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映える唐揚げ

その唐揚げ定食は、来た瞬間に写真を要求してきた。


頼んだ覚えはない。

だが、トレーが置かれた瞬間、空気が変わる。

照明が一段階明るくなった気がした。


唐揚げが、立っている。


正確には、積まれている。

三段。

高さがある。

皿の中央で、小さな山を成している。


衣は薄めで、色は明るい。

白ごま、青ねぎ、糸唐辛子。

レモンは輪切りではなく、くし形。

添え方が「添え」ではない。


これはもう、定食ではなく被写体だ。


私は箸を持つ前に、スマートフォンを取り出す。

この流れに逆らうと、負ける。

真上、斜め、引き。

撮るたびに、唐揚げが応える。


角度によって、顔が違う。


白米と味噌汁が脇役に追いやられている。

キャベツに至っては、緑としての役割しか与えられていない。

完全に背景だ。


撮り終え、ようやく箸を入れる。

一個目を持ち上げる。


軽い。


重さがないわけではないが、期待していた重量感がない。

これは、中身より見た目で勝負するタイプだ。


かじる。

衣が、音を立てない。

代わりに、歯が迷う。


中はしっとりしている。

だが、感動するほどではない。

「ちょうどいい」の範囲に、きれいに収まっている。


なるほど。

これは、写真映えに全振りした唐揚げだ。


二個目。

今度はレモンをかける。

店主の視線を感じるが、気のせいだと思いたい。


酸味が入ると、急に饒舌になる。

唐揚げが、自分の魅力を語り始める。

「ほら、こういうのもできるでしょ?」


私は黙って食べる。

映える料理は、食べると急に距離を詰めてくる。


三個目。

ここで違和感に気づく。


白米が、合わない。


合わないというほどではない。

だが、しっくりこない。

唐揚げが、米を必要としていない。


これは定食なのに、定食としての連携が弱い。

各自が単独で戦っている。


キャベツを食べる。

ドレッシングがおしゃれだ。

紫玉ねぎが混ざっている。

完全にカフェ側の思想だ。


味噌汁を飲む。

普通。

安心する。


四個目。

唐揚げはまだ美しい。

衣が崩れない。

最後まで形を保つつもりだ。


私はここで気づく。

この唐揚げ、冷めても問題ない設計だ。


つまり、

「急いで食べなくていい」

「会話しながらどうぞ」

「撮り直してもいいですよ」

そう言っている。


食事としては、少し不親切だ。


五個目。

終盤なのに、満腹感が来ない。

軽い。

軽やかすぎる。


胃ではなく、脳が食べた気になっている。


完食。


皿は空。

だが、達成感がない。


代わりに、

「いいね」をもらった後の虚無に近いものが残る。


会計で店員が言う。

「写真、きれいに撮れました?」


私は一瞬迷い、答える。

「はい」


それが正解だと分かる。


外に出る。

胃は余裕がある。

だが、もう一度食べたいとは思わない。


映えてる唐揚げ定食とは、

食事というより、体験だ。


主役は味ではない。

構図だ。

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