第二章 卑弥呼神社の秘密
4)全ての始まりは深夜から
夜中寝ていると、何か気配がある。動かないようにして、目を細めに開けてみた。どうも二人いるようだ。桔梗が忍んで来たのかと淫らな考えを持ったりしたが、どうやら違うようだ。
度胸を決めて座り込んだ。相手は動きを止めてじっとこちらを見ている。
「貴方たちはどちら様」
「俺達が見えているのか」
「こんなに五月蠅くされたら起きちゃいますよ」と言って笑ってしまった。
「電気をつけてもいいですか」
「俺達はどちらでもいいよ」
「では」と言って電気のスイッチを入れた。
鎧を着た、竜頭と虎頭だ。背は結構大男だ。
「私は右京。久邇宮右京。であなたたちは」
「私は青龍、東方青龍だ」
「私は西方白虎だ」
「もしかして本物の青龍と白虎ですか」
「本物のとはどういう事かな」
「青龍さんと、白虎さんはとても人気があ利、偽物はいっぱいいますから」
「そんな事になっているとは、驚きだな」
「ちょっとお聞きしますけど、朱雀さんと、玄武さんもいますか」
「いるにはいるが、今はいない」複雑な事情があるようだ。
「明日、ここの巫女さんの桔梗さんと南の門から中を見たいのですが構いませんか」
「ああいいぞ。俺が案内してやろう」白虎が言った。
「あのう、もしかして私、あなたたちに触れますか」
「俺達が見えてるんだろう。それなら大丈夫だ」
「じゃあさっそく触らせてもらいます」ああ、思ったより硬いですね」
「鍛えてるからね」と言って白虎は外に飛び出した。何事かと思っていたら帰って来た。
「どうだいすごいだろう」といった。何事かと思っていたら、青龍が大笑いを始めた。
「お前馬鹿だろう。右京さんは外が見えていない。屋根から屋根に飛び移っても一つも見えていない。骨折り損という訳だ」
「お前、外が見えていないのか」
「うん、見えない」
「こんなに星があってもか」
「うん、見えない」
「生命エネルギーで燃え立つエネルギーがあってもか」
「うん、見えない」
「お前、猫の目を持っていないのか」
「うん持っていない」
「いつまでやっているんだ」
「何も見えないのか」
「うん、見えない」
「じゃあ、月が無い夜はどうするんだ」
「家で寝てる」
「お前ら詰まらねえ人生だな」
「うんつまらない」
「いい加減にしろ。みんな寝ているんだぞ」
「すまん、興奮した。明るくなってからまた来る」
「青龍さん、ごめんね」
「いや、白虎が考えなしだからだ。よく言っておくから許してやってくれ」
「そうじゃない。僕が君たちに会えてうれしかったから」
「お前、良い奴だな」
「青龍さんこそ。後でね」
「ご飯、ご飯」桔梗が寝ぼけ眼で起きてきた。
「何ですか、若い娘が。ちゃんと支度をしてから来なさい。そんなんじゃあ、嫁にいけませんよ」
「その時は右京、責任取りなさい」
「ぼ、僕ですかあ」
「貴方、嫌なの」
「そんなことないです。喜んで」
「それで宜しい」
「そんなんじゃあ、嫁にもらってくれませんよ。お淑やかに、お優しく。ねえ右京さん」
「は、はい、そうですね」
「そんなこと言ったら、結婚したら、尻に敷いちゃうぞ」
「僕は尻に敷かれてもいいですから」
「ええ、本気で言ってるの。私がそんなことすると、本気で思っているの」
「いいえ、桔梗さんはお淑やかですから」
「はい宜しい。お代りは」
「いいえ、大丈夫です」
「じゃあ、私が代わりにお代わりしちゃう」
「桔梗さん、今日は南の神社に行くんでしょう」
「心配しなくても、神社は逃げないから」
「でも、お迎えが来てますから」
「お迎えって縁起でもない」
「でも、案内する方が来てますよ」
「どんな奴よ」
「ちょと見てみますか。じゃあ」と言って、右京は桔梗の手を取った。桔梗のすぐ横に白虎が立っている。
「キャアー」桔梗は驚いて椅子から落ちて、尻もちをついた。
「何、行儀の悪い。ほんとお転婆なんだから」
「桔梗は白虎さんは初めてかい」おばあさんがニコニコしながら言った。
「これ、おばあさんの知り合い」
「何んという罰当たり、うちの守り本尊だよ」
「だって、初めて見るんだもの」
「そこにいるのが白虎。また会えるだろうけど、もう一人が青龍。覚えておきなさい」
「右京、手を貸して」もう一度、今度はまじまじと見る。シロクマが鎧着て立ってる、嫌、白い虎だ。恐る恐る触ってみる。堅い毛と柔らかい毛が混じっているが、触っていて気持ちが良い。白虎がニヤッとした。驚いた桔梗が、
「こいつ笑った」
「いちいち驚いてどうするんだい。ほんとに、白虎さんや、すまないねえ」
「いえいえ、初めての時はこんなものだ」
「桔梗、だから早くご飯を済ませてよ。ずっと横で待たせているんだよ」
「それならそうと早く言ってよね。私のせいみたいになっているじゃない」
(5)初めての我が家探検
青龍が南大門の前で待っていてくれた。
「早かったな」白虎が言うと、青龍はニヤッと笑って
「初めての見学に付き合わないほど義理欠きじゃねえよ」
「青龍って言うくらいだから、竜なのよね。本物の竜って初めて見た」と言って触りまくる。見た目は羽二だけど、触り心地は全然違う、エナメルのバックみたい」
