第三章 活躍の始まり
10)神社のお仕事
「今日は寄り合いだろう、直来の用意して置かないといけないよね」
「千歳ちゃんは寄り合いは初めてよね」
「寄り合いって何ですか」
「この神社を維持していくための相談会という所かな」
「大変ですね」
「そんなことないよ。大変なのは祭りの時。」
「何が大変なの」
「巫女は踊らにゃならんし、食べたり、食ったりのお世話もあるし、中には触ってくるやつもいる」
「私は男の扱い、慣れたものだよ。しつこい奴は蹴っ飛ばしちゃうから」
「千歳ちゃん、頼もしい」
氏子の役員が集まり始めた。
「お世話になります、今日はご苦労様で」
「会議の後、直来の準備をしておきますので」
「直来って何」千歳が聞いた。
「神様のお酒のお下がりを頂く会ってこと。つまり、ご苦労様会でお神酒を頂きましょうっていうやつ」
「色々あるんですね」
「では会議を始めます」総代が言った。
「祭りの神輿だが、もうずっと修理していないからあちこち傷んでおる。一般予算と、特別予算のどこから出すかだが」
「どの位かかるのかのう」
「一応見積もりを取ったのだが、五百万から八百万位かかるらしい」
「修理をしなかったらどうなるんかい」
「構造物がだんだん腐って、飾りも錆びて取れて、何より大鳥が途中で落ちる」
「落ちちゃあ、どねえもなるまい、縁起が悪い」
「それは奉賛会でも予算が取れまい。どうだろう。うちで出しても良かろうか」
「こちらで出されるので、」
「祭りに神輿が無いのは、やはり見っとも無い。それ位なら、うちで出してもやりたい。まあ、私の見栄みたいなものだが」
「神社さんが出そうというのを断る理由は無かろう」
「本当に良かろうか」
「では総代さん、修理屋との打ち合わせ、宜しくお願いしますよ」
「では直来を始めますので、膳の書類を片付けてください」母さんと、桔梗と、千歳が料理と酒を運んでくる」。
「では今日はご苦労様でした。これからも気張ってやっていきましょう。乾杯」総代が音頭をとる。
「乾杯」神輿の問題が片付いたので、みな一安心だ。
「奥さん、良いんですか、宮司さんは神輿代を神社で出すといってますが」
「まあ、あの人も考えがあっての事でしょうから、私は心配しておりません」
「それより娘さんこれで神職の資格を取られて、桔梗さんも今年は学校卒業でしょう。ここの神社も万々歳だ」
「有難うございます。これも皆さんのおかげです」
「いや、これも宮司の人徳というもの。神の賜りものですかな」
「あのう、こちら神薙さんの神社ですよね」
「そうですが、何でしょう」千歳が答えた。
「実は、中央病院の高津先生からご紹介されまして。吉岡と申します」
「まあ、中へどうぞ。宮司もおりますから呼んでまいりますので」
「はい、宜しくお願い申します」
「宮司、こちらの方が、高津先生から紹介されたと」
「それはそれは、何かのお払いですかな」
「いいえ、実は娘が病気をして、もう先が無いので、好きなことをさせてやりなさいと。そしたら娘が外を散歩したいというんです」
「それは良い事」
「でもその途中に死ぬかもしれないんですよ」
「生きるのを一日のばすより、一つやりたいことが出来たら、その方が幸せだと思いますよ」
「こちらに、その死を看取れる方がいると聞いたのですが」
「貴方が思ってるのと違うかもしれませんよ」
「どうしたら良いのでしょう。娘には出来る限りのことをしてやりたいんです」
「手押し車に乗せて、寒くないように、まぶしくないようにして、ご両親様が押して歩く。私ども、神の巫女がその後をついて行きます」
「それで、」
「それだけですよ。ただ、我々が看取る時に、天に召されるところが見えるかもしれません」
「どういう事でしょうか」
「お代も、お供えもいりませんから、やりましょう、娘さんのために」
「分かりました。主人と相談の上、お返事しますので」
「やる時は日にちと、時間と、場所を知らせてください。神の存在を実感しますよ」
「おい、桔梗、例の礼拝、明日の一時、高見が原と連絡が来たよ」
「どうやって行くのよ、場所も知らないし」
「俺が送ってやるよ。後は右京君が何とかしてくれる」
「何んとかって、やり方知らないわよ。」
