前に出た。
「他にいらっしゃいませんか」
「俺じゃあ、不満か」
「俺がやろう」長身の男が出てきた。
「もう一人くらいは欲しいですね」
「では俺がやらせてもらおうか」小男だが素早そうだ。
「宜しい。ではお三人に同時にお願いしよう。掛かってきなさい」同時に三人は取り囲んだ、と思うや長身は上段から打ち下ろし、筋肉は横に払い、小男は皆より長い棒を突いてくる。決まったかに見えたが、三人の棒は空を突いた。道安はその瞬間に空に飛んだ。十メートル程飛び上がり、城壁を真横に走り引き返してきたかと思えば、急に子男の前に現れ正拳を入れ
「一人目」と言って高くバック転して、長身の後ろに現れ、首筋に手とうをいれ
「二人目」と、後ろに寸止めの蹴りを入れ、
「三人目」と言ってニヤリとした。
「みなさんいけませんねえ。弱いですねえ。中国拳法にも誰も勝てないですよ。これは特訓が必要ですねえ」
そこにいた全員が、彼の動きを信じられないと感じた。だいたいどんな人間も、十メートルも飛び上がるなんてできる訳がないのだ。オリンピックでも三メートルは飛べないのだ。
棒高跳びでも六メートルちょっとだ。その上、城壁の壁を縦横無尽の走り回るなんて、人間業ではない。だがそれで終わりではなかった。そこに有った大きな石柱に向かって光を放ったのだ。爆発して、石柱は粉々になった。
「他に戦いたい者はいるか」誰も名乗り出る者はいなかった。現実かどうかも分からないという、腑抜けた顔をしている。
助を求めるように、ダライ・ラマを見たが、そこにはいなかった。
「驚いたか」上から声がした。ダライ・ラマは空に浮いている。そしてゆっくり降りてきた。
「これはたった今伝授して頂いた、武空術というものだそうだ」だんだんついていけない、夢の中の事みたいで、理解が追い付かない。皆ポカンとしている。
「私は道安、道安導というしがない霊能者です。これから仲良くして頂きたいので、宜しくお願いします」と言って、手を高く振った。ダライ・ラマは声を上げて笑った。
(14)ダライ・ラマの芽生える力
「枢機卿、お断りしておきますが、私が力を与えるのではなく、きっかけを与えるに過ぎません」テーブルに着いた枢機卿のツェテンと付き人のドルマに言った。
「元々力をお持ちでいらっしゃるのだが、持っているのと出来るのは違う。分かりますか」
「何んとなくだが」
「ダライ・ラマ様は高い才能を持っていらっしゃる。それを発現される切っ掛けや、基礎を教えられる者がここにはいない。ダライ・ラマ十二世が私の前に現れて、その役を私にして欲しいと言われた」
「でも、危険はないのですか。だってあんな高い所に、落ちでもしたらどうするんですか」
「それも仕方ありません、が、可能性としてはあると言うだけで、実際はそんなこと起こりませんよ」
「言い切れるんですか、何かあった時は責任取れるんですか」」
「言い切れませんし、責任取れません」
「じゃあ、どうするんですか」
「まあ、そんなに責めたてんでも良かろう」
「えも、一度自分の才能を見てしまったら、危険だろうが、何だろうが、止めませんよ」
「私が止めます」
「私が飛んだり擁壁を走ったり、石像を衝撃波で破壊したり、それを見た時、彼は感じてしまった、それが自分も出来る事を。もうだれも止められません。多分、最大で、最高の才能が噴出してきます」
「しかし今は、中国の檻の中なんですよ」
「彼は檻の中か、そうですねその通りです。でもその檻には天井が無いです。分かりますか。彼は飛べるんですよ。檻なんか有っても無くても同じです」
「北部チャンタンに戦車隊が来てるよ」ダライ・ラマが突然言った。
「では様子見に行ってみますか」道安は笑みを見せて言った。
二人は楽しそうに出かけたので、ツェテンもドルマは何も考えず、まさかポタラ宮を出ていくとは考えず、テラスにでも行くのだろうと見送った。
「楽しい事になりそうだな」ラマはうれしそうに言った。二人は飛んでいた。
砂漠を大量の戦車が砂煙を上げながら、隊列を組んで進んでいる。
「ちょっと見ててくださいよ」と言って高台から見ていた道安が戦車列に向かって、念を飛ばすと風が起こり砂嵐が舞い始めた。