「バックみたいか、それは傑作だ」青龍が笑ったら白虎もつられて笑った。相当仲良しのようだ。
「では中に入りましょう」右京が言うと
「では先頭を白虎が、しんがりを私が。その辺の物にむやみに触らないで。見えない時は大丈夫だけど、見える時は、毒や呪いが有効になってるから」
「では入りますよ」
中は薄暗いのに奥まで見える、少し青みがかって不思議な感じだ。
中には、動物か植物か、分からないけど動いているのも、どう見ても石なのに動いたり、半分になったりと見ていて飽きない物がいっぱいある。それなのに建物の作りが地下神殿といった形なのだ。広場の真ん中に噴水があり、だが、吹き上がり広がる水しぶきは花火のように小さく爆発しているみたいだ。その向こうは花畑だが、背の高いひまわりの大きな花には真ん中に口があって、空いたり閉じたりしている。反対側は高い壁がそびえていて、巨像が並んでいる。その巨像は立ったり座ったり、左右を向いたり飛び跳ねたりと忙しく動いている。桔梗は池の周りの石に腰を下ろそうとしたら、青龍に強い力で引っ張られた。
「何をするのよ、手がちぎれるわよ」
「よく池の中を見てごらん。それでも座るというなら私は何も言わない」
見ると鰐のような口をした魚みたいなものがうようよいる。
「何よあれ」桔梗が大きな声を出す。
「お前たちはこの辺の生き物に認められていない。だから気に入られないと食われる」
「食われるの」
「ああ、食われる。人間界でもジャングルの中を歩いていたら、何かに食われるだろう。それと同じような物だ」青龍が言う。
「誰かいる」桔梗が神殿の方へ走り始めた。右京も引っ張られて走る。
「貴方、誰」
「俺はガマ仙人だ。」
「そいつはだめだ。もうろくをしてて自分の事もろくに覚えておらん」
「ハエとかアブとかが好物で、嘘つきだ」
「そうだ、こいつに関わっているとろくな事は無い」
「よし、中へ入ろう」大きな扉がそびえている。青龍が呪文を唱えると、自動でゆっくりと開き始めた。中は花が咲き乱れ、蝶が乱れ飛び、小鳥がさえずっている。
「奇麗なお花」と言って、花の香りをかごうとすると、青龍が慌てて
「その花の花粉は毒だ。少し吸っただけで狂い死にするぞ、気を付けろ」
「何よ、楽園かと思ったら、地獄じゃないの」桔梗がご機嫌斜めで言った。
「この世の中、奇麗で楽園とか、極楽とか言われている所は、死体をきれいに溶かし、消している物がいるという事だ」
「分かっているけど、ちょっと浮かれただけ。これから気を付けるわよ」桔梗は怒っていた。つい八つ当たりで壁を叩いたが、それは壁ではなく静かな像に見えるが、守護者であった。守護者は攻撃を受けたと判断をした。突然動き出し、桔梗に剣を振り下ろしてきた。青龍がその剣を防いだが、隣の守護神も攻撃に加わった。青龍は叫んだ。
「みんな逃げろ」神殿を飛び出したら、外までは追いかけてこなかった。安心をして、桔梗と右京は座り込んだ。
「何をしたんだ。どうして急に攻撃を受けたんだ」
「しょうがないでしょう、こんなことになるとは思わなかったんだから」
「今日は見学という事にはなりませんので、また日を改めてという事にしましょう」
「そうですね。仕方ないですね」
「その代わり、神社内を見学という事にしましょう」
「神社内って、何もないわよ。こんな小さな神社ですもの」
「そうでもないですよ。では行きましょう」
「先ずは東山に登ってみましょう。こちらは普段私が守護するところですから安全ですよ」青龍が優しく言った。
「それなら西の山も白虎様が守護しているから安全だ。」
「一度にあちこちはいけませんから、先ずは東山という事で、昼も近いですし、お弁当とお茶を持って行きましょう」右京が笑いながら言う。
うちに帰って、桔梗はお握りを作って、水筒にお茶を入れて、テキパキと準部した。こういうことは器用な桔梗は抜け目がない。さっさと準備して、
「さあ行くわよ」
東山と言っても低い山で、雑木や雑草があるので眺望も良いとは言えないが、言わないで置いた。
「では出発しましょう」白虎が呪文を唱えると、巨大化して象の二倍くらいの大きさになった。二人は白虎の背に乗って、青龍の案内の下、山に向かった。と言っても、大きな白虎がゆっくりと宙に浮いた。そして山の頂上に向かう。山の頂上には大きな木材で作られた見晴らし台のような建物がある。屋根のない二階建てのような建物で二階部分に降り立った。神社が丸見えで、見晴らしがいい。
「こんな所があるなんて、知らなかったわ」桔梗が興奮して言った」だが、少し違和感があった。何か知ってる神社より大きい。いや、倍はあるかもしれないし、知らない建物まである。だいたい大きく長い参道があり、巨大な鳥居がそびえている。その向こうは川があり、木製の橋がかかっている。
門も二つあり、内側の大きい方が正門であろう。拝殿本殿も本物よりでかいし、住居でもある社務所もでかい。
「何なのこれ」つい口に出た桔梗である。
「うちの神社はこんなに大きくないわよ」よく見ると南側に巨大な門が見える。
「あれがさっきの南大門なの」青龍に聞いた。
