表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

プロローグ:失恋と崩壊(中編)

スマートフォンの画面が、暗闇の中で青白く光っている。

田中沙織は布団の中で丸くなり、震える指でSNSをスクロールしていた。午前三時。また眠れない。もう何日目だろう。

画面に映し出されるのは、木村拓也の笑顔。そして、彼の隣で幸せそうに微笑む見知らぬ女性——横手桜。

「いいね!」の数が、また増えている。

沙織は息を詰めて、二人のツーショット写真を見つめた。水族館。イルミネーション。カフェ。デート。デート。デート。

つい二週間前まで、その隣にいたのは私だったのに。

沙織はスマホを握りしめ、目を閉じた。涙が頬を伝う。

二年間。二年間も付き合って、私たちは結婚の話までしていたのに。

『ごめん。他に好きな人ができた』

あの日、拓也はいつもの爽やかな笑顔のまま、そう告げた。まるで天気の話でもするように。

二年間の思い出が、たった五分の会話で終わった。

沙織は布団を被り、小さく身を震わせた。部屋は散らかっている。洗濯物が床に散乱し、コンビニ弁当の空き容器がテーブルに積み重なっている。

大学も、もう一週間休んでいた。友達からのLINEも、全て未読のまま放置している。

何もしたくない。何も考えたくない。でも、頭の中は拓也のことでいっぱいだった。

幸せだった日々が、フラッシュバックのように蘇る。

初めて手を繋いだ日。初めてキスをした日。初めて「好きだ」と言われた日。海に行った夏。二人で作った料理。何気ない会話。笑い声。

それが全部、嘘だったの?

違う。嘘じゃなかったはず。あの笑顔は本物だったはず。でも、それなら——なんで?

沙織は再びスマホを見る。拓也と桜のツーショット。

桜は、スポーツ系の健康的な美人だった。明るくて、活発で、笑顔が眩しい。

私とは、正反対。

沙織はカメラアプリを開き、自分の顔を映した。

映っているのは、やつれた女。目の下には深いクマ。頬はこけ、唇は血の気を失っている。髪はボサボサで、目は虚ろだ。

——こんな顔、拓也は愛せるわけない。

沙織は自嘲的に笑い、スマホを投げ出した。

胃が痛い。何も食べていないのに、吐き気がする。

最後にまともな食事をしたのは、いつだっただろう。カップラーメンを一口食べて、残りは捨てた。味がしなかった。

目を閉じると、また拓也の顔が浮かぶ。

でも今度は、あの日——最後の日の顔じゃない。

桜と笑っている顔。

二人でキスをしている姿。

ベッドで——

「やめて…!」

沙織は頭を抱えて叫んだ。でも誰も聞いていない。一人暮らしのワンルーム。誰も助けに来ない。

また涙が溢れる。もう涙も枯れたと思っていたのに、まだ出てくる。

どうして。どうして。どうして。

私の何が悪かったの?

私が、もっと可愛ければ? もっと明るければ? もっと——

思考がぐるぐると回る。出口のない迷路。

眠らなきゃ。明日は——明日こそ大学に行かなきゃ。

でも眠れない。目を閉じると、拓也と桜の姿が浮かぶ。心臓が早鐘を打つ。息が苦しい。

沙織は枕を抱きしめた。

このまま、消えてしまいたい。

いっそ、何もかも忘れてしまいたい。

拓也のことも、二年間のことも、全部。

でも、忘れられない。

忘れたくない。

忘れたい。

矛盾した感情が、胸を引き裂く。

スマホが震えた。LINEの通知。

友達からだ。「沙織、大丈夫? 心配してるよ」

沙織は通知を無視して、再びSNSを開いた。

拓也のアカウント。

新しい投稿。一時間前。

『桜と夜景見てきた。最高の夜✨』

写真には、夜景をバックに抱き合う二人。

沙織の手が震えた。

憎い。

憎い。

憎い。

心の奥底から、黒い感情が湧き上がる。

拓也が憎い。桜が憎い。幸せそうな二人が憎い。

そして——何より、こんなに惨めな自分が憎い。

沙織はスマホを握りしめた。画面にヒビが入りそうなほど、強く。

消えろ。

二人とも、消えてしまえ。

そう思った瞬間、沙織は我に返った。

何を考えてるの、私。

沙織は頭を振り、スマホを枕元に置いた。

深呼吸。一つ、二つ、三つ。

でも、心臓の鼓動は収まらない。

また眠れない夜が始まる。

窓の外では、街灯が寂しく光っている。

沙織は天井を見つめながら、呟いた。

「誰か…助けて…」

でも、答える者は誰もいない。

ただ、静寂だけが部屋を満たしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