「じゃあぼくも」と言って念を飛ばし、戦車列の左側の砂を吹き飛ばし右に落とす。砂嵐で見えないのだが、戦車はだんだん傾きながら砂に埋まっていってる。戦車は百両ほどだが、何が何やらわからないうちに埋まっていく恐怖に襲われているだろう。
「じゃあ帰ろうか。これから忙しくなるぞ。先ずは救助隊を編成しないとな」
「あいつらを助けるんですか」ダライ・ラマは驚いたように言った。
「君は命を大切にしないとだめだよ。例え敵でも」
「では、兵に急がせます」
「こちらは、病院と、兵舎の用意だ。こちらはツェテンに頼もう」
「こっちはドージェ、パルデン、タシに兵を連れて行かせます。この間の三人ですよ」
「それは良い。あいつらは良い奴だ。これからが面白くなりますよ」道安は薄ら笑みを浮かべて言った。
(15)武闘派集団と心の強さ
「怪我をしている者はいるか」
「怪我をしている者はいません。ですが、酒と飯を要求してます」
「中国の軍人さんは、暴れん坊で、わがまま放題だからな」
「ここでは軍規と規律を守らせろ。守らない奴は軍法会議行きだ」
「そんなの言う事聞きませんよ」
「無理やりでも取り押さえろ」
「大変です。乱暴者が暴れています」
「よし行こう」
「女と酒を持って来いと言ってるんだよ。言うこと聞かないと、共産党に背くものは刑務所行きだ。共産党に歯向かうのか」
「こりゃあ説得どころではないな。取り押さえろ」
ドージェが前に出て言った。
「暴行罪で逮捕します」
「俺達にやれるもんならやってみろ」
ドージェは素手で簡単に取り押さえ、手錠をした。乱暴者が簡単に取り押さえられたのを見て周囲の者も大人しくなった。それをじっと見ていた者がいる。
翌日、兵が集められた。中央からの連絡待ちを兼ねた、訓練をすることになった。隊列、行進訓練である。その後、拳法鍛錬と称したリンチの企てがあった。この第52山地旅団には李 浩宇がいる。彼は拳法中国チャンピオンである。彼にボコボコになるまでやらせて、その後自分たちがリンチにかけようというのである。昨日の仕返しを考えた汚い連中の仕業だ。
「ではチベットと中国との対決という事で、李とドージェは前に出ろ。勝負は俺がどちらかが勝ちを判定するまで止めないこと。止めたら銃殺にする。では初め」
二人は向き合い、間合いを図って距離を詰める。券を打ち合い、足の蹴り合い、だんだん激しくなった。ドージェはチャンピオンを攻めていた。周りの兵は唖然としていた。負けるはずの、ボロボロになるはずのドージェの方が押している。それも普通ではない、スピードも高さも尋常ではない。李の頭を軽々と超えていた。あれだけ高く、速く、強くできたら、オリンピックの金メダルの取り放題だ。
「そろそろ、判定は私の勝ちで良いですか」昨日の連中に向かって言った。
「では次はあなた方とやりたいのですが宜しいか」笑いながら言う。彼らはあたふたと逃げて行った。
「私は中国大会で優勝をして、世界一強いと思っていた。でも、こんな方がいるとは思っていなかった。」
すると、ドージェは意外なことを言った。
「私だって、ダライ・ラマ様と、道安様がいなかったら、世界一なんだけどなあ。まあ、頑張って、お二人に追いつけ、追い越せだ。一緒に頑張ろうや」と言う。
何てことだ。ここには強い者がゴロゴロいるという。もうここで修行するしかない。
「皆さんここでダライ・ラマ様に修行の成果を見せて頂きましょう」と言ったら、ラマは宙に浮いて、拳法の形を見せてくれているが、早すぎて見えない。その後、ラマ様と、師匠の道安との立ち合いをする。でもほとんどの者は何がどうなっているのか見えない。ただ流石李はしっかり目に止めていた。だが、今までの修行や対決を考えて唖然としていた。最後の二人の波動拳とかいうものは、石柱を破壊し、爆破した。ここまでくれば、この世のものではない。圧倒されるとかのレベルじゃなかった。この後は宴会となった。
李は何人かと話をしているドージェの所に行った。
「先程は有難うございます。こんな経験は初めてでした。自分がいかに小さいか、思い知らされました」
「それはそれは、だが、あなたは強い。鍛錬次第では私など簡単に超えていくだろう。羨ましい次第だ」
「なんと、私は自分ではきつい練習をして、練習の虫とか言われていい気になっていました。それがいかに世間知らずか分かりました。」