「はい、そうでございます。その奥が神殿でございました」
「これが内の神社の本当の姿なのね」
「結界の中が、特別な力で守られていますから」
「うちの神社もこんな感じだよ」右京が言った。
「うちもって、貴方の所は特別でしょう」
「特別ってなあに」
「何でもないわよ。さあ見てすんだら帰るわよ」
(6)TV局がやって来た
その日、右京は門の前を掃除をしていた。
「君、ここの人」
「いいえ、神社学園の学生です」
「ここで妖怪を見たという人がいるんだけど」
「はあ、そうですか」
「君も見たことがあるの」
「まあ住んでますから」
「君ここに住んでるの」
「いや私は学生ですからあちこち行きますけど」
「じゃあ、だれが住んでるの」
「家族の方と」
「家族以外にいるのね」
「ゲテモノというか、」
「ゲテモノって何」
「変わったものというか」
「はっきりしなさい。妖怪ね」
「妖怪と言っても、ここの妖怪は悪いことしませんし」
「それって、いるという事ね」
「いるというか」
「いるのね」
「いるというより住んでるというか」
「えっ、住んでるの、妖怪が」
「でも、霊感が無い人には見えませんから、何もしなければ大丈夫ですから」
「どうやったらその妖怪に会えるの」
「だから、霊感があれば見えるし」
「ディレクター、あそこ」
「何よ、今大事な話をしているんだから、邪魔しないで」
「そうじゃなくて、あそこ」
「だから邪魔するなって言ってるでしょう」
「あそこを見てください。何かいます」
「何よ、どこよ。何もいないじゃない」
「貴方は霊感が無いから見えないんですよ」右京が言った。
「ディレクター、ほんとに見えないんですか、他の人も見えませんか」
「何もないといってるだろう。何が見えるというんだい。お前がカメラを持って映してみろ」
「いい加減にしなさい。今日は帰るわよ。だからこんなのはデマなのよ。それを面白がっているだけでしょう」
どやどややってきて、がやがや帰って行った。
「テレビ局の人が来られましたよ」
「ついに、こんな田舎に一軒家が来たか」
「それが、ここ妖怪を見た人がいて、それで噂の真相を確かめに来たらしいですよ」
「惜しかったな。妖怪でも何でも、照れ部に移れば、有名になって、お賽銭がたくさん入るかもしれなかったのに。」
「そんなの当てにしてるからだんだん干からびるんでしょう」
「ここ潰れるの」
「潰れないわよ。私が潰さない」桔梗がきっぱり言った。
だが、予想は大きく外れて、また先日のテレビ局が来た。
神社の許可も取らないで、勝手に正門前でカメラを回していた。先日は四、五人だったのに、今日は十人を超えている。カメラも三台、ドローンまでいる。
「小坊主さん、小坊主さん、ちょっと聞くんだけど」
「あのう、小坊主じゃないですよ。お寺じゃないんですから」
「この間の人でしょう」
「そうですけど、許可を取られましたか」
「この間の映像の中に、妖怪が映っていたのよ。これは大スクープよ」
「それは霊感のある方がカメラを回していたんじゃあないですか」
「霊感があると映るの」
「強い霊感がある方が、妖怪を見つけて正確にカメラを向けて、それも性能のいいカメラで、取ると映ることがあるみたいですよ」
「そうすれば映るのね」
「でも大抵は雑音だったりノイズだったりですよ」
「いいわ、紀子、準備して。見えたらすぐ撮って。失敗しないでよ」
「はい分かりました」
「上手くいけば、貴方をアシスタントディレクターにしてあげる」
「はい、頑張ります」
「貴方、妖怪好きですか」
「好きも嫌いも、見たことないし」
「まあ、普通そうですよねえ。あなた本当に妖怪を撮りたいと思っていますか」
「私は仕事ですから」
「何を言ってるの、撮りたいに決まっているわよ。それに上手くいけばここも有名になって繁盛するわ。今、神社もどんどん潰れているんでしょう。話題になれば儲かるわよ」
「本当ですか。じゃあ、妖怪撮るの、協力します」
「本当助かるわ」
「青龍、白虎、ここに来て」
「貴方には見えないでしょう。カメラのあなた、こちらに来て」
「分かりました」
「貴方には見えるでしょう。」
「はい。頑張って撮ります」
「あなたもカメラを通してなら見えるでしょう」
「ええ、すごい。これ触れないの」
「それは無理です」
「この人私のタイプ。何とか飼えないかしら。でもその前に、見えるようにならないとね。無理よね」
(7)有名になり損ねた神社
「この間の番組、没だそうですよ」
「どうしてですか」
「ヤラセノやりすぎって、テレビ局の偉い人が記者会見をして誤ったそうですよ」
「妖怪なのに仲良くしすぎて、妖怪のイメージが変わったと」
「はっきり映しすぎて、戦隊ものかと思ったらしい」
「少しぼかしときゃあいいのに」
「だからヤラセノやりすぎって言われるの」
「これで、テレビ局は首だし、二度と番組は作れないだろう」
「これもあなた方が、協力したからですよ。ちょっと有名になれば金が幾らでも入るから、嘘でも何でも、話題を振りまきたいのは分かるけど、神様が嘘をついちゃあだめでしょう」
「ちょっとお聞きしますが、この中で霊感のある方はいますか」