「その時の成り行きだよ。おばあさんも昔はやってたけど、今は無理だから」
「右京君頼んだよ」
「分かりました。出来る限りやります」
「人の生き死にを利用して商売するなんて、神罰が落ちるよ」
「まあ、お前も体験すると、考え方とか、価値観とか、変わるぞ。下手すると人生変わるかもしれない」
「右京のやること見てるだけだかんね。何もしないからね」
「ここが高見が原なの」
「見晴らしがいいだろう。春とか、秋にはハイキングとか結構人が来るんだよ」
「あちらの方じゃないですか」二人はそちらに向かって歩いて行く。
「吉岡さんですよね」
「はい、今日は宜しくお願いします。こっちが娘の紗綾です」
紗綾は手押し車に毛布にくるまれて座っていた。肌は白く、瘦せている。
「ではお母さん、お父さんも一緒に行きましょうか。ここには花や木々や、土の精霊がたくさんいます。紗綾ちゃんには薄いピンクや黄色やオレンジ色のふわふわしてる物が見えてるよね。」
「紗綾には本当に見えてるんですか」
「しー」桔梗がお母さんに言った。
「紗綾ちゃんには見えてるよね。紗綾ちゃんはこれからお父さん、お母さんと離れて、こっちの世界で、この子たちと一緒に生きていくんだよ。大丈夫、お父さん、お母さんと別れるんじゃない。心と心は繋がっているからね」
お母さんは何か言いたそうだが、お父さんが首を振って、お母さんを止めた。
「さあ、自分の色は何色化、自分の手を見てごらん。薄く、何色か見えて来てるだろう。それがこれからの色だし、君だよ」
「何が見えているんでしょうか」おかあさんが、桔梗に聞いたが、桔梗にも見えていなかった。こんな経験は初めてだし、でも何か不思議な事が起こりそうな、不思議なムードなのだ。何も分からないのに、妙に興奮しているのが分かる。
「さあ、神様がお迎えに来たよ。手を差し出して。優しい神様だからね。神様に抱かれたら、お父さんお母さんにサヨナラの挨拶をして、手を振ってね。今までありがとう。お幸せにね。さようなら」
右京は二人の間に割り込んで、右手でお母さんと、左手でお父さんの手を取った。突然周りの世界が変わり、目の前に神らしき人が紗綾を抱いて天に昇って行くのが見える。紗綾は手を振りながら、何かを言っているようだが、声は聞こえなかった。
「さようなら、今までありがとう」と言っている気がする。
「さようなら、紗綾ちゃん有難う」だんだん高く小さくなっていく。いつまでもどこまでも追いかけたいが、無理なのは分かっている。二人は知らず知らずに泣いている。そして抱き合っていた。そしてお父さんが右京に向かってお礼を言って、娘の遺骸を車に積んで、もう一度深く礼をして去っていった。
宮司の安武が二人に近づいてきて静かに言った。
「ようし、帰ろうか」桔梗は何も霊は見えなかった。だからここで起こったことは分からないのに、涙が止まらなかった。
「どうしてかしらね、何だか涙が止まらないの」
「それは桔梗の心がきれいだからだよ」お父さんが笑いながら言った。
「こんな事、お父さんは知ってたから、引き受けたのよね」
「おばあちゃんがやっているのを何度も見ているからね」
「そう。おばあちゃんてすごいのね」
「ああ、すごいぞ。でもこれからのお前たち二人はもっとすごいって、おばあちゃんが言ってた」
「じゃあ頑張る。まずは右京に負けないよう、学校は首席で卒業するわ」
「おお、頑張れよ。お前の頭脳と、右京の霊力を併せりゃ、天下無敵だ」
「まあね。負けないからね」
(11)変わりゆく卑弥呼神社
「ねえ父さん、宝くじのお金、そろそろ取りに行かないと」桔梗が言う。
「そうだねえ、一年以内に取りに行かないと、無効になるらしいね」おばあちゃんが言った。
「先週、母さんと銀行に行ってきた」
「ええっ」
「二人とも何も言ってなかったよね」
「最近、ずっと、バタバタしてたろう。言う暇がなかったんだよ。ねえ母さん」
「そうですよ」
「で、どうしたのよ」
「十億を定期にして、一億を神社用にして、二千万ずつを父さんと母さんの口座に入れて、、一千万は父さんの車を新車にしたでしょう。」
「母さんだって、ネックレスと、指輪とバックで一千万したでしょう」
