オムライス
そのオムライスは、やけに自信満々だった。
出てきた瞬間に分かる。
こいつ、自分が人気者だと知っている。
皿の中央にどっしりと座り、卵はつるん、ケチャップは太く一文字。
余計な装飾なし。
「俺で十分だろ?」という顔。
私は一瞬ひるんだ。
ハンバーグやエビフライが横にないのは、そういう理由だ。
オムライス単品で勝負してきている。
これは強敵だ。
スプーンを持つ手が、ほんの少し遅れる。
オムライスは待たない。
無言で圧をかけてくる。
覚悟を決め、中央にスプーンを入れた。
——入らない。
卵が、意外なほど弾力を持って抵抗する。
ふわふわではない。
ぷるぷるでもない。
「簡単に割れると思うなよ」という硬さ。
角度を変える。
オムライスも応じて形を崩す。
崩すが、割れない。
防御型だ。
三度目で、ようやく亀裂が入る。
その瞬間、中から現れたのは——
白米。
ケチャップライスではない。
白米。
一瞬、時間が止まる。
私は目を閉じ、もう一度開く。
やはり白米だ。
オムライスが、やった顔をしている。
なるほど。
そういうタイプか。
理解した。
このオムライスは、途中で裏切ってくるタイプだ。
仕方なく白米を食べる。
卵はうまい。
白米も悪くない。
だが、オムライスとしては何かが足りない。
スプーンを進めると、今度は端からケチャップライスが出てくる。
量は少ない。
気配程度。
私は比率を間違えたことに気づく。
最初に中央を攻めたのが敗因だ。
このオムライスは、外堀から崩すべきだった。
途中、卵だけが余る。
次は米だけが余る。
計算が合わない。
常に一歩、オムライスが先を行く。
私は焦り始める。
だがオムライスは落ち着いている。
自分が勝つ展開を、最初から知っている顔だ。
終盤、皿の上には
・卵
・白米
・少量のケチャップライス
が三すくみで存在していた。
これはもう、料理ではない。
会議だ。
全てを一口にまとめ、口に運ぶ。
味は……成立している。
成立しているのが、腹立たしい。
完食。
私は敗北を認めた。
レジで店員が言う。
「うちのオムライス、ちょっと癖ありますよね」
ちょっとではない。
だが黙ってうなずく。
外に出て思う。
オムライスは、優しい料理だと思われがちだ。
だが実際は、主導権を渡したら終わりの料理だ。
次は、こちらが先に考える。
そう心に誓ったが、
たぶんまた、騙される。