「俺はあると思うよ」あそこの松の木のところ、何か見えますか」
「何も見えないけど」
「じゃあ、霊感ないです。他にいませんか」
「あそこでくるくる回って、動いているのが見えるけど、あれの事」
「そうです、貴方カメラ使えますか。」
「そりゃあ、大丈夫だが」
「じゃあ、誰かカメラ貸してください」
「じゃあこれ使え。これから何が起こるんだ」
「じゃあ、あなたもっと右を取ってください」
「ああ、これやらせだろう。だからこれが問題なんだよ」
「他に見える方いますか」
「何が見えるんだよ」
「貴方たちがイカ様だって言ったものが見えてるはずです」
「あれはイカ様だから、何もないだろ」
「いや、いるよ。青龍と、白虎が」
「どこにも見えないが」
「見えない人は霊力が無いからです。でも、霊力がある人はカメラで撮ると、霊力が無い人も見ることが出来ます。試してみてください」
「どうです。嘘じゃないでしょう。嘘だと判断した人は、何を証拠に判断されたのでしょう。その人たちの方が噓つきです。私から言えるのはこれくらいです。後はあなた方が、自分で判断してください」
「宮司さん、何でこんな人に協力したんですか。これでこの由緒ある神社も終わりですよ」
「そんな、総代さん、テレビが勝手に撮ったんですよ。許可もなく」
「氏子もやっていられないとか、止めるとか言ってる人もいるし、何んとかそちらで解決してください」
「このままじゃあ、解散ですよ解散」
「だからうちは金貰った訳じゃあないし、何の責任も取りようがない」
「とにかくこちらで解決してくださいな」
「そんなこと言ったって。どうしろというの」
「桔梗、考えがあるんだけど。内緒で」
「ここで話せないことなの」
「ううん、ちょっと」
「明日二人で東京に行かない」
「東京に言ってどうするの」
「行くまでは言えない」
「私にも言えないこと」
「僕を信用して」
「何か考えがあるのね」
「只今、帰りました。ああ、お腹空いたあ」
「帰るそうそうなんです。お行儀が悪い」
「ご飯食べてから大事なお話が有ります」
「何だ、何の話だ」
「食事が終わってからの話って言ってるでしょう」
皆は急いで食事を済ませた。
「いつまで食べてるの。早くしなさい」
「何で今日はみんな早いのよう。はい、ご馳走さま」
「で何なの、大事な話って」
「桔梗さん」二人は顔を見合わせて
「今日、東京へ行って、宝くじを買ってきました。はいこれでーす」
「何だ、宝くじか。こんなもの当たる訳ないだろう」
「でも一等、12億ですよ」
「12億当たれば、10年は遊んで暮らせる」
「そういうのは当たってから言え」
「でもここ、卑弥呼の神社なんでしょう」
「そう、1800年の」
「卑弥呼さんに祈ればきっと当たりますよ」
「神棚に備えて、お父さん、朝、昼、晩、祈ってちょうだい。心を込めてよ」
「発表はいつ」
「一週間後です」
「一週間も待てない」
「右京の神通力は非常に強い」おばあさんが翠たちに言う。おばあさんに言われるとなんかその気になりかけたが、そんなうまい話は無いと、外れた時がっかりしないよう、心にブレーキを掛けた。
神薙家の、この一週間は長かった。誰もにしないが、宝くじの、くじ券が神棚にあるのをそばを通るたびに確認している。
「午後にテレビでくじを中継する。始まる頃には全員集まった。飯台の上に宝くじ券を置いて、観戦を始めた。
「こんなにみんなで集まっても当たりはしないわよ」
「いや、お父さんが心を込めて、この一週間拝み倒した。絶対当たるはずだ。」
テレビの中継か始まった。抽選はなかなか始まらない。
「何時になったら始めるんだ」だんだん機嫌が悪く、イライラしている。
「別に当たらなくても何も変わらず、今まで通りなんだから、機嫌を直して。お父さんが怒っても当たる訳じゃないでしょう。それにしても始まらないわねえ。CMばっかりよねえ」
「まあ皆さん落ち着いて。卑弥呼の力を信じて」
「今まで卑弥呼の力でなんかなった事は無いんだけれど」
「私はあるわよ。風でずっと寝てなくちゃいけない時、明日には起きられるって時、前の晩大雨の大風。あきらめてたんだけど、学校の門の所にある桜の花が一輪残ってた。とってもきれいだったわ」
「そんなの偶然でしょう」
「さあ、もうすぐよ」
「私見てられない。夕食の準備してる」
「俺は卑弥呼様にお祈りしてよう」
「なぜみんな、そんなにそわそわしてるの。こんなの当たるも運、外れるも運でしょう」
「みんな気を利かして、僕たち二人にしてくれなくてもいいのに」
「違うわよ、二人とも気が小さいから、見ていられないだけ」
「そろそろだろう。その前に、コーヒー入れてよ」
「良いわ、私も飲もうかな」台所で入れてきた。
「はいどうぞ」
「ああ、有難う。何か新婚みたいだ」
「何言ってるの」
「恥ずかしがってから、桔梗、可愛い」
「もう、誰かに聞かれたらどうするの」
「聞かれてもいいもん」と言って、ほっぺに触った。
「きゃあー」と桔梗は悲鳴を上げた。
「どうしたどうした」お父さんが駆け込んできた。
「どうだった」お母さんがやって来た。