「言ってはいけないことなんだろうが、中国共産党の方と勝負をしたら負けること、何が有っても勝ったら後で何の仕返しをされるか、何の無実の罪を着せられて、殺されるか分かりませんからなあ」
「そんな、勝負は勝負でしょう」
「後でひどい目にあった人を何人も知っていますから」
「そんな、神聖な勝負じゃないですか」
「そんな風に考える人は少ないですから。何よりも共産党の威厳を保つことが一番という思想の下、他の者が勝つのは許せないという曲がった考えがまかり通る世界ですから」
「その為に試合に負けるのか。そんなの冒涜だ。間違っている」
「間違っているか、間違っているのは何なのか。考えたこともあるまい。一人が強くても何万という軍に勝てるか。ジェット機に、ミサイルだ。その軍の力で正義だというのだ。我らの命など国に捧げよ。死して国の犠牲になれ。そう言って、俺の親父もおふくろも、叔父も叔母も死んだ。だからチベットの神に命をささげる。お前には分からないだろう。我らの師を笑っていた前たちに」
「私は武闘家だ。戦って勝つか負けるかだ。そこに国の威信も名誉もない。単に強くなりたい。強くなりたいのだ」
「共産党を止められるか。出来たら私に言え。そうしたらお前に信じられない力を与える。嘘だと思うか」
「いや、お前たちの技や能力を見た。信じられなかった」
「いや、あれは能力の一部だ。しかし、失敗だと思う。あれを見た中央の幹部たちは必ず潰しに来るだろう。放っておけば自分たちの危機につながる。人がここまで来るのにどれだけ苦労したかなんて、考えてもみないだろう。自分たちの権威と身分が守られるなら」
「俺達は悪か」
「そんなこと考えたこともないだろう。今回ここに沢山の戦車で何をしに来た。おれ達を踏みにじりに来たんだろう。そうでなければ、他に何がある」
「いや、命令できただけだ」
「俺達を殺しにだろう。俺達を蹂躙しに来たんだろう。お前たちは馬以下だと教えるために」
「そんな」
「そんなこと考えているのは幹部たちだけだというかもしれんが、その手先に罪はないと断言できるか」
「待ってくれ、一晩時間をくれ」
(16)正義は犠牲を求める
「ダライ・ラマ様、砂漠の戦車隊を掘り起こすのに手を貸せと言ってきております」
「良いよ。行く時を教えてね。あきらめるまで邪魔するから」無邪気に笑って言った。
「まさか、あなたたち」
「ツェテン、これは僕らだけの秘密だからね」
「まったくあなたたちは、悪戯癖はなおりませんな」
「ドージェを呼んで」
「何でございましょう」
「砂漠の戦車隊の事だけどね、仕事を始めたら砂嵐が起こるとお告げだから、みんな気を付けてよ。怪我しないでね」
「分かりました。安全第一ですから」
「後は任せるからお願いね。さあて、道安、僕たちも行きますか」
「そうしましょう。色々準備がありますから」
「えっ、何を準備するの」
「そりゃあ、昼食とか、午後のの紅茶とか。椅子とテーブルとか」
「まるでピクニックだな」
「そんな気分でしょうが。次があったら、ドルマも連れて行きたいな」
「ドルマはわたしの付き人ですから取らないでよ」
「はいはい、その時の気分で考えておきましょう」
「そんなにたくさんの荷物持てるの」
「大丈夫ですよ。組み立て式ですから。そんな事より行きますよ。遅刻なんてしたら、共産党に怒られますよ」
「じゃあ、はい」二人は飛び出した。
砂漠にはトラックやジープがたくさんいた。トラックには作業車がたくさんいて、その周りを人が忙しそうに動いている。それを望遠カメラ三台で見ている。
「これいいねえ。これなら見つからないし、何か所からも見えるから、楽しい」
「楽しがってちゃだめですよ。これもお仕事なんですから」
「もうそろそろかな」
「まだですよ。あいつらが仕事を始めてからですからね。その間、紅茶を入れましょう」
「甘くしてよ、苦いのは駄目だよ」
「お子様ですか」
「お子様ですよ。幾つだと思っているんですよ」
「三百十二歳くらい」
「冗談が過ぎますよ」
「私の師匠、若く見えるんですけど、五百歳」
「えっ、五百」
「妖怪なんですけど、白虎っていいます。白い虎です」
「かっこいい、一度会いたい」