「残りのうち一千万はおばあさんのもしもの時のお金、二千万は生活費の足しにして、最後の一千万を桔梗さんに上げるつもりだったわ」
「自分たちは三千万、私は一千万、挙句に、右京さんは無しって、おかしいんじゃない」
「いや僕は良いよ。別に何かを買う予定はないし。住む所も、食事代もいらないから」
「そう言えば、神輿の修理代、うちで払うと、大見え切ったんだって」
「ありゃあ、祭りの時、神輿が無けりゃあ、格好がつかん」
「だからって、全額うちが出す必要はないと思うけど」
「今は氏子の数が減って、祈祷やお払いの依頼も減っておる。このままでは祭祀を縮小していかねばならん。そうなると神社は寂れていく一方じゃ」
「新しい行事とか、お守りや御朱印をたくさん売るとか、ネット参拝とか、何かないの」
「神様を扱っているのだから、イカサマみたいなのはまずいんじゃないかな」
「貴方は裕福な育ちだから貧乏をわかっていないのよ」
「じゃあ、いっその事、毎年宝くじを当てるのって駄目かな」
「宝くじなんて当たらないの」
「当たったじゃないか」
「あれはたまたま、偶然の、奇跡です。二度とありません」
「でもみんなが頑張ったら、年に一度くらいは卑弥呼様も、応援してくれるのじゃないかな。お父さんのお祈り次第かも」
「お父さんのお祈りで、宝くじが当たったら誰も苦労しません」
「やってみるだけならいいかもよ」
「そしたら、氏子に会費を集めなくても良いんじゃない」
「会費集めないんなら、奉賛会はどうするの」
「色んな行事に、人手はいるわ。だから解散はしない。だけど、経費は内で出す」
「ついでに、お払いや祈祷の料金を安くする」
「あまり派手にはできないと思うよ。青龍や白虎たちが住みにくくなったり、自然環境の悪化も考えられる」
「御免なさい。吉岡ですが、先日は大変お世話になり、有難う御座いました」
「ちょっと待ってください。今、宮司を呼びますから」
「少しは落ち着かれましたか」
「はい、何か、心がつながっているというか、あの子が、ここにいるような感じなんです」
「娘さんはそこにいますよ。一生貴方と一緒にいます」
「こんな世界があることを知りませんでした」
「頭は知らないですよ。体験したことから判断するんですから。でも心は感じていたでしょう」
「あっ、こんにちわ。落ち着かれましたか」右京が言った。
「あの時は本当に有難うございました」
「あれ、あの、ええと」
「右京君、どうしたの」
「ちょっと」と言って、安武に耳打ちした。
「えっ、そんなこと。あり得る事かな。ちょっと待ってて」と言って奥に行った。
「貴方、何か体に変わったことない」翠が言った。
「いえ、何かあるんですか」驚いたように言った。
「いえ、まだ何も言えないのですが、婦人科に行ってみてください。お話はその後という事にしましょう」
「病院に行ったら、おめでただと」
「良いですか、落ち着いて聞いてください。娘さんが奥さんのお腹に帰って来てるんですよ」
「どういう事でしょうか」
「分かりません。男か女かもです。でも、魂の色が一緒なんです。つまり、蘇りなんです」
「前の生きていたことを覚えてはいないでしょうが、紗綾ちゃんが奥さんの腹の中で生きているのは間違いないです」
「そんな事があるのでしょうか」
「それは分かりません。ですが、紗綾ちゃんがいるのは間違いないです。そして今度は、健康で走り回って育っていくでしょう」
「有難うございます。どうも、お世話になりました」
「お宮参りには必ずいらっしゃいね」
「はい、必ず参ります」
奥さんは喜んで帰られたが、ご主人や家族の方にはどう説明されたのか。と言って、噓をつかせるのも神職としては出来かねる。後は家族の絆に任せよう。
入れ替わりに来客があった。
「言い難い事なんですが、神のお告げがありまして、国を助けてくれ。詳しい事は私からは伝えられないが、卑弥呼神社へ行けば導く方に会えるので、行って能力を高めて、我の子を導いて欲しいと」その男はみすぼらしい、しかし嘘をついてるようには見えない。多分右京と何かつながっているのだろう。