「どうした、どうした」おばあさんまで来た。
「何よみんな聞いてたの」
「二等は外れたが、これから一等だ」
「先ず組番」
「○○○○○○○○○○○○組の○○○○○○○○○○○○」
「ちょっと待って、まずは組番よ」
「合ってる、合ってる。番号を呼んで頂戴」
「○○○○○○○○○○○○番よ」
「もう一度よ」
「○○○○○○○○○○○○番よ」
「大変だわ。うちに強盗が入るかもしれない」
「何でよ」
「考えても見て、ここに12億があるのよ」
「安心して寝られないわ」
「本当に当たったのか。一等か、本当か」
「慌てない慌てない。もう一度確認して」
「私、欲しいバックがあるの」
「俺は車を新車にしたい」
「まず、この宝くじは誰が買ってきたのよ」
「お前、独り占めする気か。親不孝者。これまで育ててきた恩を返せ」
「そんなこと言ってないでしょう」
「ここの経費にするんでしょう。氏子が減ってもやっていける目途が立ったでしょう」
「バツの悪い所を見せたわね」
「みんなでもっとこの神社を盛り立てて行こう」
「じゃあ、私たちはもう寝るから」
(8)果てしなきネズミ騒動
「おい、起きてるか。本殿にネズミが入り込んでおるぞ」青龍が言う。
「それは大変だ。どうしたらいいんだ」
「みんなを起こせばいいだろう」
「そんな事をしてけがをさせる訳にはいかないよ」
「いい考えがある。お前がそいつに抱き付け。そうしたら俺が捕まえてやる」
「いいか、一、二、三で行くぞ。一、二、三、それ」
「キャアー」右京は話してしまった。
「女だったのか」
「お前、俺が見えてるな」
「知りません、分かりません。見えません」女は騒ぎ立てる。
みんなが起きてきた。
「どうしたの。こんな夜中に」
「痴漢だよ、痴漢。こいつは私の胸に触った。絶対警察に訴えてやる」
「その前に、ここは君の家じゃないよね」
「それがどうした、この痴漢め」
「ここは神社だけど、我々の家でもあるんだ。つまり他人の家に勝手に入って、泥棒をしようとしている。騒ぎ立てたら、コソ泥じゃなく、強盗だと警察に言う」
「強盗だって。私はまだ、何も取ってない」
「じゃあ、ポケットの中身を出してよ」
「こんなの、一円、五円、十円ばっかりじゃないか。こんなの泥棒の内に入らないよ」
「一円取っても泥棒なの」
「君、この辺の子じゃないよね」
「何、聞いても無駄だよ。黙秘権があるからね」
「黙秘権もいいけど。現行犯だよ。現行犯は、警察でなくても逮捕できるんだよ」
「警察よりも、妖怪に食べさせちゃったら」と言って桔梗が笑う。
「あれは駄目、あれは怪物だ」
「多い、白虎こいつ食べてもいいぞ」と言って、白虎にウィンクをした。
「こいつはお尻がうまそうだな。まずはべローンと舐めてから」
「ちょっと待って、止めさせて、お願いよ。何でもします、食べられるのはイヤー」
「じゃあ、正直に話して。先ずお名前は」
「白衣千歳、十八歳、隣町から来ました」
「学校は」
「自主停学」
「これからどうするの」
「私、変な物が見えるから」
「変な物が見えるの。それで」
「友達いないし」
「友達いないんだあ。どこに泊まるの」
「神社の軒先でもと思ってここに来た」
「そして、賽銭を盗んだ」
「貴方、ご飯食べてるの」お母さんが聞いた。
「昨日から何にも食べてない」
「じゃあ、ちょっと待ってなさい」
「で、家での理由は」
「こいつらが私にちょっかいを出してくるの。昨日も学校さぼって、街を歩いていたら、胸に入ってきちゃって、取ろうとしても取れないの。で、思わず馬鹿野郎って言っちゃった。そしたら前を歩いていたサボりに何をって、ひっぱたかれた」
「叩かれたのか」
「母にその話をしたら、不良って、あなたも不良でしょうって」
「売り言葉に買い言葉か」
「それで財布とスマホを持って出てきたんだけど行く所がないし」
そこへ、お母さんがお握りとお茶を持ってきた。
「何はともあれ、腹ごしらえからってね。お上がんなさい」
「ねえ君、こいつらが見えるんだよね」
「竜と虎でしょう」
「青龍と白虎」
「それは漫画でしょう。四面楚歌とかいう」
「違うよ。四神相応というんだけどね。大事なのはこいつらを見えるってことだ」
「やっぱりそこか。分かってるよ。今までも散々それで虐められてきた」
「住込みで巫女見習いをやらないか」
「冗談は起きて言えとね」
「それは寝言。何か見ようにずれてる。それより、高校中退だよね。それで仕事はどうするの」
「ウエイトレスとか」
「雇ってくれるとこ有りそうかな」
「これから探すんだよ。悪いか」
「それよりここの巫女さんの方がいいと思うよ。飯三食が付いて、月十万の給料はおいしいと思うよ。それに、外国に行ける。」
「社員旅行っていうやつか」
「それとは違うけど、パリとか、ロンドンとか、ニューヨーク。まあ君には興味ないだろうけど」
「私も行きたい」
「桔梗、行くならイギリスとフランス、どっちがいい」
「女はみんなパリ、シャンゼリゼよ」
「でも、バッキンガム宮殿とか、ビックベンとか」
「宮殿ならベルサイユでしょう。他に、ルーブルとかモンサンミシェル」