「機会があったら、恩人とも会って頂きましょう」
「楽しみだなあ」
「そろそろですよ」
「じゃあ始めますか」
「始めは軽くですよ。かるーく。逃げてもらわなくっちゃいけませんから」
「そうそう、逃げてもらわなくちゃあ」
「なんか、ラマ様、魔王みたいですよ」
「はーい、強くしていきますよ。逃げてくださいよ」
「あれ、あっちから戦闘機が来ましたよ」
「何しに来たんだろう。ばれたのかな」
「そんな事はありませんよ。砂塵の中に突っ込ませましょう。あれ、落ちちゃいましたよ」
「エー、どうするの、どうするの」
「はい今日は引き上げましょう。アリバイも作らなけりゃなりませんから」
「まるで犯罪者」
「そんなこと言ってると悪い子になりますよ」
「はいはい帰りましょう。片付けお手伝いしますよ」
「急に、なんていい子」
「じゃあ、よーい、どん1」
「只今、どうしたの、慌てて」
「どこ行ってたんですか、この大変な時に」
「どこへって、二人で宮殿の屋根の上でおひるね」
「それどころじゃないんですよ。戦闘機が落ちて」
「それで被害は」
「こちらはないんですが、戦闘機の方は即死だそうですよ。それで、あちらの方は大慌て」
「何かしろって言ってきたの」
「いえまだ」
「じゃあ、それまで待っていよう。紅茶入れて、甘いの」
「虫歯になりますよ」
「虫歯が怖くてケーキが食えるか」
「何て言いよう。道安様のせいですよ」
「えっ、なんでそこで俺の名前が出るの」
「ラマ様はこんなこと言いませんでした」
「こいつがどこかで覚えてきたんじゃないの」
「そういう言い方、理屈がうつったんです」
「そうなのか、まあ小さい頃は素直でかわいい子だよ、誰でもね」
「知りません」
「ドルマが怒った」
「怒ってなんかいません」
「可愛い、道安も、そう思うでしょう。ドルマは何て可愛い天使なんだ」
「大人をからかうものじゃありません」
「そうだよ、道安」
「お、俺のせいなの」
ツェテンがやって来て、
「戦闘機を中央まで持って帰るので、一緒に軍も引き上げるそうです。」
「そうなの。まあ一段落かな」
「李さん、何でここにいるの。軍はみんな引き上げちゃったよ」
「ああ、旅団を止めてきました」
「そんなこと出来るの。勝手に辞めたら共産党に呼び出されて、軍法会議にかけられるんじゃないの」
「いや、上層部は辞めてくれて有難いと思っているよ。中国チャンピオンというだけで、自分の派閥にも入らないし、活躍されて出世されても困るし、と思っている」
「それでこれからどうするの」
「やりたいことが二つあって、一つは、ここで自分を鍛えて強くなりたい。出来ればドージェに勝ちたい」
「それは大それた目標だな」
「もう一つは、中国共産党を外から見てみたい。唯一の存在だと信じてきたことが正しかったのか」
「余り政府に楯突かないようにな。辞めたのならちょうどいい。内に入らないか。そしたら幾らでも鍛錬できる。李さんなら、気功法が会得できるかもしれないぜ」
「気功法って、体内に気を巡らせてって」
「違う違う。体内から波動を打ち出して、相手を倒すってやつだ」
「何だそれ、聞いたこともない。伝説だろう」
「道安師匠やダライ・ラマ様はできるぞ。俺もそれを目指しているんだが」
「ここにいると嘘か現実の話か分からなくなる」
「元々は仙人の術なんだ。空を飛び、山を駆け、海に潜るという」
「ああ、この前、師匠が飛んでいた」
「とんでもない師匠だろう。もっととんでもないのは、ここだけの話、ドルマを狙っている」と言って、ニヤリとした。
「まさか」
「いや間違いない。ドルマも、一日中道安の話だ。それは頭の中が道安しかないからだ。」
「ドルマは道安の悪口を言っているように聞こえるが」
「だから裏を返せば、道安に夢中という事さ」
「私に恋の事は分からないが」
「俺は得意だぜ。どんな女も俺に掛かればいちころだ」
「あの戦車はどうするんだ。あのままという訳にはいかんだろう」ツェテンは言った。
「屑鉄にして民に使ってもらおう。鉄材が不足しているし」道安は軽く答える。
「貴方たちは危険な事ばっかりラマ様にやらせて」怒った顏のドルマは可愛いと、道安は思って、不覚にもニンマリしてしまった。それを見たドルマ、
「大事な話をしている時に、また何か悪い事を考えているのでしょう。不謹慎な」