「右京君を呼んでくれないか」千歳に右京を予備に行かせた。桔梗も一緒についてきた。「私は道安導と言います。神のお告げで、こちらへ行けと言われました。詳しい事はこちらで聞いて、修行をしろと」
「なるほど、貴方ですか」
「何か聞かれているのですか」
「それよりあなたは霊能が弱い。その修行から始めませんと」
「それはどういう」
「いえ、簡単です。滝に打たれて雑念を捨て、生を超越してください」
「それはどうしたら」
「朝六時までに準備をして下の鳥居の所へ来てください。私が案内しますから。夕方日が暮れたら帰ってきてください。ただそれだけです」
それからの事はまたお知らせします」
「右京さんのお知り合いの人かね」安武は言った。
「いいえ、でも、ここは変わり目になります」
「どう変わるのかね」
「多分、桔梗が卑弥呼の花になります。そうすると千歳も変わるかな」
「この神社ごと変わるというのか」
「多分世界の卑弥呼になります」
「みんなで英語の勉強をしなくっちゃいけないかも」
「そんな急に言われても無理だよ」
「そうですよねえ、無理かあ、じゃあ、英語が出来て、霊感が強くて、案内が出来て、神社に興味があってかわいい子に宮司、心当たりはないですか」
「そんなの無理に決まっている」
「それも無理っと。何かいい手はないかねえ」後ろで本を読んでいた千歳に行った。
「千尋が英語が出来たら、ヨーロッパに連れて行くんだけどなあ」と言った。
「私、少しなら英語できますよ」
「えっ、英語できるの。ホント」
「ええ、小さい頃から英会話の塾に行ってましたから」
「今日から千歳は日本語禁止。すべて英語でって。それはこちらが無理だから、とにかくこれで難問突破だ」
「只今帰ってきました」
「ああ、みっちゃん。どうですか調子は」
「今日、滝の周りを飛んでる光が見えました」
「来たね来たね。ちょっとこっちへ来て」と導を引っ張っていく。
「おおうい、白虎いるかあ」後ろからぬうっと出てきた。右京は導の手を取って、
「どお見える」いきなり現れた白虎に腰を抜かした。右京は引っ張り起こして、
「今日から白虎と剣術の稽古をしてください」
「これと稽古をするのか。こいつ素人だぞ」
「怪我をさせないでくださいよ。それでなくても乱暴なんですから」
「な、な、何ですかこれは」
「只の妖怪だよ。強いよ。こいつと稽古をして、強くなってね」
「無理ですよ」
「無理でも、強くならないとあなた死んじゃうよ。そういう所に行くんですから」
「心配いらねえよ、俺が責任もって、強くしてやるから」笑いながら白虎が言った。
(12)金策は辛い、金は天下の回り物
「桔梗、もう一度東京に行こうよ」
「何しに行くの、東京見物じゃないでしょう」
「これから、アメリカ、ヨーロッパと動くことになると思う。それにはそれなりの金が要ると思う。安心して行くにはもう一度当てておかないと心細い」
「私は良いけど、いつ行くの。まさか明日とか言わないよね」
「明日は都合が悪いかい。早い方がいいと思うけど」
「分かった。仕方ないよねえ。お母さんに言って来る」
「有難う」
「お母さん、明日、右京と東京に行って来る」
「新婚旅行かね、結婚は学校卒業してからだよ」
「何言ってんのよ。ちょっと用事があるの。冗談言わないで」
「東京行くなら、この化粧品買って来てくれない。この辺では売っていないのよ」
「知らないわよ。遊びに行くんじゃないの。勝手なこと言わないで」
「お弁当はどうするの」
「そんなの要らないわよ、駅弁でも買うから大丈夫よ」
「気を付けて行くのよ。お土産は」
「知らないわよ。買って来ないからね。ほんとに、もう」
「タクシーで回るわよ。その方は早いでしょう」
「良いですよ。じゃあさっそく」
「運転手さん、宝くじを買いたいんで、このリストの順に回ってもらえませんか。近くで止めてもらって私たちが帰ってくるまで待っててもらいたいんですが、宜しいですか」
「良いですよ、ただ、待ち時間も料金がかかりますが、良いですか」
「はいでは、西銀座チャンスセンターからお願いします」
「こんなに回って、どれだけ買うのですか」
「いいえ、ピンと来たところで買うので、ほとんどは店に行くだけで帰ってきます」
