プリンアラモード
そのカフェは、静かすぎた。
駅から少し外れた路地。看板は小さく、営業時間は気まぐれ。扉を開けると、ベルが鳴る。鳴り方が、やや長い。
これは、こだわりが強い店の音だ。
カウンターの奥に、店主がいる。
年齢は不詳。服装は全体的にベージュ。
こちらを一瞥し、何も言わない。
私は席に座る。
メニューを見る前から、頼むものは決まっていた。
プリンアラモード。
カフェでそれを置いている時点で、何かしらの思想がある。
しかも、メニューの一番下。小さな文字。
控えめだが、消えてはいない。
「プリンアラモード、ありますか」
私が言うと、店主は少しだけ目を細めた。
「……ありますけど」
間がある。
この「けど」は、ただの接続詞ではない。
「若い人は、あまり頼まないんですよ」
私は若くはないが、訂正はしない。
プリンアラモードを頼む理由は、年齢ではない。
「それでお願いします」
そう言うと、店主は小さくうなずいた。
「うちは、昔ながらなんで」
その一言で、すでに三つの圧がかかっている。
・期待するな
・だが誇りはある
・文句は受け付けない
私は黙って待つ。
カウンター越しに、作る様子が見える。
まずプリン。
型から外す手つきが、やけに慎重だ。
落としたら終わり、という緊張感。
次にアイス。
一玉。きっちり丸い。
丸すぎて、逆に怖い。
フルーツが並ぶ。
バナナ、みかん、キウイ。
季節感は無視されている。
だが、そこがいい。
最後に、生クリーム。
ここで店主の動きが止まる。
絞り袋を持ったまま、数秒静止。
呼吸を整えている。
そして、一気にいく。
高く、細く、迷いなく。
完成。
皿が置かれる。
ずしん、という音。
軽やかではない。
「……どうぞ」
私は皿を見る。
正直に言うと、量が多い。
プリンが主役なのか、果物なのか、会議が必要なレベルだ。
スプーンを入れる前に、店主が言う。
「プリンは、固めです」
それは見れば分かる。
だが、言いたいのだ。
自分で。
私は一口目を食べる。
固い。
ちゃんと、固い。
揺らがない。
おいしい。
だが、主張が強い。
二口目、アイスと一緒に食べる。
急に冷静になる。
温度差で、感情が整理される。
三口目、フルーツ。
みかんが強い。
思ったより前に出てくる。
私は気づく。
このプリンアラモード、全員が我を通している。
誰も引かない。
途中、店主が話しかけてくる。
「最近はね、映えるやつばっかりで」
私はうなずく。
食べながら聞く話としては、やや重い。
「プリンは、こうじゃないと」
店主はプリンを見る。
私ではなく、プリンを見る。
私は黙って食べる。
黙っているのが、正解だと分かる。
終盤、クリームが余り、フルーツが散り、プリンはまだいる。
ハンバーガーのときと似ている。
オムライスの記憶もよぎる。
これは、まとめ食いするしかない。
私は全員を一口に集め、口に運ぶ。
甘い。
重い。
懐かしい。
成立している。
悔しいが、成立している。
完食。
スプーンを置くと、店主が言う。
「残す人、多いんですよ」
私は答える。
「そうでしょうね」
会計を済ませる。
店主はレシートを渡しながら言う。
「また、どうぞ」
また来るかどうかは、分からない。
だが、この店主とこのプリンは、セットで記憶に残る。
外に出る。
胃は重い。
心は少し満たされている。
プリンアラモードとは、
優しさの皮をかぶった、主張の集合体だ。
そして、
癖のある店主がいる店ほど、
デザートは逃げない。