「いやあ、ドルマさんは可愛いなと」
「そんな戯言で騙されません」余計怒らせてしまったようだ。
「まあまあ、ドルマ、怒っていては話が出来ん。それよりこれから何をさせる気だ」
「何をって」
「わしも心配なんじゃ。わしは何も手助け出来ん。もっとわしに力があればと思うた悲しい。お助けできるのはお前だけじゃあ」
「まあ、面白くしていきますよ。どうしてもとなったら、私の師匠に助けてもらうから、心配しなくていいですよ」
「いったいどのような方なのだ、そのお方は」
「一言で言えば、日本のダライ・ラマだな」
「日本の」
「いやちょっと違うかな。ダライ・ラマの座を蹴って神の巫女になった方と言うべきか」
「いってる意味が分からないのだが」
「そう、分からないお人。でも力は超ド級。手を捏ねたら核爆弾が出来てて、それを敵に投げたら核ミサイルみたいな」
「もう良い、聞けば聞くほど頭が混乱する。でどうしたいのじゃ」
「ダライ・ラマさまを、中国共産党の上に付けたい。それだけ」
「お前、それだけって、それがどういう事か分かっているのか」
「分かっていますよ。今の中国共産党の暴走を止められるのは彼しかいない」
「どうやるのじゃあ」
「どうもこうも、幹部に殴り込みをかける」
「戦争か」
「戦争はしないよ。彼も嫌がるだろうし、基本一人一人を説得する」
「脅すのか」
「脅したり、すかしたり、幹部と言っても結局ただの人間だから、ダライ・ラマには勝てない」
「ラマ様は世界の王になりたいとは思っていない。彼は世界の平和と幸福が一番の願いなのだ。分かっているな」
「もちろんだとも、その願いを裏切るようなことはしない」
その時、ドージェが誰かを連れてやって来た。
「道安様、お願いが有ってきました」
「そちらの方は」
「先日やってきた軍の方ですが、軍を止めてこちらで拳法の訓練をしたいと」
「じゃあ、ちょっと外へ」と言って連れ出した。
「そこで組手をやってみて」
ドージェと李の組み手を見て
「ドージェ、手を抜くな」すぐに李は劣勢になった。
「やめ、かなりできるようだが、筋肉しか使ってないよね」
「この方は拳法の中国チャンピオンで」
「良いよそんなの。強くなりたいのじゃないの。強くなりたいから軍を止めてまでここに残ったんでしょう」
「はい、今までの自分は奢っていて、本当の強さを知りませんでした。ドージェと戦って、いかに弱いかを知らされました。お願いします。どうかここにいさせてください」
「あなた、ここは中国共産党に睨まれている場所ですよ。ここにいたらあなたも反逆者扱いですよ。黙って帰りなさい。それがあなたの身の為です」
「私の生死より拳法を極めたいんです。どうかよろしくお願いします」
「ではもう一度ドージェと試合をしてもらいます。ドージェも私の弟子としての試験です。本気でやりなさい。良いですね。それで無理だと分かったらお帰り下さい。そういう事でいいですね」
「はい」
「では立ち合い始め」
すぐにドージェの強烈で激しい攻撃が始まった。李は守るのが精いっぱい。
「ドージェ、三次元攻撃です」
ドージェは空中に浮かび、上からの攻撃に変わった。李は受けることが出来ず、まるで逃げ回っているようだ。
「ドージェ、波動攻撃」
ドージェは波動攻撃を始めた。波動法には二つあって、一つは鎌鼬のように切り裂くものと、もう一つは空気の圧縮による爆発させるものがある。その両輪を使った攻撃が波動攻撃だ。
「よし止め」二人は道安の前に来た。
「ドージェはだいぶ良くなってきた、が、手心を加えろとは言わなかったぞ。」
「申し訳ありません」
「お前は優しいからな。まあ良い」と肩をポンと叩いた。
「で、李さん。どうでした。決めるのはあなただ。ここに残るもよし、中央に帰るもよし。どうします」
「ここに残りたい、強くなるにはここしかない」泣き出してしまった。
「ここにいると辛い目に合うかもしれないが、それでもいいですか」
「はい、泣き言は言いません、絶対服従します」
「そんな物はいりません。自分のやることが正義だと思えることだけやりなさい。自由と平和の為だけに戦いなさい。それさえ守れるなら、ここにいることを許します。後はドージェに任せます」