「それなら、乗り逃げを疑っている訳じゃないですが、、料金の一部を前金でお願いしたいのですが」
「それはそうですよね。良いですよ。一万でいいですか。超えたら、また渡すという事で」
「勝手なこと言って申し訳ありません。それと何なら私の携帯に電話貰ったら近くに時間を合わせていきますよ」
「じゃあ、お願いします。番号はこれで宜しいですか。はい、ではお願いします」
「ここが一番目ですね。行っていらっしゃい」
「では行ってきます。後はお願いしますね」と言って二人は出て行った。
「だめでした。次行って貰えますか」
「お宅ら二人ともお若いようですが、お仕事は何をなさっている方ですか」
「これでも神社に努めているんですよ。こちらは地元では美人巫女で有名ですよ」
「神様が付いているんじゃあ、当たりますね」
「当たればいいですね。当選発表まで、朝、昼、晩と、巫女踊りをして、当ててもらうという話で」
「これぞ、神懸かりだ」と言ってドライバーは笑った。
「神様も美人には弱いんじゃないかなと」
「愉快なお人たちだ」
「これで料金を超えましたのでもう一万お渡ししておきます」
「はい、これで合計三万ですね」
「ええと次は、銀座 大黒天宝くじ売り場ですよね」
「はい、分かっていますよ。行っていらっしゃい。気を付けて」
「はい只今、また駄目でした。当たりそうな売り場を選んでいるんですが」
「いや、私としては長く乗ってもらえた方が儲かりますから良いんですが」
「では、みずほ銀行銀座通支店前売場をお願いします」
「ほほう、だんだん調子が上がってきましたよ。次の次ぐらいで当たりが出ますよ」
「頑張ります」と言って、二十件目に新宿西口小田急線のりば前に来た。
「じゃあ行ってきます。
売り場前には五人程が並んでいた。二人は手をつないで静かに待っていた。
順番が来たので、券の束にに手をかざしてみている。
「通しで、十枚、その下の下、それください」桔梗が静かに言った。右京が三千円を渡して、タクシーのドライバーに電話をした。
「終わりました。はい、はい、ではすぐ、お願いします」と言って、待ち合わせ場所に急いだ。
「無事買えました。有難うございました。では東京駅にお願いします」
「いや、せっかく東京に来たんだから、原宿行きたい」桔梗が言う。
「じゃあ、原宿に行って貰えますか」
「良いですよ。今日は楽しいお客様に会えてよかった」
「こちらこそ無理を言いました。有難うございます」
「じゃあ、楽しんでお帰り下さい」原宿駅前でタクシーを降りた。
原宿表参道、竹下通りを二人は歩く。ウィグル ウィグル ジップ原宿は呆気にとられるくらい派手で、ポップと言うらしい。竹下通りを抜けて明治通りをまたいだ裏原はストリート系ファッションブランドが軒を連ねている。桔梗ははしゃいでいるが、右京はこういうのは得意ではない。
「まあ、桔梗が喜んでいるから良いか」と思って付いて行く。まあ、苦痛ではないかなと思わせるのも、街の雰囲気のせいだろう。ショッピングビルにも何店か入ったが、結局何も買わなかった。スイーツを買って食べながら、桔梗が笑っているのを見るのは最高だった。
「君、可愛いねえ、芸能界に興味ないかな」何人も誘ってくるのには困った。
「折角来たんだから、何か買おうよ」
「こんなの私の趣味じゃないもの」女の子は難しい。
原宿駅から東京駅までは、JR山手線に乗って、乗り換えなしの約25〜30分で到着できるのでそれに乗って、東京駅から新幹線でうちに帰った。大変だったが、桔梗が機嫌がいいので、良かったのだろう、目的も果たせたし。
「今日から依然同様、朝昼晩のお祈りを始めます。今回は私と千歳さんも祈祷に参加します・お父さんがお祈りを上げている間、私と千歳が巫女踊りをします。二匹目のドジョウはいないといいますが、為せば成るで、全身全霊をもってやりますので、皆様もそのつもりでお願いします」この後一週間、神社全員、どこにも出かけず懸命に祈った。
道安導だけが蚊帳の外である。