「ねえ君はどう思う。やっぱり両方かねえ」
「だから、連れて行ってくれるんですか」
「そりゃあ君次第かな。巫女見習いが出来るようになったらだよ。行儀見習いもだよ」
「頑張ります」
「桔梗のカバン持ちだよ、かばん持ち」
「カバン持ちでも、アンコロ餅でも構いません」
「なんでもいいや、じゃあ寝よう。後は明日だ」
「五月蠅いなあ、誰だよこんな朝早くから」
「ネズミだよネズミ」あれからいついた白衣千歳だ。
「こんな古い神社だ。ネズミなんかいっぱいいるよ」桔梗があきれたように言う。右京も南無い目をこすりながら起きだした。
「おい、千歳、そいつは妖怪ネズミだ。気を付けろ」
「合点承知」ネズミが飛び跳ねた所を、一刀両断。
「旨い」思わず声が出た。青龍が笑いながら近寄ってきた。
「白虎が剣術を教えている」
「白虎が」思わず聞き返した。
「何か妙に気が合うようだ。白虎の事を師範と呼んで居る」
「白虎が言うには剣術の才能があるとのこと」
「あのコソ泥に剣術の才能ねえ」桔梗がそばに来て、
「真面目にやっているんだから、そういう言い方は止めて」
「でもあの千歳だよ。利かん坊の反感やがねえ」
「お母さんのお気に入りよ。混ぜ返さないでよ」
「まあ、見た目よりいい子ですよ。」
「青龍が言うんだから本当だろう。それよりもうすぐ四年生だろう」
「早いものよね、来年の今頃は卒業だもの」
「それで、神宮実習と中央実習を済ませたら、卒業論文のための多数神社の参拝として、バチカンのに参拝に行こうよ」
「旅費はどうするのよ。皆の前で、遊びには使わないと言った手前、難しいでしょう」
「いや、兄が卒業祝いにプレゼントしてやるって。その代わり、遊びに行くんじゃないぞってくぎを刺された」
「ほんといいお兄さんよねえ。優しいし、頭いいし、イケメンだし」
「駄目だよ。兄さんには詩織さんがいるもの。すごい美人で頭が切れる」
「ほんとお似合いよねえ」
「行くのは秋だろうけど、五月までには決めて置けって言われてる」
「四月の履修が決まらなければ分からないわね。それより、朝ご飯、まだでしょう。食べに行こう」
腕を取られて食堂に言った。
「何騒いでいたの」
「千歳よ、ネズミが出たとか、大騒ぎして、追っかけまわしてるの」
「でも、よくやってくれてるわ。行儀見習いとか言って掃除やら何やら、全部やらしているでしょう。貴方も少しは手伝いなさい」
「桔梗は四年の準備がありますから。」
「貴方が桔梗を甘やかせるから調子に乗るの」
「こういうのも修行の一環よ。分かった」
「はーい。それより宝くじ」
「ちゃんと金庫に入れてありますよ」
「そうじゃなくて、誰が取りに行くの」
「私しかいないでしょう。父さんと一緒に行ってきますよ」
「まあ、そうよねえ」
「それともあなたが行きたかったの」
「いや、そう言う面倒なのは御免」
「やっぱり私たちしかいないでしょう」
「さっさと食事を済ませて、茶碗を洗ってしまうから」
「はーい」
「なにをはなしているんだ。 桔梗も怪しいぞ」
「何でもないですよ。ごちそうさま。右京行くよ」
「何だ、バタバタしてから」
「宝くじの受け取りの件よ」
「俺が朝、昼、晩と拝んだからと本当に当選するとはねえ」
「貴方が拝んだからじゃないでしょう」
「何だ、信用がねえなあ」
「貴方の力なら今までに、とっくに当たっているでしょう」
「何だ、俺の力を信用しないのか」
「霊力も無いのに無理でしょう」
「お前だって無いじゃないか」
「ありませんよ。あったらもっと儲かる所にお嫁に行ってますよ」
「こうなるとあいつらはすごいな」
「私の子ですから」
「俺の子でもあるぞ。それに、伊勢神宮の力かも」
「どっちにしても宝くじは私たちのもの」
「怒るなよ。実は当たる訳がないと思ってた」
「私だって当たると思いませんでしたよ」
「でも、あの時のお前たちの顔、すごかったぞ」
「当たった時ってあんなものかもしれないわ」
「いや、後光がさしてるというか、光ってた。まあ、どうしたらいいか調べてみるよ」
「手続きをしてもすぐにはもらえないらしいわよ」
「貰えりゃあ何でもいいさ」
(8)祖先と血脈の力
「おじいちゃんどうしたの」千歳が聞いた。老人が渦向いている。
「ここに座っておったら、急に方が重くなって、立てなくなってしまったんじゃあ」
「全くお前たちのせいだね。悪戯してたら消しちゃうよ。早くお帰り」
千歳は肩を掃くように肩の上で手を振った。
「これは楽になった。有難うよ、お嬢さん」
「氏子さんは神様ですから」と言って笑った。
誰も妖怪を信じてはいなかったが、それでも。千歳の呪いは人気があった。若くて可愛いのもあったが、気軽く挨拶をしたり、声を掛けてくる。千歳は知らないが、わざわざ回り道をしてくる年寄りもいた。
石段下の鳥居周りを掃いていると、タクシーが止まった。
「御免なさいね。神薙神社はここかしら」中年女性が声を掛けてきた。
「そうですけど、どちら、おかあさん」逃げるように神社に逃げ込んだ。
お母さんも後を追いかけてきた。そしてインターフォンヲ押して、入り口で待っていると
安武が出てきた。
