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バナナチョコパフェ

最初に言っておくが、私は同性愛者ではない。

ここは重要だ。

あとで効いてくる。


沼っていた推しのライバーが既婚者だった。

男だ。

私も男だ。


この時点で、状況としてはかなり意味が分からない。

なのに、感情だけが最悪の形で成立している。


「既婚です」


その一文を見た瞬間、

私の脳内で何かが折れた。


いや、正確には、

「折れる予定じゃなかったものが勝手に折れた」。


別に付き合えると思っていたわけではない。

会えるとも思っていない。

未来も想像していない。


それなのに、

「既婚」という二文字が、

私の中の“安全な距離感”を粉砕した。


意味が分からない。

分からないが、気分は最悪だ。


私は男だし、

推しも男だし、

恋愛感情ではないし、

そもそも相手は画面の向こうだ。


理屈だけ並べれば、

一切ダメージを受ける理由がない。


なのに、

心だけが

「は?」

と言っている。


家にいられなかった。

なぜなら、スマホがあるからだ。


外に出た。

思考停止した人間は、

だいたいカフェに入る。


メニューを見る。

目に入ったのは、

バナナチョコパフェ。


ああ、出た。


推しが好きなやつだ。


配信で何度も言っていた。

「バナナチョコは裏切らない」

「これ考えた人、ノーベル賞」


今それを思い出す自分に、

若干の殺意を覚える。


頼まなければいい。

別のものにすればいい。


だが私は頼む。

判断力が死んでいる。


来た。


見た目がもう、

調子に乗っている。


バナナ。

チョコ。

生クリーム。

完璧な布陣だ。


一口目。


……普通にうまい。


腹が立つ。


二口目。

うまい。


なんなんだ。

私の情緒は崩壊しているのに、

パフェは一切ブレない。


バナナは甘い。

チョコは濃い。

生クリームは軽い。


全員、きちんと仕事をしている。


私の脳内では、

「既婚者」

「既婚者」

「既婚者」

という文字が点滅しているのに、

舌だけが冷静だ。


ここで気づく。


私は、

推しのどこが好きだったんだ?


顔か。

トークか。

声か。


違う。


「楽しそうに好きなものを語る感じ」だ。


バナナチョコパフェを語るときの、

あの無防備なテンション。


今、

同じものを食べている。


最悪だ。


三口目。


私は急に冷静になる。


既婚というのは、

人としてちゃんとしているということじゃないか。


家庭があって、

生活があって、

責任を背負っている。


それを隠していたわけでもない。

言っていなかっただけだ。


私は、

勝手に「何もない存在」だと思っていた。


推しを、

都合のいい概念にしていた。


それが壊れただけだ。


パフェは減っていく。

感情も、少しずつ沈殿する。


完食。


スプーンを置いた瞬間、

私は確信する。


……まだ

推しのままだ。


理由は一切、

きれいじゃない。


既婚だからやめる、

という選択肢が

私の中に存在しなかった。


恋ではない。

憧れでもない。


もっと雑で、

もっと身勝手な何かだ。


「人生をちゃんとやっている男が、

画面越しに好きなものを語っている」


それが、

妙に刺さった。


今か?


そう、今だ。


私は立ち直っていない。

気分も良くない。

世界も優しくない。


それでも、

推しは続行だ。


カフェを出ながら、

私はスマホを開く。


通知をオンにする。

メンバー継続。


自分でも引く。


同性愛者ではない。

恋愛感情もない。

それでも、推す。


バナナチョコパフェが、

最後の一押しだった。


世界は相変わらず意味不明だ。


でも、

私の推し方も、

だいたいそんなものだ。


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