白虎との修行もだんだんと激しさを増し、最近では青龍も加わっている。異次元での導は、妖術を使っているようだ。かまいたちは良い武器となろう。これで、霊力が上がれば、現実世界でも使えるようになるだろう。修業を見に来た右京は青龍と相談をし、空中に浮く武空術を体得する修業を始めさせた。これが出来れば卒業だ。贅肉だらけの体も、痩せて、筋肉が付いて精悍になった。まあ、一度も弱音を吐かず、泣き言を言わないだけでも立派なものだ。青龍は近じか、妖怪と戦わせるようだ。まあ、卒業試験のようなものかな。
「どうだい調子は」右京が道安導に声を掛けた。
「まだまだです。一度も師匠に勝てません」
「アハハハ、こいつ俺様に勝つつもりだとよ」
「一度くらいは一発入れたいじゃないの」
「その意気だぞ。強く成るやつはその気持ちが大事だ」
「少し練習を見ててもいいか」
「おお、注意することがあったら言ってくれ」
二人は立ち合いを始めた。
「あれ、道安の奴、飛べるようになったのか」
「まだまだスピードが遅い。早くなると、重さが加わって、パンチが重くなり、衝撃度が何倍にもなる」青龍が解説をしてくれる。
「俺も修行をしたらあんなになれるの」
「無理だな」
「えらい返事が早いな」
「才能が無い者は百万年やっても強くはならん。だが、飛ぶくらいはできるぞ」
「えっ、教えてもらってもいい」
「その気があったら来たらいい」
「どのくらいで飛べるようになるの」
「苦労してもやりたいと思わない者ほど、すぐどれ位か、聞きたがる。そんなの本人の努力次第だ」
「そりゃあそうだ。悪かった」
「道安はいつまでやるんだ」
「そろそろ卒業させねばならんだろう」
「そうか、それじゃあ、試験は明日にしよう」
「立ち会ってもいいか」
「じゃあ、明日の一時からという事にしよう」
「今日午後から、道安の修行の卒業試験をやるんだが、見に行かないか」
「試験って何をするの」
「白虎と戦って、勝つのは無理でも、いい試合が出来たらいい」
「ええっ、白虎とやるの。そんなの初めから無理に決まっているじゃないの。ハンデを付けてやらないの」
「それじゃあ、彼の為にならない。軍の兵隊が、剣や鉄砲で来ても軽くあしらえるくらいは強くなってもらわないと」
「えっ、彼は軍隊と戦うの」
「それは分からないよ。彼次第かな」
「よし、始まるぞ」道安と白虎は棒術で戦うようだ。
「よし、思い切って打ち込んで来い」道安羽目に止まらぬスピードで突っ込むが、白虎は軽く流して裁く。
「攻めは三次元でやらないといくらやっても利かないぞ」白虎が先に空中に飛んだ。
「空中に逃げるなんて卑怯だわ」
「黙ってみておいで。道安もすごいから」道安は身をすくめたと思ったら、空中に飛び上がった、白虎は右に左によけるが、道安も超スピードで追いかける。桔梗は空中戦が始まって見とれていたが、ハッと気が付いた。
「何で道安は飛んでいるのよ」
「そりゃあ、飛べるからだろ」
「人間には出来ないの。出来ないようにできてるのよ。神がそう作ったの」
「異次元でできるように修行したら、その能力はこっちでもできるらしい」
「貴方も飛べるの」
「無理、そんな修行をしてないのに無理に決まっているだろう」
「じゃあ、修行したら飛べるようになるの」
「分からないよ。才能や能力の有り無しもあって、どうか分からない」
「それにしても道安さん、すごい痩せてたわよ。どんだけ無理させてるのよ」
「ちょっと待って、白虎が墜落してるわ」
「違うよ、地上すれすれで急カーブで上がるんだ」
「それを道安さんが追いかけてるのね。そのまま墜落するなんて無いわよね」
「分からない。あんなスピードで急降下なんて、練習の時はやっていない」
「止めて、止めて、早く反転して」
白虎は地上すれすれで上昇に切り替えた。そのすぐ後を道安が同じ軌道で急上昇した。
「よおし終わりだ。終了する」
「待てよまだまだ俺はやれるぞ」白虎が叫んだ。
「いや、これまでだ。これは殺し合いではない。それにお前も楽しかったろうが」
「それはそうだが」
「試験は合格とする。白虎も祝ってやれ、お前の一番弟子だ」
「そうだな。一番弟子だ。俺の顔に泥を塗るようなことはするなよ」
「はい、有難う御座いました。これからも精進します」
「よく頑張ったな」右京が言った。
「これからの事は明日相談しよう。今日はゆっくりしろ」
「はい、有難う御座います」