「千歳の母でございます。こちらで千歳がお世話になっていると聞いてまいりました」
「それは遠いところよく来られました。中へどうぞ」と言って案内した。
「今日はどういう御用で来られましたか」
「娘を連れて帰ります」
「連れて帰られるのですか」
「こんな、巫女さんって、二十歳って言うか、若い間だけ、要するにバイトでしょう」
「そうですね、大半の巫女はバイトですね」
「うちの娘はそんないい加減なことじゃなく、ちゃんと資格を取って、普通の生活が出来るようにしたいんです」
「うちで巫女をするのはいい加減なこととおっしゃるのですか」
「じゃあ、給料はどれくらい払ってくれますか」
「今は月十万程でしょうか」
「それ見なさい。そんなんじゃ生活もできない」
「貴方はどれくらい貰ってますか」
「月三十万、ボーナスが五十万は貰ってます」
「そうですね、十年もたてば、それ位でしょうか」
「嘘おっしゃい、そんなに貰っている巫女さんなんて聞いたことが無い」
「そりゃあ仕方ないですよ、素人ですから」
「プロの巫女って何ですか」
「ちゃんと神社の学校に行って、神職の資格を取って、厳しい修行をする」
「そんなの聞いたことが無いわ」
「料理屋さんに努めても、資格が無いと皿洗いと雑用のバイトですよね」
「そうですが」
「じゃあ料理学校に行って、調理師免許を取ってシェフになったら、給料はバイトと一緒ですか」
「それは、調理師ですからバイトではないでしょう」
「うちの娘も今学校に行って、資格を取ってる最中なんです。厳しい酒豪をして、勉強をして初めて神職はなれるんです。但し、途中で止める者も多いんですけど。だから神職の心構えを修行しているんです。何も知らないあなたにこんなものと言われたくないですよ」
「お父様、あら、お客様でしたか」桔梗が部屋に入ってきた。
「お、桔梗に右京か。ちょうど良い所に来た」
「白衣さん、あなた、この右京君知っていますか」
「この人のおばあさまは知っておられると思いますが、」
「彼は久邇宮ですが、おばあさまは黒田ですよね。黒田清子。知りませんか」
「さあ、政治家さんですか」
「前の天皇陛下の娘さん」
「え、まさか」
「まさかですよ。天皇陛下の妹の孫ですから」
「何でそんな方が」
「こんなオンボロ神社に何でとおっしゃるのかな。貴方には本当のすごさが見えない。千歳を呼んできて」近くにいたのかすぐに来た。
「貴方は母親でありながら千里さんの価値いや、才能を知らない。それを少し体験してもらいましょう」千歳と母の手を取って握らせた。一瞬で、妖怪の異世界に変わったはずだ。ただ、安武には見えない。
「どうです。見たこともない世界は。腰を抜かさないでくださいよ」
「では帰っていらっしゃい」
「貴方の現実の世界と、娘さんの現実の世界の違いは。まあすごすぎて何も言えないでしょうけど。この世界の富士山とか、日光とかすごいものがたくさんあって、それを見ないであの世界のすごさを感じたと思いますが、それを知ってて、この世界にとどまれますか」
「価値の全く違う世界を知れば、価値も目標も、望みが変わるでしょう。知ってしまったらあなたに求められないでしょう」
「分かりました。娘の事はあなたにお任せします。私はこんな世界があることを知りませんでした。あなたは私が娘の価値や才能を知らないとおっしゃいましたが、その通りです。
これからは娘の話をよく聞いて、相談します。千歳ちゃんごめんね。あなたの事分かってあげられなくて。皆さんも千歳の子と頼みます」
「千歳ちゃんは大丈夫ですよ」
(9)結婚は羽ばたき
琴乃が朝尊と話をしている。
「右京の相手の事調査したんでしょう。結果はどうなの」
「小さな神社で、神薙神社というんだけど、調査では問題はないんだけど」
「何、どうしたの。あなたらしくないじゃないの。詩織さんから何か言われた」
「詩織は関係ない。なんか変な感じがする。何か隠しているかもしれない」
「どうしたの、何の話。」
「あっ、おばあさま。右京の事なんだけど」
「右京はここを継がせるといっているでしょ」
「それが、田舎の小さな神社の子と結婚するといってる。調査したらいい人達みたいだから、右京のしたいようにさせたい」
「何て言うとこ」
「神薙神社の娘で、神薙桔梗というとの事なんですが」
「何ですって、そこの祭主は何て言うの」
「神薙安武」
「宮司じゃない、祭主よ」
「ええっと、神薙梓」
「神薙梓、彼女の名前がここに出て来るとは」
「神薙梓って何者なんですか」
「落ちぶれ神社の祭主よ」
「でも、なぜ、そんな神社の祭主をおばあさまが知っているのです」
「昔、修行していた時の姉様だった人。とっても霊感が強くて、あの人には勝てない。だから私は政治力で勝負をしたの」
「でも、つぶれそうな神社となっていますが」
「見た目はね。でも、あれだけの霊力だもの、次元の違う強さを持っているわよ。それで打ちと対抗しているはずよ」」
「そんな、信じられません」
「いつ行くの、私も行くわ」
「おばあさまのお時間が取れるなら、明日でもいいですよ」
「場所は分かるかしら」
「大丈夫です。今はナビがありますから」
「じゃあ宜しくね。今夜のうちに準備をしておくわ」
「右京は元気してるかねえ」
「元気してますよ。案外けろって、どうしたの、何かあったのってね」
「あの子はのんびり屋さんだから」
「その前に、いきなり何ですかって言うでしょう」
「あれ、道が無い、迷ったかなあ」
「朝尊さんどうしたの」母が聞いた。
「ナビの案内なのに、道が無いんですよ」
「朝尊さん、そこの広場でU ターンですよ」おばあさんがうれしそうに言う。
「脇道なんてなかったですよ」
「そこを左ですよ」
「あっ、道がある。おばあさん来たことがあるんですか」
「来た事は無いけど、こんなちゃっちい結界なんて無いも同じだよ。子供だましだね」
「そういうのは私には分からないけど、気持ちの良いものじゃないわ」母が言う。
鳥居の手前に駐車場があり、そこに車を止め、車を降りた。
「何か、潰れそうな神社だな」
「何か気味が悪い」
誰か石段を掃除している。
「貴方、ここの方よね」
「そうですけど、宮司は今いませんけど」
「そう、それで、誰かいない」
「奥様ならいらっしゃいますが」
「じゃあ呼んで頂戴」
「奥様、お客様です」
「どちら様頭、お名前は聞いたの」
「いいえ、えらそうな人たちで、怒られそうだから聞いていません」
「そう、どなたかしらね」
「ごめん下さい、お初にお目に掛かります。右京の母の久邇宮琴乃と申します。右京が大変お世話になっているそうで、有難うございます。」
「いいえ、こちらからご連絡もしませんで、大変ご迷惑をおかけします」
「それで倅は今どこに」
「千歳ちゃん、右京さんを呼んできて」千歳に声を掛けて、
「まあこんな玄関先でお話も出来ませんからお上がりください」
「桔梗はいる」奥に声を掛けた。
「なあに、母さん」と言って出てきた。
「こちら右京さんのお家の方。お茶を出してくれる」
「いらっしゃい、お茶を入れて来るわ」と言って台所に言った。
「お母様なんですか」と言って右京が出てきた。
「右京さん、連絡も入れないで、こちらにご迷惑をかけて」母が言った。
「御免なさい。ちょっとのつもりが、長居になっちゃって」
「おい右京、元気してたか」
「あ、お兄さん。」
「全部ばれちゃった。だが、例の件は任せとけ」
「例の件とは何ですか。ちゃんと説明してちょうだい」
「いらっしゃいませ、粗茶ですがどうぞ」桔梗がお茶を入れてきた。
「お嬢さんが同級生の子かな。これは美人だ。右京が惚れるのも無理ない」
「朝尊さん、何を言ってるの。久邇宮家の者は惚れた晴れたで結婚なんてできませんよ。ちゃんとした家柄と格式という物があります」
「何を騒いでいるの、お客様。誰」おばあさんの梓が出てきた。
「お久し振りね。お元気でなりより」
「あなた、清子さん、清子さんなの」
「おばあさん、この方たちを知っているの」
「神職の修行の時の同級生、というか、ライバルね」
「でも六十年振りよねえ」
「懐かしさを通り過ぎて、あの世の出会いみたいな気持ちよ」
「でもこの神社はすごいはねえ」
「お伊勢さんには負けるけど」
「この世は伊勢で、あっちは卑弥呼かな」
「うちは子供も孫も霊感が無かったから」
「その点内は右京の霊感はすごいのよ。まあうちが勝ちという事で」
「それを引き抜く魔女が内に入るから」
「まじょって誰よ、私じゃないよね」
「まあ、右京さんは内に譲ってくださいな。お宅は霊感なんて関係ないでしょう」
「おばあさま、右京は桔梗さんが好きみたいですよ。うちの方は私がうまくやりますから、右京の願いを叶えてやってください。」
「ちょっとどういう事、伊勢は長男の朝尊が継ぐのが当たり前でしょう」
「貴方も才能がなかったけど、右京を生んだことだけは褒めてあげる」
結局清子おばあさんが折れて、右京の恋は認められることに。
「これを機に伊勢の方にもいらっしゃい」
「伊勢はね、決壊が強いから、面白い奴がいないよ。ここはすごいよね」右京が言う。
「そうね、朝尊さん、琴乃さん、せめて青龍に、白虎位は会っておきなさい」
「そうだよ、僕もすぐに友達になっちゃった」と言って右京は二人の手を取った。途端に風景は一変し、目の前に二人というか、二匹はいた。驚くと、白虎が悪戯っぽく、ニヤリとして、
「宜しく、あんちゃんに母ちゃん」
二人はびくびくしながら
「こちらこそ、弟を宜しく、仲良くしてやってね」と言った。
「本当に青龍と白虎に会えるなんてな」
「ここには玄武や朱雀もいるよ。次来た時は会わせてあげる」
「ああ、お願いする」と言って現実に帰った。
「おばあさま、伊勢にもあんなのがいるの」
「いないよ、昔から先祖様が結界を張っているから来られないのよ」
「そうなの」
「近くに猛獣がいないのと同じよ」
「じゃあ、この辺でお暇しましょう。右京の事宜しくお願いね。桔梗さん仲良くしてやってね」
「大丈夫ですヨ」
「じゃあ、ごめん遊ばせ」
三人は帰って行った。
みんなは駐車場まで見送りに言った。
「おばあちゃん、伊勢のおばあちゃんと知り合いなら言ってよ」
「だって、六十年もあっていないんだよ。知り合いも何もないだろう」




